様々な計測をしてみました。

SOHC製XJR1300用スペシャルピストン
SOHC製XJR1300用スペシャルピストン

以前から存在する有名なピストンメーカーは、幾つもあります。コスワースやワイセコが、その代表的なメーカーでしょうか。両社ともに、私は自分のエンジンに使ったことがあります。

XJR1300に使えるピストンを考えれば、その他には、JEやWossnerくらいになるのでしょうか。こちらのピストンも、お客様のエンジンに組み込んだことはあります。実際に手に取って、重量を測ったこともあります。

それら社外ピストンでは実現できていなかった軽量化を、SOHCエンジニアリング製ピストンは達成しました。今までに3回製作して頂きました。最近では、昨年秋に完成したタイプになります。

今回は、製作前にSOHCエンジニアリング様に私のエンジンや、その他ヘッドだけでも4個持ち込んで、様々な計測を行いました。以下のページに詳しく書かれています。

その際に分かったことは幾つかありますが、結構重要だと思われるのは、
『燃焼室容積のバラつきが大きい』ということです。1984年式FJ1100がベースになっていますので、設計は40年近く前、ということです。その時代のエンジンに現行車輌のような精度を求めるのも、少し酷というものでしょう。

しかし30cc程度しかない燃焼室容積が、最大で『1cc』もバラつきがありました。これでは、圧縮比で『0.5』くらい簡単に変わってしまいます。個体差が結構ありますので、いろいろな部分の測定をして個体差をある程度数字で管理できるようにすることが、リスクを減らす手立てだと思われました。

ということで、様々な容積計算をし、そこから正確な圧縮比を割り出そうと思います。


コンプレッションと圧縮比

エンジンをチューニングしたりパワーアップする上で重要になるのが、『圧縮比』です。エンジンに興味のある方なら、誰でも聞いたことのある言葉だと思います。

一方で、圧縮比と似たような言葉に『コンプレッション』というものがあります。しかし、この二つの数字をゴチャ混ぜで考えている方もいるようです。中には、「コンプレッションゲージで測定したら、圧縮比が14.5kもあった。」などと、少しばかりトンチンカンな事をお話される方もいます。

ですので、ちょっとここで『コンプレッションと圧縮比』について、整理しておこうと思います。

コンプレッションとは?

ピストンが往復する際に燃焼室で発生する圧縮圧力のことで、コンプレッションゲージがあれば、簡単に測定できる数字です。単位は、「KPa(キロパスカル)」で表示されます。

コンプレッションは、コンプレッションゲージがあってプラグを外せば、簡単に測定はできるのですが、私の感覚では『一つの目安』でしかありません。

セルを空回しするのですから、バッテリーの状態一つで簡単に数字は変わります。オイルの状態でも変わることがあります。難しく考えれば、バルブタイミングでも変わってきます。カムシャフトでも変わります。インテークとエキゾーストのバルブが両方閉じていなければ、混合気は漏れて圧縮は上がりませんから。

なので私の場合は、『一つの目安』としてしか考えていません。とはいえ、比較や確認するには重要な項目の一つになります。

例えば、オーバーホールやチューニングしたエンジンの、分解前と分解後のコンプレッションを確認する、4つの気筒のバラつきを確認する、調子が悪そうなエンジンのコンプレッションから、原因を予想する、といった具合です。数字が高いから、といって一喜一憂する数字ではありません。

私は普通のオートバイ好きなオジさんですので、高価なコンプレッションゲージは持ち合わせていません。安物です。ゲージが変われば、表示される数字も変わるような気がします。

圧縮比とは?

一方、圧縮比とは『シリンダー容積+燃焼室容積』と『燃焼室容積』の容積比率のことで、計算上で求められる静的な数字です。オートバイや自動車の主要諸元には、たいていこの数字が記載されています。チューニングパーツである社外ピストンでも、この数字は非常に重要なものです。圧縮を上げれば、それだけパワーを取り出しやすいからです。

以下は、XJR1300の主要諸元に記載されている数字です。

圧縮比
9.7:1
圧縮圧力
1050kPa(10.5kg/cm²)

さて、以下は現在入手できそうな社外メーカーのピストンデータになります。

メーカー圧縮比ボア重さ
純正ピストン9.7:179mm254.9g
JE11.5:179mm263.4g
Wossner12.0:179mm253.1g
SOHC12.2:179mm214.2g
コスワース11.0:179mm

キャブ車のXJR1300が生産中止になって、既に15年が経過します。前身のFJ系は、走っている姿もめっきり見かけなくなりました。しかも、世界中を襲ったコロナ禍も収まっていない状況です。現在、XJR1300に使えるピストンを、いったい何社が製作しているのか、本当に入手できるのか、私には分かりません。ただ、調べられるデータを、参考までに記載いたしました。

以前の記事も、参考にして頂けると、有難いです。

さて、ここで何を言いたいかと言えば、『圧縮比は簡単には分からない』ということです。コンプレッションのように、ゲージで測定すればすぐに答えが出る、というものではありません。しかし、エンジンをチューニング・パワーアップさせるには、極めて重要な数字です。

理論的には『シリンダー容積+燃焼室容積』と『燃焼室容積』の容積比率のことですから、あまり難しくなさそうに感じます。しかし、『燃焼室容積』が曲者なのです。

XJR1300用スペシャルピストン
XJR1300用スペシャルピストン

これは、SOHCエンジニアリング様で製作したXJR1300用スペシャルピストンですが、多くの社外ピストンは、ピストンヘッドはこのように複雑な形状をしています。圧縮比を上げるために中心部は盛り上がっており、バルブを逃がす溝が彫られています。

こんな形状のピストンが、シリンダー内を上下に動いており、混合気を圧縮させて燃やしている訳ですが、この複雑な形状をしたピストンが上死点に行った際の『燃焼室容積』が、簡単には出せません。だから、圧縮比の計算が難しいのです。

私は以前は、エンジンを新たに造った際は、ピストンを上死点にしてプラグホールからオイルが何cc入るかを、よく測定していました。これが正確なら、圧縮比も計算できると思ったからです。

何度もやっているうちに、ただのオイルだと粘度が高すぎるので、ガソリンと混ぜて粘度を下げてみたり、プラグを装着した時と装着していない時(測定時)の容積の違いを測ってみたり、いろいろとやってみました。

オイルを注入する器具も、ホームセンターの安いスポイトからガラス製の注射器まで使ってみました。これで、結構正確な圧縮比が測定できたと、個人的には思っていました。

社外ピストンのカタログに記載されている圧縮比は信じてはいけない!ということも学びました。圧縮比の数字の違いが、実際に走った時にどう変わるのか、そんなことも、なんとなく分かるようになりました。そして今回は、SOHCの渡辺さんのアドバイスもあり、詳細に計測して圧縮比を計算してみよう、と考えるに至りました。

高圧縮は、リスクも高くなります。トルクやパンチが出る反面、キャブセッティングや点火セッティングはシビアになります。甘く考えていると、簡単にピストンを溶かすこともあります。ヘッドの燃焼室容積の誤差もあることが分かりましたので、ある程度は個別に管理・セッティングすることも、高圧縮ピストンを組む際には必要でしょう。


実際の測定

重量測定

XJR1300用スペシャルピストンの計量
XJR1300用スペシャルピストンの計量

まずは重さを計ります。純正ピストンが「254.6g」なのに対し、スペシャルピストンは「214.2g」です。約16%もの軽量化がされています。

ちなみに、昔からレース用XJR1300では、時折クランクシャフトが折れた、という事例を聞いたことがあります。そのほとんどは、シフトダウン時に発生します。エンジンの仕様や乗り方でも変わってくるとは思いますが、クランクシャフトやクランク回りのパーツの軽量化は、バックトルクの軽減にも、大いに役立つと思っています。

私の友人は、もちろん全てサーキットですが、3回もクランクを折っています。しかし、SOHCピストンを使うようになってからは、まだ一度も折ってはいません。まあ、たまたまなのかもしれませんが・・・。

ピストンが軽いメリットはたくさんありますが、デメリットはありません。もし社外ピストンに交換する際は、できれば軽量ピストンを選びたいものです。

燃焼室容積の測定

XJR1300ヘッドの燃焼室容積の測定
XJR1300ヘッドの燃焼室容積の測定

このような光景は、SOHCエンジニアリング様では見かけたことはあります。私が持参したヘッドで、一緒に測定もしました。しかし、内燃機屋さん独特の作業であり、私がやるとは思ってもいませんでした。

「高野君もさぁ、誤差のあると分かった機種にピストンを組んだりするんだから、これからは細かく測定していかないと。」とアドバイスを受けました。

『はい!ナベさん、これからは自分で測定します!』

ピストンヘッド容積の測定

スペシャルピストンのヘッド容積の測定
スペシャルピストンのヘッド容積の測定

この測定は、今回初めてやってみました。ピストンヘッドの容積を測定するためです。被せているプラ板がボアに対して小さいですので、次回までにもう少し大きな物を用意しなければなりませんね。

ピストンをシリンダーに入れて、高さを測定した後、ガソリンが何cc入るかで、ピストンヘッドの容積を導き出すことが出来ます。ピストンヘッドの形状は複雑な場合が多く、見た目ではその容積など、サッパリ分かりません。でもこの方法であれば、計算すればピストンヘッド容積を知ることができます。

スキッシュエリアの測定

スキッシュエリアの測定
スキッシュエリアの測定

スキッシュとは、ピストンヘッドからシリンダー上面の高さを指します。圧縮比や混合気の火炎伝播にも、大きく影響する部分です。

今までに幾つものピストンを実際に組んできました。ピストンヘッドが富士山のように盛り上がっているもの、エベレストのように尖って男らしい形状など、その形だけを見れば、どれも高い圧縮比をそれだけで実現してくれそうな物ばかりでした。

しかし、拙い技術と経験から実際の圧縮比を計測してみると、カタログ値のような高圧縮比を実現しているピストンは、ありませんでした。そのようなピストンに見られる典型的な例が、「スキッシュ寸法が大きい」というものでした。

だから私は、カタログに記載されている数字は、信用してはいません。まあ社外メーカーとはいえパーツメーカーですから、数多くの製品を作っています。マージンや安全値は、必ず取っているはずです。始めからギリギリで設計しているはずがありません。ですから、当然と言えば当然なのでしょうが。

ちなみにスキッシュを測定する際は、ベースGKを規定トルクで潰した状態でなければいけません。ですから、自作のカラーでスタッドボルトを底上げして、規定トルクで締め付けて測定します。

ヘッドガスケット

忘れていけないのが、ヘッドGKの厚みです。シリンダーの上にヘッドGKが乗り、その上にシリンダーヘッドが乗る訳です。ですから、実際のヘッドGKの厚みが分からなければ、エンジンとして組み上がった状態の燃焼室容積も分かりません。

ベースGKもそうですが、新品のGKは潰れておらず、トルクも掛かっていませんので、厚みが正確には測定できません。分解したエンジンのGKの厚みを図るのが、より現実的です。


実際の圧縮比の計算

上記までの数字を割り出せば、実際の圧縮比は計算できます。

ちなみに今回の圧縮比は、『12.2:1』でした。レース用エンジンでは問題ありませんが、長く乗るストリートユースエンジンですので、少しマージンを取り、『11.8:1』まで落としました。それでも、軽量ピストンや高圧縮、軽量クランク、ポート拡大加工のおかげで、相当にパワフルなエンジンに仕上がりました。


XJR1300をパワーアップしたい方

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