オイルクーラーと適正油温
XJR1300は、ご存知のように空冷エンジンです。オイルクーラーでエンジンオイルを冷却させて、温度を下げています。
そんな車両ですから、横幅の広いオイルクーラーが装備されています。上記の写真が、純正オイルクーラーです。いかにも純正然とした形状と作りですが、おそらく多くの方が思っているよりも高性能です。
そんなXJR1300のオイルクーラーですが、カスタム好きな方には、格好の交換パーツとなっています。
このようなオイルクーラーが装着された車両は、良く見かけます。お手軽なカスタムと言えるでしょう。
ただし、気を付けなければならないのは、油温の変化量です。もし、目的がカッコ良さや見た目であるのなら、交換するだけで目的は果たせます。色も形状も、カスタムパーツらしさが漂っていますから。
もし目的が油温を下げることであれば、その目的は多くの場合は、果たせないかもしれません。場合によっては、純正オイルクーラーよりも、油温が高くなる場合もあるほどです。実はそのようなケースは、結構あります。お客様の車両での試乗時に、何度も経験しています。
例えば、4月から5月の肌寒い春先の日中、いつも行く宮ヶ瀬湖まで試乗した際、時々信号待ちをする程度の30~40分程度の田舎道の走行で、100度前後になることがあります。組み上げたばかりですので、エンジンの回転数は、「3,000rpm」以下です。それでも簡単に、90度を超えます。
オイルクーラー交換のデメリット
今までに、様々なオイルクーラーを見てきました。脱着も、してきました。試乗も、してきました。自分でも、使ってきました。そんな経験から、少しだけ社外製オイルクーラーについての私の意見を、書かせて頂きます。
<デメリット>
- 想像以上に冷えない。
- 整備性が悪くなる。
- サーモスタットは不要。
- ハンドル切れ角に制限が出る。
カッコ良さだけでなく、これらのデメリットも理解した上での取り付けを、お勧めします。
製造メーカーさん、販売メーカーさんには怒られそうですが、あくまでも「私の個人的な意見」ですので、怒らないで、暖かい目で見てやって下さいね。
想像以上に冷えない。
同じエンジン、同じ気温、同じ乗り方など、同条件で何度も詳細にテストした訳ではありません。ただ、数多くの車両に乗っていると、ある程度は分かってきます。
厚手のジャンバーを着なければならない、まだ肌寒い時期の試乗で、多くの車両は簡単に90度を超えます。組み上がった直後の試乗ですから、3,000回転までの走行です。渋滞もなく、時々信号待ちをする程度の、空いている田舎道の走行です。
同程度の大きさのオイルクーラーで、ホースにサーモスタットが付いた車両では、100度を超えたこともありました。こうなると、純正オイルクーラーよりも冷える、ということは、間違ってもないでしょう。
もし、本気で純正オイルクーラー以上に冷やそうとお考えであれば、選択肢は限られてくると思います。
この車両は、私が現在、街乗り車として使っているものです。昔のレース用パーツで生き残った、まだ使えそうな部品を数多く使用して、組み上げたものです。
このオイルクーラーは、確か1980年代のスズキの油冷車両のものです。昔、入手出来るオイルクーラーで一番大きそうだったので、レース車両に使っていました。今でも筑波を走るレース用車両では、良く見かけます。
この街乗り車で試乗コースを走って宮ヶ瀬湖まで行った際、70度にもならない事がありました。1月に行った時は、なんと60度にもなりませんでした。完全なオーバークールです。こうなると、ガムテープで塞ぐ必要がありますね。
こちらは、現在筑波で遊ぶための車両です。ラウンドはしていませんが、これも昔のスズキ油冷用と思われます。今まで見たオイルクーラーの中でも、一番大きいです。筑波サーキットで走行しても、滅多に100度を越えません。
ただ、これらの大きなオイルクーラーを装着するのは、ストリート用では、あまり得策ではないでしょう。デメリットが多すぎるからです。これらについては、機会があればご説明します。
整備性が悪くなる。
現在では、大手2社からカスタムパーツとして、いわゆるボルトオン装着の出来るオイルクーラーが販売されています。当ガレージでオーバーホールやチューニングさせて頂く車両の多くにも、装着されています。ですから、脱着作業は何十回も経験しています。
その際、常に思うのが、『整備性が、あまり宜しくない。』ということです。ステーの取り付け方法などは、脱着時に泣きたくなるような物もあります。オイルクーラー本体は、サイズはいろいろとありますが、各車両共通でしょう。ステー等を一部変更して、車種別にしていると思われます。同じ本体を使って、多くの車両に取り付けられるようにしているはずです。
- このボルト、どうやって締めれば良いのですか?
- このステー、どうやって取り付けるのですか?
そう思える箇所が、必ずあります。たった1回取り付けた後は、もう後は知りませんよ、と思って作られているのでしょうか。もう少しだけ、整備性も考えて製作していただけると有り難いなぁ、と常々思っています。
この厄介な取り付けですが、ある箇所を少し削ったりちょっと追加工したり、取り付け方を変えるだけで、整備性が見違えるように向上する場合もあります。しかし、1回2回の脱着では、なかなか気付くことは難しいでしょう。取り付けステーのちょっとした加工程度で、整備性は格段に向上すると思うのですが。製造メーカーさん、宜しくお願いしますね。
サーモスタットは不要。
サーモスタット付きのオイルクーラーで、それで無くても冷えないオイルクーラーの冷却効率が、さらに悪くなっている、と感じた事例が何度かありました。ですから、昔から思っていた「XJR1300にサーモは不要」という思いが、さらに強くなった、という次第です。
サーモスタットの目的は、低温時のオーバークールを防ぐ為です。でも、少なくとも社外製オイルクーラーで、オーバークールになりそうな物を、私は知りません。余計なコストを掛け、オイルの通りを悪くしているだけ、と個人的には思ってしまうのです。
私は、出来るだけ不要なパーツは取り付けたくない主義ですので、余計にそう感じてしまうのかもしれません。
もちろん、オーナー様の意思は一番重要です。ただ、もう少し冷やしたい、とお考えの場合は、サーモスタットを外してホースだけにすれば、多少は油温も下がるかと思います。
ハンドル切れ角に制限が出る。
多くの社外製オイルクーラーには、ハンドルストッパーの切れ角を少しだけ制限するような、ちょっとしたパーツが付属しています。ハンドルを切った際、インナーチューブとオイルクーラーの干渉を防ぐ目的でしょう。
少し大きめのオイルクーラーの場合、ハンドルを切った際のインナーチューブとのクリアランスは、ギリギリになります。1ミリあるかないか、といった車両も、何度も見ました。中には、高価なオーリンズフォークがオイルクーラーとの干渉で、キズ付いている車両もありました。
アフターパーツのオイルクーラーの場合、大きく見えても、実際は純正オイルクーラーよりも横幅はずっと小さいものです。大きく見えても、面積計算をすれば、たいして大きくはなっていない場合が結構あります。
上記の私の車両は、ハンドル切れ角を、アンダーブラケットを加工して、相当に狭くしています。Uターンは非常に困難です。何度も切り返す必要があります。もちろん、ハンドルロックなど効きません。それでも私は、長年この状態で乗っています
オイルクーラーの場合、見た目・大きさ・油温・ハンドル切れ角・ハンドルロック・Fフォークとのクリアランス等々、全てを満足させる物は、無いと思った方が良いでしょう。
結局は、何を優先させるのか?ということだと思います。見た目なのか、油温なのか、満足感なのか、どう考えるかは人それぞれです。
そもそもカスタムとは、非常に良く出来た純正車両のバランスを崩すことです。メーカーが山ほどのテストをして作り上げたバランスを、自らの意思で壊す訳ですから、純正と同じような使い勝手が得られる訳もありません。
それが許せない方、使い勝手を最優先される方は、純正に近いバランスで乗られる方が、きっと満足感を得られると思います。
適正油温は・・・?
随分前にはなりますが、メーカーの方に聞いたことがありました。その時の回答によると、
『適正温度は80~100度程度だが、120度くらいまでは問題ない。』
といった内容でした。良く聞く数字かと思います。
ラジエターも同様ですが、オイルクーラーも、風が当たらなければ温度は下がりません。エンジンが掛かっていれば、上がり続けます。どんなに大きな物を取り付けていたとしても、渋滞では簡単に油温は上がります。120度なんて、すぐです。あっという間です。
そんな時、油温計を見るから気になるのです。油温計を見て、温度を下げたいと思ったとしても、出来ることはありません。エンジンを止めたからといって、すぐには油温が下がりません。基本的には、できることはほとんど無いのです。だから、いっそのこと、油温計は無い方が気にしないで済むのに、と思ったりもします。
もし渋滞などで油温が思った以上に上がり、気になった時には、時々エンジンを止める、早めにオイル交換をする、といった事くらいしか、出来ることはありません。
冷却ファンの無い空冷エンジンですから、そんなものです。夏場の渋滞は、エンジンにとってもライダーにとっても、修行になるのは間違いありません。でも、好きだから、乗りたいから乗る訳です。バイク好きなんて、きっとそんなものでしょう。
ですから、オイル交換はなおさら重要になってきます。油温を上げた時は、早めのオイル交換をお勧めします。
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