シリンダーとピストン

今回、XJR1200改1300チューニングエンジンのオーバーホールをするに当たり、いわゆる腰上はどうしたものか、色々と悩んでいました。

決定事項は、

  • シリンダーを新品に交換する。
  • 塗装してキレイにする。

この程度でした。

実は、シリンダーヘッドは1セット保有しています。もちろんノーマルではありません。以下の加工が既に済んでおり、塗装するだけの状態です。

  • ポート拡大加工
  • FJ用インシュレーター拡大加工
  • 面研磨
  • バルブシートカット
  • バルブフェース研磨
  • バルブ鏡面仕上げ
  • バルブすり合わせ

このシリンダーヘッド一式を、オーバーホールの際に交換して使おうかと考えていました。その他、新たに製作しているSOHCエンジニアリング製スペシャルピストンも、合わせて組む予定でした。

ただエンジンを開けてみると、予想していたよりもずっとダメージが少なく、ストリートユースならまだ十分に機能するだろうと思えました。それに、秋のTOTも終わって落ち着いたら、新たにもう1台、製作を始める構造もあります。ヘッドやピストンは、その新たに造る1台に使おうと思います。


ワイセコピストン

ワイセコピストン

20年以上も使っている、ワイセコ79mmピストンです。79mmですから、1300のスタンダードボアです。

XJR1200が発売された当時から、「FJ1200」用のワイセコピストンは存在していました。このピストンは、1998年にXJRが1300に変更された頃、ミハラスペシャリティがワイセコに依頼して作らせた、それまでのFJ用とは異なるハイコンプ仕様のピストン、と記憶しています。

1200エンジンの時代は、コスワースの80mmを使っていましたが、1300エンジンになってからは、このワイセコ79mmを使っていました。ボアサイズは1mm小さくなりましたが、79mmピストンの方がパワーは出ていました。

他にも使ったピストンはありましたが、使用できる状態で残っていたピストンは、このワイセコだけでした。ですから公道エンジンを作る際に、このピストンを組み込んだということです。

ワイセコピストンに残るデトネーションの跡

このワイセコピストン、よく見るとEX側に虫食い跡のようなキズが幾つもあります。お気付きの方もいると思いますが、デトネーションによるものです。このデトネーション、最近発生したものではなく、既にこの状態になって20年経過しています。そう考えると、丈夫ですね。

1999年のもて耐

20年以上前に、ツインリンクもてぎで『もて耐』というレースが大流行りしました。私の記憶では、確か1998年に第一回が開催されたと思います。最新の1,000ccスーパースポーツでも良く、鈴鹿8耐と比べて参加型の敷居の低いレースでしたので、翌年は参加しよう!ということになりました。

1998年にも、出場しようという話はありました。できれば参加したい、と思っていましたが、ツインリンクもてぎは、一度も走った事がありません。どんなコースかも、全く知りません。練習の意味も込めて、とにかく走っておこうと思い、初夏の暑い日に、初めてもてぎを走りました。車両は、XJR1300レーサーでした。

空冷オートバイには、ちょっとばかり厳しい暑さだったように思いますが、他に走れる車両を持っていませんでしたので、XJR1300で走るしかありません。

走っていると、だんだんとコースも覚え、楽しくなってきました。2走行目、持病だった吹き抜けが始まり、パタパタと嫌な音も聞こえるようになりましたが、とにかく楽しいのと、どの程度のタイムが出るのかを知りたくて、走り続けていました。

当時、よく一緒にサーキットに連れて行っていた後輩君が、途中で『P in』のサインボードを出しました。吹き抜け音はするものの、そう酷い感じはしません。オイルが漏れている気配もありません。「おい、オレはもっと走っていたいんだよ!」と思いましたが、ボードを無視する訳にもいきませんので、ピットに入りました。

「高野さん、音も大きくなっているし、もうヤバいですよ。今日はもうやめましょう」
エンジンの積み下ろしを何度も手伝わせて、サーキットにも数十回も連れてきている後輩君です。XJR1300のエンジン音は、彼が一番聞いているはずです。その彼がそう言うのですから、素直に従うことにしました。

その後、エンジンを開けてみると、ピストンはこの状態になっていました。もてぎは筑波に比べて、はるかに全開時間が長いです。筑波ではあまり走らない、ひどく暑い日の走行でした。熱的に厳しいEX側にだけ、デトネーションの跡が付いていました。それだけ熱的に非常に過酷な状況だったのだと思われます。

キャブや点火のセッティングは、筑波仕様のままでした。しかしその結果が、これです。

取り出してカーボンを除去したピストンを、数人の方に見てもらいました。
「デトネーションだね。」と言われ、初めてデトネーションを身近に感じました。でも、手とり足とり教えてくれるような方など、どこにも居ません。デトネーションって何なのか、何故起きるのか、どうしたら防げるのか・・・、調べて、自分で試すしか、方法はありませんでした。それでも分からない時は、詳しそうな方に相談しました。

幸いにして、それからは一度も発生させてはいません。ピストンも、ダメージは小さそうでしたので、ペーパー掛けした後、また使いました。レースやオートバイに掛けられる資金が少なかったので、贅沢は言ってられませんでした。

キャブレターのセッティングには、今まで以上に気を使うようになりました。外側(1・4番)と内側(2・3番)のセッティングを変えたこともありました。巷では「進角キット」なるものが売られており、雑誌には「進角させるとパワーが出る」というような事も書かれていましたが、絶対に進角はさせませんでした。

で、気が付けばそれから20年も使っています。ありがとう!!!ワイセコピストン♪


せっかくなので計量します。

久しぶりにエンジンから取り出したので、重さを測ってみました。

ワイセコピストンの計量です。

リングもクリップもない、ピストン単体の状態で、『256,4g』でした。他のピストンの詳細は、以下のページに記載していますので、参考にしてみてください。

このピストン、レース時代に使っていたまま組んでいたので、各部の消耗は激しいままでした。いくらストリートとはいえ、それから十数年、良く走ってくれました。せっかくですから、今回はリングもサークリップもピストンピンも交換しようと思います。

ワイセコピストンのオイルリング

これはオイルリングです。左は新品で取り寄せたもの、右は取り外した古いタイプです。こんなパーツも、時代の流れで変わっているのですね。

ピストンピンは、写真を撮り忘れましたが、ガタガタでした。いろいろなパーツを変えましたので、文字通りリフレッシュです。これでまた10年、頑張ってくれると思います。しっかり走ってくださいね♪


圧縮比ダウン

昔の圧縮抜け対策のためのシリンダー加工やカッパーGKについては、ブログのどこかで書いたと思います。そのシリンダーを交換することが、今回のオーバーホールの大きな目的の一つでした。

昨年に用意しておいたのですが、新品部品は黒しか出ませんでしたので、お客様のパーツを塗装する際、一緒にシルバーに塗装しておきました。

XJR1300用の新品シリンダー

この無加工のシリンダーと純正GKでも、「12.5:1」程度の圧縮は十分に受け止めてくれるだろうと思っています。いろいろと制約も多く面倒臭いカッパーGKを、これでようやく使わなくて済みます。

ワイセコピストンを組んだXJR1300エンジン

キレイに塗装しなおしたクランクケースと、リングやピンを交換したワイセコピストンです。見ているだけで飽きません。でもこの状態では、走ることも出来ません。早くエンジンを完成させましょう。

今回、シリンダーヘッドは交換しようと思っていましたが、ピストンと共に再使用することとしました。ただ、面に歪みが多少ありましたので、「0.15mm」程度ですが、面研磨しました。

このヘッド、既に「0.5mm」以上も研磨されています。ストリート仕様ですので、できればこれ以上圧縮は上げたくはありません。逆に、少し下げても良いくらいです。

ということで、今回はこのような組み方をしました。

ベースGKの2枚重ね仕様

ベースGK(シリンダーガスケット)を2枚重ねて使います。1枚が約「0.25mm」ですので、圧縮比は少し下がることになります。

この手法は、ストリートユースの車両や無改造エンジンでは、まず使うことはありません。ですが、昔からレース用エンジンやチューンドエンジンでは、圧縮比調整のために時折行われていました。そんな事をするオートバイ屋さんに長く出入りしていましたので、私にとっては珍しくはありません。

シリンダーまで組んだチューンドXJR1300エンジン

シルバーに塗装された新品シリンダーを、ピストンに被せた状態です。もちろん、クランクを回転させても、スムーズに上下動します。ベースGKを2枚重ねましたので、圧縮比は僅かですが下がります。でも、実際の走りには殆ど影響は無いでしょう。


XJR1300(XJR1200)にお乗りの方へ

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