酷使されているピストン

燃焼室回りのパーツは、エンジンの中でも、特に酷使されているパーツだと言えるでしょう。特にバルブやピストンは、圧縮に直接影響している、非常に重要なパーツです。

前回オーバーホールした車両のピストンが、今までに見たことの無いような状態でしたので、ご紹介も兼ねて、今回はピストンのお話をさせて頂きます。

11万キロ超えのピストン
11万キロ超えのピストン

これは、走行距離11万キロを超えたピストンです。状態はどう見ても、あまり宜しくはありません。この状態でオイルリングが動いているとは思えませんので、オイルをかき落とすことも出来ていなかったのでは、と思われます。

オイルをかき落とせなくなった場合は、シリンダーとピストンの間から、オイルが燃焼室に入り込みます。通称、「オイル上がり」と言われている症状です。

オイルが燃焼室に入り込むと、プラグからの点火によって、混合気と共にオイルも燃焼します。そして、マフラーから白煙となって出てきます。

11万キロ超えのピストン
カーボンを粗く落とした状態

リング溝やピストンサイド面にも、多量のカーボン状のものが付着しています。ハッキリした理由は分かりませんが、燃焼室にオイルが侵入していただけでなく、おそらくオイル添加剤のような物質が、このような状態を作り出している原因のような気がします。オイルだけでは、ピストン全体を茶色く変色させるようなことは、まずありません。燃焼に伴うカーボンだけでもありません。

このエンジンはピストンだけでなく、エンジン内部全体に、茶色のコーティングがされたような状態でした。洗浄する際も、ブラシで強く擦っても、なかなか取れないような付着物でした。時折、同じような状態のエンジンはありますが、オイル添加剤の成分が茶色の付着物の原因かと考えています。

その付着物が、ピストンリングの磨耗や張力の低下等の理由により、ピストン全体に付着し、写真のような状態にさせたのではなかろうか・・・、そう考えています。


10万キロのピストン

10万キロ走行のXJR1300
10万キロ走行のXJR1300

「10万キロを走行したら、エンジンをオーバーホールしよう!」
そう考えていたお客様がいらっしゃいました。当ガレージにお越し頂いた際に、ちょうど10万キロになりました。

その、ちょうど10万キロを走行したエンジンのピストンが、下の写真になります。

10万キロ走行のピストン
10万キロ走行のピストン

オイル管理を含めた、普段のメンテナンスの良さもあったかとは思いますが、ピストンはカーボンを除去すれば、十分に再使用可能です。実際に、カーボンを除去してリングを交換し、ピストンは再使用しましたが、何の問題もありませんでした。

XJR1300のピストン

XJR1300のピストン

上記の写真は、それぞれ別の車両のピストンですが、ある程度の走行距離でも、通常ではこの程度です。カーボンを落としてリングを新品に交換すれば、十分に再使用可能です。

また、上記のピストンでは、少なくともシリンダーとピストンの間からの「オイル上がり」は、発生していません。


『良い混合気・良い圧縮・良い火花』

昔から言われている、内燃機関の三大要素です。

インテークポートから「良い混合気」が燃焼室に送り込まれ、それをピストンが上昇することで圧縮し、そこに火花で着火されて混合気が燃焼し、ピストンを押し下げます。その力が動力となって、クランクシャフトを回転させて、チェーンを介して後輪に伝わるのです。

その仕組みの中で、非常に重要な働きをしているのが、燃焼室です。しかし長期に渡って酷使されていますので、バルブの密着性は悪くなり、ピストンリングは磨耗し、時には張力も低下して、混合気を圧縮する能力が低下してきます。各部のカーボンも蓄積されていきます。

キャブレターで「良い混合気」を作り、プラグから「良い火花」を出しても、多くの場合は『良い圧縮』が、時間の経過と共に損なわれてくるのです。


マフラーの取り付け部や集合部からオイルが垂れている、マフラーから白煙が出る、といった症状が見られるようになった場合は、エンジンをオーバーホールするしか、直す方法はありません。

マフラーからの白煙は、燃焼室でオイルが燃えて発生する症状です。オイルは燃やすものではなく、潤滑させるものです。ですから、もしマフラーから白煙が出るようになったら、オーバーホールの検討時期でしょう。


傷んだピストン

XJR1300のピストンリング
折れたピストンリング

これは、トラブルにより分解したXJR1300のピストンリングです。ピストンにセットされていた時は、まだ折れていなかったと思われますが、リングを外そうと広げた際に、簡単に折れました。

ピストンリングは、ちょっと広げて折れるものではありません。ピストンからの脱着の際、リングは広げますが、このように簡単に折れたのは、初めてでした。もしかしたら、クラックが入っていたのかもしれません。

ちなみにこれは、純正ピストンではなく、高価な社外品の鍛造ピストンの専用リングです。

デトネーションで溶解したピストン
デトネーションで溶解したSOHC製ピストン

これは、デトネーションで溶解してしまった、高価なSOHC製ピストンです。いくら頑丈な鍛造ピストンでも、デトネーションが発生すると、簡単にこのようになります。

XJR1300用のワイセコピストン
私の街乗り車のワイセコピストン

このピストンは、ワイセコです。EX側にブツブツの凸凹状の跡がありますが、これもデトネーションの跡だと思われます。

昔、私がレースで使用していたピストンで、点火時期やキャブセッティングには気を使っていたのですが、夏場にもてぎを走行した際、ヘッドガスケットの吹き抜けを起こし、分解したらこのようになっていました。

リング溝やピストンの角には、何のダメージもありませんでしたので、ペーパーで修正して、その後も使用しました。ちなみに現在でも、街乗り車のエンジンに組まれています。

前回のオーバーホール時には、リングもシリンダーも交換していますので、もう少し頑張って欲しいなぁ~、と思っています。

ゴメンね。酷使して。


オーバーホールで蘇らせましょう。

酷使されているのは、何もピストンだけではありません。バルブも同様です。燃焼室やピストン、バルブにはカーボンは蓄積してきます。バルブフェースの密着度も下がってきます。ピストンリングも磨耗してきます。張力も低下してきます。カムチェーンは伸び、メタルは磨耗しています。

スタータークラッチが傷んでくれば、セルでエンジンを始動させることも困難になります。スタータークラッチを回す為のハイボチェーンは、カムチェーンのようなテンショナー機構がありませんので、ダラダラに伸びた状態です。消耗パーツを交換し、カーボンを除去し、圧縮を改善させるのは、オーバーホールしかありません。

時々、白煙の原因追求と対策をお願いされたり、オイル漏れの修理を依頼されたり、古くなったキャブレターのオーバーホールを依頼されることがあります。しかし、どのXJR1300も、古いエンジンです。1箇所だけを修理して、全ての問題が解決することは、まずありません。ですから、そのような修理は、申し訳ありませんが、お断りさせて頂く場合もあります。

オーバーホールは時間の掛かる作業です。私一人での作業になりますので、月に1台がやっとです。それでも、今後も調子よく乗ろうとお考えであれば、エンジンのオーバーホールは必要な作業かもしれません。

ご相談は、24時間365日、以下のフォームからお受けしております。お一人お一人の問題点に、親身になってお答えさせて頂きます。XJR1200・XJR1300についてのお悩みやオーバーホール、チューニングに関してのご相談ごとがありましたら、お気軽にご連絡ください。