お手軽チューニングエンジンの仕様を公開します。

チューニングされたレース用エンジン

  • エンジンをフルチューンしたいのですが、幾ら掛かりますか?
  • エンジンチューニングは、どこまですれば良くなりますか?

このような内容のお問合せを、時折頂きます。

エンジンは、お金(コスト)を掛けようと思えば、幾らでも使えます。当然、誰にでもご予算はあるでしょう。またエンジンパワーを上げたいと言っても、全日本選手権を走る訳でも、何かのチャンピオンを狙う訳でもありません。過度にパワーを上げても、一般公道では役に立つとも思えません。

ここでは、費用対効果も考えながら、具体的に考えていきたいと思います。ただしこれ以降の内容は、あくまでも街乗り用として私が個人的に考えているもの、今までに実行してきたものです。私のエンジンを今からもう1機、新規に作るなら、といった視点です。好き嫌いもあります。もしかしたら偏見もあるかもしれません。

イジったXJRに20年以上乗り続け、以前はXJR1300でレースもやっていた一人のオッチャンが言っていること、程度に読んで下さいね。

オーバーホールついでにパワーアップしたい、エンジンチューニングもしたい、とお考えの方に、少しでも役立てるのなら幸いです。


XJR1300というオートバイ

XJR1300(XJR1200も含めて)というオートバイは、初期型が発売されて、既に20年以上が経過しています。形状から見ても分かるように、速く走るためのオートバイではありません。

エンジンはFJを引き継いでおり、設計の古さは否めません。エンジン系の社外パーツには、FJ系のまま、という物さえあります。

通勤にそのまま使ってもサスは良く動き、ツーリングでも疲れないライディングポジションです。裏を返せば、「スポーツできないオートバイ」とも言えます。

XJR1300でスポーツしようと思えば、動きすぎる柔らかなサスペンションを、何とかしたくなります。重たい車重を、何とかしたくなります。物足りないエンジンパワーを、何とかしたくなります。

でもそれらは、本来であればネガな部分ではなく、そういう作りのオートバイなのです。スポーツする事を前提に開発された訳ではないのです。

そんなXJR1300を、スポーツライディングして楽しいようなオートバイに仕上げようと思えば、やるべきところは沢山出てくるのは、当たり前とも言えます。

メーカーの設定したバランスを崩す訳ですから、新たに設定する領域をどこに合わせるか、これは非常に重要になります。これを明確にしないままオートバイをイジっていけば、ただバランスの崩れた、乗って楽しくないオートバイになってしまいます。

エンジンでも車体でも、どこかをイジっていこうと思うなら、『どんなシチュエーションで楽しいオートバイにするか?』を、まずは明確にしてください。

私がXJR1300に個人的に求めるのは、以下のようなものです。

  • ハードブレーキングでも程好く効くブレーキ
  • ハードブレーキングにも負けない、踏ん張るフロント回り
  • 路面の良好な峠道で、2速3速のコーナリングで落ち着くサスペンション
  • 低速からでも、開けてドカンと加速するトルク感
  • アクセルレスポンスの良いエンジン特性
  • 引っ張った時の高回転での気持ち良い伸び
  • 操縦性を良好にするための軽量化

言葉にすれば、このようになります。XJR1300にとっては、どれも簡単なことではありません。でも自分や親しい友人のXJR1300は、常にこのようなコンセプトで製作してきました。

どの項目も、現行のスーパースポーツ車のようにはいきません。当たり前です。でも、全ての項目で少しでもコンセプトに近づいていけば、全く性格の異なるオートバイになります。

見た目は変わらなくても、走りは全く別物になります。

通常のオーバーホールメニューや内容は、ここでは書きません。あくまでも、『オーバーホールついでにチューニングする』というコンセプトです。

レース活動をしていれば話は別ですが、普通のユーザーの方は、エンジンを降ろしたりクランクケースを割ったり、などという事は、まずしません。しかし、オーバーホールをするにはエンジンを車体から降ろして分解する、という事は覚悟します。

そのように考えた時、「どうせ開けるのだったら、ついでに出来ることをしよう!」と思われる方は、時折いらっしゃいます。そのような方に参考になる内容を、これから書きたいと思います。


今さらですが、腰上と腰下とは?

エンジンをオーバーホールしたり分解作業する際に、『腰上、腰下』といった言い方をする場合があります。

腰上とは、シリンダーから上のことを指します。ピストンやヘッド回りだけを分解するのであれば、「腰上をバラす。」ということです。

腰下とは、通常クランクケースのことを指します。つまり、クランクケースを割る場合が、「腰下をバラす。」ということです。

オーバーホール時で言えば、シリンダーまでをオーバーホールするのか、クランクケースまで割るのか、ということです。


具体的なメニュー:腰下編

XJR1300は発売されて20年経過していますが、そのエンジンはFJを引き継いでいます。FJ1100は1984年の発売、ボアアップされたFJ1200は1986年の発売です。

つまりXJR1300のエンジン基本設計は、34年以上も昔にされたもの、という事ができます。

ちなみにXJR1300のバルブには、「36Y」という刻印がされていますが、「36Y」はFJ1100の型番です。つまり34年間、同じバルブが使われていることになります。

レース時代にヘッドを壊し、スペアにあったFJ1100のヘッドを使ったこともありました。フィン形状は異なっていても、燃焼室形状やバルブ等は同じなので、使えました。

30数年も昔の設計ですから、今見れば各部のパーツは重いです。想定されたスピードレンジも違うでしょう。ですからパワーアップしたりレスポンスを良くするためには、パーツの軽量化は効果があります。


クランクシャフト

ノーマルと軽量加工されたXJR1300用クランクシャフト

写真上が軽量加工されたXJR1300用クランクシャフトで、下側のコンロッド付きがノーマルクランクです。

部品番号が(36Y-)で始まるクランクシャフトですが、約15kgの重さがあります。

クランクシャフトは、常に高回転で回転し続けているパーツですが、ピックアップを良くするために、レース時代は何通りかの軽量化をしました。

その中でも公道用としても相性が良さそうな、『おむすび型・2.5kg軽量タイプ』を現在は使っています。あまり軽量化すると、トルク感が無くなるので、この程度が無難な気がしています。

また、ダイナミックバランスも取っています。この辺りの加工は、内燃機加工屋さんの腕の見せどころです。

圧縮比はどうせ上げますので、それによってトルクは増やせますが、3kg以上軽量化したクランクシャフトも、機会があれば使ってみたいです。でも、2~2.5kg程度までが無難でしょう。


コンロッド

XJR1300用コンロッド

1300になってから、コンロッドには浸炭処理という、非常に硬い表面加工がされています。ですから私は、コンロッドの軽量加工は行っていません。

1200の時代には、コンロッドを削り、表面をピカピカになるまで磨きましたが、1300のコンロッドは、重量合わせの為に2g落とすのも大変です。削ろうと思っても、火花だけは勢いよく出ますが、なかなか削れません。

ですからレース仕様でもない限り、コンロッドはそのまま使用します。

4つのコンロッドの重量合わせは、しないよりした方が良いですが、手間とコストは掛かります。私なら、公道用にはしません。


クラッチ

コイルスプリング式の強化クラッチ

クラッチは、XJR1300の泣き所の一つです。ちょっとパワーを上げるだけで滑ります。エンジンがノーマルでも、キャブレターとマフラーの交換だけで、滑り出す事もあるくらいです。

乗り方にも多少影響はされますが、エンジンをパワーアップさせるなら、クラッチは強化タイプに変更する必要があるでしょう。

コイルスプリング式の強化クラッチが数社から発売されていますので、お好みで選べば良いでしょう。

コストを掛けたくない方や応急処置的な利用であれば、ノーマルのダイヤフラムスプリングを2枚重ねて使ってください。クラッチレバーの操作はだいぶ重くなりますが、強化クラッチ代わりに使用できます。


具体的なメニュー:腰上編

燃焼室を形成する腰上では、様々なチューニング手法があります。パワーや出力に直結する部分ですので、耐久性も考えながら、お好みの手法やパーツを選ぶ事ができます。

カムシャフト

カムシャフトはエンジンの性格を決めるパーツです。パワーを求めるなら、是非変更したいところです。

しかし、現在ではヨシムラカムは廃盤になっており、中古品を入手するしか方法はありません。もしくは、アメリカのウェブカムやメガサイクルにSTDカムを送って、肉盛りカムを製作する方法があります。

リフト量は様々な設定がありますので、用途を考慮しながら選ぶと良いでしょう。公道で使いやすいのは、リフト量が(8.5~9.5mm)くらいまでかと思います。

ちなみにIN側を見ると、STDが8.0mm、ヨシムラが8.8mm、私の使っているのは9.5mm、となっています。この私が現在使っているカムシャフトは、アメリカ製の肉盛りカムではなく、昔、ミハラスペシャリティというショップが販売していたもので、レースに使いたいと言ったらサポートしてくれました。

カムシャフトは、リフト量だけでなく作用角も性格に影響しますが、概ねリフト量が9mmを越えると、信号発進や渋滞時等の低速時に、気を使うようになります。


バルブ回り

強化バルブスプリング、インナーシムキット、チタンリテーナ、ビッグバルブ等、バルブ回りには様々なチューニングパーツがあります。その多くは、アメリカのドラッグレースパーツです。

ドラッグレースは、1日に400mを数本走ればレースができます。年中メンテナンスし、パーツを交換する事が前提にあります。ですからドラッグパーツは、とにかく消耗が早いパーツです。公道用に組むべきではありません。

インナーシム化されたXJR1300のシリンダーヘッド

以前に一度、チタンリテーナ仕様のインナーシムを使ったことがありますが、短時間にも関わらず痛みが激しいので、すぐに使用を止めました。

強化スプリングは、抵抗が増えるだけです。ビッグバルブは、ヘッドの加工も必要ですので、コストが掛かります。どれも、公道には必要のないパーツと考えます。

バルブ回りは、STDで十分です。バルブの当たり面をちゃんと作って確保してやれば、それで十分と考えます。


ピストン

排気量、圧縮比、強度等が求められるピストンですが、高強度の鍛造ピストンでも、デトネーションが発生すれば溶けます。バルブが当たれば砕けます。

逆に、鋳造の1200STDピストンでも、圧縮比を12.2:1まで上げて、カムシャフトも変更して、皆で筑波も含めて7年間も散々乗り回しても、壊れませんでした。

鋳造の1200STDピストンでもこれだけ壊れずに走れたのですから、1300STDの鍛造ピストンであれば、圧縮を上げてカムを換えても、全く問題ないと思われます。ですから、ピストン強度はあまり考えなくても大丈夫でしょう。

排気量はどうでしょうか・・・。排気量をアップすれば、簡単にパワーを得られます。ですから有効な手段に思えます。

1300のシリンダーは、アルミ一体式のメッキシリンダーです。ボアアップするには、鉄のスリーブを入れなければなりません。一体式のアルミスリーブを削り、ボアサイズを拡大し、その上でピストンボアに合わせた鉄のスリーブを製作し、シリンダーに挿入します。

ボアサイズによっては、ケースまで拡大加工する必要があります。どう考えても手間とコストが掛かりそうですね。という事で、ボアアップは私なら却下します。

そもそもアルミ一体式のメッキシリンダーは、耐久性や放熱性にも優れており、1mmや2mmのボアアップなら、しない方が良いくらいです。以前のテストでも、広げた80mmサイズよりもSTDシリンダーを使用した79mmの方がパワーも出しやすく、耐久性も良かったのです。

ですからピストンは、STDサイズの79mmで選ぶべきです。

圧倒的な軽さを誇るXJR1300用SOHC製ピストン

じゃあ、いったいどこのメーカーのピストンが良いのか?ということになりますが、圧縮比も重量も大差ないのであれば、どれを選んでも変わらないことになります。

私なら、他では手に入らない軽さで、間違いなく『SOHC製』を選択します。


シリンダーヘッド

分解したシリンダーヘッドの多くは、熱歪みが発生していますので、面出し加工はしたいところですが、それは通常のオーバーホール作業です。

多くの社外ピストンは、実際に組むと、カタログ値ほど圧縮比は高くなりません。ですから、高圧縮比を求めるなら、ヘッドの面研磨は行いたいところです。

面研磨を行った場合、バルブタイミング調整は必ず行う必要があります。

面研磨をして、カムシャフトとクランクの距離が変わりますので、バルブタイミングは標準の状態から遅くなります。カムチェーンが伸びただけでも遅れますので、そのまま組んだらさらに遅れる方向になってしまいます。

ポートを拡大研磨したXJR1300用シリンダーヘッド

通常のオーバーホール作業以外でチューニングとして行うのは、後はポート研磨でしょう。

STDの吸気ポートが32mm程度なのに対し、ポートを削る場合は38mmまで拡大します。

それだけでなく、段差やザラつきも削り、スムーズな流れを目指します。バルブシート周りには、必ずと言って良いほど段付きがあります。それだけでも効果が見込めます。

もちろん同時に、EX側のポートも加工します。ポート拡大研磨は、古車であるXJR1300には、大変有効なチューニングメニューの一つです。

私の街乗りマシンも、もちろんポートを拡大加工しているヘッドを使用しています。


まとめ

あくまでも、オーバーホールする事を前提に、ケースまで開けるのだからついでにチューニングもしたい!といった内容で考えたものです。

チューニングにコストを掛けようと思えば、幾らでも使えます。ヘッドを削りで製作することだって可能です。バルブやピストンを一品物で製作することも可能です。でも、いったい幾ら掛かるのでしょうか・・・?

オーバーホールするには、ある程度の消耗パーツは交換します。カーボンも除去します。クランクケースも割ります。メタルやカムチェーンも交換します。

そんな作業のついでに、パワーアップを図ったチューニングエンジンを!というコンセプトで考えたものです。

以下に項目と、ざっくりとしたコストを記載します。

クランクシャフトの軽量バランス取り100,000~150,000
強化クラッチキット70,000
肉盛りカムシャフト170,000~200,000
SOHC製ピストン152,000
シリンダーヘッドのポート加工120,000~
シリンダーヘッドの面研磨15,000~
バルブタイミング調整48,000

内燃機屋さんの相次ぐ廃業や値上げ、コストの高騰などの理由により、どの項目も掲載時より価格は上がっています。ご理解をお願いいたします。(2021.7.14 追記)

雑誌で紹介されるような凄いチューニングメニューや、ドラッグパーツを多用したエンジンなど、必要ありません。上記メニューと正確なオーバーホールで、簡単には全開にできないXJR1300が出来上がります。一般公道を走るには、これで十分だと思っています。

もちろん、キャブレターのセッティングや足回りのセッティングは必要です。止まるためのブレーキ系の強化も必要です。でも、楽しそうだとは思いませんか?

私が現在乗っているXJR1300も、メニューはこの程度です。高速道路の全開走行は好きではないのでしませんが、現行のスーパースポーツとツーリングに行っても、何も問題ありません。峠道では、同じペースで走ることも出来ます。

そんなXJR1300を造りたい!という方は、お気軽にお問合せください。バイク馬鹿なXJR親父が、あなたのチューニングやカスタムを応援します。