エンジン内部は、思っている以上に傷んでいます。
XJR1300は、1998年に発売が開始されました。ということは、既に26年が経過しています。「AIS(エアインダクションシステム)」が装着された後期型でも、2000年からですから、24年になります。
これだけの時間が経過していますので、以前は気にもしなかった箇所、部品交換もしていなかった箇所なども、相当に消耗しているものです。放置する訳にはいかない箇所が、年々増えていると感じています。
交換したいスタータークラッチ
エンジンを始動する際、クランクシャフトを片側にだけ回転させる「スタータークラッチ(ワンウェイクラッチ)」と呼ばれる部品があります。XJR1200の時代は、時折壊れることで知られていたようです。
XJR1300のスタータークラッチ
スタータークラッチは、クランクシャフトとハイボチェーンで繋がっていますが、ハイボチェーンには、カムチェーンのようなテンショナー機構がありません。つまり、チェーンが伸びたら、ダラダラになっていくだけ、ということです。
ケースを分割した際、念のためにハイボチェーンを指で押さえてみますが、全てのエンジンで、ダラダラに伸びきった状態になっています。見た目は太くて頑丈そうですが、どのエンジンでも、要交換の状態です。
最近では、ハイボチェーンも含めたスタータークラッチの主要部品の交換を、どのお客様にもお勧めしています。以前は気にしたこともありませんでしたが、時間の経過と共に傷み具合も進行しているようです。最悪の場合、始動困難になります。しかし場所が場所だけに、ケースを分割しなければ、部品交換が出来ないのです。
分解したXJR1300のスタータークラッチ
スタータークラッチは、分解すると、このようになっています。大抵の場合、ゴム製のダンパーは硬化して、プラスチックのようになっています。千切れていることも、良くあります。
1200と1300のスタータークラッチの違い
XJR1200の場合は弱点の一つなので、交換は必須事項になります。1300と同じパーツを使って組み立てます。
昔はよく、
「セルを回しているのに、空回りしているようで、エンジンが掛からない。」
といったご相談がありました。
私は暫くの間、1200エンジンでストリートを走っていましたが、問題になったことは一度もありませんでした。セルボタンの押し方、エンジンの始動方法等も、影響しているのかもしれませんが、具体的には分かりません。
いずれにしても、エンジンをオーバーホールする際は、スタータークラッチの主要部品は、交換することを強くお勧めします。出先でエンジン始動が出来ない、といったトラブルには、遭遇したくはないですから。
サビて抜けないダウエルピン
ヘッドの合わせ面に残ったダウエルピン
シリンダーの合わせ面に残ったダウエルピン
上記の写真は、どちらも同じ箇所のダウエルピンです。抜けずにヘッド側に残ったのか、それともシリンダー側に残ったのかの違いだけです。この箇所のダウエルピンは、必ずサビて変形しており、まず簡単には抜けません。酷い場合は、エンジン分解時にヘッドとシリンダーを分割できず、一緒に外したことも、何度かあったほどです。
水の抜けの問題かと思います。明らかに設計ミスなのでは?、と思っています。
バイスプライヤー等のプライヤーを幾つも使ってみました。もちろん、炙ったり強力な潤滑剤を吹き付けたりもしましたが、まず抜くことができません。面をキズ付けたりすると、かえって厄介になりますので、最近では、内燃機加工屋さんに依頼して、抜き取ってもらっています。
多少のコストや時間は掛かってしまいますが、仕方ありません。
厄介なスタッドボルト
クランクケースの上部からシリンダーヘッドまで伸びているスタッドボルトが、XJR1300には12本あります。非常に重要なボルトです。オーバーホール時に、この12本のスタッドボルトも全て抜き取り、新品に交換しています。
近年、このスタッドボルトが抜けない、といった事例が多くあります。なんとか抜き取ったとしても、ネジ穴のダメージが酷く、タップ修正程度では、ボルトの強度が確保されないケースもあります。
エンジンも出来上がり、フレームに積んで、他のパーツも全て取り付けて、さあ完成だ!と、エンジンを始動させます。温まったエンジンを冷ました後、各部のチェックや緩みを確認した際、シリンダーヘッドのナットが緩んでいたケースが、2度ほどありました。
よく見ると、ナットは緩んでいません。スタッドボルトが緩んでいるのです。これを見つけた時は、悲しくて泣きそうになります。
このナットの規定トルクは、「3.5kg/m」です。このナットの締め付けやガスケットの吹き抜けに関しては、随分と苦労した苦い経験が、たくさんあります。
以前にXJR1200を使ってレースをするようになった頃、ヘッドガスケットの吹き抜けには、随分と悩まされました。XJR1200は、今のXJR1300のガスケットのようなメタル製ではなく紙製で、圧縮を上げると、すぐに吹き抜けてしまいました。
その後、ドラッグレースの手法らしいのですが、銅のガスケットとシリンダー側の加工で、吹き抜け防止をやってみましたが、あまり良い結果は得られませんでした。
XJR1200用の特殊パーツなんていう物は何も存在せず、ドラッグ用のFJパーツを使って、いろいろとやってはみましたが、大した成果もありませんでした。チタンリテーナやインナーシムから、クロモリ製スタッドボルトまで試しましたが、正直に言えば、良い結果も良い思い出も、それらのドラッグパーツでは、何一つありませんでした。
走る度にエンジンを開ける、開ける度にパーツを交換する、400メートル走るだけでOK!、といったドラッグレースでは、それでも良いのかもしれませんが、特に問題が無ければエンジンを開けないロードレースでは、使えないパーツばかりでした。ここでは、その理由や詳細をパーツごとに説明するつもりはありませんが、それ以降、いわゆるアメリカ製のドラッグパーツは、使わないことに決めました。
そんな、苦い経験もたくさんあるのに、お客様のスタッドボルトで、何度か『もう2度とイヤだ!』と思える経験をしました。スタッドボルトが、締まらないで回るのです。もちろん、ケース側のネジ穴は全て、タップで修正しています。XJR1300も、既に立派な旧車ですので、ネジ穴のタップ修正は必須作業です。
組んでいる時は、ヘッドのナット締め付け時にも、トルクはキチンと掛かっています。でもエンジンを始動させて、熱や振動を与えた結果かと思うのですが、スタッドボルトがケースのネジ穴で、回ってしまうのです。当然ですが、そのままにしておく訳にはいきません。
出来上がったばかりの車両からエンジンを降ろし、分解していきます。ケースアッパーのネジ穴部に、ヘリサートを挿入する為です。悲しくなる作業ではありますが、そのような経験から、抜けない、抜きにくいスタッドボルトのネジ穴は、コストと時間は掛かっても、ケース単体の状態の時にヘリサート加工をしています。
全てのネジ穴を、そのようにしている訳ではありませんが、クランクケースのスタッドボルトは、非常に重要な箇所ですので、タップ修正では無理だと判断した場合は、ヘリサート加工代が掛かります。ご理解頂ければと思います。
このエンジンは、スタッドボルトが4本、抜けませんでした。4本共に抜き取ってもらい、ヘリサート加工をしています。拡大してみると、ヘリサートが挿入されているのが、分かるかと思います。
トルクがあまり掛からない箇所や、後から修正、加工できる箇所でしたら、そこまで神経質になる必要は無いのかもしれません。しかしここは、非常に重要な箇所です。ダメだと判断した箇所は、コストが掛かっても、ヘリサート加工となります。
シリンダーヘッドのスタッドボルト
抜けないスタッドボルトと言えば、もう一つ、シリンダーヘッドがあります。エキゾーストパイプを留めるスタッドボルトです。
サビて折れる、固着しており抜ける気配もしない、といったことも、最近ではよくあります。8本全てが抜けたら、「運が良かった。」と思います。ここは、それほどトルクの掛かる箇所ではありませんが、そのまま抜けない、サビたスタッドボルトを入れたままにしておくことは、私には出来ません。オーバーホールするのですから、スタッドボルトも当然のように新品に交換します。
抜けない場合は、ここも内燃機屋さんに抜き取り依頼をすることになります。折れた場合にも、対応してくれます。プロの方々は、使う道具もスキルも経験も、私とは違います。抜けないボルトも折れたボルトも、見事に直してくれます。
キャブレター
長年放置されてきたキャブレターは、ほとんどがこのような状態になっています。これでもキチンと機能していることが、凄い事だと思います。さすが日本製!です。
純正のキャブレターは、クリーナーボックスがありますので、脱着は思いのほか面倒な作業です。エンジンをオーバーホールする際、どうせ外されているのですから、合わせてキャブレターもオーバーホールするのは、良いことかと思います。
どうせオーバーホールするのでしたら、是非、下記のパーツは交換して欲しいところです。
- ニードルバルブ
- フロートチャンバのOリング
ニードルバルブとは、これです。
古いキャブレターがオーバーフローする原因の多くは、このパーツです。三角部が摩耗したりキズ付いていたりで、ガソリンをストップ出来ずにオーバーフローしてしまうのです。
『エンジンオイルが増えているんですけど・・・』
エンジンオイルは、増えません。オーバーフローしたガソリンが燃焼室内に流れ込み、クランクケースに流れていき、オイルに混入しているのです。
このパーツを後で交換するのは、思ったよりも大変です。少し高価なパーツですが、古いキャブレターですので、オーバーホール時に交換をお勧めします。
フロートチャンバのOリングですが、年式によってはガスケットの場合もあります。ここも、まず交換されていないはずです。この程度のパーツは、交換したいところです。
傷み具合は、千差万別です。
エンジン内部の傷み具合だけでなく、外観の塗装の傷みやサビ、ボルトやネジ類の固着、車体回りのベアリングなど、あなたが思っている以上に、各部は傷んでいるものです。
もしあなたが、XJR1300(1200)を気に入っており、長く大事に乗りたいのであれば、安心してツーリングに行くためにも、オーバーホールすることをお勧めします。
なぜ、不具合を直すだけではダメなのか・・・
- エンジンから、少し異音がするのですが。
- 調子が良くないようで、加速が悪い気がします。
- キャブレターの調子を良くして欲しいのですが。
いろいろなご相談をお受けしておりますが、既に20年以上、経過しているオートバイです。多くの方は、中古車で入手しており、以前の使われ方は把握出来ていません。そのような車両を、
『調子良くして欲しい』
と言われても、どこをどうすれば調子良くなるのか、原因探しは非常に難しいことになります。お客様は、
「キャブレターだと思うのですが・・・」
とおっしゃっても、キャブレターのオーバーホールだけで、本当に調子良くなるのか、ということです。もしかしたら、エンジンが既にお疲れ様状態で、調子が悪く感じているのかもしれません。
お客様のご希望は、
『調子の良いXJR1300に乗りたい。』
ということだと思います。しかし、
「ここを○○○すれば、調子良くなるよ。」
とお約束出来る車両は、ほとんどありません。エンジンなのか電気系なのか、それともキャブレターなのか・・・。
そのような車両の原因探しは、非常に難しいのです。
私は『エンジンありき』で考えますので、まずはエンジンのオーバーホールをお勧めしています。エンジンの調子が良くない状態で、いくらキャブレターや電気部品をいじったところで、調子良くなるとは思えません。
現在では、大型二輪車のエンジンを分解し、キチンとオーバーホールしてくれるようなショップは、ほとんどありません。まして、安心して任せられるところは、探し出すのが困難なようです。
そんな中で、エンジンを全て分解し、オーバーホールすることに当ガレージの存在意義がある、と、少し大げさですが感じています。
XJR1200・XJR1300のエンジンにお悩みの方は、まずはご相談からお願いします。お力になれるかもしれません。
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