カスタムパーツと整備性

カスタムとチューニングという言葉を、意識的に分けて使っている訳ではありません。ただ厳密に言えば、性能に関する改造(カスタム)かどうかだと、個人的には認識しています。

言葉の定義を、ここで言いたいわけではありません。もし言葉の違いに興味がある方は、以下のページを参考にしてみてください。

多くのXJR1300ユーザーの方が、何らかのカスタムをしていますが、以前から非常に気になっていた、カスタムパーツと整備性の問題について、今回はお伝えさせて頂きたいと思います。

内容は、私の個人的な意見が大部分を占めています。ワガママ親父のたわ言、と言える内容です。気に障る内容だなぁ~、何言っているんだ?このオッサンは!、そうお感じになりましたら、読み飛ばしてくださいね。きっと、腹が立つだけですよ。


整備性が最優先

長年、オートバイに乗り続けてきて、サーキット遊びもしていると、整備性の重要さが身に沁みて分かるようになります。

オートバイは、多くの方にとっては遊びの道具です。郵便配達員や新聞配達員の方々、白バイ隊員の方々、メーカーで開発に従事されている方々は、乗りたいか乗りたくないか、ではなく、乗るのが仕事です。

今はヤ○ハファクトリーの監督をしている後輩君も、以前は走るのが仕事でした。その大変さは、酔った時に何度も何度も愚痴として、聞かされてきました。

しかし、そのように仕事でオートバイに乗る方々はほんの僅かで、多くのライダーは私と同様に、好きだから、楽しいからオートバイに乗っています。

そんな遊び道具のオートバイで、いつも楽しく安全に走るには、整備が非常に重要です。調子が悪いオートバイに乗っていても、楽しくはありませんし、そもそも危険です。オートバイは機械ですから、日頃の整備が何よりも大事です。

一方で、やはり格好良く乗りたい、と思うのもライダーの性ですから、カスタムパーツと言われるパーツを取り付けられている方も、非常に多いのが現実です。

しかし、カスタムパーツの中には、整備性を全く考えられていない物も、残念ながら数多くあります。多くのユーザーの方は、取り付けるだけで整備のことは、ほとんど考えていないのでしょう。中には、ショップで取り付けを依頼することもあるでしょう。でも、ご自身のオートバイです。ある程度は知っておいても、損はありません。


絶対にダメな取り付け方

クラッチのプッシュレバー

クラッチのプッシュレバー

これらは、油圧クラッチのプッシュレバー、通称クラッチレリーズと呼ばれるパーツです。この2枚の写真のようなホースの取り付け方法は、実は良く見かけます。持ち込まれる車両でも、一定の割合であるものです。

おそらくクラッチホースの交換時に、このような取り付けに変わったのだと思われますが、このような取り付けは、絶対にやってはいけません。何故かと言えば、赤丸のボルトにアクセスできないからです。

もしこのプッシュレバーを取り外す必要があった場合、外すためにはバンジョーボルトを緩めなくてはなりません。バンジョーを緩めて、フィッティング金具の向きを変える必要があります。当然、オイルが漏れるでしょう。エアが入れば、エア抜き作業も必要になります。

例えば、ドライブスプロケットを交換したい時、スプロケットカバーを外すために、このバンジョーを緩めて、漏れ出すオイルに対処する必要がある、ということです。なぜ、スプロケットカバーを外すためだけに、そのような作業をしなければならないのか・・・。

クラッチのプッシュレバー

本来であれば、このようにバンジョーボルトにはカラーが入っています。カラーが何のために入っているのか?、それを少しだけ考えてみれば、カラーを抜くことは無いでしょう。しかし、この小さなカラーを外したばかりに、バンジョーを緩め、漏れ出たオイルに対処し、場合によってはオイルを足しながらのエア抜き作業が必要になるのです。

以上のことを考えれば、絶対にやってはいけない事だということは、ご理解頂けるかと思います。作業性を著しく悪くするような事は、絶対にしないよう、整備する立場の人間として、強くお願いしたいと思います。

整備性が非常に優先されるレース用車両では、このような取り付け方法を見たことはありません。時間が優先されるサーキットでの作業で、スプロケット交換時にバンジョーを緩めたりエア抜きをするなんてことは、まず有り得ません。

今までに何台も、このようなホースの取り付け方をされた車両が入庫されています。そのような車両を見るたびに、整備性がないがしろにされているような気がして、悲しくなります。ご自身でホース交換する際に、このような取り付けをされた方は、出来るだけ早くにカラーを取り付けることを、強くお勧めします。

もしショップでこのような取り付けをされたのなら、???、疑ってみる必要があるかもしれません。そのショップとの今後の付き合いや対応は、オーナー様ご自身でお考え下さい。

どうしてもバンジョーにカラーを使いたく無い場合は、クラッチホースの取り回しを変えれば、可能になるケースもあります。そのような方は、ご相談下さい。


カラーがポロポロ落ちてきます。

ドライブスプロケットのカバーは、良くカスタムパーツに変更される箇所です。

ドライブスプロケットのカバー

ドライブスプロケットのカバー

このようなカバーを外すと、まず間違いなく幾つものカラーが、ポロポロと落ちてきます。装着する時には、まるで知恵の輪状態になります。整備性は、お世辞にも良いとは言えないでしょう。

個人的には、このようなパーツには全く興味はありません。性能に全く影響しないにも関わらず、整備性が酷く悪くなるからです。

見た目やカッコ良さは、もちろん大事な要素だとは思います。しかし、脱着に純正部品の何倍もの時間を要するパーツは、個人的にはいかがなものかと思います。

アフターパーツメーカーも、もう少し整備性を考えて欲しいなぁ~、と思います。ただ隙間のサイズを測って、その分のカラーを製作して付属させているだけですから、整備性など何も考えていない、と思われても、仕方ありません。

XJR1300は油圧クラッチです。その為のレリーズ(プッシュレバー)も、ドライブスプロケットカバーと共に固定されます。当然、チェーンのメンテナンス時には、取り外されることも多いでしょう。オイルフィルターの交換時に外されるケースもあるでしょう。なのに、これらのスプロケットカバーの整備性は、何も考えられてはいません。


サブフレーム

XJR1300のサブフレーム

XJR1300のサブフレーム

フレームの強度を上げる、とか、不安定な挙動を軽減する、とか言われるようですが、個人的にはそのような効果は全く感じたことはありません。

見た目は、カッコ良く感じる方も多いパーツです。よく見ると、曲げや溶接加工がされて製品になっていますが、何度も人様の車両で脱着をしていると、中には、強い力を加えて位置を合わせないと、取り付けられない、といったケースも何度かありました。

しかし、一番の問題点は、やはり整備性です。

このパーツの多くは、エンジンマウントを利用して取り付けるようになっています。しかし、取り付けられた車両を見れば分かるように、キャブレターの脱着には、間違いなくジャマになります。もし、このサブフレームを取り付けた後にキャブレターを脱着する必要があった場合、とても面倒臭い作業をしなければならない必要がある、ということです。

レーシングキャブレターの場合は、クリーナーボックスが外されていますので、多少は楽です。しかし純正キャブレターの場合は、まずバッテリーを外し、クリーナーボックスを出来るだけ後ろに移動させる必要があります。その後、キャブレターを、狭いインシュレーター(キャブジョイント)とエアクリーナージョイントの間から外す必要があります。

しかし、サブフレームが邪魔で取り外すことが出来ません。しかもそのサブフレームは、エンジンマウントと共締めなのです。つまり、エンジンマウントを緩めるか取り外して、サブフレームを取り外す、もしくは邪魔にならない位置に移動する必要があります。

どうです?このように説明されると、サブフレームが取り付けられた車両からの、純正キャブレターの取り外しは、したくなくなりますよね?。正直に言えば、私はもう、二度としたくはありません。

しかし不思議なことですが、そのような車両に限って、何故かキャブレターを外さなければならない事が、起きるものです。


フェンダーレスキット

シート下のフェンダーを交換して、スッキリ見せたい場合に良く交換されるのが、フェンダーレスキットと言われる商品です。アルミ製やFRP製など、様々な商品があります。

ほとんどのユーザーの方は知らないかと思いますが、そのフェンダーレスキットが、クリーナーボックスの動きを制限するケースが、多々あります。

XJR1300のクリーナーボックス

純正キャブレターを取り外す場合、バッテリーを外し、クリーナーボックスを最大限、後ろに移動させる必要があります。赤丸の3箇所のボルトを緩め、取り付けステーの遊びいっぱいまで後ろ側に移動させるのです。

しかし、何も考えられていないフェンダーレスキットの場合、クリーナーボックスが干渉して、フレーム側の取り付けステーの後ろいっぱいまでズラすことが出来ません。それが僅か2センチだとしても、その2センチが、キャブレター脱着の作業を非常に困難にするのです。

もしフェンダーレスキットのせいでクリーナーボックスの移動量が制限されて、おまけにサブフレームが取り付けられていたら・・・。キャブレターの脱着作業は、修行になります。実は何度か、そのような状況で純正キャブレターの脱着作業をしたことがありますが、正直に言えば、もう2度としたくはありません。


思いがけないサイズの工具

カートリッジ式オイルエレメントアダプター

つい先日にオーバーホールとチューニングされたお客様のエンジンに装着されていた、オイルフィルターをカートリッジ式に変更するためのアダプターです。そのアダプターを固定する為のボルトサイズが、手持ちの工具にはありませんでした。

24ミリでは大きく、22ミリでは小さいのです。モンキーレンチで緩めようかとも思いましたが、ネジ部の厚みが薄く、モンキーレンチでは掛かりも浅く、ネジを傷めそうです。

仕方なく、このネジを緩める為にだけ、近所の工具屋さんに出向いて、工具を買ってきました。

私のような、ヘッポコ親父だから持っていないサイズなのか、通常のショップや整備士は持っているサイズなのか、そこまでは私には分かりません。でも、今まで数十年、23ミリサイズのレンチは、使ったことがありません。ですから、工具も無かったということです。

なんだかなぁ~。


柔らかなアルミボルト

アルマイトされたアルミ製ボルト

パーツ量販店に行くと、今でも良く販売されている、アルミ製のアルマイト加工された、見た目にもキレイなボルトです。ただしこのボルト、皆さんが思っているよりも厄介なボルトです。

アルミと言っても、その材質はいろいろとあります。柔らかいものから、ある程度の強度があるものまで、様々なようです。

このアルミボルト、取り付けられてから長期間放置されたものだと、素材が柔らかいので、簡単にナメる場合があります。写真のようなクラッチカバーの場合、半分以上のボルトがナメて、タガネで緩めたこともありました。

ボルトの強度の問題、固着の問題、サイズの問題、いろいろあるかとは思いますが、もしどうしても使いたい場合は、例えばネジ部にグリスや焼き付き防止剤を塗布するなどは、して頂ければと思います。また、トルクを掛ける必要がある箇所への使用は、しない方が賢明でしょう。

見た目は良くても、それだけではボルトの役目は全うできません。


純正以外の部品を使うということ

純正品以外の部品、私の車両には山ほど付いています。大きなパーツからブレーキやサスペンションの重要部品、またボルトやナットも含め、多岐に渡ります。しかし、純正以外の部品を取り付ける、使用するということは、同時にその責任も自身で負うことになります。

もしそれがブレーキ系の部品であれば、トラブルは大怪我や、場合によってはライダーの命を危険にさらすことさえあります。オートバイはそのような乗り物であり、重要部品はそのような結果をもたらす場合もある、ということは、乗り手として自覚しておく必要があります。

ブレーキレバーが落下したら、何が起きるのか・・・
ブレーキパッド1枚が外れたら、何が起きるのか・・・

考えたくはないことでしょうが、考えてみる必要も、あるかもしれません。私は実際に、経験しています。そのような場面を、見たこともあります。

オートバイの整備は、それだけ重要だということです。簡単に乗り手の生命を危険に晒すこともあるのです。しかし、その整備性を蔑ろ(ないがしろ)にするようなアフターパーツは、どうにも個人的には受け入れることが出来ません。

どのような部品を選ぶのかは、もちろんオーナー様個人の判断です。そこに口を挟むようなことは、するつもりはありません。そもそも、多くのオーナーの方は、そこまでの整備性を考えてパーツを選択することは、まず無いでしょう。それを考えると、質の悪いアフターパーツ、整備性の悪いアフターパーツを取り付けることは、オーナー様の責任ではありません。

ただ、人様よりも数多く、XJR1300という車種をイジっているオッチャンとしては、さすがに黙っておけないことも、多くなってきました。我慢できないことも、多くなってきました。

今後は、取り付けられているパーツについて、ヘッポコ親父なりにスペシャリストとしての意見を、言わせて頂く場合があるかもしれません。正直に、取り外したほうが良いと、お伝えする場合もあるかもしれません。もちろん、そのような場合は、理由も合わせてお伝えさせて頂きます。

もしそれでご納得頂けない場合は、誠に申し訳ございませんが、整備やオーバーホール、チューニングをお受け出来ない場合も、今後はあるかもしれません。その場合は、バイク馬鹿親父の困ったワガママ、とお許し頂ければと思います。

何卒、ご理解をお願いいたします。