クランクケース組み立て、その2

ミッションをセットしたケースロア

クランクケースロアにシフトフォークを組んだ後、ミッションをセットします。

クランクシャフトとスタータークラッチをセットしたケースアッパー

クランクシャフトとスタータークラッチをセットしたケースアッパーです。この状態でケースロアに被せます。つまり、逆さまにします。それでも、クランクシャフトやスタータークラッチは落ちません。

ただし被せる前に、細かなパーツが全てセットされているかを、何度も確認します。Oリング、オイルシール、ダウエルピン、サークリップ等、忘れてはいけない細かなパーツが幾つもあります。一つでも忘れると、大変なことになります。なので私は、サービスマニュアルに一目で分かるよう、重要なことは全て書き込んでいます。そして、数回のチェックも欠かしません。

サークリップ一つを忘れただけでも、やり直しになります。それは絶対に避けたいですからね。

クランクとスタータークラッチを繋ぐハイボチェーン

クランクシャフトとスタータークラッチを繋ぐハイボチェーンですが、15~25年も経過しているエンジンでは、大抵はダラダラに伸びているものです。私のこのエンジンは、12年ほど前にオーバーホールしてハイボチェーンも交換していますが、やはりダラダラに伸びていました。もちろん交換します。

でもスタータークラッチで一番問題になるのは、このハイボチェーンではありません。スタータークラッチ本体です。

1200の時代のスタータークラッチの構造は、前身のFJと同じでした。壊れた、空回りするようになった、といった事は、時折起こっていたようです。いわゆる『弱点』というヤツですね。メーカーも把握していたようで、1300ccになった際、スタータークラッチも改良されました。それでも、セルが回らない、エンジンが掛からない、空回りする、といったトラブルは、数は少なくなったようですが、耳にします。

エンジンを始動させる際の問題なのか、バッテリーが関係しているのか、オイルも関係しているのか、ハッキリしたことは私には分かりません。ただ、1300エンジンでも時折トラブルが発生していること、開けて見ると傷みもある事などから、最近ではスタータークラッチの主要パーツだけでも交換することを、お客様にはお勧めしています。

分解したスタータークラッチ

これは、分解したスタータークラッチです。左側にあるのが、交換する部品です。消耗した主要部品を交換するだけでも、今後のトラブルの多くは、未然に防げると思います。

16年前に作った1200エンジンは、ピストンすらSTDでしたが、圧縮やカム、その他のチューンによって140馬力以上出ていました。でもスタータークラッチは、当時もパーツ交換などしませんでしたし、1200の弱いスタータークラッチのままでした。それでも、5年前までは現役で活躍していました。何人もが乗り回し、高回転までぶん回して走っていましたが、スタータークラッチのトラブルは一度もありませんでした。

それを考えると、構造だけではない他の原因もありそうですが、よく分かりませんので、これ以上は止めておきます。ただ、どうせケースまで分解するのですから、念の為に主要部品だけでも交換しておいた方が良いのは、間違いないでしょう。スタータークラッチを交換する為にケースを割るのは、私はやりたくはありません。


曲げられたガイド

ちなみにスタータークラッチを回転させるハイボチェーンですが、カムチェーンのようなテンショナー構造はありません。伸びたら伸びっぱなしです。緩んだ状態で回り続けるだけです。

当然、他のパーツやケースに干渉する危険性も、多少はあると思われます。スムーズに回す必要もあるでしょう。なのでケースアッパーには、このハイボチェーンのガイドが取り付けられています。

ハイボチェーンのガイド

これがそのハイボチェーンのガイドです。スチール製のプレートの回りをゴムで固めた物と思われます。ゴム製ですので、時間が経過したものは硬化しています。私はオーバーホールの際は、このパーツも必ず交換しています。

一度ですが、このハイボチェーンのガイドが人為的に曲げられたエンジンを見たことがあります。おそらく、ハイボチェーンが伸びて出来た『たるみ』を、カムチェーンテンショナーのようにガイドで押すことで、無くしたかったのだと思われます。ほかに理由は考えられません。

ハイボチェーンのガイドが曲げられていることで、確かにハイボチェーンの遊びはありませんでした。しかし、ハイボチェーンとギアで連結しているスタータークラッチは、ハイボチェーンがガイドで押されている訳ですから、普段は掛からない力で片側から押されている状態です。スタータークラッチをケースアッパーに固定しているシャフトが、無理な力が掛かっている為に、全く抜けませんでした。

以前に何らかの理由でエンジンが開けられた際、このように加工されたのだと思われます。もしかしたら、テンショナー構造の無いハイボチェーンに人為的にテンショナー構造を作ることで、良い方向に改良したと作業者は思っているのかもしれません。

ハイボチェーンとガイドを、なぜ消耗していない新品パーツに交換しないのか、私は不思議に思いました。パーツが届くまでの時間を惜しんだのか、パーツ代を惜しんだのか、それとも他に新品に交換できない理由があったのか・・・。私なら数日遅れても、新品パーツが届くのを待って組みます。

何度もエンジンやキャブレターを開けていると、時折このように不思議な光景を目にします。人為的に曲げられたガイド、古いOリングにベタベタに塗られた液体ガスケット、1コマずれたカムチェーン、あるべき所に入っていないダウエルピン、古い液体ガスケットの上に塗られた液体ガスケット、明らかに締め過ぎのボルト、サビて固着したベアリング・・・。

私のオーバーホールしたエンジンを後に作業する方が、このように思わないで済むよう、そしてオーナー様が安心して乗れるよう、今後も気を引き締めて作業させて頂きます。


ケースの完成

上下のクランクケースを合わせて、完成です。

細かな必要パーツも全てセットしてあることを確認したら、上下ケースを合わせるだけです。ダウエルピンが2個ありますので、位置がズレることはありません。

ただ、合わせ面には液体ガスケットを塗布してありますので、指で触らないようにしなければなりません。ケース同士を合わせた後に位置をズラして探らないよう、注意する必要もあります。しかもクランクシャフトやスタータークラッチをセットしたXJR1300のケースアッパーは、結構重いです。ですから、上下ケースの位置を合わせるまでは、気も力も抜くことは許されません。頑張りどころです。

また上下合わせて結構な本数のボルトで締めていきますが、ボルトのネジ部や座面は、全て洗浄液で洗浄してあります。その上でモリブデングリスを少量、塗布します。油分の全く無い汚れたままのボルトでは、いくらトルクレンチを使ったところで、正確なトルクで締めることなど出来ません。なので私は、オーバーホール時に取り外したボルトは、ほぼ総て洗浄液を使って洗浄しています。

そもそも組む際に、オイルでベタベタしているボルト、汚れてきたないボルトは、使いたくありません。ちょっとばかり面倒臭くて手間が増えますが、ボルト類の洗浄は欠かせない作業になります。

思いのほか長くなりましたので、クランクケースは次回に続きます。


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