ピストン回りのオーバーホール
ピストンやシリンダー、シリンダーヘッド回りは、内燃機関の『吸入・圧縮・爆発・排気』の一連の動作に直結している、非常に重要な部分です。オーバーホール時、チューニングアップ時にも、非常に気を使う箇所になります。
またピストンは、「パワーアップしたい!」とお考えの方の多くが交換するパーツでもあります。XJR1200の時代から「FJ用」として、数種類の社外ピストンが存在していました。ワイセコ、コスワース等のブランドは、昔から良く耳にしたものです。
現在では、そもそもキャブレター車が少なくなり、ピストンを変更するようなチューニングは、以前と比べて減ってきています。それでも、一部のキャブレター車のマニアの方々は、ピストンやカムシャフトを変更して、エンジンのパワーアップを目指すこともあります。
以下に、当ガレージで最近手がけたピストン、オーバーホールしたピストンを、見ていきたいと思います。
純正ピストン
カーボンを落とした純正ピストン
新品の純正ピストン
上記の写真は、一番良く見るピストンです。純正ですから、当たり前ですね。
ピストンは、余程の消耗やキズ、打痕等がない限り、カーボンを落としてリングを交換して、再使用します。上段のピストンは、カーボンを落としてリング交換した再使用ピストンですが、全く問題はありません。カーボンも、画像のようにキレイに除去しますので、気になることはありません。
下段のピストンは、サイド部の摩耗も気になり、お客様のご要望で、新品に交換したものです。これから10万キロくらいは、良い仕事をしてくれるはずです。
SOHC製ピストン
SOHC製スペシャルストン
このピストンは、当ブログでも何度かご紹介しておりますが、SOHCエンジニアリング様に製作して頂いた、超軽量の鍛造ピストンです。もちろんXJR1300専用品で、当ガレージオリジナルの逸品です。
個人的に、幾つものメーカーのピストンを、実際に組み込んだり走らせたりしてきましたが、純正ピストンよりも大幅に軽量化されたピストンは、今までありませんでした。ですから、
- 軽量ピストンは、こんな感じで吹け上がるんだ。
ということを、初めて体験した訳です。今までに味わったことのない加速感と吹け上がりでした。
圧縮比は、当然ですが上がります。よく有りがちな「カタログ表記上の圧縮比」ではなく、実際に上がります。ですから、このピストンを活かそうと思えば、キャブレターセッティングや点火系の調整が、非常に重要になってきます。
『デトネーション』という、実際には経験したくないようなエンジンブローも、発生する場合があります。
デトネーションで溶解したSOHC製ピストン
これは、欠けたのではなく、デトネーションで溶解したピストンです。ちょっとしたセッティングの間違いでも、高圧縮のエンジンでは、このような事が発生するのです。ですから、
- たかが点火時期
- たかがキャブセッティング
などと、甘く考えてはいけません。後悔することになります。
このような事も起こりますので、当ガレージでは、SOHC製ピストンだけの販売は、したくないのです。点火系やキャブレターのセッティングまでを行って、楽しく走って頂きたい、そう考えています。
以前のワイセコピストン
古いワイセコピストン
このピストンは、現在では私の街乗り車に組まれている、古いワイセコ製の79ミリサイズのピストンです。購入してから、既に26年くらいは経過していると思います。でも、まだ現役です♪
レース活動にも酷使していました。少しばかり、ダメージを与えたこともありました。でも、まだまだ使えそうだな~、と思い、街乗り車のエンジンに組み込みました。
その後、20年近くは経過しています。途中でリングも交換しています。シリンダーも交換しています。でも、このワイセコピストンは、未だに現役です。
最近のワイセコピストン
最近のワイセコピストン
このワイセコピストンは、昨年にお客様の車両に組み込んだものです。古いタイプと比較すると、若干、トップの形状が変わっているようです。
ワイセコピストンを久しぶりに使ってみましたが、自分の車両のオーバーホール時にも感じたのですが、やはりワイセコは、使い勝手が良いです。SOHC製以外の社外ピストンでは、一番のお勧めかと思います。
そのポイントは、『入手のしやすさ』です。ピストン本体だけでなく、リング等の消耗品も、割と簡単に入手できました。
時折、チューニングエンジンのオーバーホールを依頼されることがありますが、今となっては全く耳にしなくなったようなメーカーのピストンが組まれている場合は、お断りする場合もあります。ピストンリングの入手が難しいからです。
ピストンリングの交換は、オーバーホール作業の基本です。でも、それが入手できないのであれば、オーバーホール後の性能の保証など、出来るはずもありません。もしピストンリングが入手できないのであれば、ピストンを交換するべきでしょう。場合によっては、純正ピストンでも良いでしょう。それほど、ピストンリングの交換は、重要な作業です。
JEピストン
JEピストン
JEピストンも、古くから存在しているピストンです。入手も難しくはありません。
ただ、一昨年ですが、リングの入手に非常に時間が掛かったことがありました。今ではピストン交換など、ほとんど行われなくなりましたので、輸入代理店に在庫が無くても、不思議なことではありません。
そんな出来事がありましたので、どちらかと言えば、ワイセコの方が使いやすいイメージを持っています。
ピストンの性能では、「SOHC製スペシャルピストン」以外では、あまり違いを感じたことは、実はありません。ピストンの違いよりも、組み方の違いの方が、性能やパワーに直結すると思っています。そのあたりのお話は、最後にお伝えしようと思います。
Wossnerピストン
Wossnerピストン
以前に一度だけ、お客様のエンジンに組み込んだ、『Wossnerピストン』です。ピストントップが尖っており、男らしい形状だなぁ~、と感心したものです。
ピストンのサイド部には、初期の馴染みを良くするためか、モリブデンコーティングが施されています。
昨年、そのエンジンの腰上をオーバーホールした際、ピストンリングは容易に入手することが出来ました。ですから、代理店をされているショップが現在のような取り扱いをしてくれている限りは、部品供給にも困ることはなさそうです。
社外ピストンで重要なこと
今までに、多くの社外ピストンを組んできました。実際に走らせても来ました。でも、ピストンの持つ性能差を肌で感じたのは、実は『SOHC製スペシャルピストン』以外には、ありません。
何故かと言えば、おそらく体感でその違いが分かるほどの圧縮比や重量の違いが無いからだ、と思っています。
カタログ値の「圧縮比」は、実はあまり当てにはなりません。そもそも実際に測定してみれば分かりますが、シリンダーヘッドの燃焼室の容積には、最大で「1cc」もの違いがありました。全てが「FJ時代」の設計ですから、仕方ありませんね。
ちなみに「FJ1100」は、1984年の発売です。「FJ1100」の型式は、「36Y」です。XJR1300のエンジンを分解すると分かりますが、例えばクランクシャフトやバルブには、「36Y」の刻印があります。つまり、1984年発売の「FJ1100」から、変わっていないということです。
そのような古い設計、古い型を使って作られたエンジンですから、燃焼室の容量が「1cc」違っても、驚くことはありません。しかし、実際の容積が「1cc」違うと、圧縮比は相当に変わってきます。ということは、エンジンのチューニングやパワーアップをしようと思えば、個別に様々な数値を測定し、圧縮比を導き出さなければならない、ということです。
1番の燃焼室容積の測定
2番の燃焼室容積の測定
上記の写真は、ヘッドの加工も終わり、燃焼室容積の測定をしているところです。念の為に、隣の2番でも測定します。
もちろん圧縮比の計算は、この測定だけでは出来ません。複雑な形状のピストンヘッドや、ガスケットの厚みなども必要になります。それらを元に計算して、正確な圧縮比を導き出します。圧縮比が分からなければ、点火セッティングも出来ません。圧縮の調整も、出来ません。つまり、全てがアバウトなエンジンになってしまう、ということです。
時折、プラグホールから簡単に測定出来る「コンプレッション」を、圧縮比と混同されている方がおりますが、全くの別物です。コンプレッションは、バッテリーの元気の良さでも変わります。セルボタンを押している時間でも変わります。カムシャフトが変わっても、変化します。簡単に変わる数字です。あくまでも「目安」程度でしか、ありません。
コンプレッションゲージの数字を見て、
「圧縮比が14もあった!」
と言った方がおりますが、圧縮比が「14:1」もあったとしたら、エンジンは掛かりません。すぐに壊れます。
圧縮比とは、ピストンの下死点の際の混合気が、上死点でどのくらいに圧縮されたか、という数字です。計算でしか、導き出せません。社外ピストンを組んだり、エンジンチューニングをされるのであれば、個別に圧縮比くらいは計算する必要があるかと思います。
同時にヘッドの面研磨をされる方もおりますが、その場合は、研磨した分、カムシャフトとクランクシャフトの位置が、若干ですが近くなります。カムチェーンの垂みも、その分多くなります。つまり、バルブタイミングが設定値から狂ってしまうことになります。
カムスプロケットの加工
左のカムスプロケットは、取り付け穴を長穴に加工してあります。バルブタイミング調整をするためです。ヘッドを面研磨したりピストンを変更した際は、手間とコストは掛かりますが、この程度の調整作業は行いたいところです。
ご相談はお気軽に♪
XJR1300(1200)のオーバーホールやチューニングをお考えの方は、お気軽にご相談ください。お一人お一人に誠意を持って、お答えいたします。
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