ボルトの洗浄は必要・・・?

オートバイのエンジンを、自分で分解したりチューニングしたりするようになったのは、もう30年以上も前のことです。好きだから、ではありません。必要に迫られて、ということです。


整備を始めたキッカケ

クランクケースの組み立て作業

私がオートバイのレースに魅力を感じ始めた頃、簡単に言えば『カッコいいなぁ~、オレもやってみたいなぁ~』と思い始めたのは、いわゆるレースブーム真っ只中の時代でした。今思い返すと、間違いなく『空前のレースブーム』でした。鈴鹿4耐のエントリーは、確か600台を超えた時もありました。筑波の32台の決勝グリッドを、クラスによっては300台以上で争っていた時期でした。

そんな時代にレースを始めたのですが、プロダクションクラスはまだ良かったものの、昇格対象のレースに出るには、よほど腕の立つライダーでなければ、ノーマルエンジンではどうにも出来ない時代でした。

そんな昇格対象クラスに、「F-3」というクラスがありました。2サイクルの250と4サイクルの400の混走で、エンジンはある程度の改造が認められていました。メーカーからは、キットパーツも販売されていました。当然そのクラスを走るには、キットパーツを組み込んでチューンアップしていく訳です。

でも、当時からレースを走りたい若者は山ほどいましたが、皆、お金がありません。有力チームで群を抜いた実力を認められた、ほんのごくわずかなライダーだけはサポートを受けることができますが、その他大勢のライダーは、借金をしながら、なんとかやり繰りするしか方法はありません。

そんな中で私の選択した方法は、『自分で整備をする』でした。特に整備学校や機械学科を出た訳でもなく、詳しかった訳でもありません。多くの同じような境遇の若者たちがやっていましたので、『同じようにやってみる』、と決めただけです。ですから、何も特別なことはありませんでした。

安い工具セットを購入し、サービスマニュアルとパーツリストを購入し、暇さえあれば眺めていました。


ボルトまで洗浄するようになったキッカケは・・・

またまた話が脱線してしまいましたね。古い話は、また機会がありましたら書くことにして、話を元に戻しましょう。

XJR1200が発売されたのは、確か1994年の春頃だったと思います。当初は、あくまでもツーリング用に購入したのですが、気が付けばサーキットを走っていました。『もっと速く走りたい!!!』、その一心で、半年後にはエンジンを降ろして分解していたと思います。

レース時代には、何度も何度もエンジンを分解しました。時折ですがそんな私に、「自分のXJRのエンジンオーバーホールをやって欲しい!」という、なんとも奇特な方が時折現れて、人様のエンジンの分解もしました。

その頃は、まだ特に意識もしていなかったことでも、今では必ず行う作業や整備箇所が幾つもありますが、『ボルト洗浄』もその一つです。理由は複数あります。

クランクケース締め付けボルトや関連ボルト類

当時は、まだ発売されて間もない頃でしたから、分解してもボルトや小物パーツ類は、ほぼ新品に近い状態でした。ですから、交換したり洗浄したり、なんていうことは、ダメージでもない限りしませんでした。

自分のエンジンは年中開けていましたので、特に意識はしていませんでしたが、時折分解する人様のエンジンは、10年以上も経過していると、いろいろなところが傷んでいるものです。いつの頃からか、ボルト類の汚れや傷みが気になり出しました。

エンジンは、トルクレンチを使って、締め付けトルクを管理しながら組み立てていきます。しかし、いくら高価なトルクレンチを使っても、ボルトが汚れていたり傷んでいるようでは、キチンとしたトルクなんて掛けられるはずがない、そう思えるようになりました。特に、クランクケースを締め付けているボルト類や、エンジンマウントボルトなどは、まず外さないものです。当たり前のように汚れています。そんな、汚れたボルトをそのまま組みたくはありません。

そう考えるようになってからは、外したボルト類は、全て洗浄するようになりました。外観上の理由で頭の部分を洗浄するのはもちろんですが、ネジ部も洗浄します。設定上のトルクでスムーズに締め付けできるようにする為です。

シリンダーヘッドの締め付けナットや関連ボルト類


思いの外、汚れています。

エンジンのマウントボルト類

通常の乗り方をしているだけでは、エンジンを降ろすことなんて、まずありません。普段の掃除でも、手が入りにくい箇所は、なかなかキレイに保つこともできないでしょう。

そんな、エンジンマウントボルトやパーツを外して洗浄すると、驚くほど汚れているものです。上の写真は、数本のボルトや幾つかのナット、スプロケット近くのマウントパーツを洗浄した、洗浄液とパーツ類です。もちろん、ここまで汚れていれば、工具はそのままでは使えません。メガネをボルトの頭に差し込むため、まずはボルトの洗浄をしなければなりません。ボルトやナットの形状が汚れで分からないなんて、ごく普通の状態です。

エンジンを分解していく際に取り外すボルト類も、大抵は汚れているものです。サビているボルトもあります。汚れたボルトをそのまま組み付けるのは、私には出来ません。たとえ時間による傷みはあったとしても、出来るだけキレイな状態にして使います。

エンジン内部のボルトは、オイルが付着していますので、そのままではツルツル滑ります。オイルで滑るボルトをそのまま使うのは、サーキットでの作業くらいです。時間に余裕がない場合を除き、やはりそのままでは組み付けていきません。

気が付けば、取り外したボルト類は、全て洗浄していました。面倒と言えば面倒かもしれませんが、作業する私がイヤなのですから、仕方ありません。

ちなみにスタッドボルトは、基本的には全て抜き取って、新品に交換します。クランクケースのスタッドボルトを抜くと、ネジ穴が傷んでいる場合も少なくありません。トルクが非常に重要な箇所ですから、ネジ穴は必ずタップで修正してから、新品のスタッドボルトを挿入しています。

ネジ穴が傷んでいて、タップ修正でもトルクを掛けられないと判断した場合は、ヘリサート加工することになります。コストと時間は必要にはなりますが、目をつぶって忘れたふりをして組む訳にはいきません。面倒臭がっても、良い事なんて一つもありません。

『どうしようかなぁ~』
そう思う事、悩む事は、時折あります。私も人間ですから、面倒なことや大変なことは、出来れば避けて通りたいものです。でもそんな時は、
『自分のバイクだったら・・・』
『自分のエンジンだったら・・・』
と考えてから決断するようにしています。

やっておけば良かったな・・・、そんな後悔だけはしたくありません。時間が掛かっても、手間が掛かっても、後になって後悔しないような作業をしたい、そう思っています。

クランクケースアッパーのネジ穴修正

クランクケースのネジ穴修正は、古いエンジンでは必須の作業だと思っています。もしこの作業をしないのであれば、スタッドボルトは抜き取らない方が良いかもしれません。汚くて傷んだスタッドボルトをそのまま再使用する方が、傷んだネジ穴にスタッドボルトを組み付けるよりも、よほどトラブルは少ないでしょう。


地味で暗い仕事です。

エンジンのオーバーホールやチューニングというと、ちょっとカッコ良いイメージを持つ方もおりますが、そんな事は全くありません。ほとんどが、暗くて地味な作業ばかりです。組み立てるまでの状態にするだけで、既に作業の8割は終わっています。

昔、ラーメン屋を経営している友人がいました。時々行っては、店じまいを手伝ったりもしました。スープの味が今ひとつだと、呼び出されて味見もしました。

そんな彼の仕事を見ていると、お客さんが来店してラーメンを作って出すのは、仕事の最後の2割だと思えました。もしかしたら、1割かもしれません。

仕事が終わったら油でベトベトになった床や器具を洗い、翌日の早朝からスープの仕込みをします。大鍋で豚骨を煮込みながら古い骨を取り出し、それとは別にベースになる醤油スープを作り、チャーシューを作って薄く切り、ほうれん草を茹でて冷蔵庫に仕舞い、そんな仕事が山のようにあります。

開店準備をして暖簾を出し、割り箸やコショウの確認をして、水を飲むためのコップを準備し、つり銭用の小銭をチェックし、やっと開店です。

お客さんがやってきて、麺を茹でてスープの中に入れ、チャーシューやほうれん草を乗せてテーブルに出すのは、全ての仕事量のほんの1割程度です。お客さんには見えませんが、残りの9割で、味や集客など、全てが決まります。

私が今やっているエンジン作業も、ラーメン作りと全く同じです。分解し、部品やボルト類をチェックし、ダメなものは修正したり交換します。ガスケットを剥がし、必要部品を拾い出して発注し、洗浄し、乾燥させて、やっと組み立て作業に入ることが出来ます。ここまでの作業で、出来上がりの9割は既に決まっています。

きっと、どんな仕事でも同じでしょう。見えない下準備で決まるのです。エンジンのオーバーホールやチューニングなんて、暗くて地味な作業ばかりです。カッコ良いことなんて、何もありません。

でも、出来上がったエンジンに火が入ると、ホッとします。調子よく走っている姿を見ると、ちょっと嬉しくもなります。

常日頃、そんな作業をしていますので、美味しい飲み物や甘いデザートの差し入れは、大歓迎です! お待ちしていますね♪


パーツがあるうちにオーバーホールしましょう♪

XJR1300のキャブレター車であれば、既に生産から15~20年程度は経過しています。XJR1200であれば、それ以上です。つまり、立派な旧車ということです。

エンジン関係のパーツは、既に幾つかは販売終了になっています。つまり、もう新品では購入できません。他メーカーでは、すでに酷い状況になっています。ヤマハがいつ同じ状況になっても、不思議ではありません。

このような状況は、私たちエンドユーザーには、止めることは出来ません。出来ることは、一刻も早く、新品パーツが少しでも数多く入手できるうちにオ-バーホールし、リフレッシュすることくらいです。

これから少しでも長く安心して乗るためには、エンジンをオーバーホールすることが最良の方法です。メーカーから部品が出ている今であれば、それが可能です。

ヤマハXJR1300のことであれば、どのようなお悩みやお問い合わせでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。XJR1300のスペシャリストが、お一人お一人に親身になってご回答いたします。

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