Wossnerピストン組み込みエンジン、完成しました。

Wossnerピストンを組み込んだお客様のエンジンが、やっと出来上がりました。シリンダーとヘッドを塗装しましたので、腰上だけですが見違えたようにキレイになりました。

チューニングされたXJR1300エンジン

ヘッドカバーとテンショナーも痛んでいましたので、サービスで同色に塗りました。XJR1300のエンジンは、ヘッドカバーはシルバーが相場ですが、黒でも違和感はありません。カッコいいです!

今回はクランクケースは塗装しませんでしたが、ケースの黒がツヤ有りなので、ツヤ有りブラック塗装です。

エンジン塗装をお考えの方は、傷んでいるヘッドカバーも、サービスで同色に塗装しますよ。


Wossnerピストン

今回組み込んだピストンは、これです。

Wossner製XJR1300用ピストン

大変に男らしい形状をした、Wossner製ピストンです。私は知りませんでしたが、最近では結構メジャーになってきたピストンのようです。

詳細は、こちらのページに記載しています。

初めて組むピストンですので、重量以外にもいろいろと測定しておきました。スキッシュエリア、バルブリセス、実際の圧縮比などなどです。ここではその数字は公表しませんが、今後に役立つ貴重なデータになります。


シリンダーヘッドのチューニング

お客様のご要望で、シリンダーヘッドは念入りに仕上げました。ポート拡大研磨、シートカット、バルブフェース研磨、インシュレーター加工等です。

加工前のインテークポート
加工前のインテークポート

拡大加工したインテークポート
拡大加工したインテークポート

上が加工前のノーマル状態、下が加工後のINポートです。STDでは33mm弱の口径ですが、38mmまで拡大しています。もちろん、燃焼室側シートリングの段付きも修正してあります。

FJ用インシュレーター
FJ用インシュレーター

拡大加工したインシュレーター
拡大加工したインシュレーター

XJR1300の定番アイテムとして、FJ用のインシュレーターがあります。フルパワーにするためのパーツとして、XJR1300乗りの間では有名です。その口径は、約32mmです。ちなみに、STDインシュレーターは約30mmですので、FJ用は2mm大きい事になります。

キャブレターを外した状態で、インシュレーターの中に指を入れて直接段差を触ってみると、STDはインシュレーターとポートの間に大きな段差がある、と感じます。

対してFJ用のインシュレーターでは、少し段差があるな、と感じる程度です。径でのわずか2mmの違いは、それほど大きく感じます。

2mmの違いを面積で考えてみれば、その差はもっと大きいものになります。計算してみましょう。円の面積は、半径×半径×円周率、になりますので、

  • STDインシュレーター
    15×15×3.14=706.5平方mm
  • FJインシュレーター
    16×16×3.14=803.8平方mm

706.5:803.8≒1:1.14 ですので、約14%の面積アップになります。径でわずか2mmの違いが、面積計算では14%もの増加です。簡単にパワーアップにつながるのですから、皆がこぞって使うのも頷けます。ただ、それだけで「フルパワー」と言うのは、ちょっとどうかと思いますが…

そのインシュレーターですが、ポート研磨に合わせて38mmまで拡大しています。

なぜ38mmなのかと言えば、別に難しい計算で算出した訳ではありません。インシュレーターに入るOリングを保持できるギリギリのサイズが、38mmという事です。ですからINポート、およびインシュレーターも38mmまで拡大加工しています。

また面積で考えてみましょう。

  • STDインシュレーター:30mm
    15×15×3.14=706.5平方mm
  • 拡大インシュレーター径:38mm
    19×19×3.14≒1,133.5平方mm
  • 706.5:1,133.5≒1:1.604

インシュレーターだけを考えれば、60%も面積が増えたことになります。

さらにポート径を計算してみると・・・

  • STDポート径:33mm
    16.5×16.5×3.14≒854.9平方mm
  • 拡大ポート径:38mm
    19×19×3.14≒1,133.5平方mm
  • 854.9:1,133.5≒1:1.326

STDの33%増という事になります。単純にパワーも33%上がる訳ではありませんが、大きな違いがあるのは言うまでもありません。


昔、もう30年近くも前のことですが、ヤマハがレースベース車両として『FZR750R』(通称OW-01)という名車を発売しました。確か200台限定生産で、抽選で購入者が決められる、というものでした。

FZR750R(OW-01)
ヤマハFZR750R(OW-01)

私もこの車両でレースをするべく、購入申込みをしました。水面下のどこかで誰かの力が働いたのかどうかは、私は知る由もありませんが、めでたく抽選に当たり、ローンを組んで購入しました。

新車ですがレースに使用しますので、まずはいろいろなところをバラしていきます。キャブレターを外してインシュレーターを見てみると…。見事な半月形状をしていました。円形のインシュレーターに、取って付けたような半月形のゴムのフタがしてある!、と思いました。

吸入通路は円形が基本だと思っていた私には、衝撃的でした。当時は大した知識もない私でも、国内の規制に合わせるために、インシュレーターを半分の面積にしてパワーを抑えていることが、容易に理解できました。

XJR1200は、エンジンはFJ1200を引き継いでいます。しかし国内の規制に合わせるためにインシュレーターの口径を絞り、パワーダウンさせた訳です。以前はそのような手法が、よく使われていました。

このような経緯で、輸出仕様のFJ用インシュレーターが流通するようになった訳ですね。エンジンの基本形状も同じですから、インシュレーターもポン付けで装着できる上、簡単にパワーアップに繋がるのですからね。

以上のことからも分かるように、当時のエンジンでは、吸入経路の拡大は、パワーアップに直結します。もちろん、カムシャフトやキャブレターのセッティング、排気系なども複雑に絡んできますが。


コンプレッションの測定

さて、話はWossnerエンジンに戻ります。このエンジンでは、圧縮比を高めるための面研磨はしていません。多少の歪みが認められたので、面修正のために0.05mmの研磨をしているだけです。それでもWossnerピストンのおかげで、相当の圧縮比アップになっています。

エンジンを車体に積み、オイルを入れてクランキングした後に、コンプレッションゲージでコンプレッションを測定します。

チューニング前のコンプレッション
チューニング前のコンプレッション

チューニング後のコンプレッション
チューニング後のコンプレッション

オーバーホール前が10.0程度だったのに対し、13.5という素晴らしい数字が出ています。

5万キロを越えるような、ある程度の走行距離を走ったエンジンでは、コンプレッションが10.0あれば、十分に合格です。酷い状態のものは10を切っていますので。

この「13.5」という数字は、ピストンの変更だけでは通常は出ません。もちろんこの数字は、圧縮比ではなく「圧縮圧力」を示すものであり、バッテリーの状態やセルモーターを回す回数でも、微妙に変わってくるものです。

しかし、一つの目安にはなります。

今回のエンジンでは、バルブフェース研磨とシートカットをしていますので、バルブの密着性がより高くなっています。その事もあって、このような良い値が出ている訳です。

バルブの擦り合わせだけでは、バルブのフェース面やシート面の虫食い・打痕は消せません。せっかくヘッドのチューニング加工をしても、バルブの密着性が悪ければ、効果は半減します。

『良い混合気、良い圧縮、良い火花』

昔から言われている、ガソリンエンジンの3大要素です。この中の『良い圧縮』は、時間や走行距離と共に、徐々に劣化していきます。各パーツがヘタッてくるからです。それを回復させるために、フェース研磨やシートカット、擦り合わせ、ピストンリング交換、カーボン除去等をする訳です。

5万キロ以上走行したエンジンを、これからも長く楽しみたいと思ったら、バルブ回りは特に重要事項の一つです。できればバルブは、フェース研磨ではなく新品に交換したいものです。

さて次は、エンジンを掛けて、Wossnerピストンの走りを味わってみることにしましょう。