フルカスタムのXJR1300、その4、エンジン分解編
フルカスタムのXJR1300ですが、いよいよエンジンの分解です。
ボルト類やカバーなどを見ると、転倒跡や古くなってヤレている感はありますが、中身はまた別の話です。各部をチェックしながら、とにかくバラしていくことにしましょう。
残念なお知らせです・・・
まずインシュレーターとヘッドカバーを取り外します。インシュレーターは外されたことが無いと思えるくらい、ポート面が汚れています。Oリングも、もはやゴムではなくなっています。ひび割れたインシュレーターと共に、ゴミ箱行きです。
見えにくいかもしれませんが、ヘッドカバーとの合わせ面に、黒い液体ガスケットがはみ出て残っています。ヘッドカバー側はもっと酷く、内側や溝部にはベッタリと残っていました。
これは、ヤマハの仕事、つまり出荷時の状態ではありません。何らかの必要性があってヘッドカバーを取り外した際、取り付け時に液体ガスケットを塗りたくったのでしょう。
XJR1300はヘッドカバーからのオイル漏れが起きやすい、という話はよく耳にします。ご自身で交換された方も多いでしょう。その際、ガスケットの上下を全周に渡って、液体ガスケットをタップリと塗りつける方がいるようです。オイル漏れを防ぐために・・・。
ヘッドカバーのガスケットを新品に交換する際、液体ガスケットを塗る必要はありません。液体ガスケットでオイルがシールされる訳ではありませんから。ゴム製のガスケットが潰れることによってシールされています。つまり、液体ガスケットをいくら塗ったところで、役には立ちません。
もし塗るとすれば、ヘッドカバーを下に向けて取り付ける必要があるので、その際にガスケットが落ちないようにする為です。ヘッドカバー側にガスケットを付けておきたいからです。ですから点付けで十分です。
ヘッドカバー側に付着させるだけの目的ですから、液体ガスケットである必要はありません。ボンドでも十分です。ちなみに私は、20年以上前から、ボンドの点付けで対応しています。次回の取り外し時に、液体ガスケットではキレイに取り除くのが案外大変なのに対し、ボンドだと簡単に剥がせるからです。
このヘッドカバーも、付着した液体ガスケットをキレイに取り除くだけで大変でした。ちなみにヘッドの内側にも、はみ出した液体ガスケットが多量に残っていました。
そんな理由から、ちょっと嫌な予感がしました。
そして、分解時に必ず行うバルブタイミングチェックをすると・・・
なんだか様子が変です。カムスプロケットのタイミングマークが、面と合いません。クランクを回転させて、再度チェックしますが、どうやら1コマずれているようです。これではインテーク側が、完全に遅れています。
明らかにインテーク側がズレているのですが、もしかしたら?、という思いもあり、念のために正確にバルブタイミングを測定してみました。
やはり、見た通りでした。正確に測定した数値がマニュアル設定値と比べ、15度以上も遅れている状態です。残念な結果でした。
カムチェーンの伸び等の理由で、走行距離が進むごとに遅れてくることは普通ですが、1コマずれたエンジンは、初めて見ました。これは、ヤマハの出荷時からそうだった訳ではないでしょう。そのような事は、まず起こりえませんから。
この後も不具合箇所を見つけていくことになるのですが、開けた形跡のあるエンジンですから、その時の作業者の完全なミスです。あってはならない事です。もしプロがやった仕事なら、プロ失格でしょう。
これで調子が良い訳がありません。でも大丈夫です。全てを分解チェックしますので、不具合箇所はキチンと直しますからね。
その他にも、シリンダーヘッドを見ていると、不思議な箇所がありました。なぜか1本だけ、スタッドボルトが大きく曲がっています。
転倒跡は確認できますが、転倒でこの場所のスタッドボルトを曲げるのは、ちょっと無理があります。何をして、どんな理由で曲がったのか、不思議です。
カムチェーンテンショナーも腐食がひどく、先端も変形していますので、新品に交換しましょう。抜いたスタッドボルトと共に、こちらもゴミ箱直行です。
腰下部は・・・
クラッチ回りをバラしていると、不思議な光景が続いているような気がしてきました。
これは、エンジンオイルを各部に回すためのオイルポンプです。1ヶ所に位置決めの為のダウエルピンが入っているのですが、このオイルポンプには何故かありません。エンジンを組む際の作業者の入れ忘れしか、理由が考えられません。
ちなみに、ケースの合わせ面にも黒い液体ガスケットが多量に残っていましたので、何らかの理由で以前にケースまで分解されたことは、まず間違いないでしょう。黒い液体ガスケットの下に別の色の液体ガスケットも残っていましたので、確実です。
そもそも、古い液体ガスケットを残して、その上に別の液体ガスケットを塗布するようでは、作業者の腕も人格も疑われる、というものです。
『人の振り見て我が振り直せ!』、昔の人は、良いことを言ったものです。私も自分への戒めとして、これからも心して取り組んでいきたいと思います。
さて、このオイルポンプのダウエルピンですが、小さな部品です。しかし何故か、パーツリストには記載がありません。驚く事に、オイルポンプ本体とセットなのです。つまり、ダウエルピンだけを購入する事はできず、必要な時はオイルポンプとセットで購入する必要がある、ということです。なんとも不思議な部品設定です。
仕方ありませんので、パーツ箱をゴソゴソと探ってみました。すると、オイルポンプの予備が出てきました。ここからダウエルピンを取り外し、使うことにします。
混在するクラッチ板の不思議
クラッチカバーのガスケットは、以前は紙製でしたが、最近ではメタル製に変更されています。このエンジンのクラッチカバーガスケットは紙製でしたので、エンジンを分解した時期は、結構古いと考えられます。おそらく10年以上は前でしょう。
そのクラッチですが、取り出すと、まだ不思議な光景が続きます。
2種類のクラッチプレート
幅の狭いフリクションプレートが3枚!
プレート類を全て確認したら、2種類のクラッチプレートが使われていました。スタンダードは左側の小さな穴が開いたタイプです。右側のプレートは、材質が違うからなのか、それとも中古品だったからなのか、スレたような跡が全周に渡りうっすらと見られます。
どこのメーカーなのか、私には分かりません。何の理由で混在させたのかも、私には分かりません。
フリクションプレートは、左側の幅の狭いタイプが、一番奥と一番手前、つまり2枚使われるのが通常です。それ以外の6枚は、右側の幅の広いタイプを使用します。
しかしこのエンジンには、何故なのか、どんな理由があったためなのか、幅の狭いプレートが3枚使われていました。
いろいろと考えてみましたが、私には理由は分かりませんでした。当然ですが、全て交換します。
ミッションのサークリップ
ケースを割ってミッションを取り出す際に、さらに不思議な光景を見ました。
これは、ケースを分割した際の写真です。アッパケース側にクランクシャフトとミッションが残っています。これでは全く分からないと思いますので、拡大して印を付けてみました。
ドライブアクスルのベアリング部には、溝が入っています。同じ溝が、クランクケースにも入っています。そこに、半円形のサークリップを入れます。ミッションのベアリングとケースをまたぐように入れる事で、左右の位置を決めるためです。
よく見ると、そのサークリップが2ヶ入っています。半円形が2つありますので、ほぼ円状になっていることになります。このサークリップは、1つだけ入れれば良いのですが、何故、2つも入っているのでしょうか。初めて見ましたので、理由が分かりません。
溝は、ベアリングには1周入っていますので、全周にサークリップを入れないといけない、とでも思ったのでしょうか・・・。
プライマリーチェーンのガイド
エンジン分解で見た最後の不思議な光景は、こちらです。
右側が付いていたプライマリーチェーンのガイドです。曲がっている!おかしい!と思って、保管していた中古品を取り出して、並べて比べたのが上の写真です。
左は通常品ですが、真っ直ぐです。しかし右側の装着されていたガイドは、明らかに中心あたりで曲がっています。自然に曲がる部品ではありません。人為的に曲げられたのは、間違いないでしょう。
その理由は、おそらくこれでしょう。
左側が、ガイドと共に保管していたチェーンです。右側が、このエンジンから取り外したチェーンです。上端を揃えて垂らしたところ、これだけの違いがありました。つまり、伸びている、ということです。
プライマリーチェーンは、クランクシャフトとスタータクラッチを繋ぐチェーンですが、これが伸びていたためにガイドを故意に曲げ、テンショナー代わりに使用した、ということです。
明日走るレースのエンジンを組んでいるが、部品が無い!というのであれば、まだ話は分かります。それを承知で明日の為だけに組めば良いのです。でも、普段使用するエンジンにこの作業は、いかがなものでしょうか・・・。私には理解できません。
数日組むのを待って、新品パーツに換えれば良いだけだと思います。その数日も待てない理由でも、あったのでしょうか・・・。
エンジンは、組んだ後は見えないものです。全てオーナー様が承知の上で組まれたものであれば良いのですが、知らないうちにこのような作業をされても、オーナー様には分かりません。
「何だか調子が今ひとつな気がするなぁ~」とは思っても、バルブタイミングが狂っているとは、考えもしないでしょう。
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