純正キャブレターのトラブル

オートバイが古くなってくると、当然ですがキャブレターも古くなっています。ノーマルでエアクリーナーボックスが付いているから、と安心していても、メンテナンスされていないキャブレターの中は、あなたが思っている以上に汚れているものです。

XJR1300の純正キャブレター

これは、非常に良くメンテナンスされているXJR1300から取り外した純正キャブレターです。もちろん、クリーナーBOXも付いています。

スイングアームやステムのベアリングもメンテナンスされているほど、日頃の整備はキチンとされている車両です。エンジンを降ろす前の試乗でも、特に不具合は感じませんでした。サスペンションや各可動部はとても良く動き、メンテナンスの良さを感じました。走行距離が多いので、ちょっとパワーダウンしているな、と感じましたが、その程度でした。

そんな日頃の整備がされている車両でも、外したキャブレターはこんな様子です。

XJR1300の純正キャブレター

XJR1300の純正キャブレター

同じキャブレターですが、ダイヤフラムを外すと、これだけの汚れやカスが溜まっていました。

定期的なエンジンオイルの交換やブレーキとクラッチのメンテナンス、各ベアリングまで交換されている車両ですが、エンジン内部とキャブレターだけは、購入後に一度も整備されていなかったようです。

大きな不具合も無く、調子良く走っていたとはいえ、十数年も使い続けたキャブレターの中は、概ねこのような状態です。

XJR1300純正キャブレターのオーバーホール

純正キャブレターでもこの状態まで分解し、各ジェット類やボディ内部を清掃します。特に不調ではなかったとはいえ、内部のクリーニングをしてこれだけの汚れを取り除けば、調子が良くなっても、悪くなることはありません。

普段乗っている車両でも、ちょっと調子が悪いな、といった程度でしたら、このようなクリーニングで改善することはあります。

ただしキャブレターは、原因探しが非常に難しいパーツでもあります。調子の悪さが、キャブレターのどの部分が原因なのか、何が悪いのか、古いキャブレターでは非常に分かりにくいのです。多くの方は、オーバーホールすれば調子良くなるだろう、セッティングを変更すれば改善されるだろう、と考えがちですが、そう簡単にはいきません。


不動期間の長いキャブレターは・・・

多くのユーザーの方は、しばらく乗らないからといって、キャブレター内のガソリンを抜いたりはしません。取り外したキャブレターを、保管前にクリーニングやオーバーホールすることは、おそらく無いでしょう。しかし、ガソリンも抜かずに長期保管すると、結構な割合で酷いことになっているものです。

長期保管されていたキャブレター

これは、取り外されて長期間保管されていたキャブレターです。メインジェットは黒く変色し、ニードルバルブには黒いタール状のものがへばり付いています。

タール状のものが付着しているニードルバルブ

取り外すと、こんな具合です。キャブレター内にはガソリンしか入っていませんので、ガソリンが変化したとしか考えられません。ガソリンがこのようになるのですね。驚きました。

当然、他の箇所に残ったガソリンも、同じようになっているでしょう。キャブレター内には、細かな通路がいろいろとあります。このタール状の物質をキレイに取り除くのは、普通に考えて無理です。

純正キャブレターのオーバーホール

このキャブレターは、ここまで分解して各ジェット類やボディの通路をクリーニングしましたが、やはり調子良くはなりませんでした。エンジンは掛かりました。でも、とても走る気にはなりません。

オーナー様は、もう一つ保管していたキャブレターをお持ちでしたが、そちらも分解クリーニングしても、使い物になりませんでした。

二つのキャブレターがダメでしたので、次に怪しそうなパーツを交換し、2個1(ニコイチ)にしてみましたが、それでもダメです。もうそうなったら、私にはどうすることも出来ません。

最後に、オーナー様に中古キャブレターを用意して頂き、やっとそれで普通に走れるようになりました。まともに走れるようになるのに、合計3つのキャブレターを分解クリーニングし、都合7回、キャブレターの脱着を行いました。

本来であれば、古いキャブレターを分解クリーニングする際、ゴム類やパッキン、消耗パーツは交換するべきです。それでもボディ内部の問題であれば、調子良くなるという保証はありません。調子が悪いまま、ということも、幾らでも有り得ます。

ちなみに、私がキャブレターに関してはオーバーホールという言葉を使わず、クリーニングという表現にしているのは、消耗パーツを交換していないからです。

オーバーホールとは、本来であれば消耗パーツを交換するべき作業ですが、それをすると、思いのほか高額なパーツ代が必要になります。ちょっと年式別に、純正キャブレターの交換したいパーツ代を調べてみました。


1999年式(5EA7)

  • メインジェット(#95): 913円
  • パイロットジェット(#40): 1,826円
  • パイロットエアジェット(#127.5): 1,045円
  • パイロットスクリュセット: 2,915円
  • ニードルバルブセット: 4,719円
  • ダイヤフラム: 10,626円
  • ニードルセット: 3,982円
  • フロートチャンバG/K: 1,364円
  • その他、Oリング
  • 計:27,390円(全て1ヶ)
  • 4ヶ合計:109,560円


2000年式(5EA9)

  • メインジェット(#100): 1,100円
  • パイロットジェット(#15): 1,342円
  • パイロットエアジェット(#145): 販売終了
  • スタータージェット(#52.5): 1,342円
  • パイロットスクリュセット: 2,024円
  • スロットルバルブ: 5,203円
  • ニードルバルブセット: 3,762円
  • ニードルセット: 2,728円
  • ダイヤフラム: 2,585円
  • フロートチャンバOリング: 583円
  • その他、Oリング
  • 計:20,669円(全て1ヶ)
  • 4ヶ合計:82,676円


2004年式(5UX6)

  • メインジェット(#102.5): 1,199円
  • パイロットジェット(#15): 1,342円
  • パイロットエアジェット(#140): 2,816円
  • スタータージェット(#52.5): 1,342円
  • パイロットスクリュセット: 2,024円
  • スロットルバルブ: 5,203円
  • ニードルバルブセット: 3,762円
  • ニードルセット: 2,728円
  • ダイヤフラム: 2,585円
  • フロートチャンバOリング: 583円
  • その他、Oリング
  • 計:23,584円(全て1ヶ)
  • 4ヶ合計:94,336円


キャブレター不調の対策は?

純正キャブレターの交換パーツは、以上のように高額になります。不調の原因が簡単に特定できない以上、古い不調のキャブレターを調子良くしようと思えば、上記のパーツは交換するべきでしょう。

しかし、部品代だけで10万円前後も必要です。その他、キャブレターの脱着工賃やオーバーホールの手間賃も必要です。その上、調子が良くなる保証は、残念ながらありません。

ボディの連結部まで全て分解し、ウォーターブラストを掛けるなどして内部通路まで徹底して洗浄してみるのも、一つの方法かもしれません。でも、私はしません。純正キャブレターにそこまでの手間とコストを掛ける意味が、あまり見いだせないのです。

そのような専門家がいらっしゃるのかどうか、私には分かりませんが、完全にキャブ屋さんの仕事に思えます。

もし、今後も長くXJR1300に乗る予定で、純正キャブレターにこだわりたい方は、新品が購入できない今、程度の良さそうなキャブレターを入手されておくことをお勧めします。当然、中古品になりますので、当たり外れや使えないリスクはありますが。

ちなみに過去2年で3台の車両のキャブレターを交換しました。TMRに交換した、ということではなく、調子の出ない純正キャブレターから程度の良い純正キャブレターに交換した、ということです。分解クリーニングしても調子良くならず、キャブレター本体を交換した、ということです。

いずれの車両も、キャブ交換で調子良くすることが出来ました。そんな事に備え、使えそうな純正キャブレターを一つは保有するよう、心掛けています。でも、常にあるとは限りません。あまりアテにしないよう、お願いいたします。

ミクニTMRキャブレター

もし純正キャブレターを分解クリーニングしても調子が良くならない場合には、やはりこのキャブレターがお勧めです。ミクニ製TMRキャブレターです。

既にXJR1300用としては、ほとんどの量販店では発売していませんが、当ガレージではXJR1300用を入荷できます。豊富なセッティングデータもあります。

ミクニ製TMRキャブレターを装着し、セッティングを出せば、パワーやトルクは一回りも二回りも太くなります。どんな開け方をしても、回転が付いてくるようにできます。でも最大の利点は、新品のキャブレターを購入できる、という事でしょう。

オートバイのキャブレターがインジェクションに変わり、もう新たなレーシングキャブレターが開発・製造されることはありません。つまり、FCRとTMRは、最後のレーシングキャブレターということです。特にTMRキャブレターは、性能も造りも最高のレーシングキャブレターだと思っています。最高にして最後、ということです。

ミクニさんがいつまでTMRキャブレターを製造するのかは、私には分かりません。この拙いブログをお読み下さっているXJR1300ユーザーの方で、TMRキャブレターに興味がある方がいらっしゃれば、お早めに購入されることをお勧めします。だって、いつ生産中止になるか分からないのですから。


TMRキャブレターのご相談は、気軽に。

XJR1300(1200)に限りますが、TMRキャブレターのご相談事がありましたら、気軽にお問い合わせ下さい。25年間も使ってきたTMRキャブのスペシャリストが、お一人お一人に親身になってご回答いたします。

TMRキャブレターはレーシングキャブレターです。出荷状態のセッティングでは、残念ながら楽しく走ることはできません。薄い部分も濃い部分もありますので、右手の動きにリニアに回転が付いてくる、という訳にはいきません。

しかし、レーシングキャブレターですから、セッティングの責任はユーザーにあります。『素材は提供したから、あとはご自身で調整して使ってくださいね』ということです。

当ガレージでは、ユーザーの方がご自身では難しいセッティング作業まで行っています。ゆっくり走っても、前車を追い抜くような急開時でも、どのような回転域でも右手の動きにリニアに反応する、走って楽しいセッティングを出すことが出来ます。

最高にして最後のレーシングキャブレター、あなたも味わってみませんか?