エンジンその4、クランクケース

軽量加工したXJR1300のクランクシャフト

XJRレーサーに使うクランクシャフトですが、以前に軽量加工したうえで保管しておいたものを使うことにしました。こんな時の為に、1本だけ取っておいたのです。

この加工は、相当に面倒臭くて大変な作業のようです。以前に加工依頼をした会社の工場には、これを加工できる機械はあるそうなのですが、関東にはその機械を保有している会社がほとんど無く、昔から聞いたことのある、あんな車のチューニング屋さんやこんなブランド名のショップのクランク加工も、この工場で加工されているとのことです。

現在は、昔のチューニングブームの頃と比べて、このような加工はほとんどしなくなったようです。昔の職人さん達も退職されて、私のクランク加工は、見本が無いと出来ない、ということになり、街乗り用のXJR1300エンジンを一昨年にオーバーホールした際、サンプルとして2ヶ月近くも貸出していました。寸法だけでなく、様々なデータ取りをしたようです。

軽量加工したXJR1300のクランクシャフト

この角度ですと、ウェイト部が扇形に削られているのが分かるかと思います。外周を削るのが一番簡単なのですが、ウェイトの直径が小さくなり、トルクがどうしても無くなります。ですから、中心から出来るだけ遠い箇所の重さも残しておく為に、このような削り方になる訳です。

もう25年くらい前でしょうか、数本のクランク加工をしたことがありました。もちろん、レースに使う為です。その時に応援してくれていた、大きな内燃機会社に勤める方が、この削り方で削ってくれました。ただの外周切除のタイプよりも、ずっとトルク感があり、走りやすかったものです。

XJR1300をレースで使わなくなり、ストリート用ならまだ十分に使えると考え、一番感触の良かったこのタイプのクランクシャフトを、ストリート用エンジンに使っていた、という訳です。

XJRレーサーでも、時折クランクシャフトが折れる、といった話は耳にします。何らかの原因でバルブが落ちても、簡単にエンジンは全損です。昔、「F-3」というクラスを走っていた頃は、そんな経験を何度もしました。年中、バルブが落ちたエンジン、コンロッドがケースを突き破ったエンジンなどを見てきました。ですから、どんな加工をしても、「壊れる時には、簡単に壊れる」と思っています。それがレースです。

とはいえ、エンジンを造る際には、出来るだけ手をかけて、良いエンジンを造りたいものです。出来るだけ、壊れなくて長持ちするエンジンにしたいものです。そんなエンジン造りも、レースの楽しみの一つかもしれません。

以前に、以下の記事の際に載せた画層です。左側が純正の無加工クランクで、右が今回と同じ削り方をしたクランクシャフトです。

XJR1300のクランクシャフト
XJR1300のクランクシャフト

同じように軽量加工をしたクランクシャフトを使いたい、という方も、時折いらっしゃいます。実際に、数名の方の車両に組み込みました。ただし、加工時間とコストは、ある程度は覚悟しておいて下さい。

おそらく、今ではほとんどの工場でもショップでも受けない、もしくはやりたくても出来ない、特殊な削り方です。その乗り味は・・・、言葉では上手く伝えられませんが、クランクシャフトが軽くなれば、当然ですが回転の上昇も軽くなります。ただ、外周切除では失われてしまうトルク感が、あまり減少せずに済む、ということです。このクランクシャフトに、これも軽量な「SOHCスペシャルピストン」と組み合わせれば、まさしく公道最強のXJR1300になるのではないでしょうか。

昔、雑誌に時折載っていたような、排気量を大きくしてドラッグエンジンのようにチューンされたエンジンは、出力は確かに凄いかもしれませんが、ストリートでは乗れません。開けられません。楽しめません。

やはりオートバイは、乗って楽しむものだと思います。


取り外す部品

レース用のエンジンですから、不必要なパーツは幾つかあります。付けていても害はありませんが、不要ですから、取り外したいものです。軽量化とフリクションロスの低減にもなります。その筆頭が、セルモーターとゼネレーター、スタータークラッチです。

XJR1300のケースアッパー

これは、上下のケースを合わせる前のケースアッパーです。クランクシャフトから、太いハイボチェーンでスタータークラッチが繋がっています。スタータークラッチ下のギアも不要です。

XJR1300のケースアッパー

色付き線で囲んだパーツは、全て不要です。それらは取り外すことにします。

それらのパーツを取り外す事でのデメリットは、何といってもエンジンスタートがちょっと大変になる、ということでしょう。モトGPの映像を見ていると、どの車両もRタイヤを載せるスターターが用意され、その外部のスターターでエンジンを掛けています。ピットでは問題ありませんが、転倒時は、コースで押し掛けをしなければなりません。テレビで見たことがありますよね。

もう1点あります。バッテリーが充電されません。いくらアナログ感満載の古いオートバイとはいえ、バッテリーが空っぽでは、点火も出来ません。ですから、走行前にバッテリーを充電する必要もあります。

その2点さえクリアーできれば、セルモーターやゼネレーター、ワンウェイクラッチやハイボチェーンなどを取り外すことが出来ます。最優先順位は速さとラップタイムの向上ですから、残しておく理由など、どこにもありません。ということで、取り外します。

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