圧縮の改善

『良い混合気、良い圧縮、良い点火』
これは、昔から言われている内燃機関の三大要素です。

今回オーバーホールした車両は、オーナー様ご自身の手で非常に良く手入れされていますが、「良い圧縮」は、残念ながら劣化している状態でした。エンジンを降ろす前にコンプレッションを測定しましたが、あまり良い数字は出ませんでした。

圧縮行程は、シリンダー内をピストンが上昇することによって行われます。その際にどこかに隙間があれば、そこから圧縮が漏れてしまうことになります。ですから圧縮の改善に重要なのは、圧縮される混合気の回りにあるパーツ、つまりシリンダー・ピストン・バルブ、という事です。

XJR1300のシリンダーはメッキ加工されていますので、放熱性も良く丈夫です。今回のシリンダーも、特に問題はありませんでした。ですから残る2項目で、圧縮を改善させます。


ピストン回り

ピストンリングは、圧縮やオイル潤滑に影響しますが、数万キロも走行すれば磨耗しています。通常のオーバーホールでも、ピストンリングは無条件で新品に交換します。

今回は、4つのピストン全てにスカート部の強い当たり跡が見られましたので、オーナー様ご了解の上で、新品に交換しました。

取り外したスタンダードピストン

ノーマルピストンは、4つ購入しても3万円もしません。STDピストンをお使いの方は、オーバーホールの際は出来るだけ新品に交換しましょう。

もちろん、ピストンを新品に交換するのですから、ピストンピンも新品です。

新品ピストンを組み付けた後

これでピストン回りは、全て新品部品になりました。


バルブ回り

EXバルブのフェース面
EXバルブのフェース面

バルブは、カーボンを落としてフェース面を見ると、結構ひどい状態になっています。ここまで痛んでいると、通常の擦り合わせだけでは、どうにもなりません。

バルブは、新品に換えるかフェース面を研磨するかですが、研磨の方がコストが安く済みますので、今回はフェース研磨で行く事にしました。フェース研磨も1回であれば、バルブ的にも問題はありません。バルブクリアランスもシムで十分に調整できます。

ただしバルブの密着具合は、バルブのフェース面だけでなく、ヘッドのバルブシートにも関わる問題です。バルブフェースとバルブシートがピッタリと合って、始めて気密が保たれる訳ですから。

ですから加工屋さんの仕事は、バルブのフェース研磨とバルブシートカットは、必ずセットで行う必要があります。加工屋さんの腕の見せ所でもあります。

加工の終わったシリンダーヘッド

面研磨、シートカット、スタッドボルト抜きの終わったシリンダーヘッドです。バルブシートには、バルブとの当たりを確認するための光明丹が付着しています。

通常であれば、バルブは磨いた後に加工屋さんに出しますが、今回はGWが控えており磨く時間的余裕が無かったため、加工屋さんから仕上がってきた後に磨きました。

フェース研磨後に磨いたINバルブ
フェース研磨後に磨いたINバルブ

 擦り合わせ後のINバルブ
擦り合わせ後のINバルブ

フェース研磨後に磨いたEXバルブ
フェース研磨後に磨いたEXバルブ

擦り合わせ後のEXバルブ
擦り合わせ後のEXバルブ

バルブのフェース面を研磨すると、虫食い状態になっていた打痕が無くなり、当たり面が新品のようにキレイになります。この状態にするためにフェース研磨をするのですから、当たり前と言えば、当たり前なんですが…。

写真では分かりづらいですが、ヘッド側のバルブシートも、シートカットにより打痕が無くなっています。

そしてバルブコンパウンドを付けて擦り合わせをすることにより、バルブの当たり面が明確に現れます。バルブフェース中央の白っぽくなった部分が、当たり面です。幅も狭く、良好な当たりです。

この良好な当たり面を作るには、バルブフェースの角度に合わせてシートカットをする必要があります。ですから、バルブを新品に換えたとしても、その新品バルブに合わせてシートカットする必要がある、ということです。

幾らバルブを新品にしても、ヘッド側のバルブシートが虫食い状態のままでは、良好な圧縮は得られません。酷い打痕がある場合は、シートカットは必ず必要になります。

もちろん、バルブフェースもシートも状態が良好であれば、擦り合わせだけで済む場合もあります。ピストンも、再使用で全く問題ない場合も実際には多いものです。ですからエンジンは、実際に開けてみなければ分からないのです。

フェース研磨・擦り合わせ・磨きの終わったバルブ
フェース研磨・擦り合わせ・磨きの終わったバルブ

これで、やっとシリンダーヘッドを組むことが出来ます。