レーシングキャブレターの使い方

先日、久しぶりに筑波サーキットに練習に行ったところ、遠方の宮城県から練習に来ているアベちゃんに、久しぶりに会いました。

「高野さん、ブログの更新がされていませんよ!」
はい、申し訳ございません。こんなヘッポコ親父でも、ご依頼下さる方が続いておりますので、日々、忙しくさせて頂いております。その合間を見て、自分の街乗り車やレーサーの整備も、しなければなりません。

ちょっと言い訳を言ってみました。他人や子供達には、『言い訳はするな!!』と偉そうに言っているのですが、自分で言っているのですから、世話のやける困ったオッチャンですね。申し訳ございません。

本当は、毎日最低でも1時間は文章を書く時間を作りたいのですが、思うようには行かないものです。もう少し頑張ります♪。まだまだ修行が足りないようです。

さて今回は、以前から感じていた『レーシングキャブレターの使い方』について、考えてみようと思います。


インジェクションへの変化について

XJR1300の純正キャブレター
XJR1300の純正キャブレター

2000年を過ぎた頃から、オートバイはキャブレターからインジェクションへと、徐々に変わっていきました。これは、パワーとか燃費とかの問題ではなく、厳しく変化していく『規制』に対応する為です。

50ccのスクーターでも1,000ccのスーパースポーツでも、それは変わりません。世の中の流れですので、仕方のないことなのでしょう。私たちユーザーには、どうしようも出来ないことです。

『ザ、昭和』のオジさんたちからすれば、2サイクルエンジンが無くなり、速いスクーターも無くなり、キャブレター車も無くなり、昔を思い出してため息を付くことも多くなりました。とは言っても、楽しいオートバイを、そう簡単には辞められません。

ヤマハのXJR1300も、規制の為の変化は、徐々に進んでいきました。2000年からは、「AIS(エアインダクションシステム)」が装備され、2007年式では、とうとうインジェクションとなりました。

インジェクションに変更されたXJR1300
インジェクションに変更されたXJR1300


オートバイに求めるもの

二輪車(オートバイ)は、乗用車とは異なり、基本的には趣味の乗り物です。ですから外観だけでなく、操作性や排気音、乗り味、出力特性といった要素は、非常に重要です。

それだけでなく、カスタムやチューニングといったカテゴリーが確立されているくらいですから、イジりやすさや改造のしやすさ、パーツの多様性なども、思いの外、重要な要素になってきます。特に私たちのような、レースや速く走ることに興味を持ち続けている昭和のオッサン世代には、尚更です。

この歳になって思い返すと、速く走るオートバイばかりを追い求めていた気がします。オートバイが速くなれば、レースで競っている相手を抜くことができます。ブレーキの効くオートバイになれば、コーナーの侵入で今よりもっと無理ができます。カッコ良いオートバイはもちろん大好きですが、そんなことよりも貧乏レーサーは、より速さを求めていた気がします。

昔のオートバイは、現在のスーパースポーツ車と違って、速くするために出来ることが、いろいろとありました。多くの方が、創意工夫で様々なチューニングも行っていました。レーシングキャブレターへの変更も、そのような速くする手法の一つでした。

レース車両では、そのレースごとのレギュレーションがありますが、ストリート用のオートバイでは、もっともっと自由度が高まります。

テイスト・オブ・ツクバを走るXJR1300
テイスト・オブ・ツクバを走るXJR1300

XJR1200が発売された頃から流行り始めた、通称『テイスト』というレースがあります。4気筒・鉄フレーム・ストリートタイヤ、といった程度の決まりごとの中で始まったレースです。知識もなく、データなんていうものは皆無な頃、多くのライダーやバイク好きな人々が、やる気だけで参加していました。

どう見ても速く走りそうもないオートバイを、様々な工夫やパーツ交換、手間、情熱で速く走らせようと、多くのオートバイ馬鹿が頑張っていました。その頃の経験と、その少し前に流行ったシングルレース・ツインレースから、オートバイを造るということ、速く走らせるためのパーツ選択、改造、工夫など、非常に多くの事を学び、経験し、実際に走らせる機会も、たくさん頂きました。

シングル、ツイン、4気筒、筑波、もてぎ、SUGO、西仙台、FISCO、鈴鹿・・・、こんなヘッポコ親父にたくさんの機会を下さった方々には、本当に感謝しています。痛い思い出だけでなく、良い思い出もたくさん作ることが出来ました。

400ccのフレームにチューニングしたシングルエンジンを積み、フロント回りにはTZフォークを使ったり、トルクを出す為に左右のエキパイをパイプで繋げたり、CRキャブレターのスロットルバルブのカッタウェイまで変更してみたり、本当にいろいろと経験させて頂きました。

シャフトドライブをチェーンドライブに変更された車両にも、乗せて頂きました。平忠彦さんと同じレースにも、出させて頂きました。詳細を聞いてはいけないようなレーシングマシンにも、乗せて頂きました。

経験したくても出来ない、貴重な経験です。本当に有難いことです。そんな経験が、私のオートバイ造りやメンテナンス、カスタム、チューニングの基になっているのは、間違いありません。


レーシングキャブレターに求めるもの

ミクニ製レーシングキャブレター・TMR
ミクニ製TMRキャブレター

レーシングキャブレターに求めるものは、もちろん速さです。それだけです。乗り心地とか操縦性とか、そんな事は考えたこともありません。その求めるものは、ストリート用のオートバイでも同じです。

私がストリート用に使用するレーシングキャブレターは、ミクニ製TMRキャブレターだけです。他は使いません。理由は何度かお伝えはしていますが、ワガママ親父のこだわり、とお考えください。ケーヒンFCRは、申し訳ありませんが、セッティングもオーバーホールもしておりません。手持ちのジェット類もありません。

ただ、レーシングキャブレターに求める『速さ』を考えるとき、またセッティングのしやすさ、パワーの出方、キャブレターの造り、どれを取っても『ミクニ製TMRキャブレター』があれば、それで十分だと感じています。

ストリートユースの方々も、当然速さを求めてレーシングキャブレターに変更しているのだと思いますが、レーシングキャブレターは『ボコつく、息つきが発生する、気持ちよく加速できない、走りにくい』といった話を、よく耳にします。

中には、取り付けたショップに相談しても、「レーシングキャブレターなんだから、そんなものだ。」と言われる事もあるらしいです。本当にそうなのでしょうか・・・。レーシングキャブレターは、ストリートでは走りにくいものなのでしょうか・・・。ボコ付いたり息つきが発生して走りにくいものなのでしょうか・・・。

私は、XJR1200が発売されて以来、ずっとミクニTMRキャブレターを使っています。サーキットでもツーリングでも、使っています。でも、使いにくい、走りにくい、と感じたことは、一度もありません。

では、なぜ多くのレーシングキャブレターのユーザーが、走りにくいと感じているのでしょうか・・・。


理屈と右手の関係

若い頃は、たいした事を考える訳でもなく、ただ走っていました。レーシングキャブレターの構造も知らないうちに、何台ものレーシングキャブレター付きマシンに乗る機会もありました。そんな時代に気づいたことは、『ジワっとスロットルを開けないと、付いてこない!』ということでした。

そのようなレーシングキャブレターが装着された車両は、どれも私が製作したものではなく、人様が製作された車両でした。ですから、「私は乗る係、あなたはイジる係」といった具合です。でも、私だけでなく、多くのライダーが同じ事を言っていました。そんな昭和のオッサンたちの右手は、『ジワっと早く開ける!』ことに、自然と慣れていったものです。

今は、強制開閉のレーシングキャブレターの仕組みも、ある程度は分かります。純正の負圧キャブレターとは異なり、右手をひねった分だけ、スロットルバルブが上がり、多くの空気を吸い込む仕組みです。その際、負圧でフロート内のガソリンが吸い上げられるのですが、スロットルをガバ開けすると、急激に大量の空気が流れ込み、その空気量に見合ったガソリンが吸い上げられない現象が起こります。つまり、「薄く」なる訳です。これが、ガバ開けした時のボコ付きの正体です。

このボコ付き現象を少しでも緩和するために、昭和のオッサン達は、自然と『ジワっと早く開ける!』ことを覚えていった訳です。ボコ付きが発生するギリギリのあたりで、スロットルを開けていくのです。

人が見たら、いきなりガバ開けしているように見えたとしても、本人は『ジワっと早く』開けているのです。


セッティングで乗りやすくできるのか?

ストリートでは、微々たる開度からいきなりガバ開けするような事は、まず無いでしょう。それでも、たとえば追い抜きをする際、アクセル開度が10分の1程度から、半分くらいまで開けることはあると思います。その時にボコ付きや息つきを起こさないようなセッティングは、可能なのでしょうか・・・。

その領域を主に受け持っているのが、『JN(ジェットニードル)』というパーツです。針状のパーツです。実はその領域が、ストリートユースで最も使われて、もっとも走りやすさに影響を与える部分です。

よく、「MJ(メインジェット)」の番手を気にされる方がおりますが、MJの受け持つ領域は、アクセル開度2分の1以上~、の領域です。1300ccもある車両で、いったいどの程度、アクセルを2分の1以上も開けている時間があるのか、を考えると、実はMJは、あまり重要ではありません。

ツーリングを考えると、アクセル開度4分の1以下が、圧倒的に使われる領域のはずです。キャブレターが変更されているXJR1300では、それでも十分に速く走れると思います。

ですから、特にストリートに使用する場合は、このJNの領域のセッティングが、最もシビアで重要になります。針の太さやテーパー各、クリップの段数などを変更して、レーシングキャブレターの宿命である『ガバ開け時の薄くなる症状』を、できるだけ緩和してあげる必要があります。

ゼロ発進から急加速まで、できるだけネガな部分を無くしたセッティングが出来れば、ストレスを感じることなく、ストリートでもレーシングキャブレターを楽しむことが出来るでしょう。

XJR1300に装着されたミクニ製TMRキャブレター
XJR1300に装着されたミクニ製TMRキャブレター

『ボコつく、息つきが発生する、気持ちよく加速できない、走りにくい』

レーシングキャブレターでこのようなストレスを感じている原因のほとんどは、セッティングの問題です。細かな領域までセッティングされたレーシングキャブレターであれば、どんなアクセル開度でも、どんな領域でも、ストレスなく走れるはずです。しかも、純正キャブレターとは比較にならないパワーとレスポンスを、ライダーに与えてくれます。

それがどのような乗り味なのか、言葉で説明するのは思いの外難しいのですが、今まで当ガレージでミクニTMRキャブレターを取り付けた方は、どの方も一様に
『パワーが上がって、レスポンスも良くなって、楽しいオートバイになった』

とおっしゃってくれます。この感覚こそ、インジェクションでは味わえないものだと思っています。キャブレター車の特権です。

ただし、品薄状態が続いておりますので、ご注文頂いても、入荷までには3~5ヶ月程度は必要です。もしご入り用の場合は、お早めのご注文をお勧めします。


XJR1300のキャブレター車であれば、既に生産から15~20年程度は経過しています。XJR1200であれば、それ以上です。つまり、立派な旧車ということです。

エンジン関係のパーツは、既に幾つかは販売終了になっています。つまり、もう新品では購入できません。他メーカーでは、すでに酷い状況になっています。ヤマハがいつ同じ状況になっても、不思議ではありません。

このような状況は、私たちエンドユーザーには、止めることは出来ません。出来ることは、一刻も早く、新品パーツが少しでも数多く入手できるうちにオ-バーホールし、リフレッシュすることくらいです。

これから少しでも長く安心して乗るためには、エンジンをオーバーホールすることが最良の方法です。メーカーから部品が出ている今であれば、それが可能です。

ヤマハXJR1300のことであれば、どのようなお悩みやお問い合わせでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。XJR1300のスペシャリストが、お一人お一人に親身になってご回答いたします。

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