ピストンいろいろ、その2

XJR1300用ピストンいろいろ・・・

たまたまXJR1300用の5種類のピストンが手元にありましたので、前回はそれらを並べてご紹介しました。

今回は、一つ一つを良く観察して、それぞれの特徴や作りを考察してみます。

ここでもう一度、各ピストンのスペック表をご覧下さい。
今回は、ピストンピン長も記載しています。

 ピストン重量ピン重量ピン長圧縮比
ノーマル254.6g50g57.7mm9.7:1
JE263.4g11.5:1
Wossner253.1g59.8g51.2mm12.5:1
SOHC(ストリート)215.2g59.0g45.9mm11.6:1
SOHC(レース用)216.9g59.0g45.9mm12.0:1

ピストンピン

これがピストンピンです。
左がノーマル、真ん中はWossner、右がSOHCです。

長さがそれぞれ異なります。
つまり、ピストンのスカート形状が大幅に異なる、ということです。

ここに、大きなヒントが隠されています。


ノーマルピストン

XJR1300ノーマルピストン

XJR1300ノーマルピストン

XJR1300のノーマルピストンです。

XJR1200では鋳造だったものが、XJR1300では鍛造になっていますので、おそらく強度的にも向上していると思われます。

もう十数年前になりますが、XJR1200のエンジンにノーマルピストンのままで、どこまでパワーが出せるのかを試してみたくて、エンジンを1機作ったことがありました。

といっても、丸ごと新たに作った訳ではなく、レースで使用していた中古パーツを利用して、あくまでもXJR1200のノーマルピストンでどこまで楽しいエンジンが出来るのか、というコンセプトで作ったものです。いわば、廃品エンジンと言っても良いくらいです。

クランクは軽量バランス済みの物を使い、コンロッドは1200用を削って鏡面仕上げにしました。

ヘッドはポートを限界まで拡大し、シリンダーとヘッドは圧縮比を上げる為に面研磨しました。何せピストンがノーマルですので、圧縮比を上げる為に相当量の面研磨をした記憶があります。ヘッドに至っては、バルブシートに届きそうな削り量でした。

カムシャフトはヨシムラST-1を使い、ピストンは1200のSTDです。ただし重量合わせはしました。当然シリンダーのボアは、1200のままです。その仕様で、後軸で140PS出ていました。

私がしばらく乗った後、一度人手に渡り、また戻ってきました。そして後輩君たちがツーリングやサーキット走行をさんざん繰り返し、遊びました。完全に皆のオモチャです。それでもエンジンは、びくともしませんでした。

10年近くそのような乗り方をされた後、ヘッドガスケットが吹き抜けて、今はバラされていますが、ピストンにダメージはありません。それを考えれば、鍛造になった1300のノーマルピストンでも、圧縮比を12:1まで上げても、おそらく問題はないでしょう。

ただし、形状が写真の通りですので、ノーマルで9.7:1の圧縮比を上げる為には、結構難儀します。

XJRは1300になっても、燃焼室の形状やバルブ周りはFJと同じです。一度、FJのヘッドを使ったことがありますが、全く問題はありませんでした。つまり、古い設計のまま、ということです。ですからバルブリセスなどは、1ミリ面研磨しても問題ないくらい、余裕があります。

現行のスーパースポーツでは、そうはいきません。全てがギリギリに設計されています。余裕があるから、いろいろとイジって楽しめるのも、古いオートバイの楽しみの一つです。


JEピストン

XJR1300用JEピストン

XJR1300用JEピストン

このJEピストンは、ヘッドガスケットが吹き抜けた1200を所有する後輩君が、人から譲り受けた中古品です。それを、カーボンを除去してキレイにしたものです。裏側を見ると、重量合わせの為に削った跡があります。

重量は、STDに比べて僅かに重くなっています。9g程度の重量増ですから、重さの違いを乗って感じることは、おそらく無いでしょう。それよりも、圧縮比の上がったことによる違いを感じるはずです。

このJEピストン、初めて見た時に、以前に使用していたコスワースに似ているな、と感じました。どこが、と言われると困るのですが、なんとなく全体の雰囲気が似ている気がしたのです。

裏側の仕上がり具合を見ると、一昔前のピストンの匂いがプンプンと漂ってきます。カタログには、『XJR1200/1300』とありますが、おそらく設計はFJ時代のもので間違いないでしょう。

JEピストンは入手しやすいので、リング交換等でも困ることは無さそうです。
価格も、他のピストンと比較しても安めの設定ですので、オーバーホール時などに気軽に組み込むには、お手頃と言えるでしょう。

JEピストン形状で特徴的なのが、バルブ間の盛り上がり部です。

XJR1300用JEピストン
JE

XJR1300用Wossnerピストン
Wossner

XJR1300用SOHCピストン
SOHC

JEは、IN側EX側共にバルブ間が3.8ミリほど盛り上がっています。少しでも圧縮比を稼ぐためでしょう。

WossnerはEX側のみ0.8ミリほど盛り上がっていますが、IN側は平らに仕上げています。SOHCは、IN側EX側共に、0.3ミリほどの僅かな段差がある程度です。

バルブの逃げは、JE、Wossner共にSOHCに対して1ミリほど深く削られています。バルブリセスの設定がどの程度なのかは、計測してみなければ分かりません。ただこうして表面形状だけを見ても、それぞれに特徴があり、思想や設計の違いが見て取れます。


Wossnerピストン

XJR1300用Wossnerピストン

XJR1300用Wossnerピストン

Wossnerピストンの実物を初めて見ましたが、その形状を見て、「なんて男らしい形なんだ!」と思わず唸ってしまいました。見慣れている富士山形ではありません。ピストントップが尖っていて、まるでエベレストのようです。

富士山は誰でも登れる山です。私でさえ2度登ったことがあるくらいです。しかしエベレストは、エキスパートが命がけでチャレンジする山です。

このWossnerピストンを操るにも、エベレストと同じように命を掛けなければならないのでしょうか・・・。いやいや、そんなことはないハズです。ドラッグマシンのようなエンジンにしなければ、街乗りやツーリングでも乗りやすいエンジンは作れます。

ただ、このエベレストのような形状のおかげで、圧縮比が12.5:1まで上がっていることは、間違いないでしょう。ピストン交換だけでそこまで圧縮比が上げられることは、このピストンの大きなメリットになります。

重量もSTDに比べ、僅か1.5gですが軽量になっています。

もう一つの特徴は、スカート部のコーティングです。初期馴染みを良くするためのものでしょうか、グレーのコーティングが施されています。グレーなので、おそらくモリブデン系のコーティングでしょう。

このコーティングがどのような仕事をするのか、しばらく走行した後のピストンを見てみたいものです。

このピストン、現在オーバーホール中のお客様のエンジンに組み込みます。その際に、正確な圧縮比やバルブリセス等を測定してみるつもりです。

試乗が今から楽しみです。
どんな乗り味のエンジンになるのでしょうか。


SOHCピストン

XJR1300用SOHCピストン
ストリート仕様

XJR1300用SOHCピストン
レース仕様

昨年、SOHCエンジニアリングで5セットだけ製作した、スペシャルピストンです。

ストリート仕様とレース仕様の違いは、ピストントップだけです。簡単に言えば、レース仕様のピストントップを少し削って圧縮を落としたものがストリート仕様、ということです。そこまでの高圧縮は必要ないだろう、という判断です。

SOHC製ピストンの最大の特徴は、その圧倒的な軽さです。他の社外ピストンの重量がノーマルとほぼ同じなのに対し、40g近くの軽量化を実現しています。

そしてもう一つの特徴は、古いFJ時代の設計ではなく、最新の技術と思想によって作られたものである、ということです。だからこそ、大幅な軽量化も実現可能になった訳です。

XJR1300用SOHCピストン

XJR1300用SOHCピストン

裏側を見ると、全ての角にR加工が施され、惚れ惚れするような出来栄えです。細部まで肉抜きされ、徹底的な軽量化を実現していることが伺えます。

社外ピストンのほとんどは、FJ時代の設計です。初期型のXJR1200が発売されたのが1994年ですから、それよりも前という事になりますので、30年近く経過していることになります。

もちろんその間に、マイナーチェンジや見直しはあったのでしょうが、基本設計は相当前であるということに、変わりはありません。

軽量化は、一番コストと技術が必要な分野だと言われています。その軽量化を実現した技術は、一朝一夕では得る事はできません。だからこそ価値があり、多くのメリットをもたらしてくれます。

ただしデメリットもあります。受注生産なので、コストと納期が掛かる事です。

昨年、5セットを依頼しましたが、それでも1セット約15万円掛かりました。どの社外ピストンよりも高価です。1セットの注文で幾ら掛かるのか、怖くて聞いていませんが、おそらく倍以上は覚悟する必要があるでしょう。

納期も、当然と言えば当然なのですが、発注したからと言ってすぐに製作に取り掛かってもらえる訳ではありません。時間が掛かる仕事になりますので、予めスケジュールに組み込んでもらい、その後に正式発注する必要があります。

昨年、組込み1号車に試乗しましたが、エンジンの振動が減り、圧縮が高いにも関わらず軽くスムーズに吹け上がることを体感しました。今まで作ってきた高圧縮エンジンと比べ、明らかに特性が違います。

レスポンスも良くなり振動も軽減することで、1日走り回っても疲れないだろうなぁ、とも感じました。

自分のエンジンにも早く組み込んでみたいのですが、後回しになっていて、中々作業が進みません。ヘッドもまだ加工中です。春には間に合わせたいのですけれど・・・


スペシャルピストン製作、第二弾を受け付けます!

SOHCの渡辺さんが「JEピストンを見たい!」と言っていたのを思い出し、これらの手持ちピストンを持ってフラッと遊びに行ってきました。

それらのピストンを詳細に観察して、いろいろな意見を言ってくれましたが、オフレコなのでここで書く事はできません。ただ、「5セットくらいの注文なら、また作ってもいいよ」と言ってくれました。

ピストン製作後、欲しいと言う問い合わせが時折ありますが、注文数しか作りませんでしたので、残念ですが今はお譲りできる分はありません。ですが、欲しいという方が5名集まれば、また発注します。

1セットでの注文は、コストも時間も掛かってしまいますので、現実的ではありません。倍のコストが掛かっても!というのであれば、無理して頼むことも不可能ではありませんが・・・

いつになるかの明言はできませんが、SOHC製ピストンが欲しい、という方はご連絡ください。5名集まった時点で、製作依頼をしようと思います。

まずは下記フォームから、「SOHC製ピストン希望」と書いて送ってください。
5名集まった時点で、こちらから製作意思の確認連絡をしたいと思います。