レースエンジン、その1

レース用に使うベースエンジン
レース用に使うベースエンジン

XJRレーサーを造るにあたり、一番重要なのは、はやりエンジンでしょう。エンジンは、ストリート用コンプリートマシンに使うつもりで保管していた、98年式のものをベースに使い、仕上げていこうと思っています。

中古エンジンを購入する時、幾つかの重要視するポイントはありますが、詳細が不明なケースは多いものです。それまでの乗り方やメンテナンス、保管状況などが分かりませんので、どうしても、当たり外れは出てくるものです。

そもそも、そのまま使うことはありませんし、オーバーホールが大前提ですので、多少の傷みや磨耗などは、どうにでもなります。必ずケースまで割りますし、外観の汚れや腐食は、塗装すれば気にならなくなるものです。

とはいえ、ほんの幾つかのポイントを見るだけで、外れエンジンを選ぶ確率はグッと減ります。簡単に判断できますので、保管状況の悪そうなものは、やはり避けるべきでしょう。内部の状況やオイル管理、保管条件などは、外観の汚れ具合に比例する場合が結構多いものですので、重要視しても良いと思います。

レース用に使うベースエンジン
レース用に使うベースエンジン

このエンジンは、黒く塗装されています。分解して塗装されたものとは思えませんが、ひどい場合は、エンジン丸ごと塗料を吹きますので、ボルトやナット類など、全てのパーツに塗料が付着しているケースもあります。このエンジンは、少なくともヘッドカバーのボルトには塗料は付着していません。ヘッドナットは黒くなっていますが、ヘッドカバー自体も、ある程度はキレイに塗られているようです。

ベースエンジンのヘッドカバー
ベースエンジンのヘッドカバー

ヘッドカバーを外すと、ちょっとばかり頂けない状態でした。これを見て気が付く方もいると思いますが、ヘッドカバーに液体ガスケットがベットリと塗られています。私はこのようなヘッドカバーを見ると、ガッカリします。

XJR1200時代から、ヘッドカバー部からのオイル漏れは、この車両の持病のような言われ方をされていました。ですから、中にはご自身でヘッドカバーガスケットを交換された方もいるかと思います。その際、このカバーのように液体ガスケットをたっぷりと塗布してはいませんでしたか?

ヘッドカバー部からのオイル漏れは、持病と言うよりも、ただのガスケットの劣化です。2、3年では発生しません。材質のゴムが劣化し、硬化してシールできなくなっているだけです。ですから、ガスケットを交換してあげればオイル漏れは止まるはずです。

では何故、多くの方がここに液体ガスケットを塗布しているのでしょうか・・・

おそらく、ガスケットが落ちないようにする為の接着剤代わりに、液体ガスケットを塗布しているのだと想像しています。誰にも聞いたことはありませんが・・・。

ヘッドカバーを取り付ける際、逆さまにする必要があります。何かで接着させておかなければ、逆さまにした際、ガスケットは落下します。それを防ぐ為なのだと、勝手に思っています。

しかし、もしご自身で何度もヘッドカバーを脱着されている方は、液体ガスケットは使わないはずです。何故って、剥がすのが非常に面倒くさくて大変だからです。

液体ガスケットは、塗るのは簡単ですが、キレイに取り除こうとすると、大変です。面倒です。時間が掛かります。それでもキレイになりません。そんな物を毎回塗布するのは、有り得ないでしょう。それでも液体ガスケットを塗布する方は、後の作業の事を全く考えていない、次の作業者の事を全く考えていない、ということです。

じゃあ、どうすれば良いのでしょうか・・・

簡単です。液体ガスケットのように剥がす時に大変なものではなく、割と簡単に剥がせる物を使って、『点付け』で接着させれば良いのです。私は25年以上も前から、ボンドを使っています。ホームセンターやコンビニなど、どこにでも売っている普通のタイプです。

ヘッドカバーの溝の中で固まっていても、ブラシで簡単に落とせます。パリッ、とした具合で剥がせるタイプが使い勝手が良いです。自分の車両だけでも、ヘッドカバーの脱着は、おそらく20回や30回はしているはずですが、それで困ったことはありません。

もしご自身でヘッドカバーを交換される方は、液体ガスケットをベットリと塗ることは、今後は絶対にしないでくださいね。もしご縁があって私が作業することになった時、ちょっと悲しくなりますので。


ヘッドのオイル焼け

ベースエンジンのヘッドとカムシャフト
ベースエンジンのヘッドとカムシャフト

ヘッドカバーを外すと、シリンダーヘッドはほとんどオイル焼けのしていない、非常にキレイな状態でした。XJR1300エンジンは、多くのケースで、EX側の左を中心に、黄金色やひどい場合は茶色に、オイル焼けで変色しています。おそらく場所を考えると、サイドスタンドを掛けた状態でのエンジン始動が関係していると思われます。シリンダーヘッドだけでなく、バルブリフタやカムシャフトも、変色している場合があります。

このオイル焼けの程度ですが、これにもやはり、オイル管理が密接に関わっている気がします。ヘドロのようなオイルが入っていたエンジンでは、このヘッドの変色具合も酷いものでした。対して、オイル管理の行き届いているエンジンでは、多少の色は付いているものの、5万キロ以上走っていても、その程度は微々たるものでした。

じゃあ、茶色にオイル焼けしていると、いったいどんな不具合があるのでしょうか・・・

何も検証もしたことがありませんので、分かりません。防ぐ方法も、テストすらしていませんので、分かりません。多少の予測はつきますが、確実ではありませんので、ここで記載するのは、控えようと思います。

ただやはり、オイル管理でエンジン内部の磨耗具合や状態が全く変わってくるのは、間違いありません。ホームセンターで売っているような格安オイルは、使って欲しくはありません。気が付いたらオイルの確認窓からオイルレベルが見えないほど減っていた、ということも、避けて欲しいと思います。

ヘッドを見ると、カムシャフトのジャーナル部やカムキャップ等に、どの程度のキズがあるのかを、確認することができます。オイルの品質や交換サイクルがどのような影響を与えているのか、一つの目安にもなります。

昔からヤマハ車は、この部分が弱い、キズ付きやすい、と言われることが多かった気がしますが、他メーカーと比較したことがありませんので、確かなことは分かりません。ただ、同じ車両を数多く見ていると、オイル管理の重要性が改めて分かってきます。オイル管理、重要ですよ!!

ベースエンジンのカムシャフト
ベースエンジンのカムシャフト


程度の良さそうなバルブ

ベースエンジンのバルブ

ベースエンジンのバルブ

ヘッドからバルブを取り外してみました。よく有りがちな、黒いカーボンがびっしりと積もった状態ではありません。外す前に多少のクリーナーは吹き掛けてはいますが、カーボン量は少ないです。

ちなみに、XJR1300のバルブには、「36Y」の刻印があります。「36Y」は、1984年に発売された「FJ1100」の型番です。XJR1300の前身はXJR1200(4KG)ですが、そのXJR1200は、FJ1200(4CC)のエンジンがベースになっているのは、広く知られているところです。

いろいろな型式のインテークバルブの品番を、ちょっと調べてみました。

  • 36Y-12111-00 (1991年 4CC1・FJ1200)
  • 36Y-12111-00 (1994年 4KG1・XJR1200)
  • 36Y-12111-00 (1998年 5EA1・XJR1300)
  • 36Y-12111-00 (2005年 5UX8・XJR1300)
  • 36Y-12111-00 (2015年 5UXK・XJR1300)

つまり、1984年のFJ1100から、XJR1300最終形の2015年式まで、同じバルブということです。バルブ以外にも、「36Y」の刻印が入った重要部品があります。クランクシャフトです。そんなところも気にして分解してみると、面白いです。

ちなみに私は、もう20年以上も前になりますが、新品同様のFJのシリンダーヘッドを頂いたことがありました。今のようにXJR1200の中古エンジンが出回っている時代ではありませんでしたので、非常に有り難く、レース用エンジンに使わせて頂きました。

外観のフィン形状は違いますが、ポートも燃焼室も同じでした。そう考えると、非常に長持ちしたエンジンですね。1984年から2015年まで、共通の部品を使っていた訳ですから。ある意味で、基本設計が優れていた、とも言えるのでしょう。

ベースエンジンのシリンダーヘッド

このベースエンジンは1998年式ですから、型式は「5EA1」です。しかしヘッドの裏側には、「4KG01」と入っています。つまり、XJR1200と同じ、ということになります。

そう考えると、XJR1300には、使える部品がいろいろと有りそうなことが分かるかと思います。


バルブ磨き

磨き終わったバルブ
磨き終わったバルブ

私は通常のオーバーホール作業でも、バルブはこの程度までは磨きます。ただし目的はカーボンの除去ですので、鏡面までは磨きません。このレーサー用でも、鏡面仕上げにはしませんでした。労力が掛かるからです。

1セットだけ、というのであれば、頑張って鏡面にしても良さそうなものですが、バルブなんて、ちょっとしたトラブルで使えなくなります。ピカピカに磨いたバルブは、見た目は素晴らしいですが、その効果を考えると、どちらかといえば自己満足の世界に思えます。

でも、一応レース用エンジンですので、ストリート用と同じではちょっとばかり面白くありません。自分用のエンジンでは、昔からこんな加工をしています。

「36Y」の刻印を削り取ったバルブ
刻印を削り取ったバルブ

「36Y」の刻印を、削り取っています。おそらく1gも変わらないでしょうが、ちょっとだけ手を掛けてあげた、という、これも自己満足の世界ですね。

こうして、「36Y」の刻印を削り取ったうえで、磨いています。もっと粗いペーパーで磨き始めれば、鏡面っぽくなるのでしょうが、いくら鏡面仕上げにしたところで、曲がる時は曲がります。ですから、これで良し!としてくださいね。

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