クランクケース組み立て、その1

XJR1300のエンジンでは、クランクシャフトとコンロッドの回転軸にメタルが使用されています。そのメタルの選定に必要なサイズ番号が、クランクシャフトのウェイト部に記載されています。

しかし、クランクシャフトを軽量化するために外周を削ると、このようになります。

軽量加工したXJR1300のクランクシャフト
軽量加工したXJR1300のクランクシャフト

9桁の数字が記載されているはずですが、5つの数字の下の方がかろうじて見えるだけです。他の部分は、ウェイト部の切除によって消えてしまいました。

このクランクシャフトに彫られた9桁の数字は、クランクシャフトとコンロッドのメタル選定に必要な数字ですので、加工前にメモなどを取っておきます。

マジック等で一時的に書き込んでも、マジックはすぐに消えます。ですから、私は以下のようにしています。

XJR1300のクランクに書き込んだ汚い数字
XJR1300のクランクに書き込んだ汚い数字

ノートにはもちろん記載していますが、直接書き込むのが一番間違いのない方法です。当時は、クランクだけで3本も軽量加工しましたので、これが一番分かりやすかったです。

字が汚いですが、自分ではなんとか読めますので、ご容赦くださいね。


組み始めていきます。

塗装後のXJR1300のケースアッパー
塗装後のXJR1300のケースアッパー

スタッドボルトを組んだケースアッパーです。いよいよケースに各部品をセットしていきます。

この時点で、塗装のかえりはキレイに取り除いています。合わせ面も脱脂し、クランクエンドのオイルシールの跡も、キレイにしています。何度かエアブローして、細かなチリやホコリを飛ばしているだけでなく、オイル通路もエアブローを何度かする事により、万が一のメディア(サンドブラストの砂)の残留を取り除き、万全を期しています。

メディアの残留についてはいろいろと言われているようですが、私はこれで問題が起きたことは一度もありません。もしこれでもご心配なら、別の方法を考えたほうが良い気がします。ただしこれ以上の管理となると、もう私ではどうにも出来ません。

XJR1300のケースアッパー
クランクメタルの取り付け

メタルやハイボチェーンのガイドを取り付けていきます。

昔ですが、ケースを割ったのにメタル交換もせずに組んでいる方を見たことがありました。レースなど緊急を要して時間的余裕が全くない場合であれば、部品調達も慣らし運転も必要なくなりますので、そのまま組むのも当然かと思います。

でも、そうでなければ、ストリートユースであるのなら、エンジンを下ろしてケースを割ったのであれば、このあたりの消耗パーツは必ず交換したいところです。

そもそもオーバーホールの目的は、消耗部品を交換して機能を回復させることです。ですから、部品代や手間はケチらず、細かな部品も交換することをお勧めします。

新品のクランクメタル
新品のクランクメタル

これは新品のクランクメタルです。下側にペイントされています。このペイントの色が、いわばサイズ番号です。組み付けた際のオイルクリアランスを微調整するため、メタルには幾つかのサイズがあります。

マニュアルを読めば記載されています。クランクシャフトのウェイト部に記載されているサイズ番号と、クランクケースに記載されているサイズ番号から、クランクメタルを選定します。そのメタルサイズを、分かりやすくカラーペイントで区別しているのです。

分解時には、はっきりと色が分かるものもあれば、全く分からないもの、かすかにわかるものなど、様々ですが、分かる範囲でメタルのサイズカラーを、当たり具合と共に整備ノートにメモします。

レースを一生懸命にやっていた時代には、ジャーナル番号からだけではなく、その他の方法でもメタルサイズを選定していました。XJR1300のマニュアルにも記載されていたと思いますが、プラスチゲージの潰れ具合を見る方法です。

これは、プラスチゲージという特殊なゲージを挟んで規定トルクで締め付けて、その潰れ具合でクリアランスを確認する、という方法です。手間と時間が掛かりますが、昔は何度もやってみました。

その他、ジャーナル番号で選定したサイズから1サイズ大きくする、という方法も、チームの先輩に聞いて試したことがありました。メタルの締め付け具合を少し緩くして、抵抗を少なくする、という考え方だと思います。

いろいろとやってみましたが、壊れたことやトラブルはありませんでしたが、良さも体感では分かりませんでした。ライダーのセンサーが鈍いので、仕方ないのですが・・・。エンジンを開けた際、その当たり具合で判断する程度でした。

今では、ジャーナル番号から選定したメタルを組んでいます。それで一度のトラブルもなく、調子良く走ることが出来ていますので、その方法で問題ないでしょう。

取り外したシフトフォーク
取り外したシフトフォーク

これは、ギアを変える際にミッションギアをスライドさせる、シフトフォークと言われる部品です。3つで1セットです。先端が少し摩耗していましたので、スペアパーツが入っている箱をガサガサと探していたら、程度の良いものが見つかりました。

バーツ箱で見つけたシフトフォーク
バーツ箱で見つけたシフトフォーク

よく見ると、形式の刻印と数字がありますが、その数字が微妙に違っています。パーツボックスから見つけた物とエンジンから取り外した物は、3つ共に違っていました。形状は同じにしか見えません。ミッションも変わってはいません。なので大丈夫でしょう。程度も良さそうでしたし、パーツボックスから見つけた物を組んでみました。

製造年式により、パーツの何かが変更されることは、よくあることです。ただ、部品番号が同じでしたら、気にする必要もないでしょう。そのまま問題なく使えるはずです。

XJR1300でも、部品の変更はたくさんあります。部品番号が同じもの、末番が変わっているもの、部品番号が全く変わっているもの、様々です。何がどう変わっているかをいちいち気にしても、どうにもならない気がします。材質が悪くなっていると感じた部品も中にはありますが、私は気にしないようにしています。メーカーが様々な理由でそうしているのですから、有り難く使わせてもらいます。新品部品が入手できることは、古いオートバイにとっては本当に有難いことですから。


TMRキャブレターについて

TMRキャブレター
TMRキャブレター

現在、ミクニさんもやっと少しずつですが、動き始めたようです。発注しているTMRキャブレターも、そろそろ入荷しそうです。

それでなくてもインジェクションの時代ですから、レーシングキャブレターは売れなくなっています。在庫は、どこもほとんどしていないようです。メーカーにさえ、在庫はまずありません。つまり、時間が掛かるということです。

しかも、現在はどこのカタログにも、『XJR1300用TMRキャブレター』はありません。とうとうカタログ落ちしてしまいました。

でも当ガレージであれば、『XJR1300用ミクニTMRキャブレター』を発注することが出来ます。ただし、2~3ヶ月は必要な場合もあります。やっぱり時間が掛かります。

ですから、欲しい・購入したい、という方は、お早めにご注文をお願いしますね。