インジェクションのチューニングは可能か?

XJR1300の純正インジェクター
インジェクション仕様の後期型XJR1300

前回の記事でレーシングキャブレターについてのお話をしましたので、今回は、少しだけインジェクションについて、大した知識はありませんが、感じていること、経験していることを、私の考えなども含めて書いてみようと思います。


インジェクション車に乗った感想

サーキット以外でインジェクション車に乗った経験は、実はあまりありません。しかも感想なのですが、特に無いのです。何も感じないほど、ただ普通に走ります。

半年以上もエンジンを掛けないキャブレター車は、キャブレターのフロートに溜まっているガソリンが劣化し、なかなかエンジンが掛からないものですが、聞くところによると、インジェクション車では、あっさりと始動するようです。これはある意味で、時々しか乗らない方にとっては、素晴らしい変化でしょう。

でもインジェクション車は、普通過ぎて、私は特に何も感じませんでした。これといった特徴が、感じられません。普通に走る、これだけなのです。


インジェクションは、チューニング出来るのでしょうか?

インジェクション車が主流になってくると、ECUを書き換えるショップが、徐々に出てきました。燃料調整(通称・燃調と言ったりする)やリミッターを解除するためです。

大々的に宣伝をして集客しているショップもあれば、私の後輩君のように、全く宣伝もしないで、自己責任を理解しているごく僅かなユーザーにだけ、サービスを提供しているショップもあるようです。

純正ECUの書き換えは、当然ですがメーカーは禁止しています。ECU内部に侵入した形跡がある場合は、保証も修理も受け付けない、といった話も聞いたことがあります。おそらくこの流れは、今後は更に進んでいくと思われます。車では、以前からある話のようですが、詳しい内容は分かりません。興味のある方は、ご自身で調べてみてください。

ECU(Engine Control Unit)は、簡単に言えば『とても賢いコンピューター』で、エンジンやインジェクターの各機能をコントロールしている、いわばオートバイの頭脳とも言えるパーツです。その頭脳を書き換えるのですから、コンピューターの知識だけでは、十分ではありません。オートバイの知識や経験も必要でしょう。

私は、ECUについての知識はほとんど持ち合わせておりませんので、難しいことは分かりません。しかし話を聞く限り、相当なところまで踏み込んでいけるらしいです。ただ重要なことは、もし万が一のトラブルが発生した際、書き換え担当者には何も起こりませんが、ライダーは走りながら対処し、痛い思いや怖い思いをする場合もある、ということです。エンジンが壊れる可能性もあります。おそらくそのあたりは、『自己責任』ということになるのでしょうが・・・。

過去の話にはなりますが、こんな出来事がありました。

某タイヤメーカーの貸切り走行会に、普段はあまりサーキットを走行しない方々も、楽しみにやってきました。その中の1人が、ECUをあるショップで書き換えてもらった、というのです。

走行して間もない頃、1ヘアピンで転倒してしまい、アクセルを戻しても回転が下がらなくなった、と言っていました。ECU書き換えが始まった当初は、時折このような話を耳にしました。

アナログ時代のイグナイターも同様ですが、ECUは中身が全く見えません。素人には、何をどうしたのか、その結果何が起こるのか、全く分かりません。中身が見えないものを変更する訳ですから、結局はその書き換えを行うショップを、どれだけ信用できるのか?ということになります。

私は、どこの誰が何の目的で書き換えたのか分からなければ、その車両には乗りません。目で見ればちょっとしたトラブルかもしれない事が原因で、痛い思い、怖い思いを散々してきました。他のライダーのトラブルも、目にしてきました。ですからECUの書き換えだけでなく、カスタムやチューニングされたオートバイを、安易に信用は出来ないのです。

今では、作業する方のスキルも機材も進歩しているのかもしれませんが、出力しか考えずにECUを書き換えれば、トラブルは多発するでしょう。

例えば、点火時期の変更だけで、エンジンは簡単に壊せます。ピストンを溶かすこともできます。デトネーション、というやつです。これを防ぐ為に、メーカーのレースキットがどのようになっているのかを聞けば、レースでエンジントラブルが減っている理由も、理解出来ます。


ECU書き換え車両の経験は、実は山ほどあります。

2002年型YZF-R1
2002年・もてぎ7時間耐久レース

 2004年型YZF-R1
2004年・SUGO 6時間耐久レース

むか~し、まだこんなヘッポコ親父が今よりも若くて良い男だった頃、何度か耐久レースに出場させて頂きました。初代のキャブレター車だった車両も含め、『YZF-R1』には、何度も走らせる機会を頂きました。

確か上の写真は2002年型の「5PW」で、下が2004年型の「5VY」だったと思います。ただ、その辺の記憶が曖昧で、正確ではありません。ご容赦ください。でも、両車ともにインジェクション車だったはずです。

車両を見ればお分かりかと思いますが、これらのレーシングマシンは、非常に良い出来です。私が製作した車両ではありません。こんな凄いマシンを作れるような技術も財力も、残念ながら持ち合わせてはいませんでした。

「おい!ヘッポコ!乗るか??」
『はい!!!宜しくお願いします♪』

ですから、インジェクションやマッピングも含めたECUの書き換えなどの実際の作業は、『YZF-R1』では当然ですがやってはおりません。ヘッポコなので、乗るだけです。どの車両も、R1の経験がない私でも全く問題なく走れるよう、完璧なセッティングがされていました。腕の良い方々が造り上げたレーサーとは、こんなにも良く走るんだ!と感激したものです。

特に上記画像のオレンジ色の『YZF-R1』は、私が経験したレーサーの中でも、最高の1台でした。今でもそれは変わりません。間違いなく最高の1台です。速さだけでなく、乗り易さ、サスペンションの動き方やしなやかさ、オートバイ全体の動き、エンジンフィール、ブレーキの絶妙な効き具合など、何も不満が出てこないのです。

作業したことといえば、レバーの遊び調整と、テストしたサーキットが異なるのでフィナルレシオの変更、オイル交換だけでした。本当にそれだけでした。

そのレーサーに乗ったのは耐久レースで、一日中、雨が降り続いている中でのレースでした。そんな中、10年ぶりに走るサーキットで、2位以下を周回遅れにするという、なんとも出来過ぎな結果を得ることが出来ました。そんな結果になったのは、もちろんライダーの腕などではなく、マシンの良さと高性能なタイヤ、そしてピットクルーをして頂いたチームのおかげでした。

インジェクションを含めたオートバイのセッティングが良く仕上がっていると、雨でも晴れでも走りやすい車両になるものです。とにかく最高の1台でした。

2006年秋・FZS1000レーサー
初期の頃のFZS1000レーサー

一方、テイストというレースでは、長年XJR1200で走っていましたが、2005年から車両を「FZS1000」に変更しました。大した意味は無かったのですが、XJR1200では当時のパーツと知恵で、やれることはやり尽くした感があったこと、また他の水冷車両が速くなり、XJRでは太刀打ちするのが大変になったこと、またこれが一番の理由だったのですが、チームの社長が趣味で作って、何度かツーリングに乗ったFZS1000を、「お前が乗れ!!」と言い出したことでした。

めでたくレース車両がFZS1000に変わった訳ですが、そこはイジるのが大好きな社長ですから、エンジンも含めて純正のまま走らせる訳もありません。エンジンはR1に変わり、どうやって収めたのか狭いフレームの間にインジェクションを収め、『ほら!できたぞ!!』と、ご満悦です。

「ちょっとバイクを持って来い!」
「直すついでに、マフラーを変えておいてやった!」
「Fフォークを交換したぞ!」
「エンジンを積み替えたぞ!」
「今度は、クロスプレーンだ!」

そんな具合です。このようなことは、普通に何度もありました。年中です。エンジンが替わったことだけでも、何度もありました。5バルブ、4バルブ、クロスプレーン、ノーマルエンジン、スーパーバイクエンジン、本当にいろいろなエンジンを使わせて頂きました。

2010年5月・FZS1000レーサー
2010年5月のFZS1000レーサー

2017年11月・FZS1000レーサー
2017年11月のFZS1000レーサー

何か重要なパーツが変更されると、その都度、燃調は取り直す必要がありました。元HRCのメカニックだった知人に頼み、筑波サーキットを3~4走行して、細かく調整していくのです。その調整は、PCを接続し、空燃費センサーから得られる数字をパソコン画面で確認しながらの作業になるのですが、知識の無い私にとっては、到底自分で出来る作業とは思えませんでした。

もちろんこの調整作業は、ハーネスやECU等がレースキットに変更されていることが最低条件です。市販車の状態では出来ない作業です。

元HRCのメカニックだった友人は、
「今度は、開度1/2あたりを変更するけど、走ってて濃い?薄い?」
などと、意地悪な質問を時々します。画面の数字を見れば、濃いか薄いかは一目瞭然なのですが、ヘッポコ親父の感覚までヘッポコになっているかどうか、ちょっと意地悪な確認作業です。

『ちょっと薄いかなぁ~』
「はい、正解!」

でも、こんなやり取りも3走行目くらいになると、変更する領域や範囲が微妙になってきますので、もはや感覚では分からなくなります。そうなると、数字を確認しながら理論的に速くなる方向に修正していく訳です。

何度もこのような作業はしてきましたが、ハッキリと分かったことは、

『ECUの書き換えは、非常に微妙で難しい!』
ということでした。

オートバイという乗り物は、理論がなければ非常に遠回りをしますが、机上の理論だけでは、速くて走りやすい車両を作ることは出来ません。このことは、この後に乗ることになった車両で、さらに明確に分かってきました。

2019年11月・FZS1000Rレーサー
2019年11月のFZS1000Rレーサー

見る方が見れば、この車両のある程度の詳細は分かるかと思います。既に何度もレースに出場していますので、今更隠す必要もないでしょう。ですから、このブログで紹介しても、おそらく大丈夫かと思います。

フレームは鉄ですが、その他のベースはスーパースポーツ車両です。車名に『FZS』と名付けていますが、誰が見ても別車両です。もちろんハーネスやECUは、レースキットが使われています。純正では、たとえば「1~7」まで変更出来るモードがあったとします。通常のストリートで使うのであれば、それだけの範囲で変更できるので、十分かとは思います。

しかし、実際にサーキットを走ると、たとえば「1~2」の中間を試したくなるのです。例えば、「1.2」、「1.5」、「1.7」と、3種類くらいのモードを試してみたくなるのです。それは、燃調やマッピングだけでなく、各種制御も同様です。しかし、ただのヘッポコライダーでは、細かな知識がありませんので、どうにも出来ません。そんな時に頼りになるのが、メーカー系のメカニックの方々です。

彼らの話を聞けば聞くほど、メーカーのレースキットだけでなく、200馬力近い出力の現行スーパースポーツを速く、しかも壊さないように走らせる為の考え方や詳細な作り込みが、少しずつですが理解できてきます。

たとえば点火時期やマッピング、燃料噴射量やタイミングが決められるまでに、何が優先されて、どこまで考えられて、リスク管理はどうなっていて、どこまでを許容して、何を防ぐためにそうなっているのか・・・、などが、少しずつですが分かってきました。分かれば分かるほど、メーカーは凄いな!!と感じさせられます。

正直に言えば、以前から行われている街乗り車両の「ECUの書き換え」は、個人的にはあまり信用してはいませんでした。もちろんこれは、私個人が思うことであって、書き換えを否定するものではありません。ただ「ECUの書き換え」は、少なくともオートバイを理解しており、実際にある程度は走れて、コンピューターにも詳しい方が行うのが、必要最低限の条件かと思います。

当然ですが、実走行でのテストや確認作業も、必要になるでしょう。確認もしないで、何を信じて走れるのか?ということです。

現行スーパースポーツにレースキットを組み込んだ車両に、メーカーで経験を積まれた方が少しイジっただけの車両でも、感じることや思うことは、たくさんあります。市販車をテストされている方々のお話も、何度か聞いたことがあります。レースキットのテストをされた方の痛い話も、聞いたことがあります。

目に見えない「ECUの書き換え」は、できればある程度のテスト走行をしながらの作業が、安心できそうな気もしますが、そうはいかないものなのでしょうか。難しいところです。

私自身が経験してきた「ECUの書き換え」は、全てヤマハのR1エンジンであり、しかもハーネスやECUなどは、レースキットのものです。贅沢な組み合わせでしょう。一般のストリートユースの方では、経験出来ないことかと思います。

ただ、そんな経験を踏まえた上で言わせてもらえば、アナログな昭和のヘッポコ親父には、そこまで詳細で良く出来たメーカーのレースキットであれば、信用出来ます。しかし、ストリートユース車両の「ECUの書き換え」は、やはり信用は出来ません。ですから、これからも乗ることは、おそらくないでしょう。

もし、知識と経験のあるメーカー出身者が作業をするのであれば、テストくらいはするかもしれません。

そんな事も踏まえ、私は個人的には、インジェクション仕様のXJR1300には、全く興味はありません。ですから、乗ることもイジることも、おそらく今後も無いでしょう。


インジェクション車のXJR1300は?

もう数年前ですが、某ショップの造ったインジェクション車のXJR1300で、筑波サーキットを走っているライダーがいました。昔から良く知っている、経験豊富な国際ライダーの方です。

インジェクション車だと気づいた時は、チャレンジャーだなぁ、と思いました。ライダーではなく、ショップがインジェクション車の可能性を試したかったのだと想像しました。私の感覚だと、国際ライダーがわざわざインジェクションを選択するハズはありませんから。

気になって走行を見ていましたが、何だか苦労して乗っているように感じました。

次に会った時は、インジェクションが外され、FCRキャブレターに変更されていました。

「あれ?○○ちゃん、インジェクションはどうしたの?」
『いやぁ~、いろいろとあって・・・』

それだけの会話で、十分に伝わってきました。

その後、「SOHCピストンが欲しい!」という方が来られ、インジェクション仕様で筑波を走る、とおっしゃっていましたが、その後どうされたのかは、知りません。ファミリー走行以外で、インジェクションのXJR1300で走る方も、一度も見ていません。少なくとも、XJR1300という車種でのインジェクションの可能性は、それが答えだと感じています。


XJR1300で速く走りたいのなら・・・

インジェクションの可能性を否定する訳ではありませんが、現状で考えれば、XJR1300で速く走りたいのなら、レーシングキャブレター一択しかないと思われます。

私だけでなく、多くのライダーの実績や経験、タイムを見れば、それは明らかかと思います。それでもインジェクションにこだわって走りたい!という方がいれば、お手伝いは出来ませんが、影からコッソリと応援します。泣きたい事は何度もあるかと思いますが、頑張ってくださいね。

ちなみに、インジェクションに手を出すのであれば、オートバイの知識が豊富で、点火タイミングや圧縮比、バルブタイミングといった、いわゆるマニアックな知識と経験が豊富な方と一緒でないと、イバラの道を歩く結果になると思います。

点火時期や燃料の調整を少し間違えるだけで、エンジンは簡単に壊れますよ。頑張ってくださいね♪


オーバーホールについて

XJR1300のキャブレター車であれば、既に生産から15~20年程度は経過しています。XJR1200であれば、それ以上です。つまり、立派な旧車ということです。

エンジン関係のパーツは、既に幾つかは販売終了になっています。つまり、もう新品では購入できません。他メーカーでは、すでに酷い状況になっています。ヤマハがいつ同じ状況になっても、不思議ではありません。

このような状況は、私たちエンドユーザーには、止めることは出来ません。出来ることは、一刻も早く、新品パーツが少しでも数多く入手できるうちにオ-バーホールし、リフレッシュすることくらいです。

これから少しでも長く安心して乗るためには、エンジンをオーバーホールすることが最良の方法です。メーカーから部品が出ている今であれば、それが可能です。

ヤマハXJR1300のことであれば、どのようなお悩みやお問い合わせでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。XJR1300のスペシャリストが、お一人お一人に親身になってご回答いたします。

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