エンジンその3、シリンダーヘッドの続き

バルブのすり合わせ作業
バルブのすり合わせ作業

現行のR1エンジンには、バルブやコンロッドにチタンが使われています。チタンバルブを写真のようにすり合わせをする、なんて、そう言えば聞いたことがありません。レースエンジンであれば、おそらく交換でしょう。

そもそも現行のスーパースポーツ車両では、パワーを極限まで求めた高回転型ですから、聞いた話によれば、ヘッドやシリンダー、クランクケースまでも消耗品の扱いらしいです。高回転を多用する600では、ヘッドもシリンダーも1年で交換、ケースも2年使うと歪みが酷くなり、ストリートでも使えないそうです。もうエンジン自体が完全な消耗品ですね。

何故、メーカーはエンジン丸ごとをスペアとして、交換用として、レースユーザーに安く提供しないのか、思ったことがあります。我が社のオートバイでレースして下さい!と言っているのですから、レース用としてエンジンを安く提供しても良いのになぁ~。

現行の1,000ccスーパースポーツエンジンをオーバーホールすると・・・、組み直した後は・・・、いろいろな噂話も聞いたことがあります。噂だけなのか、本当のところはどうなのか、どこかに問題があるのか、私には分かりません。

でも現在のスーパースポーツ車は、そのくらいエンジンも電子制御も高度になっています。なので、レースエンジンは使い捨て、と言われても、特に不思議ではありません。

それに対してXJR1300は、アナログ感満載のオートバイです。特に壊れなければ、ヘッドでもケースでも長く使えます。私のストリート用車両は、昔のレース時代に壊れなかったパーツを寄せ集めて組み立てられた、まるで廃品パーツで出来たオートバイなのです。それでも、今でもちゃんと走ります。

この1300ベースエンジンですが、ヘッドのオイル焼けは殆ど気になりませんでしたが、バルブリフタはこのような状態でした。

XJR1300ベースエンジンのバルブリフタ
XJR1300ベースエンジンのバルブリフタ

おそらくこれも、オイル焼けなのでしょう。一番ひどいのは、ヘッドのオイル焼けと同様、EX側の1番2番です。このまま組み付けるのは、さすがに気が引けます。少し手間を掛けて磨き、キレイにしてみました。

磨いた後のバルブリフタ
磨いた後のバルブリフタ

このように磨くだけで、なんだか抵抗が相当に減るような気がします。自己満足の気もしますが・・・。

ここまで磨いた後、組み付ける際には、ある特殊なオイル添加剤を、原液のままオイル代わりに塗布します。この添加剤は、1Lで○万円もするもので、いつも小さなボトルに分けて、少量を譲って頂いています。

昔から付き合いのある、埼玉のR○イトウ、という全日本チームも、レース車両には長年使っているものです。私はお客様のエンジンを組む際にも、この添加剤を使っています。

特殊なオイル添加剤

この右側のボトルの緑色の液体が、それです。通常はオイルに混ぜて使うらしいのですが、エンジンを組む際にオイル替りに塗って使うのも、非常に効果的だそうです。少なくとも、この添加剤を使ったことによるトラブルは、もう20年使っていますが、一度もありません。


燃焼室容積の測定

燃焼室容積の測定

以前、SOHCエンジニアリング様にヘッドを3、4個持って、伺ったことがありました。その際、渡辺さんが全てのヘッドの燃焼室容積を測定したのですが、最大で「1cc」近くも差がありました。それだけ違えば、圧縮比は全く変わってきます。いくら渡辺さんがピストンを正確に設計し製作したとしても、燃焼室の「1ccの誤差」は無視できません。それどころか、トラブルに直結しかねません。

私がSOHC製スペシャルピストンをお客様のエンジンに組む際は、このように燃焼室の容積を測定します。出来るだけ誤差を少なくさせたいので、同じ箇所を最低でも2回、測定します。別の箇所の燃焼室も、測定します。大抵は、1番と4番です。

このSOHC製スペシャルピストンについては、ピストンヘッドの容積だけでなく、上死点でのスキッシュや、その他様々な数値を測定しています。ですから、シリンダーヘッドの燃焼室容積を測定すれば、個別の圧縮比を正確に導き出すことが可能です。

何故、そこまでシビアに測定するのかと言えば、SOHC製スペシャルピストンは、本当に圧縮比が高いからです。アフターパーツの社外メーカー製ピストンで、例えば「XJR1300用 圧縮比12.0:1」とカタログに載っていたとしましょう。実際に測定してみれば分かりますが、ただ組み付けただけで、そこまで高くなることは、まずありません。純正エンジンと比べて少しは高くなっているでしょうが、その程度です。カタログの圧縮比は、あくまでも参考程度で考えた方が良いでしょう。

もし本当に「圧縮比12.0:1」という数字が、ピストンを組み込むだけで得られるのであれば、頻繁にトラブルが発生しているはずです。それは間違いありません。それくらい、昔のアナログエンジンの高圧縮比は、シビアで微妙なのです。現行のスーパースポーツ車両のような、賢くて高度なコンピューターが、全てを制御してくれる訳ではありません。

もちろん製造メーカーも分かっていますので、不特定多数に販売するピストンですから、トラブルが発生しそうな圧縮比は、設定するはずもありません。そこには、大きな安全マージンが必ずあります。

それに対してSOHC製スペシャルピストンは、本当に高圧縮比です。ですから、下手をすれば簡単にデトネーションによって、高価なピストンが溶けます。しかし厄介なことに、エンジンやヘッドによって、圧縮比に重要な影響を及ぼす燃焼室の容積が、最大で「1cc」近くも異なっている訳です。

そうなれば、もうエンジン1機ずつ個別に燃焼室容積を測定し、もし高すぎると判断した場合は、圧縮比を下げるような対処をする必要があります。それはストリート用エンジンでも、レース用エンジンでも変わりません。点火系のセッティングと合わせて圧縮比の設定をすることで、デトネーションのリスクは、限りなく小さくすることが出来ます。

このヘッドは、レース用と言うこともあり、少し高めではありますが、このまま行くこととしました。ヘッドは面研磨してありますので、実質の圧縮比は、「12.0:1」を超えています。でも、それで走らせてみようと思っています。

テイストにわざわざ北海道からやってくるS君の圧縮比は、把握しています。点火系に何を使っているのか、その設定はどうなっているのかも、分かっています。キャブレターのセッティングも、分かっています。ピストンの写真も、何度か見ていますが、問題ありません。それらを考えた上でも、ウオタニSPⅡの設定で、デトネーションは抑えられると予想しています。


カムシャフトの選択

WEBCAM製カムシャフト

使用するカムシャフトですが、今回は「WEBCAM」にしました。実はもう1セット、使えるカムシャフトを持っているのですが、ちょっとした考えと試したいことがありましたので、「WEBCAM」社製にしたという訳です。

試したいことは、そんなに大それたことではありません。テストと言えば格好が良いですが、「このカムだと、どうなんだろう・・・」程度のことです。

もう1セット持っているカムシャフトについては、あまり詳細はお伝えできないのですが、機会があれば、ストリート用エンジンで使ってみたいと思っています。

バルブクリアランスの測定

今回のように、ヘッドとカムシャフトの組み合わせが変わったり、バルブシートカットを行ったりといった、バルブクリアランスが全く変わると予想される場合は、ヘッドをエンジンに載せる前、ヘッド単体でバルブクリアランスを測定しておきます。

INとEXカムは一本ずつで測定し、同時に組むことはしません。バルブ同士の干渉に繋がるからです。カムキャップは、もちろん規定トルクで締め付けます。こうして一度クリアランス測定し、調整しておけば、エンジンにヘッドを載せた際は、微調整程度で済みます。もちろん、もう一度クリアランス測定はしますが、大きくズレることはありません。

ヤマハXJR1300のことであれば、どのようなお悩みやお問い合わせでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。

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