XJR1200のチューニング構想・ローコストエンジン編

前回、「1200エンジンの使い勝手と今後の問題」という、ちょっと大げさな題名で、記事を書かせて頂きました。まあ、たいした内容でも無いのですが、1200エンジンを2機、続けてオーバーホールさせて頂いたこともあり、古い1200車両を、そのまま全てに手を入れて、エンジンもチューニングした車両を作れば、楽しそうだなぁ、1200でもまだまだ現役で楽しめるなぁ~、そんな事を考えていました。

20年近く前に、1200ccのままの排気量で、良く回る楽しいエンジンを作ったことを思い出しています。我ながら良いエンジンだったなぁ、と思っています。一部の方々の間では、「速くて良く回る楽しいXJR1200」という、いわば自画自賛のようにはなりますが、実際に走られた方々からは、そんな感想も頂いていました。

チューニングされたXJR1200
チューニングされたXJR1200

色々な意味で改造しやすい1998・1999年式のXJR1300も、既に生産から25年以上、経過しています。エンジンだけでなく、ベアリング類や足回りも、相当に劣化していると予想されます。今後も長く、安心して乗ることを考えれば、エンジンだけでなく、車体も全て分解して、傷んだ箇所を補修したり部品交換をして、出来るだけ良い状態に仕上げたいものです。

そこまでを考えれば、どうせ全てに手を入れるのなら、1300ではなく1200でも良いのでは・・・?
そんな事を、ちょっと考えている訳です。

塗装されたXJR1200のフレーム
塗装されたXJR1200のフレーム

今回は、そんなことも踏まえ、1200エンジンのチューニングを考えてみたいと思います。


1200の車両価格の相場

この記事を書いている「2024.1.23」付けで、ヤフーオークションでのXJR1200の価格を調べてみました。

なんと!「150万超え」が、5台もあります。しかも、ほとんどが「カスタムパーツに幾ら使ったのか」をウリにしています。もちろん価値観は人それぞれですので、価値観の合う方は、購入を検討されても良いのかな、と思いますが、それにしても、ちょっとビックリです。

高額なカスタムパーツがたくさん装着された車両でも、一番大事なエンジンが古いままの状態では、この先の事を考えると、私なら間違いなく不安になります。外見の素晴らしさとエンジンの調子の良さは、イコールではありません。さて、どうしたものでしょうか。

どうして高額な車両なのに、エンジンは手付かずのままなのでしょうか・・・。チューニングアップは別としても、オーバーホールくらいされていても良いような気もしますが。

個人が値段を確認できるのは、ヤフーオークションや幾つかの販売サイト程度しかありませんが、そこを見れば、おおよその相場は分かります。高い、安いは、個人の価値観やお考えによるかと思います。ご自身で判断をしてくださいね。


XJR1200のエンジンメニュー(構想です)

以前に、実際に行ったチューニングや作業内容を思い出しながら、
『今の私なら、XJR1200をどうするか?』
を、考えてみました。

XJR1200は、既に生産から30年も経過しています。古い車両であることは、間違いありません。おそらくエンジン内部も含め、車体のベアリング類も、メンテナンスはされてはいないでしょう。それらを前提として、やるべき事、しなければいけない事を中心に、エンジンメニューを考えてみました。

まずは、あまりコストを掛けない、いわば『ローコスト仕様』です。それでいて、トルクもパワーもあり、開けるのが楽しくなるようなエンジンです。

<エンジン関係>

  • フルオーバーホール
  • 圧縮比アップ
  • カムシャフト変更
  • ヘッド加工
  • TMRキャブレター
  • 点火系変更

車体の方は、また別途、書きたいと思いますが、エンジンに関しては、こんな感じでしょうか。

重要なのは、『楽しいオートバイにすること』です。「楽しい」の定義は、実は人それぞれに違うもので、あくまでも「私にとって楽しい」、ということです。ですから、外見はあまり優先しません。エンジンのフィーリングにこだわります。

例えば、圧縮比を上げるためにピストンを変更する必要は、実はありません。世間的には、圧縮比を上げるためにはピストン変更が常識のように言われていますが、1200の純正ピストンでも、当時の600ccスーパースポーツを直線で抜けるようなエンジンを、以前に作りました。今の600ccスーパースポーツ相手では無理でしょうが、昔はそんな事も出来ました。

圧縮比を上げ、バルブタイミングをキチンと調整し、カムシャフトを変更してエンジンの性格まで変えることが出来れば、XJR1200とは思えないような、パンチのあるエンジンにすることも可能です。


フルオーバーホール

XJR1200のクランクケース内部
XJR1200のクランクケース内部

これは1300エンジンでも同様ですが、とにかく古いエンジンです。以前の使われ方、メンテナンス頻度、調子などは全く分かりません。ですからまずは、通常のオーバーホールと同じメニューで作業していきます。

ネジ類ボルト類は全て、洗浄します。小さなパーツも洗浄します。スタッドボルトは抜き取った上で交換します。カーボンは除去します。チェーン類も交換します。メタルやピストンリング等、消耗部品も交換します。スタータークラッチも対策します。

まずはチューニング作業に合わせてオーバーホールすることが、前提になります。


圧縮比アップ

現在では、77mmの鍛造ピストンは、購入出来そうにありません。しかし、シリンダーヘッドの面研磨で、圧縮比は高めることが出来ます。

圧縮比を高めると、低速からパンチのあるエンジン特性になります。ですからXJR1200や1300をチューニングするには、個人的には欠かせないメニューだと考えています。

シリンダーヘッドの面研磨を行うと、クランクシャフトとカムシャフトの距離が変わります。そのままでは、バルブタイミングが変わってしまいます。ですから、カムスプロケットの取り付け穴を長穴加工した上でのバルブタイミング調整は、欠かせません。

また、面研磨をする量にもよりますが、ピストンヘッドとバルブのクリアランスも、確認する必要があります。古いエンジンなので、そのあたりのクリアランスには余裕がありますが、もしピストンを社外製品に変更した場合などは、必ず確認してください。最悪の場合、エンジンブローにも繋がりますので。

面研磨されたシリンダーヘッド
面研磨されたシリンダーヘッド

今までに様々な仕様のエンジンを組んできました。そんな経験から言えば、ピストンやカムシャフトだけを変更しても、低速域からのパンチのあるパワー感は、なかなか得られません。どちらかと言えば、回さないとパワーが出ないような、そんなイメージです。

対して、圧縮を上げたエンジンでは、低速域から『ドカンッ!』と表現するのが適切だと思えるような、中低速域からのトルクを感じることが出来ます。このトルク感のある加速が、個人的には大好きです。ですから私は、チューニングする際には、圧縮を必ず上げます。


カムシャフト変更

現在では、入手出来るXJR1300用(FJ1100用)のカムシャフトは、ほとんどありません。中古品も、出回ってはいません。たまにオークションに「ヨシムラカム」が出品されると、結構な高額になっているようです。しかしチューニングするには、カムシャフト交換は非常に重要です。エンジンの性格を変えますから。

XJR1200用カムシャフト
XJR1200用カムシャフト

私は時折、友人を通して『WEBCAM』というメーカーで、カムシャフトを加工して頂いております。これは、純正カムシャフトに肉盛りして、ハイカムにするという手法です。アメリカでは、ドラッグレースが盛んなお国柄ですので、昔から行われている手法です。

ただし、純正カムをアメリカに送り、その後に加工して頂きますので、時間が掛かります。最短でも半年、コロナ禍の時は1年以上も掛かりました。価格も年々、高額になってきています。

希に、在庫として保有している場合もありますが、基本的には受注してからの依頼になります。時間が掛かることは、覚悟してくださいね。

また、以前に少しだけお伝えした『ヨ○ムラカム』の新規製作の話ですが、残念ながら実現しませんでした。今でも時々、お問合せが来るのですが、今後、製作することはありません。ご理解頂ければと思います。


ヘッド加工

ポート研磨されたINポート
ポート研磨されたINポート

ヘッドは、ポートの拡大加工が基本になります。XJRは1200でも1300でも、1984年発売のFJ1100がベースになっています。FJ1100の型式は『36Y』ですが、XJR1200でも1300でも、バルブの裏側には『36Y』の刻印があります。様々なエンジンパーツが『36Y』のままです。

XJR1200のバルブ
XJR1200のバルブ

つまり、昔の設計ですから、ポートだけを考えても、結構な余裕がある訳です。そのポートを削って拡大し、給排気効率を高める訳です。昔のオートバイのチューニングでは、ポート拡大研磨は、必ず行われていた手法です。

ただし、相当な手間が掛かりますので、ある程度のコストと時間が必要になります。ですから、『ローコスト仕様』で考えた場合は、ヘッドは通常のオーバーホール作業のみでも良いかと思います。


TMRキャブレター

TMRキャブレター
TMRキャブレター

これは、XJR1200・1300のパワーを上げようと思えば、必ず必要なパーツだと言えます。TMRキャブレターの装着だけでも、多くの方は、『全く別の乗り物に変わった。』と、おっしゃるほどです。

まだレーシングキャブレターの経験が無い方には、是非一度、味わって頂きたい乗り味です。セッティングの出ているTMRキャブレターは、中低速域でもゆっくりと走っても、普通に走ることが出来ます。

一度右手を開ければ、胸のすくような加速感を味わえる、スペシャルなオートバイに変化します。ただし、セッティングが細部まで出ていることが条件になります。


点火系変更

圧縮を上げた場合、純正のイグナイターのままでは、あまり宜しくはありません。そもそも純正イグナイターでは、様々な安全装置が作動します。イグナイターの変更で、それらの安全装置は作動しなくなります。

昔、良く言われたのが「スピードリミッターの解除」です。オーバーさんからイグナイターが発売されていましたが、それに変更すると、スピードリミッターの解除だけでなく、点火マップの変更も可能でした。わずか4つのマップから選択するのですが、実はこの機能があったおかげで、チューニングエンジンが壊れないで済んだのです。

圧縮を上げていくと、デトネーション発生のリスクが高まっていきます。デトネーションが起こると、どんなに高価な鍛造ピストンでも、簡単に溶けます。そしてエンジンブローに繋がります。

デトネーションの発生原因や回避方法、発生する理由など、詳しく知りたい方は、エンジン専門誌やチューニングの解説書などをお読みください。

ウオタニ製点火キット
ウオタニSPⅡキット

そのデトネーションを抑える最大の要因が、点火時期になります。オーバーイグナイターも無い今では、点火マップや点火時期を手軽に変更できる製品は、ウオタニさんくらいしかありません。圧縮を上げたエンジンには、この製品を使用して、点火マップの変更をする必要があります。


以上のメニューで、XJR1200でも、相当なパワーとパンチのあるエンジンに仕上げることは可能です。

クランクシャフトの軽量バランス加工も、効果はありますが、高額です。加工出来る機械を保有する工場も、限られます。出来ないことはありませんが、コストや時間を考えると、お勧めはしません。

ドラッグエンジンで良く使用されている、アウターシムやチタンリテーナ、バルブスプリングの変更は、ここでは詳細は書きませんが、お勧めはしません。そこまでしなくても、十分なパワーを出すことが出来ます。

次回は、「ローコスト仕様・車体編」を書いてみたいと思います。