2台続けて1200エンジンをオーバーホール
一昨年、約15年ぶりかと思うほど久々に、1200エンジンをオーバーホールしました。そして今年の秋、偶然ですが1200エンジンを2機、続けてオーバーホールしています。
1200エンジンは、ピストンとシリンダーが既に販売終了となっています。もしピストンやシリンダーに大きな破損等があった場合、少々困ったことになります。社外品のピストンを探す、スリーブを打ち替える、中古エンジンからピストンを取り出す、等の手間が必要です。それを承知して頂ければ、1200のオーバーホールも、問題なく可能です。
1200のピストン
既に生産から30年近く経過していますので、頑固なカーボンが付着しているのは、仕方ありません。カーボンを取ってあげれば、このようにキレイになります。ピストンリングを交換すれば、問題なく再使用できます。
若干、変色はしていますが、金属でも変色することはあります。シリンダーヘッドやカムシャフト等は、サイドスタンドの為か、左側が黄金色や茶色に変色しているものです。いわゆる、オイル焼けです。
そのような事を考えれば、この程度の変色は、たいした問題ではありません。
1200のシリンダー
XJR1200のシリンダーは1300とは異なり、鉄のスリーブがシリンダーブロックに挿入されたタイプです。昔ながらのタイプですね。
今まで数多くの1200・1300エンジンを開けてきましたが、製造コストや放熱性などを考慮しなければ、やはり鉄スリーブは頑丈で質が良いと思っています。
精度が宜しくない仕事をする内燃機屋さん、いい加減な作業で良しとする加工屋さんで打ち込んだスリーブが、シリンダーを取り外すとスリーブが緩くなっていた、シリンダーを逆さまにしたら抜けた、といった事は、時折耳にします。でも流石メーカー純正です。そのような1200シリンダーは、見たことがありません。
1300のアルミ一体式メッキシリンダーは、大きな段差が出来る程に減っている物を、何度も見たことがあります。おそらくオイル管理が最大の要因かと思いますが、触っただけで再使用不可!と感じたシリンダーも、今までに数個、ありました。しかし1200のシリンダーでは、そこまでの状態を見たことがありません。
新品ピストンの販売終了が残念ですが、社外ピストンを探してみるもの、一つの手かもしれません。私は探したことはありませんが、77φピストンは、どこかのメーカーで、今でも販売しているのでしょうか?
1200のシリンダーの問題点
そんな事が問題なのか?
と怒られそうですが、久しぶりにオーバーホールした1200シリンダーは、ちょっとばかり困った問題があると、個人的には感じました。それが、以下の写真です。
シリンダーの裏側、クランクケースとの合わせ面になります。ここのガスケットが、紙製なのです。1200が発売された1994年から、紙製です。このガスケットが、私を悲しくさせます。
通常、シリンダーヘッドの締め付けナットのトルクは、「3.5kg」です。その高トルクで締め付けられた状態で、30年近く、時間が経過しています。ガスケットの面積も広いです。すると、信じられないくらいに、しっかりと張り付いているのです。
スクレッパーで2時間格闘して、やっとこの状態です。強い薬剤をかけたりしたいところですが、そうすると塗装まで傷みます。ですから、剥離剤などは使えません。スクレッパーで地道に剥がしていくしか、方法はありません。
この状態になるまで、ほぼ一日掛かりの仕事です。同じエンジンを再度、分解することがあるのかどうかは分かりませんが、発注した純正部品も、当然、紙製のガスケットです。今から材質が変わるとも思えませんので、きっと今後も、この状態が続くのでしょうね。
ちなみに「1300」は、メタル製です。
ガスケットの小話
私は、1994年に発売されたXJR1200を、発売後すぐに購入しました。程なくして、サーキットで乗るようになり、エンジンもあれこれとイジるようになりました。
パワーを求めて圧縮比を上げましたが、当時のヘッドガスケットも紙製で、すぐに吹き抜けを起こしました。「パタパタッ」といった、いつもの音がしたら、吹き抜けています。本当に、年中抜けていました。
ヤ○ハの偉いおじさんにそれを伝えると、
「お前の組み方が悪いんだろ!」
と言われたものです。
その3ヶ月後、ヨーロッパからのクレームで、ガスケットの材質が変更になった、と聞きました。道路事情などでスピードレンジが日本よりも高く、ヘッドガスケットの吹き抜けが数多く発生したようです。
「だからオレが言ったじゃないですか!」
『いやぁ、すまんすまん。せっかくだからお前に、新しいガスケットをやろう!』
そう言って、メタル製に変更されたヘッドガスケットを、10枚ほどくれました。
それ以来、紙製のガスケットは好きになれません。
クラッチカバー等は、紙製からメタル製のガスケットに変更されていますが、オイルパン等は以前のままです。トルクがあまり掛からない箇所、面積の狭い箇所は、そう問題にはなりません。でも、久しぶりにシリンダー裏面のガスケット剥がしを、しかも2台続けてやったので、当分の間は、やりたくはありません。
その他、1200の問題点
XJR1200は、1994~1997年の発売ですから、既に26年以上も経過していることになります。多くの方は、エンジンをオーバーホールすれば調子よく走れるようになる、とお考えかと思いますが、実はエンジンと同じくらい厄介なのが、キャブレターです。
「キャブレターも、オーバーホールしてください!」
そのようなことは、よく言われます。
で、取り外すと、大抵はこのような状態です。20数年間、取り外さないで使われていたのですから、機能しているだけで有り難いことです。
このようなキャブレターを、エンジンと同時にオーバーホールする際に、合わせて交換しておきたい部品が、幾つかあります。その筆頭が、以下の部品です。
ニードルバルブです。このパーツがフロートと連動して、ガソリンをフロートチャンバに流したり止めたりしています。この黒い三角形の先端が傷んでいると、ガソリンが止まらずに流れ続けることになります。そうなると、フロートチャンバはガソリンで一杯になり、溢れ出したガソリンはINポートから燃焼室に流れ込み、やがてクランクケース内に落ちます。
「やけにオイルが多くなったなぁ~」
気を付けてくださいね。オイルは増えませんから。もしかしたらオーバーフローしたガソリンが、ケース内に入っているのかもしれません。
今までに、そのようなケースを数回見ています。後になってキャブレターを外し、ニードルバルブを交換するのは大変です。古いキャブレターですから、その程度のコストや手間は惜しまず、今後の為にも是非、交換することをお勧めします。
このパーツは、パイロットスクリューです。パイロットスクリュー自体は、簡単には傷みませんが、この小さなOリングが傷むのです。しかも、Oリングだけでは部品として出ません。パイロットスクリューセットでしか入手出来ないのです。
このブログを書いているのは、「2023.11.26」ですが、幸いにして、まだ部品で出ます。ちょっと高いと思われるかもしれませんが、後で交換する事を考えれば、是非交換しておきたいパーツです。
- ニードルバルブセット :6,072円
- パイロットスクリューセット :3,762円
両方共に、4個ずつ必要ですので、合わせて「4万円」程度は必要になります。その他、交換されていないであろう「フロートチャンバ ガスケット」も、交換が望ましいです。
「そんなコストを掛けるのは、馬鹿らしいよ。」
中には、そうお考えの方もいらっしゃるかと思います。そのような方は、今ならまだ新品で購入できるキャブレターを、丸ごと購入されるのが良いでしょう。古いキャブレターにコストを掛けなくても、調子の良いキャブレターが手に入るのですから。
TMRキャブレターは、レーシングキャブレターですが、今でも新品で購入できます。ただし、納期までには3ヶ月程度は時間が必要です。小物パーツやセッティング作業も必要になります。
XJR1300に装着されたい方は、お気軽にご相談ください。お一人お一人に、誠意を持ってご回答いたします。