久しぶりの1200エンジン

XJR1200

おそらく過去15年は、間違いなくやっていません。20年ぶりくらいの気がします。それくらい久しぶりに、1200エンジンをオーバーホールさせて頂きました。

XJRは1998年に、1200から1300に変更されました。その後、中古エンジンが少しずつ出回るようになると、1200のオーナーの間では、1300エンジンに積み替えることが流行るようになってきました。くたびれた1200エンジンを、中古の1300エンジンに積み替える、ということです。

その他にも、どうせ改造するなら、始めから1300エンジンを使ったほうが良い、という方も、多くなってきました。必然的に、1200のエンジンはオーバーホールもチューニングもしなくなりました。

実は私のストリート用車両も、1200のフレームに1300エンジンを載せています。ですから正確には、「1200改」と言えるのかもしれません。

そんな中、本当に久しぶりに『XJR1200』のエンジンを、オーバーホールさせて頂きました。


1200エンジンのリスク

私は、実は1200エンジンのオーバーホールは、あまり歓迎してはいませんでした。ちょっとしたリスクがあるからです。出来れば1300エンジンをオーバーホールした後に載せ替えることを、ご提案していました。一番の要因は、部品供給です。特に、下記のパーツが「販売終了」になっているから、交換が必要なほどの摩耗や破損があった場合、対処が大変になるからです。

  • ピストン
  • シリンダー
  • コンロッド

これらのパーツは、1200エンジンの基幹パーツです。1300エンジンのパーツとは、当然ですが共用出来ません。もしピストンにダメージがあったら、もしシリンダーにダメージがあったら、簡単には交換することが出来ないのです。

1300エンジンでも、時折、シリンダーの交換が必要な場合があります。ピストン交換が必要な場合もあります。しかし、パーツが販売終了になっていますので、例えばシリンダーにダメージがあった場合は、スリーブを製作して打ち替える必要があります。ピストンは、77mmの社外ピストンがあれば、そのまま使えますが、あるかどうかは、確認もしていません。

ただ、皆さんが思っている以上に、ピストンやシリンダーのダメージがあるエンジンは、多いものです。おそらくは、プラグホールからの砂や異物の落下が、その原因の殆どかと推測しています。

いずれにしても、そうなった場合は、面倒臭いことが起きます。開けてみて、初めて破損やダメージが判明する場合がほとんどでしょう。そこまでの覚悟をされているのであれば、もちろん1200エンジンでも、オーバーホールは可能です。

XJR1200のシリンダー
XJR1200のシリンダー

XJR1200のピストン
XJR1200のピストン

幸いにして今回の1200エンジンは、ピストンもシリンダーもダメージや破損は、ありませんでした。ピストンも、カーボンを落としてリングを交換すれば、問題なく再使用できそうです。一安心です。

カーボンを落としたXJR1200のピストン
カーボンを落としたXJR1200のピストン

これがカーボンを落とした1200のピストンです。サイド部の摩耗も気になるものではありませんので、十分に再使用が可能です。


1200エンジンの、要交換部品とは?

XJR1200には、FJから受け継いだ、あまり宜しくない弱点があります。それが、「スタータークラッチ」です。エンジンを始動させる際に重要な働きをする部品です。

1300に変更される時、このスタータークラッチも改善されました。これで随分と、故障は少なくなったようです。1200の時代は、「セルボタンを押しても空回りしているようで、エンジンが始動しない」というトラブルが、時々発生しました。それが改善された訳です。

XJR1200のスタータークラッチ
XJR1200のスタータークラッチ

写真の左側が、1200のスタータークラッチです。右は、変更された1300のスタータークラッチです。もちろんこのエンジンには、1300用のスタータークラッチを組み込みました。

このスタータークラッチですが、クランクケースを割らなければ、取り出すことが出来ません。最近では、1300エンジンでも、このスタータークラッチのトラブルを時折、耳にします。実際にご相談もあります。ですからオーバーホールする際は、どうせクランクケースを割るのですから、主要部品だけでも交換することをお勧めしています。

この部品を交換するだけでも、クランクケースを割らなければならない訳ですから、掛かる手間は、オーバーホールと変わりません。マフラーやキャブレターを外し、オイルを抜いた後にエンジンを降ろし、ヘッドやシリンダー、ピストンを取り外し、クランクケースを上下に分割する必要があるのです。

もし、このスタータークラッチの不調が発生した時、この部品の交換の為だけにケースを割りますか?

もし私が依頼を受けたら、オーバーホールと同じ手間賃を頂く事になります。手間は変わりませんから。


バルブステムシール

バルブは、数えるのがイヤになるほど上下の往復運動を繰り返しています。文句も言わず、本当にエライものです。人間なら、すぐに弱音を吐くに違いありません。

そのバルブは、バルブステムという筒状の中に入った状態で、上下に動きますが、そのバルブステムをシールする役目のパーツが、「バルブステムシール」です。

取り外したXJR1200のバルブステムシール
取り外したバルブステムシール

オイルをシールする大切なパーツですが、弾力は全くありません。25年間以上も交換されずに働いてきたのですから、当然でしょう。

ここからオイルが燃焼室に入り込むことを、「オイル下がり」と言うことがあります。シール性能の悪化により、オイルが入り込んでしまう訳です。すると、オイルが混合気と一緒に燃えますので、排気に白煙が混ざるようになります。

このような状況になると、悪くなることはあっても、良くなることはありません。オイルが燃焼室に入り込む原因は、これだけではありませんが、長年の疲労や部品の劣化は、間違いなくエンジン内部で起こっています。

これは何も1200だけの話ではありません。1300エンジンでも、オーバーホールで分解したエンジンのステムシールの弾力は、ほとんど残ってはいません。ステムシールだけでなく、ピストンリングも、燃焼室にオイルを侵入させない重要な役目を持っています。でも、当然ですがこちらもお疲れ様の状態が殆どです。これらのパーツを交換すれば、調子が良くなって当たり前、ということです。


蘇ったエンジン

蘇ったXJR1200エンジン
蘇ったXJR1200エンジン

シリンダーとヘッドは化粧直しの塗装をして、インシュレーターも交換した1200エンジンは、こう見ると、なにやら誇らしげにさえ見えてきます。

『オレだって、まだまだ働けるんだぞ!!』
そう言っているに違いありません。

エンジンをオーバーホールしたXJR1200
エンジンをオーバーホールしたXJR1200

完成車両を、いつものように宮ケ瀬湖まで試乗してきました。エンジンを組み立てた直後ですから、回転数はもちろん抑えて走ります。それでも、

『XJR1200って、こんなにパワーがあって良く走る車両だったっけ??』

そう思えるほど、何の不満も無いエンジンパワーです。キャブレターやマフラー、Rサスペンションなどにも、オーナー様の手が入っていますので、吹け上がり感や全体の動きが良いので、余計にそう感じるのかもしれません。

これだけ走るようになれば、何の不満もなくツーリングにも行けると思います。


XJR1200のオーナーの方へ

私の方が、少し神経質になっていたのかもしれませんが、シリンダーとピストンに重大なダメージが無ければ、1200エンジンでもオーバーホールする価値は、十分にあると感じました。

ただし、何度も言いますが、もしピストンやシリンダーにダメージがあった場合は、シリンダーを製作する、中古品を探す、中古エンジンを探す、など、コストや手間の掛かる作業が待っていることだけは、ご理解くださいね。それも覚悟の上であれば、「こだわり」を持って、1200エンジンの乗り続けるのも、楽しいかもしれません。

もし、そよのうにお考えの1200オーナーの方がおりましたら、まずはお気軽にお問合せ、ご相談ください。

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