SOHCピストンの現在の状況
また今年、製作することになった「SOHCスペシャルピストン」ですが、有り難いことに幾つかのご予約を頂いており、まだ行き先の決まっていない残り分は、今日現在で「3セット」程度になりました。
渡辺さんは、
「今回で最後だなぁ~」
と言っておりますので、おそらく本当に最後になるのかな、と思っています。これは私の都合ではありませんので、仕方のないことです。
当ガレージでも保有しておきたいのですが、まだどうなるかは分かりません。
最大のメリットとは・・・?
XJR1200、XJR1300のエンジンを改造・チューニングして楽しんでいる方は、ある程度はいらっしゃると思います。エンジンは、ベースが「FJ1100」ですので、相当に古いですが、アメリカ製の改造パーツも沢山あります。
ワイセコやJEピストンは、今でも入荷できます。その他、数種類のピストンは購入可能のようです。ただ社外ピストンは、鍛造で強度は高いのかもしれませんが、軽量には出来ていません。
その点、SOHCピストンは、純正が「255g」なのに対し、「214g」しかありません。「16%」も軽量化されています。そのピストンを初めて組んで試乗した際、今まで経験したことのない吹け上がり感に、驚きました。
『ピストンが軽いと、こんな感じなんだ!こんなふうに吹け上がるんだ!』
これは、軽量ピストンが存在しませんので、おそらく誰も経験したことのない感じ・吹け上がり感覚かと思います。
分かりやすく正直に言えば、
「速い・楽しい♪」
です。
ただ組むだけでは、ダメです。
設定されている圧縮比ですが、当然ですが、高いです。前回は、『11.8~12.0』あたりを狙って製作されました。
圧縮が高いと、パンチの効いたエンジンになります。しかも軽量ですので、今までの社外ピストンのような、回る際の重い感覚はありません。良く回ります。
しかし、組み込むにあたり、幾つかの注意点があります。
実際の圧縮比の測定
点火系のセッティング
キャブレターのセッティング
様々なメーカーのピストンを、何度も何度も組んでいると、様々なことが見えてきます。例えば、カタログデータ上の圧縮比です。
例えば、カタログの圧縮比が、『12.0:1』となっていたとしましょう。ただ組み付けるだけで、本当にこの数字まで圧縮比が高くなるとしたら、壊れるエンジン続出でしょう。
圧縮比が高くなれば、パワーやトルクが出る反面、リスクも大きくなります。セッティングもシビアになります。ですから、もし本当にピストンを組んだだけで、そこまで圧縮比が高くなるとすれば、ブローするエンジンは確実に増えるでしょう。
製造メーカーは、必ずマージンを取って製作しています。組み込んでエンジンが壊れるお客さんが続出すれば、会社の名誉や存続に関わるからです。
チューニングするということは、パワーと引き換えに、リスクを管理し、トラブルを覚悟する必要があるのです。そのトラブルを未然に防ぐために、ある程度の知識と準備は必要になってくるでしょう。
では、そのリスク管理は、どのようにすれば良いのでしょうか・・・
実際の圧縮比の測定
時折、圧縮比とコンプレッションを混同されている方がおりますが、全く別物です。プラグホールに装着して測定する「コンプレッションゲージ」という測定工具がありますが、この数字を『圧縮比』と思っている方が、結構いらっしゃるのです。
「圧縮比が、15.0もあった!」と言っていた方がいました。もし本当に、そんなに高い数字が出ているのなら、エンジンは掛かりません。掛かったとしても、すぐに壊れます。
コンプレッションゲージで測定される数字は、あくまでも目安や参考にするためで、数字事態に意味を持つものではありません。そもそもエンジン屋さんは、コンプレッションゲージというものを、持っていません。SOHCの渡辺さんも、持っていません。不要だからです。
圧縮比は、計算によって導き出す数字です。何ccの混合気が何ccまで圧縮されたのか?、これだけです。理屈は簡単ですよね。
それぞれが複雑な形状をしているので、難しい気がするだけです。分かりにくければ、絵を書いて考えてみて下さい。すると、何を測定して計算するのか、分かってきます。
これは、シリンダーヘッドの燃焼室容積を測定しているところです。この作業は、毎回行います。一度測定しておけば、次回からそのデータで良さそうな気もしますが、実はそうでもありません。
まず、面研磨する場合があります。当然ですが、面研磨すれば、燃焼室容積は少なくなります。ですから、それを個別に測定して、燃焼室容積を確認する必要があります。
もう一つの理由は、実はこれが一番重要なのですが、古い設計の為か、ヘッドによって容積が異なる場合があるのです。
一度、SOHCの渡辺さんのところに、ヘッドを4~5個持参して行ったことがありました。ピストンを製作するうえでの、データ収集です。
その際、各ヘッドの燃焼室容積を測定したのですが、「0.5cc」程度の違いは、ざらにありました。一番酷かったケースでは、「1cc」もの違いがありました。こうなると、圧縮比は全く変わってきます。
エンジン設計は、1980年代の「FJ1100」ですから、相当に古いのは間違いありません。鋳物の砂型がどう変化しているのかまでは、全く分かりません。でも、とにかく古い設計の砂型で製作されている訳ですから、「0.5cc」程度の違いは、仕方のないことなのでしょう。
ただし、そこまで燃焼室容積が違ってくると、圧縮比は相当に変わってきます。ですから、同じピストンを組み込む場合でも、毎回、容積の測定は必要になる訳です。思ったよりも低い場合は、なんてことはありませんが、高い場合は、エンジンブローに繋がります。ですから、欠かせない作業なのです。
正確な圧縮比を計算しようと思えば、その他にも測定しなければならない箇所は、幾つもあります。そうやって測定した値から計算して、圧縮比を導き出さなければなりません。そうすれば、コンプレッョンゲージの「15.0」の数字を、圧縮比と混同するようなことは無くなります。
点火系のセッティング
高圧縮にした場合の大きなリスクが、デトネーションです。以前、デトネーションの仕組みを理解する為に読んだ、難しい本の中では、主な発生理由は
『点火とキャブレターのセッティング』と書いてありました。
私の経験で言わせて頂ければ、90%以上は点火によるものです。点火系のセッティングをどうするのか、そこがキーポイントです。
ピストンは鍛造で頑丈だとしても、溶ける時は簡単に溶けます。高回転まで回さなくても、簡単に溶けます。そのように重要な点火セッティングを甘く考えていると、残念で悲しい結果が待ち受けていることにも、気付きません。
残念なエンジンは、実際に幾つも見てきました。残念なピストンも、見てきました。走らなくても、暖気だけでもそうなります。
SOHC製の高価なピストンも、セッティングを甘く考えると、こうなります。
キャブレターのセッティング
そもそも、レーシングキャブレターを装着している車両で、キチンとセッティングされているものは、いったいどのくらいの割り合いなのでしょうか。私の感覚では、1~2割くらいかなぁ、と思っています。
ある程度走れる、というのは、セッティングが出ている、ということとは、全く違います。どの領域で、どのような開け方をしても、右手に付いてくるエンジンフィーリングがあって、初めてセッティングが出ている、と言うことができるでしょう。
『少し開けると、ガバついて回転が上昇するまで数秒間のタイムラグがある。』
このようなレーシングキャブレターは、非常に多いです。これでは話になりません。レーシングキャブレターの特徴やクセを知り、どのような開け方でも、どのような回転域でも、右手にリアルに付いてくるようでなければ、楽しく走ることは難しいです。
走ることが楽しくなるように♪、そんな思いで、高価なレーシングキャブレターを装着するのだと思います。だったら、せっかく付けるのですから、少しこだわってセッティングしてみましょう。
組み込みまでされる方を、優先させてください。
今回のSOHC製ピストン製作は、おそらく最後になるでしょう。その貴重で高価なピストンを組んで、エンジンブローなどはさせたくはありません。できれば当ガレージで組み付けて欲しい、と思っています。
購入者の決まっていない分は、あと3セット程度です。出来ましたら、当ガレージで組み込みまでされる方を、優先させて頂きたいと思います。理由は、上記に挙げたように、セッティングが非常に重要だからです。
ピストンのみの購入希望をされている方もおりますが、点火系やキャブレター、その他の設定は、申し訳ございませんが、お教え出来ません。
当ガレージにて組み込みまで行えば、今までのデータから、最適なセッティングを施して、お引渡し出来ます。デトネーションでピストンが溶けた、エンジンがブローした、開けてもボコついて楽しくない、そのような心配は無用になります。
完成までは、まだ時間がありますが、以上のような理由で、今回は組み込みまでされる方を優先に販売いたします。どうぞご理解頂ければと思います。
先着順になりますので、お申し込みは、お早めにお願いします。