レースの結末と今後について

テイストオブツクバ

テイストオブツクバ、というレースがあります。年に2回、春と秋に茨城県の筑波サーキットで開催されている、いわゆる草レースです。ポイントやランキングを争う選手権レースではなく、国際ライセンスへの昇格対象でもありません。どちらかといえば速く走る目的で作られたのではないオートバイ、昔のオートバイ等で競争する、大人の大運動会的なレースです。

以前は『テイスト・オブ・フリーランス』という名称でしたが、主催が筑波サーキットに変わった2008年頃から、『テイスト・オブ・ツクバ』という大会名に変更になりました。

私はXJR1200が発売された少し後から、このレースに参加するようになりました。負担の大きな選手権レースは、当時の私には出場することは出来ませんでした。国際A級に昇格したので、出場する選手権と言えば全日本になります。しかし当時の全日本は、金銭的にもレベル的にも、私が出るレースには思えなかったのです。

レースを諦らめた頃、テイストは始まりました。たまたま、あるショップからの依頼で一度出場し、その後はツーリング用に購入したXJR1200で、気軽に出場していました。

そして、気がつけば二十数年も経っていました。


2021年11月7日

レース当日の筑波山

1週間前の予報では雨マークも出ていたのですが、当日は朝から良い天気です。駐車場のオーバルコースからは、筑波山もキレイに見えました。

3年前の大怪我の後、走った感覚と実際のタイム差が1秒くらい開きがあることが、頻繁に起こるようになりました。それまでもコンマ5秒くらいはありましたが、それが大きくなってきたと感じていました。

それまでは、ちょっと頑張ればすぐに出ていた「0秒」を出すのも、結構大変になってきました。頑張っても、なかなか出ないこともありました。あまり言葉にする事はありませんでしたが、歳を取るとは、こういうことなんでしょうね。

予選出走前のピットロード

自分の中では、「最低限、0秒は出す!」と、いつも決めてレースに挑んでいます。当然今回も、それだけは譲れません。順位は、他のライダー次第なので、あまり意識はしていません。大きな緊張感を感じながら、いざコースインしました。

予選の3週目にエンジンストップ

予選の3週目の裏ストレート、タイヤも温まって皮むきも終わり、さあこれからだ!と思った矢先、突然加速中にエンジンが止まりました。クラッチを握り、惰性でメインストレートまで来て、ピットロード出口あたりにマシンを止めました。

何度かセルボタンを押して始動を試みました。メーターパネルのコーションランプが点灯していると、エンジンが掛かりません。掛かった!と思っても、すぐにランプが点灯し、エンジンがストップします。一度、ランプも消え、エンジンが掛かったままになりましたので、再スタートを試みましたが、半クラで動き出そうとした際、パワーを感じず違和感だけがありましたので、エンジンを止め、予選を諦めました。


決勝レースも走らず

予選終了後、マシンを戻して皆であれこれと修復を試みました。しかし、原因すら掴めません。現行のYZF-R1に非常に詳しい方がおり、診断機をどこからか借りてきてくれました。それでも、簡単には不具合箇所は分かりません。

バッテリーも交換しました。手持ちの部品や工具で出来ること、センサー類のチェックや配線確認等も行いました。それでもコーションランプが消えることはなく、エンジン始動すら出来ません。

こんな時は、素直に諦めましょう。どうあがいても、これ以上出来ることはありません。無理して出走しても、良いことなど一つもありません。危険なだけです。

ハーキュリーズの予選結果

この予選結果を確認し、素直に「今日は止めよう」と思えました。このクラスの、最近のタイムの激しさには驚かされますが、特に今回は、草レースの域を完全に超えています。まるで全日本選手権のようです。もう調子が良くても、出るべきではないクラスのような気さえしました。

私は3周しか走っていません。1週目はピットアウトラップで、3周目はエンジンが止まって惰性でコントロールラインを越えたので、走ったと言えるのは2周目だけです。しかも1周目の最終コーナーは、まだ全開など出来ません。2周目も、どのコーナーも立ち上がりは開けきれてはいません。当然ストレートスピードも遅く、よく2秒代が出ていたものです。

ただ、皆のタイムを見て頂ければ分かりますが、14番手までが59秒代です。その下に0秒以下が、最下位の私を含めて5名いるだけです。これを見ると、もはや草レースとは思えません。全日本ライダーが車両を熟成させ、タイヤメーカーを換えてまでしてレコードタイムを破っても、個人的には素直に感激できません。

そもそも、現行で販売されている300馬力の羽が付いているスーパーチャージャー付きオートバイを、何故鉄フレームだからと出場を認めたのでしょうか・・・。
「へぇ~、そんな理由なんだ。」と思ったものですが、数年前に主催者側から聞いたその内容は、ここでは伏せておきます。


主催者側の考えも、変わってきている?

ちなみに現在、このクラスだけかと思いますが、タイムアップ・パワーアップが激しいためにレーシングタイヤ、いわゆるスリックタイヤの使用を、主催者サイドが検討しているようです。出場ライダーにアンケート用紙が配られましたが、私は当然『反対』の立場です。

そもそも、この大会の始まりから現在に至るまで、この大会の趣旨というものがあったハズです。私も何度も聞いています。しかし、その趣旨とは全く異なる方向に進み始めている、と思えます。ただ速く走りたいライダーは、1,000ccのスーパースポーツにスリックタイヤで選手権を走ればいいでしょう。それとは全く異なる趣旨、異なるバイク好きが、造ったり走ったりして遊ぶ大人のレースだと、私は思っています。だから、『年に2回の大人の大運動会』なのです。

『走る』だけではなく、『造る』楽しみも大きなウェイトを占めていると思っています。現行のスーパースポーツは、購入後に速く走らせるための工夫など、何もしなくて済みます。通常のメンテナンスだけで大丈夫です。

しかし、旧車と言われるような古い車両や、速く走ることを目的として作られていないネイキッドバイクは、やるべき事が沢山あります。工夫・知恵・コスト・エネルギー・経験・失敗・・・、多くのものが必要になります。しかしそれらが形となって、実際に感じ取れた時の喜びや達成感は、おそらく何物にも代え難いものがあるのでしょう。だから、大の大人が夢中になるのです。

もう一つ、スリックに反対する大きな理由があります。

スリックタイヤは、確かに絶対グリップは、ストリートユースを前提として作られている溝付きタイヤと比べると、高い次元にあります。目的は、『速く走ること』だけですから。

しかし、その高いグリップ力を引き出すのは、古い鉄フレーム車では簡単ではありません。「スリックを履けばタイムが縮まる」といった、簡単で単純なことではないのです。現行のアルミフレーム車ならまだしも、そもそも「HERCULES」クラスは、鉄フレームが大前提です。しかもその多くは、古い設計なのです。幾ら補強や改造がされているとはいえ、スリックを履くだけで、多くの車両には問題が出てくるでしょう。

さらに、不公平になるであろう問題もあります。スペシャルタイヤの存在です。

昔のレースブームの時代は、ノービスが使うプロダクションタイヤにまでスペシャルが存在しました。実はスペシャルはタイヤだけでなく、エンジンにまで及んでいました。

今は時代も変わっていますので、スペシャルは全く存在しないのかと言えば、実はそうでもありません。鈴鹿8耐などではスペシャルタイヤの存在は、もはや秘密でも何でもないようです。しかし当然ですが、誰でもが買える訳ではありません。誰にでも供給されるタイヤではありません。

今回、元ワークスライダーの方が複数いらっしゃいました。現役の全日本ライダーも、数名いらっしゃいました。もしスリック使用可となった場合、このスペシャルタイヤの管理は、どうなるのでしょうか?彼らが使いたいとメーカー側に伝えた場合、供給されるのは当然のような気もします。もしかしたら、メーカー側から供給の打診があるかもしれません。メーカーにとっては、タイムや順位でその優位性が証明できる訳ですから。

そんな事を考えると、現在の「ST1000」クラスのように、タイヤメーカーが1社に決められる可能性もあります。もしそこまでいけば、もう草レースでも何でもありません。自由も無くなります。水面下で大人の事情がうごめいた、つまらないイベントに成り下がってしまう危険性も感じます。

今まで長年続けてきた大好きなイベントが、そのようなつまらないものになるのだけは、何とか避けて欲しいと思っていますが、どうなるのかは分かりません。


今後について

数年前にレースで大怪我を負い、初めて自分の意思で次の大会の出場を見送りました。その後、大変有難いことに、現在の車両に乗せて頂くことになりました。

テイストオブツクバの出場車両
現在のテイストオブツクバへの出場車両

乗る人が乗れば、もっと腕のある方が乗れば、おそらく58秒代で走れる車両だと思います。ライダー次第では、57秒も現実的には狙えると思います。でも私は、数世代前のノーマルR1エンジンを載せたテイスト車両のラップタイムを、未だに破ることができません。

決勝レース前に、予選の一番下に名前の書かれていた「モギちゃん」と、いろいろと話をしました。二人共、決勝レースは走りませんので、暇だったのでしょうね。

彼とは、もう随分と長い間、何度も何度も一緒に走ってきました。テイストでも、勝ったり負けたりしてきました。そんな彼と、次のような話をしました。

M:「あれっ、兄貴、出ないんすか?」
T:「電気系がトラぶって、直らないから、今日は無理かな。」

M:「今日の予選タイム、凄いっすね。全日本並みですよ。」
T:「もう俺たちのような普通のオッサンが走っちゃ、ダメなクラスだな。」

M:「頑張ってもビリ争いだし、走るまで大変だし、もうこのクラスは厳しいですよ。」
T:「何年か前、50才過ぎたらどのクラスに出てもOK!ってなったらしいよ。」

M:「えっ?そうなんすか?俺もとっくに超えてますよ。しかも俺のバイク、下のクラスのレギュレーションでも通るんですよ。」
T:「平和で楽しいクラスで、もう少し走りたいなぁ♪って、今回思ったんだよ。もう今のクラスは、俺たちには厳しすぎるよなぁ~。」

M:「クラス換えしますかぁ~!」
T:「練習で、何台かXJRと走ったけど、どれもストレートは走っているから、簡単には抜けないんだよね。そんなマシンを作って、またXJRで走るのも楽しいかな、って思うんだよね。」

M:「いいじゃないすかぁ~。もう俺たち、十分にやってきましたからね♪」
T:「ハーキュリーズは0秒でビリ争いだけど、XJRで頑張って1秒出せば、トップ集団で走れそうなんだよね。そっちの方が楽しそうだもんな。」

完全に遅いオッサンたちの泣き言です。彼は数年前にも「もう大きいバイクのレースは厳しい。」と言っていました。でも、やっぱり簡単には辞められないのです。

何年か前、全てが上手く運んで、偶然にもこのレースでお立ち台に乗ることができました。その時の3人の一人が、モギちゃんです。そしてその3人とも、昔の鈴鹿6耐の経験者です。鈴鹿6耐なんて、ほとんどの人が覚えていないような昔のレースです。『もう引退しろ!!!』そんな声が聞こえてくるのも、当然ですね。

モンスターエボの予選結果

これは、「MONSTER Evo」というクラスの予選結果です。XJR1300(1200も含めて)が随分と多くなってきました。知った名前も何名かはいます。XJR1300レーサーを造る材料は、ほとんど揃っています。エンジン、フレーム、スイングアーム、Fフォーク、ピストン、カム、ホイール、キャブ・・・。

コンプリートマシンを造る予定をレーサーに変更して、このクラスを走ってみるのも楽しそうだなぁ、そんな事を考え始めていました。2秒を出せば、そこそこの順位で争えそうです。簡単にはいかないでしょうが、少なくとも「ハーキュリーズ」を走るよりも、ずっと楽しめそうな気がします。

だから、もう少しだけ、走ろうかな・・・。

レース結果は、筑波サーキットのウェブサイトから誰でも閲覧できるものですので、あえて名前やチーム名は伏せずに、そのまま掲載させていただきました。