スペシャルピストン組み込み一号車の試乗とキャブセッティング

スペシャルピストン組込み1号車

オリジナルのスペシャルピストンを組み込んだエンジンも出来上がり、早速車体に積みました。

エンジン始動

キャブレターやオイルクーラー、キャッチタンク等が新品でしたので、取り付けや取り回しに手間は掛かりましたが、エンジンは問題なく始動しました。

オーバーホールしたエンジンには、オイルを各部に塗布しながら組んでいるとはいえ、オイルはまだエンジンの隅々にまでは回っていません。そこで私は、まずエンジンオイルを入れた後、初めてエンジンを掛ける前にクランキングをしています。そうすることにより、エンジン始動前にオイルをエンジン各部に送り込むのです。

必要ない、という方もいますが、今まで自分のエンジンを組んだ際は、必ずそうしていました。XJRのレーサーの時は、セルモーターがありませんので、4速に入れてひたすら押していました。若かったから出来たのでしょう。今なら、もちろんそんなことはしませんが・・・

オイル点検窓を見れば分かりますが、そうやってクランキングすると、オイルレベルはあっという間に下がります。エンジンオイルが各部に回っていったからに他なりません。

クランキングした後、オイルを追加し、初めてエンジンを始動させます。問題なくエンジンが始動しても、20~30秒したらエンジンを一旦止めます。さらにオイルを追加するためです。

いくらクランキングしてエンジン各部にオイルを回したといっても、所詮はクランキングです。エンジンを実際に掛けるのとは訳が違います。クランキングは、エンジンを初めて始動させる前に、予め少しでもオイルを回しておく、といった程度です。

ですから20~30秒後にエンジンを止めてオイル点検窓を確認すると、オイルレベルは間違いなく下がっています。オイルフィルターは新品ですし、オイルクーラーにもオイルが溜まりますので、当然と言えば当然です。

ここでオイルを規定量まで再度追加します。そしてエンジンを掛けます。エンジンを組んだばかりですから、もちろん無茶なレーシングなどしません。エンジンを掛けた状態で、排気漏れやオイル漏れのチェックを、一通りします。異音がないかなど、エンジン音も確認します。

これで問題が無い事を確認して、初めて実際に乗って走らせてみます。


試乗

まずは近所を15分ほど走ってみます。ミッションはスムーズに5速まで入るのか、シフトタッチはおかしくないか、エンジンは軽く回っているか、そんな事を確認しながら、ゆっくりと走ります。

今回は、ブレーキとクラッチのフルード交換や、クラッチプッシュレバーのオーバーホールもしましたので、ブレーキのタッチはおかしくないか、クラッチはちゃんと切れるのかも、合わせてチェックします。

また、キャブレターをミクニTMRに変更しましたので、初期設定ではどう走るのかも、合わせて確認します。そんな感じで少し走ってみて、一旦戻ります。そして再度、オイル漏れ等のチェックをします。

とりあえず、問題ありません。オイル漏れもありません。一安心です。


キャブレターセッティング

翌日は、キャブレターのセッティング作業です。今回はキャブレターセッティングのご依頼は受けておりませんが、初期設定のままでは、おそらく気持ちよく走ることができません。ですから、とりあえずスムーズに回り、気持ちよく走れる程度にはしてあげませんと、お客様もつまらないでしょう。

そもそもTMRやFCR等のレーシングキャブレターは、ポン付け、つまり購入時の初期設定のままでは、セッティングなど出ていません。とりあえずは走れます、といった程度です。

「XJR1300用を買ったから・・・」というお客様もいますが、それはピッチをXJR1300に合わせただけで、車種別のジェッティングなどはされていません。各ジェット等のセッティングは、車種別などではなく、口径によって予め決まった設定がされているだけです。

今回使用したのは、TMRの40φです。このキャブレターの主なベースセットは、以下のようになっています。

MJ
160
JN
10E1-52 #3
PJ
27.5
PS
2

TMRは、40φでも41φでも、実は同じベースセットになっています。ですから同じ40φであれば、XJR1300用でもZRX用でもGSF用でも、同じセッティングになっている、ということです。そんな状態ですから、それぞれのオートバイがちゃんと走る訳がありません。

そもそもキャブセッティングは、マフラーが変わるだけで変わってきます。同じ車種でもエンジンの仕様が変われば、全く変わってきます。ですから、1台1台で異なるものなのです。

しかも、ライダーの好みやスキルによっても、最適なセッティングは変わってきます。例えば、アクセルをガバ開けすれば、キャブレターの特性上、必ず薄い症状が出ます。このガバ開けを好み、多用する方には、この部分をなんとかボカしてあげないといけません。

しかし、ガバ開けではなく、「ジワッと早く」アクセルを開けるスキルがある方であれば、そこまで神経質になる必要はありません。多少薄い症状が出ても、ジワッと開けていけば回転は付いてきます。ガバ開けなどしなくても、ずっと早く加速することもできます。

ちなみにキャブ車の時代のレースでは、ガバ開けは厳禁でした。ガバ開けしているように見えても、速いライダーは「ジワッと早く」開けていました。だから回転が付いてくるのです。ガバ開けしてもたついている時間が出来れば、その間、加速はしません。これで速く走れる訳がありません。

今はインジェクションになり、トラコンなどの電子デバイスも盛んに使われていますが、一昔前のレーシングライダーは、そのような「ジワッと早く」開けることを、自然に身に付けていったものです。

さて話が脱線しましたが、昨日の試乗では、低速も中速もボコつきやひっかかりを感じました。そこは何とかしなくてはなりません。

まずアクセル開度0~1/8を改善するために、PSをいじってみましたが、PSだけでは今ひとつでしたので、PJも変更しました。PJを変更するには、キャブレターを外し、フロートチャンバーを外さなければなりません。でも、これを面倒臭がっていては、キャブレターのセッティングなどできません。

~1/8が良くなってきましたので、次は1/8~1/2を合わせていきます。薄くて息付きを起こしていますので、クリップ段数を1段、2段と下げていきます。アクセルを急開けした時の症状は良くなってきましたが、まだシックリしません。そこでJNのストレート径を変えます。だいぶ良くなりました。そこで再度、クリップ段数を変えてみます。さらに良くなりました。

ここまでで試乗すること6回、最後にMJを変更して、ひとまずキャブセッティングは終わりにします。結局、PS、PJ、JN、MJの全てを変更しました。もっとセッティングを詰めろ、と言われれば出来ない事はありませんが、とても1日では終わりません。

実は、手元に空燃比計があります。これを有効活用すれば、もっと詰めたセッティングが可能になりますが、とても無料でできるような手間と作業ではありません。空燃比計を使ったセッティングについては、今後考えていくこととしましょう。

ちなみにMJは、確認していません。というより、出来ません。MJが影響する領域は、あくまでも『全開域』です。エンジンを組んだばかりの状態で全開走行など出来ませんし、そもそも凄いスピードが出てしまいます。ですからMJは、今までのデータと経験から、少し濃い目を予想して組みました。

なぜ少し濃い目かと言えば、デトネーションを避けたいためです。キャブセッティングを薄くしてピストンを溶かすことだけは、避けたいからです。

さて、やっとキャブセッティングも終わったので、暗くなる前にピストンの感触を確かめに、少し走りに行ってきましょう。