ピストンのトラブル

この写真は、デトネーションの発生によりダメージを受けた、SOHC製スペシャルピストンです。いくら高強度でも鍛造でも、デトネーションが発生すれば、簡単にこのように溶けます。
以前に、「私のエンジンの圧縮比は、14.0以上あります。測りました。」と言われた方がおりました。このような数字をおっしゃる方は、まず間違いなく「コンプレッションゲージ」の数字と混同して、お話しています。プラグホールにゲージをセットし、セルボタンを押して測定する数字のことです。
そもそも、本当に圧縮比が14.0以上あったとしたら、まず簡単にはエンジンは始動しません。そして暖気だけで、デトネーションが発生します。
デトネーションとは、「衝撃波を伴った高速燃焼現象」とも言われる、異常燃焼のことです。(興味のある方は、ご自身でお調べください。)ガソリンエンジンでこのデトネーションが発生すると、エンジン内部に大きなダメージを与えます。分かりやすく言えば、簡単にピストンが溶けます。
内燃機関の3大要素は、
『良い混合気』、『良い圧縮』、『良い点火』、この3つです。オートバイのチューニングエンジンでデトネーションが発生した場合、キャブレターセッティング(良い混合気)と圧縮比(良い圧縮)も関係している場合は多いですが、最も多い原因が、『点火』です。パワーを出そうと圧縮を上げて、その状態で点火時期を甘く考えていると、デトネーションが発生します。
ノーマルピストンでも、発生します。


上記の写真は、純正ピストンです。このダメージは、プラグホールから落ちた異物などではなく、明らかにデトネーションでのダメージです。
私は、デトネーションで溶けている純正ピストンを、このエンジンで初めて見ました。なぜ、このような状態になったのか、非常に気になりました。すると、・・・

昔、点火時期を早めるとパワーが出る等と、雑誌に書かれていました。実は1200が発売された直後、点火時期をいろいろと変化させて、実際に走ってみたことがあります。まだまだライダーのセンサーは大したこと無かった時代ですが、それでも何度もテストしました。その結果分かったことは、点火時期を早めても『良いことは何もない。』でした。
この写真から推測すると、ピックアップベースの取り付け穴を長穴に加工して、点火時期を早めたのだと想像できます。その結果、ピストンにもシリンダーにもヘッドにもダメージを与えた訳です。実際に走った感想を聞いた訳ではありませんが、良いハズも速いハズも、おそらくありません。
ピックアップベースプレートやクランクシャフトに取り付けるロータで、点火時期を早めるといった商品も、昔は幾つか販売されていました。点火時期を早める手法は、少なくとも私の走行実験では、NGでしたが、実際はこのエンジンが、どの程度パワーアップしたのか、それともしなかったのか、点火時期がどの程度早められていたのか、私には分かりません。もし点火時期を変更させる場合は、『何度の変化なのか?』程度は、測定しておくべきかと思います。
- 点火時期を変えると、どうなるのか?
- デトネーションの危険性と、そのリスクとは?
少なくとも、そのあたりの事をある程度理解している方でなければ、点火時期をむやみに早めるような事は、するべきではないと考えています。
シリンダーやヘッドにも、ダメージを与えます。

デトネーションでダメージを受けたシリンダー

デトネーションでダメージを受けたシリンダーヘッド
このシリンダーやヘッドのダメージは、一見すると、異物での損傷のようにも見えますが、原因はデトネーションによるものです。
デトネーションは、高回転でなくても、高負荷を掛けた走行でなくても、簡単に発生します。原因が回し過ぎではありませんので、暖気だけでも発生します。
では何故、デトネーションが発生するのでしょうか・・・?
デトネーションの発生原因は?
デトネーションとは、通常の燃焼がプラグの点火で始まるのに対し、圧縮中に自然発火して、衝撃波を伴う爆発が発生する現象です。チューニングエンジンでデトネーションが発生した場合、その原因の多くは、キャブセッティングと点火時期だと言われています。
チューニングといえば、「圧縮を高めて点火時期を早めるもの」といったようなことが、昔はよく雑誌にも書かれていた気がします。私たちのように、自分でエンジンを分解し、どうやったら速くなるのだろう、と考え、あれこれと実践してきた世代のバイク乗りは、何度も失敗しながら、様々なことを学んでいったものです。
『パワーは欲しいけれど、デトネーションやエンジン破損はイヤだ!』
当たり前ですが、誰でもそう考えます。じゃあ、デトネーションを発生させない為には、どうしたら良いのだろう・・・
それを考えて何度もテストしたら、壊れなくなりました。
- 圧縮比は、どの程度に抑えていた方が良いのか?
- 圧縮が幾つでは、点火時期はどの程度であれば大丈夫なのか?
- キャブセッティングは、どの程度であれば問題ないのか?
XJR1300は、アナログなオートバイです。「良い混合気、良い圧縮、良い点火」、
この3項目は全て、コントロールできます。そしてそれぞれの役割と許容範囲を理解すれば、チューニングエンジンでも、デトネーションは防ぐことが出来ます。
現代のオートバイは、素晴らしいです!
私は、長年ヤマハ党です。ですから、スーパースポーツ車と言えば、当然ですが『YZF-R1』となります。このR1ですが、レースキットを組み込めば、恐ろしいことに『190馬力』とかの出力になります。もはや、誰でもが乗れるオートバイではありません。
ところが、そこまでの高出力なオートバイでも、各種の制御が非常に発達してきたおかげで、乗るライダーを選ばなくなりました。右手は、タイヤのグリップを感じながら、細かく微調整する必要は、ありません。急に全開にしても、フロントが浮き上がってウィリーコケすることも、ありません。ハイサイドも、発生しません。しかも、昔の高出力なレーサーのようなエンジンブローは、ほとんど見る事も無くなりました。何故でしょうか?
開発者たちの話を聞いた時、
『そこまで細かく考えられていて、そこまで繊細に制御されているんですね!』と、感動したものです。デトネーションの発生理由で書いた点火時期や燃料噴射量(キャブレターでいえば、セッティング)、スロットル開度などが、非常に細かく制御されています。『なるほど、それだと殆どのエンジンブローは防げるね♪』と思わせるものです。
昔は、エンジンブローを良く見ましたが、現在ではほとんど見なくなった理由も、そこです。技術の進歩って、素晴らしい!、心からそう思えます。
私たちのような古いオートバイ、アナログなオートバイが好きな変わり者たちでも、ある程度の仕組みを理解していれば、チューニングエンジンを楽しむことは出来ます。XJR1300でも、現代のオートバイに走りで負けないようなイメージで、オートバイ造りをすることも可能です。
スペシャルピストンも、多少ですが、在庫はあります。そんなXJR1300を造りたい、とお考えの方は、まずはご相談からお願いします。
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