エンジンのオーバーホール事例・1
10年ほど前に、私が持っていた1300のエンジンをお譲りしたお客様です。
程度の良いエンジンでしたが、走行距離も5万キロを超え、だいぶお疲れです。
愛着があり、カスタムしてお金も掛けているので、まだしばらくは今のオートバイに乗りたい、ということで、今回のオーバーホールとなりました。
分解・洗浄
車両の入庫です。キレイに乗っている車両です。
エンジンを降ろします。
まずはヘッドを降ろします。
燃焼室側に、イヤな凹みが幾つもあります。
同じ4番ピストンにも、打痕があります。
シリンダーを外したところです。
ピストンには、相当量にカーボンが付着しています。
EXポートにも、カーボンがびっしり付着しています。
クラッチは、大きな段差も異常もありません。
クランクまでバラします。
パーツをチェックしながら洗浄していきます。
ケースの合わせ面に付着していた、余分な液体ガスケットです。全て丁寧に取ります。
カーボンを除去した4番ピストンです。ひどい打痕です。
3番ピストンにも、小さな打痕が幾つもあります。
カーボンを除去して洗浄したヘッドです。傷の数と大きさがよく分かります。
3番にも、小さな傷が幾つもあります。
修正・組立て
修正するために、0.3ミリの面研磨をしました。凸部と小さな打痕は消えましたが、深い打痕は消えません。凹部を全て消すには、1ミリは研磨する必要があります。
凸部と浅いキズ、3番の打痕は消えたので、通常使用にはこれで問題ありません。
ヘッドの4番部分です。だいぶ良くなりました。この後、オイルストーンとリューターで燃焼室側の突起部を修正しました。
バルブタイミングを調整するため、カムスプロケットの取り付け穴を広げました。
燃焼室の拡大です。こびり付いたカーボンは除去しました。
カーボン除去前と除去後のバルブです。最後はボール盤とペーパーで仕上げます。
バルブを1本ずつ、手作業で摺り合わせしていきます。
バルブを取り付け、シリンダーヘッドを組み立てました。
コンロッドをクランクに組み付けます。ボルト・ナット・メタルは新品を使います。
トルクレンチを使用し、数回に分けて規定トルクで組み付けます。
ケースアッパーに、クランクとスターターギヤ、カムチェーン等を組み付けます。クランクメタルとカムチェーンは新品です。
ケースロアに、洗浄・チェックしたミッションを組み付けます。
ケースを組んだ後、オイルパンを組み付けていきます。ダウエルピンやOリング類は、全て新品を使用します。
エンジンの下側が完成です。その後、上向きにします。
クラッチを組みつけていきます。大きな段差もなく、良好です。
3番ピストンは、キズも小さかったので、修正して使用します。
ピストンを組み付けました。全てのパーツがキレイになっています。
ヘッドを載せた後、バルブタイミングを調整します。ヘッドを0.3ミリ面研したので、バルブタイミング調整は必要です。
エンジン完成後は、キャブレターのオーバーホールです。結構汚れています。
分解した後、キャブクリーナーとエアーで念入りに汚れを取り、スプリング部も掃除します。これだけで動きが良くなります。
キャブのフロート室側も分解洗浄します。何年も乗ったキャブレターをオーバーホールするだけで、オートバイの調子は良くなります。
クラッチ側のマスターです。オイルが酷く汚れています。
クラッチマスターをオーバーホールし、新しいオイルを入れます。
クラッチキャリパー側で、念入りにエア抜きをします。同時に、オイルを全て入れ替えます。
完成・テスト走行・納車
完成後のテスト走行です。エンジンやキャブのフィーリング、異常がないかを必ず確認します。
「ノーマルエンジンって、こんなに良く走ったっけ?」と思うほど、良く走るエンジンになりました。
オーナー様と、完成したXJR1300です。
後日、作業報告書を提出させて頂きました。
当店では、どのような作業を実際に行なったのかが分かる『作業報告書』を提出しています。『実際には作業していなかった』、『雑な作業をしていた』等というご心配は、一切必要ありません。
総評
今回のピストンとヘッドの打痕には、ビックリしました。
おそらく原因は、プラグ交換の際にプラグ穴から小石等が落ちたのだと思われます。それ以外には考えられません。
オーナー様は、ご自分で何度かプラグ交換をした、と言っていますので、まず間違いないでしょう。
特にプラグ周りには、小石等が入り込んでいます。プラグ交換の際は、必ずエアーで吹いてから行うようにして下さい。
4番は、大きな異物がピストンとヘッドの間で、何度も挟まれた形跡がありました。もしピストンが割れていたら、大変な事になったでしょう。排気と一緒に放出されたのは、運が良かったとも言えます。
長く乗っていると、走って分かるパワーダウンや調子の悪さだけでなく、時としてこのように予期せぬトラブルが発生しているものです。
愛着のあるXJR1300を長く走らせたいとお考えであれば、一度オーバーホールすることをお勧めします。
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