シリンダーヘッド

加工屋さんに旅に出ていたシリンダーヘッドが、戻ってきました。

今回のOHの目的は、

  • エンジンの外観をキレイにすること。
  • 圧縮漏れを直すこと。
  • パワーとトルクを復活させること。

主にこの3点です。特にエンジンの外観をキレイにすることは、最重要項目です。ですから、クランクケースやシリンダー、その他の小物パーツと合わせてヘッドも塗装します。しかし長年の圧縮漏れもありましたので、ヘッドの面を出すために最小限の面研磨を行いました。

最小限でも「0.12mm」の面研磨となりました。さらに圧縮が高くなります。それでなくても圧縮が高いので、ちょっと心配です。エンジンの分解前に自分で燃焼室の容積をオイル量で測定し、圧縮を計算してみたところ、実測で『12.2:1』程度はありました。もうレースで使用する訳でもありません。完全なストリートユースです。今回は対策して、少し圧縮比を下げようと思います。


まずは塗装からです。

サンドブラスト加工後のシリンダーヘッド
サンドブラスト加工後のシリンダーヘッド

ジェネレーターやセルモーター、オイルフィルター、プッシュレバー、シリンダーなどは、既に塗装済です。エンジンを分解する際、ちょっと時間がありましたので、先にブラストを掛けて塗装しておきました。

ヘッドが戻ってきましたので、ヘッドの他にクランクケースも一緒に塗装します。そのためには、まずはサンドブラスト加工です。

分解⇒洗浄⇒乾燥⇒マスキング⇒サンドブラスト、の流れになります。どの作業も時間が掛かります。地味な作業が続きます。

塗装後のシリンダーヘッド
塗装後のシリンダーヘッド

サンドブラスト加工が終わりましたら、次は塗装の準備です。

サンドブラスト⇒洗浄・エアブロー⇒乾燥⇒マスキング⇒塗装⇒焼付け

サンドブラストの後にササッと塗装出来れば良いのですが、そう都合良くは行きません。メディアの残留を無くすため、洗浄の後はしつこいくらいにエアブローをします。それでも絶対ということはありませんが、今までにメディアの残留で問題になったり内部にキズが入ったり、ということはありません。

また、塗装後の焼付けも重要です。耐熱塗料ですから、高温にして焼付ける必要があります。エンジン部品はアルミブロックですので、あまり高温にはしたくないのですが、それでも120度程度までは温度を掛けます。

塗装後の面チェック

塗装が終わりパーツの温度が下がれば、マスキングを剥がしていきます。この時、必ずと言って良いほど、塗料がマスキング面にはみ出しているものです。この『塗料のかえり』を、スクレッパーなどを使い除去していきます。

合わせ面にバリのように塗料が付いていては、ガスケット面に異物が混入するのと同じです。キレイな面が出ていないことになり、組むにも気分が悪くなります。なので、塗装の際には欠かせない作業になります。


バルブ回り

走行距離が思いのほか少ないためか、バルブフェースやシートの傷みは、大したことはありませんでした。バルブは既にフェースカットされていますので、これ以上は出来ません。ヘッド側のシートも、レース使用時に既にカットされています。

普通では使わない、薄いシムが入っていますので、フェース面をキレイにしようと思えば、バルブの新品交換になります。予想する走行距離を考えれば、新品に交換しなくても今回は大丈夫だろうと判断し、バルブはすり合わせのみとします。

カーボンを落としたバルブ

以前はよく見られた鏡面仕上げですが、手間と効果を天秤にかけたとき、『手間の割には効果はない』と自分で判断し、鏡面仕上げはしません。

鏡面仕上げの一番の効果は、『ここまでピカピカに仕上げたんだ!』という満足感のような気がしています。しかし、その満足感を得るための作業は大変です。

むか~~しは、各部パーツを鏡面仕上げにしたこともありました。少しでも速くしたい、という気持ちでした。コンロッドやポート、バルブ、クランクまでピカピカにしたこともありました。XJR1200の時は、コンロッドも削っていましたので、強度確保の為もあり鏡面仕上げをしていました。でも、もうしたくはありません。

4サイクル400ccの改造クラスだった『F-3』の時代は、本当に色々とやりました。やってみた、というのが正直なところです。大した知識も経験もなく、それでも速くしたかったので、そんなこともしてみたのです。今思えば、減量しろ!と言われた方がずっと速くなった気がします。なぜ、誰も言ってくれなかったのでしょうか・・・

磨いたバルブリフタ

バルブリフタは、細かいキズや汚れでしょうか、分解して取り出すと、大抵は写真右側のようになっています。そのまま使うのは、あまり気持ち良くありません。そこで、ハンドグラインダーにバフを取り付けて、磨いてみました。

左の2個が、磨いた後のバルブリフタです。こうなると、気持ちよく組み込むことができます。バルブリフタはこの状態まで磨いた後、特殊なオイル添加剤をオイル代わりに塗布し、ヘッドに組み込みます。


すり合わせと組み立て

バルブのすり合わせ

以前はよく見た光景ですが、今ではすっかり見る機会もなくなりました。

昔、レースを始めた頃、「とりあえずバラしてカーボン落としたら、バルブのすり合わせをしろ!」と言われたものです。なのでよくやりました。

その後、エアで動く「バルブラッパー」を見た時は、これでもう手作業ですり合わせをしないで済むと思い、感動したものです。しかしエア式ラッパーは、高速回転がゆえにステムのセンターがズレて、当たり面の出来が悪くなる、ということを複数の先輩やショップで言われました。

当時は大した経験もなく、自分の車両を速くしたいだけの理由でいろいろとやっていただけですので、信用できる方のアドバイスは、大抵はそのまま信じて作業しました。ということで、今でもすり合わせは、タコ棒を使っての手作業です。

新品のバルブステムシール

10年以上経過したエンジンのステムシールは、大抵はゴムというよりプラスチックに近い状態になっています。弾力はありません。ですから当然、ステムシールも新品に交換します。

このステムシール、意外とバルブガイドに装着しにくいものです。キズなどによるオイル下がりも起こさせたくはありません。なので私は、まず新品のステムシールにオイルと垂らします。バルブガイドの頭にも、オイルを垂らします。これだけで、ステムシールの装着がスムーズになります。

その後、バルブをガイドにして、ステムシールを装着していきます。


ヘッドの完成

完成したシリンダーヘッド

完成したシリンダーヘッド

完成したシリンダーヘッド

クランクケースはこれから組んで行きますが、ヘッドだけでも随分とキレイになりました。昔に対策した吹き抜け防止のガスケットも、STDのメタルガスケットに変更します。シリンダーも新品に交換します。これでまた暫くは、楽しませてくれるに違いありません。

上記3番目の写真を見ると、随分と吸入効率の良さそうな吸気ポートに見えます。インシュレーターをポートに合わせて拡大していますので、STDと比較すれば、相当に吸気効率は高まります。

出来上がれば大した見栄えはしませんが、長年イジり続けてきましたので、こんなヘッドでも、それなりのエッセンスは注入されています。その他、これから組んでいく際にも、ちょっと変わった組み方をご紹介できれば、と思っています。

お客様の車両だと、細かな部分まで紹介するのは難しいですが、自分のエンジンであれば、何の問題もありませんからね。