海の向こうからエンジンがやってきた!・その4

XJR1300のピストン

オーバーホールする際のメニューですが、通常のオーバーホールからちょっと圧縮を上げたエンジン、160馬力程度のフルチューンエンジンまで、仕様はオーナー様のご要望に合わせて決めていきます。

ただ、パワーアップの為の加工やチューニングパーツを一切使わない、いわばフルSTDエンジンでも、ヘッドやクランクまで手を入れ、ピストンも交換するようなフルチューンエンジンでも、私にとってはいつものエンジン作業の感覚です。特別感はありません。なので、最近は当ブログではあまりご紹介していません。

時折、「エンジン作業の様子を記事にしないのですか?」といったお問合せを頂くことがあります。エンジン作業を全くしていない訳ではなく、ただ記事にしていないだけです。月に1機程度は、作業しています。

酷い壊れ方をしているエンジンなど、そもそも直しません。別のエンジンをベースに作り替えた方が早いし、確実だからです。かと言って、通常のエンジン作業はブログの記事になりにくい、と勝手に解釈してしまうのです。私からしたら、いつもの作業をしているだけですから。

最近、続けて150PSオーバーのエンジンも作っています。純正にこだわったエンジンのオーバーホールもしています。時々は、エンジンの様子もブログ記事としてアップしていこう、と思っていますので、「エンジンに関する記事が少ないぞ!」とお怒りの、数少ない当ブログのファンの方、長い目で見てやってください。


キレイなエンジンの理由とは?

海を渡ってやってきたエンジンですが、いよいよ本来の目的であるエンジンのオーバーホール作業を始めます。

各部に、ガスケットやパッキン部から漏れたであろうオイルが焼けた跡、汚れなどはありますが、全体的には非常にキレイなエンジンです。ただ、エンジン内部が外観と同じように程度が良いかどうかは、実際に中を見なければわかりません。

XJR1300のヘッドカバー

XJR1300のシリンダーヘッド

ご自身でヘッドカバーを見たことのある方ならお分かりかと思いますが、XJR1300のエンジンは、ヘッドカバーにしろシリンダーヘッドにしろ、必ずと言って良いほど左側が金色にオイル焼けしているものです。金色がかったものから濃い茶色まで、焼け方は様々ですが、一様に焼けています。

詳しい理由は私には分かりませんが、左側ということは、おそらくサイドスタンドが関係していると思われます。サイドスタンドを掛け、オートバイが左に傾いた状態でエンジンを長く掛けていると、そうなるのでしょうか。

ただ、「おそらく・・・」といった程度ですが、オイル管理のあまりヨロシクないエンジンは、オイル焼けも酷い傾向にあります。

エンジンを何十台も分解していると、オイル管理の重要さが良く分かります。カムシャフトやジャーナル部のカジリやキズ、ピストンとシリンダー、バルブリフタ等の磨耗具合など、オイル管理が大きく影響しているのは、間違いないでしょう。

酷いエンジンになると、オイルパンの底にヘドロ状になったスラッジが溜まっています。そのようなエンジンの程度が、良いはずはありません。良く言われるように、3,000~5,000km程度での交換が望ましいでしょう。一番高価な高級オイルを使う必要はありませんが、せめて中級程度のオイルは使うべきです。間違っても、ホームセンターの格安オイル等は使ってはいけません。愛する奥様や彼女に、いつもお茶漬けしか食べさせないのと、変わりません。

時折、お勧めのオイルを尋ねられることがあります。私が好んで使っているメーカーはありますが、今はある程度の価格のオイルであれば、性能的には大差ないと思っています。目安は、4Lで1万円、といったところでしょうか。その程度の価格のオイルであれば、どのメーカーにしろ、エンジンには優しいと思います。

XJR1300のオイルパン

このエンジンのオイルパンには、スラッジは全くと言って良いほど溜まってはいません。なかなかここまでキレイなオイルパンは、あまりありません。

XJR1300のオイルストレーナー

これは、オイルパンに溜まったオイルを吸い上げる、オイルストレーナーです。大きなゴミや異物を、このネットで取り除きます。普通であれば、もっと異物が溜まっているものですが、ここもキレイです。

オイルパンやオイルストレーナーがキレイということは、それだけオイル交換の頻度が高く、オイルと一緒に異物やスラッジをエンジンの外に排出している、ということです。

そんな観点で見ると、この海を渡ってやってきたエンジンは、オイル焼けもほとんどなく、非常にキレイです。カムシャフトもカムキャップも、気になるキズはありません。シリンダーのキズや磨耗も、全く気になりません。

XJR1300のピストン

ピストンのカーボンは仕方ありませんが、気になる箇所はほとんど見当たりません。それくらい、オイル管理が良かったと言えます。エンジン内部の程度は、オイル管理に比例するのです。ですから、エンジンをいつまでも程度良く保ちたいとお考えなら、オイル交換とオイルの質には、是非こだわってください。


オイル漏れの持病箇所

XJR1200、XJR1300には、持病と言われる箇所が何箇所かあります。その一つが、ヘッドカバーからのオイル漏れです。ゴムパッキンの劣化が原因ですので、交換すれば済むことです。

XJR1300のヘッドカバー

いくらキレイにしているエンジンでも、このような汚れはよくあります。ヘッドカバーから漏れたオイルが原因でしょう。

XJR1300のシリンダーの汚れ

シリンダーの汚れですが、これはヘッドガスケットが抜けたのではありません。シリンダーの合わせ面のどこにも、抜けた跡がありません。そもそもヘッドガスケットが吹き抜けた場合、「パタパタ」と音がしますので、乗っていて気づくはずです。

これも、おそらくヘッドカバーからのオイル漏れが原因です。漏れたオイルに汚れが付着したものでしょう。

この、時折オイル漏れが発生するヘッドカバーガスケットですが、オイル漏れが起きたら、ガスケットを交換すれば直ります。ただ交換する際、ちょっとだけ気を使って交換して欲しいと思います。

まず、これらゴム製のガスケットの場合は、ゴムを潰して密着させることで、オイル漏れを防いでいます。ですから、液体ガスケットを塗る必要はありません。もう一度言います。液体ガスケットを塗る必要はありません。

なぜこのような事を言うかといえば、全周に渡って液体ガスケットがベットリと塗られたヘッドカバーを、何度も見たからです。塗るときは良いでしょうが、再度交換する際、この塗られた液体ガスケットをキレイに除去するのは、非常に手間が掛かります。

もし塗られるのであれば、ヘッドカバーを逆さまにした際、ガスケットが落ちないように点付け程度でくっつければ、それで十分です。

私は、20数年前から、一度も液体ガスケットをヘッドカバーに塗ったことはありません。それでも、オイル漏れが発生したことは、一度もありません。

ヘッドカバーガスケットをヘッドカバーに固定するだけの目的ですから、ボンド等の点付けで十分です。コンビニやホームセンターで販売している、安いボンドで大丈夫です。

XJR1300のヘッドカバー

全周ではなく、点付けでこのようにガスケットをヘッドカバーから落ちないように付け、中央部の左右をつなぐ不要箇所を切り取れば、それで十分です。

正直に申し上げれば、ヘッドカバーにベットリと液体ガスケットが塗布されたカバーを見ると、悲しくなります。それをキレイにする、不要な作業も必要になります。

ご自身でヘッドカバーガスケットを交換される方は、作業の際、その点をちょっとだけ思い出して頂ければ、と思います。


オーバーホールのご相談は、お気軽に

長く乗っていれば、消耗したり調子悪くなる箇所も増えてくるものです。壊れてからではなく、壊れる前にオーバーホールするのが、一番の得策です。

楽しいはずのツーリング先で、致命的な故障をしてしまえば、乗って帰ることもできません。一度調子が悪くなると、「また調子悪くなるのか・・・」と心配になり、楽しく走ることも出来なくなります。

15~20年も経過しているXJR1300を、今後も楽しく長く乗るためには、エンジンをオーバーホールするしかありません。オーバーホールのご相談は、お気軽にどうぞ。