TOTの小ネタ
『テイスト・オブ・ツクバ』という、ちょっと変わったレースが、年に2回、茨城県の筑波サーキットで開催されています。以前は『テイスト・オブ・フリーランス』という名称でしたが、主催者が変更されて、現在の名称になりました。昔から、「国内最大の草レース」と言われたりもしました。
「もてぎ7時間耐久ロードレース」、通称「もて耐」も、確か同様の言われ方をしていました。私も3回ほど、出場させて頂きました。しかし練習中やレース中の大きなアクシデント等が重なり、使用する車両やレース内容、レギュレーション等も、大きく変更された歴史があります。
『テイスト・オブ・ツクバ』も、最速クラスのレギュレーションや名称が、何度か変更されてきました。私が言うのも、少しおこがましいとは思いますが、個人的には、「カワサキH2・H2R」の出場を認めたあたりから、少しずつ最速クラスの車両や雰囲気が、変わってきたような気がします。
RSカタクラ製FZS1000R
以前には、こんな素敵な車両に乗せて頂いたことがありました。テレビのモトGPや雑誌の写真でしか見たことのない、オーリンズの非常に高価なフォークが装着されていました。『曲げるな!』と書かれた付箋が、フォークに貼り付けられていましたが、曲げようと思ってオーリンズを曲げるライダーなんて、おそらく何処にも居ません。
そもそも、この倒立フォークが曲がっているということは、ライダーの全身も、酷く曲がっているような状況かと思われます。それだけは、何としてでも避けたいと思ったものです。
RSカタクラ製FZS1000RR
こちらの車両は、数年前です。多少でも分かる方なら、この車両も怪しい匂い十分なのが、お分かり頂けるかと思います。
このような、カタログにも載っていない、どこが製作したのかも分からないレーサーが走っても、たいして話題にもならず、雑誌やウェブでも取り上げられないのは、「ポンコツ親父」が乗っているからです。
トップ争いする訳でもなく、凄いタイムを叩き出す訳でもなく、ただ後方を走っているからです。元ワークスライダーでもなく、ただのバイク好きでレース好きなオッサンが乗っているから、大したことも起きませんし、話題にもなりません。
もしこれらの車両を、現役の全日本ライダーや有名ライダーが走らせていたら、相当なタイムが出ていたと思われます。でも乗るのがポンコツなオッサンですので、驚くようなタイムは出ません。そんなことは、関わってくださった方々の全員が分かっていることです。
ポンコツ親父の現在のレーサーは?
そんなポンコツ親父も、『HERCULES』という最速クラスを、数年前まで走っていました。しかし、トップは57秒を出すレースになりました。現役全日本ライダーも、数名は出場します。
頑張って走っても、感覚と実際のタイムの差は年々大きくなり、出来ていたことが少しずつ出来なくなってきた感じはしていました。頑張らなくても出ていたタイムが、頑張っても出なくなりました。
最低でも0秒代、と思って走っていましたが、そのタイムでビリ争いをするレースは、さすがにこの年齢ではキツくなってきました。これでも、大きくて重いものを背負って走っているつもりですが、そんな事よりもレースが全く楽しくないのです。
決勝レース前のスタート前チェックの時間、よく最終コーナー前のピットで、ボンヤリと前のレースを眺めているのですが、もう数年前から、こんなことを考えるようになりました。
- もし0秒が出なかったら、もう辞めよう。
- もしビリになったら、キッパリと辞めよう。
- この景色を見るのも、今日が最後かなぁ~。
でも、なんとか0秒代は出るし、後ろには数名のライダーがいるのです。
「じゃあ、もう少しだけ走ろうかな・・・」
帰る頃には、そんなことも考えながら、また走る気になったものです。
しかし、長年近くで見ている友人から、
「最近、レースしていても楽しくないでしょ。全然楽しそうじゃない。」
と言われました。はい、良く見ていますね。おっしゃる通りなんです。
こんなポンコツ親父が、上記で紹介したレーサーを走らせるということは、『非常に重たくて大きなプレッシャーを、常に背負っている』状態なのです。そんな事も感じられないようでは、このレーサーを走らせる資格は無い、と思っています。
それでも楽しかったレースなのですが、だんだんと楽しく無くなってきました。本来は楽しいはずなのに、それを感じられないのです。身近な人にそう言われて、『もう十分かな・・・』と思うようになりました。
そして、新たに製作した車両が、これです。
ガレージXJR製XJR1300
今までの車両に比べれば、重くて遅いです。出場クラスには、レース中に1分を切るライダーもいません。少しだけ肩の荷を降ろして、昔のような楽しいレースが出来ているような気がします。
今回のブログの、本題です。
前置きが、少しばかり長くなってしまいましたが、今回のブログでお伝えしたかったのは、そんなことではありません。
自分の出場クラスが変わると、『HERCULES』クラスの決勝レースを、外から見ることが出来るようになりました。今回は、急いで車両や荷物を片付けて、1コーナーのイン側から、レースを見ました。
まず思ったのは、『速くて危ないレースだな。』ということです。こんな危ないレースは、出ちゃいけない!。このクラスは、出るレースではなくて見るレースなんだ、と、初めて気付かされました。
その後、当日にどれだけの人が気づいたのかは分かりませんが、ある選手の走りを見て、その後に確認した数枚の画像からも、それを確信して、どうしても書かずにはいられない気持ちになった訳です。その画像が、これになります。
HERCULESクラスのトップ集団
渡辺選手だけが、突っ込みすぎてアウトにハラんだようなラインを走っています。普通にこの写真だけを見れば、おそらく誰でも、そう思うでしょう。突っ込みすぎて大回りになっているのだろうと。でも、実際は違います。渡辺選手は、故意にこのラインを走っているのです。
通常であれば、先頭のH2Rや、それに続く加賀山選手のように、ほぼ同様のラインを1列になって、トレースしていきます。でもそのようなラインで、自分の前車と同じような箇所でアクセルを開けている限り、狭い筑波では、まず抜くことは出来ません。
この写真を良く見てください。トップのH2Rと、外側にいる渡辺選手のオートバイの向きが、全く違います。渡辺選手の車両だけ、すでに向きが変わっているのです。つまり、アクセルを開けられる状態です。すでにこの箇所で、加速を始めています。しかし、1列で走行している他のライダーは、まだ向きが変わっておらず、加速体勢ではありません。
外側から見ている限り渡辺選手の車両は、H2Rや加賀山選手の車両には、明らかに加速やエンジンパワーで負けていると感じました。狭い筑波サーキットで、周回数も少ないこのレースで、どうやってこれらの速い車両に勝てるのか?
その答えが、このような走りだったのではないだろうか?そう思ったのです。
1コーナーの内側で見ていても、ほぼ毎周、1台だけ外側に突っ込んでいました。始めは、進入スピードを落としたくないから、他車にジャマされない、リスクの少ないラインを選んでいるのかな、とも思いましたが、S字で前車を抜いた時、
『このラインが勝つ為の方法』なのだと、ハッキリと分かりました。
レースが終わって数日後、ネット上の写真を見ると、他のコーナーでも同様のラインを走っている写真を見つけ、想像が確信に変わりました。
渡辺一樹君、凄いなぁ~!、正直にそう思いました。
8月に、友人の筑波サーキット走行会があります。渡辺選手も、来るはずです。その時に、事の真意を聞いてみようと思っています。
でも、褒めませんよ(笑)。
缶コーヒーくらい、ご馳走してあげようかな・・・
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