エンジンを開けてみたら・・・

XJR1200が発売されて25年、1300に変更されて、既に21年が経過しています。そう考えると、随分と古いオートバイのような気もしますが、現車を眺めていると、まだまだ十分に楽しめるオートバイだな、と思えてきます。

大きなトラブルや走れないほどの不具合が無くても、エンジンを開けて中を確認すると、時折ですが、おやっ?と思うようなダメージがある場合もあります。

以前にお伝えしているものもありますが、今回は、そのような事例を幾つかご紹介します。


バルブタイミングのズレ

カムスプロケットの合わせマーク

分解前のシリンダーヘッドです。カムスプロケットの●印をシリンダーヘッドの上面に合わせることにより、バルブタイミングを合わせます。

本来であれば、組み立て時に確認することですが、分解時にも念のために、現在の状態がどうなっているのかを確認しています。写真では分かりにくいかもしれませんが、INカムが遅れる方向にズレているような気がしました。

純正では、多少の誤差はあります。ピッタリとは合いません。でもこれを見た時は、『あれっ・・・?』と違和感を覚えました。

クランクシャフトを回転させて何度も確認しましたが、やはり誤差にしては大き過ぎます。ちょっとおかしい・・・。

念の為、ダイヤルゲージで測定してみました。

ダイヤルゲージでバルブタイミングを測定する。

やっぱり、です。IN側が十数度も遅れています。

この車両は、お預かりした際、オーナー様が配線をちょっとおかしくされたとかで、エンジンの始動ができませんでした。しかしそれまでは、普通に走ってご訪問下さっていましたので、エンジンの大きなトラブルがあった訳ではありません。

お預かりする際はエンジンの始動が困難であり、配線もイグナイターも交換する予定でしたので、トラブル箇所探しはせず、まずは分解、となった訳です。従って、試乗もしていない状況でした。

何度か確認しましたが、カムチェーンとカムスプロケットが、1コマずれて組まれていました。しかし、ヤマハの出荷状態で1コマもバルブタイミングが狂っている、なんてことは、考えられません。

クランクケースまで分解していくと、明らかに一度、ケースを割った形跡が残っていました。合わせ面に塗布する液体ガスケットです。純正ガスケットの上に、色の異なる別の液体ガスケットが塗布されていました。

一度分解されたエンジンのようです。その組み付けの際、INカムのスプロケットとカムチェーンがズレた状態で組まれた、ということでしょう。他に原因は考えられません。

この車両は、Rサスペンションにも手が入っていました。XJR1300は、純正でオーリンズが装着されています。そのオーリンズ製Rサスペンションを分解すると、他メーカーのオイルシールが、苦労の末に装着されていました。旋盤で製作したと思われるカラーで外径を合わせてあるのです。

手間を掛けて、何故このようなことをしたのでしょうか・・・?

おそらく、オーリンズ製のオイルシールを入手できないショップがオーバーホールした為でしょう。


対策

いつものように、キッチリとバルブタイミングを合わせるだけです。そして、必ず確認することです。

バルブタイミングを合わせた、と思っても、カムチェーンテンショナーを付けずにクランクを回転させると、簡単にカムチェーンはズレます。カムチェーンテンショナーを付けて、数回確認するだけで、このようなミスは防ぐことができます。

オーバーホール前の試乗はしていませんが、調子が宜しくなかったことは、容易に想像できます。オーナー様は若い方で、初めて所有するオートバイだったので、こんなものかと思っていたようです。

Rサスペンションも、オーバーホールを山ほどこなしている信頼出来るショップに依頼しましたので、安心です。

後日、出来上がった車両に試乗して頂くと、『ちょっとアクセルを開けただけで、ビュ~~って進んで、ちょっと怖いです。』とおっしゃっていました。

いえいえ、これが正常ですよ。今まで調子の良くないXJR1300に乗っていらっしゃったようですので、このパワーに早く慣れて、もっとツーリングに行って下さいね。


ピストンのダメージ

走行距離も重ねて、これからも長く調子良く乗りたい、ということでオーバーホールしたXJR1300エンジンですが、ピストンのカーボンを落として確認すると、残念なことになっていました。

幾つもの打痕が残ったXJR1300のピストン

異物が燃焼室に入り込み、ピストンの上下動でこれだけの打痕を残してしまったものと思われます。

シリンダーヘッドにも、深い打痕が残っていました。

同じダメージが残ったシリンダーヘッド

原因として一番怪しいのは、プラグ交換の際にヘッドに残っていた小石などの異物が、プラグホールから落下したことでしょう。オーナー様も、ご自身でプラグ交換をしたことがある、とおっしゃっていました。

XJR1300は空冷ですから、シリンダーヘッドにもフィンがあります。小石や小さな異物が溜まることは、良くあります。それが、プラグ交換する際、落ちてしまうのです。

中には、プラグの根元に挟み込まれることもあります。プラグを緩める際、その異物もフリーな状態になりますので、余計に落ちやすくなる訳です。

ご自身でプラグ交換される方は、交換前にエアーガンなどで異物を吹き飛ばして下さい。できれば、一度プラグを緩めたら、もう一度エアーガンで吹き飛ばすことです。根元に挟まっていた異物も、これで吹き飛びます。

こうすることで、プラグホールからの小石や異物の落下を防ぐことが出来ます。


対策

ピストンは、どうやっても再使用は出来ませんので、新品に交換しました。

面研磨後のシリンダーヘッド

ヘッドの打痕は、面研磨で削り落としましたが、全てを消すには1ミリ以上削らなければなりません。それほど深いキズです。ですので、0.3ミリの面研磨に留め、写真の状態から燃焼室側に出ているバリをリューターで削り落としました。

ピストンを新品にしているので、これで問題なく走ることができるでしょう。


カムシャフトのダメージ

1998年式のXJR1300で、約7万5千キロを走行したエンジンです。

オーナー様は振動を気にされていましたが、私が試乗した際には、さほど気にはなりませんでした。エンジンも、パワーが落ちているものの、特に問題は感じられませんでした。

しかし、エンジンを開けていくと・・・

深いキズの入ったカムシャフト

深いキズの入ったカムシャフト

深いキズの入ったカムシャフト

ここまで深いカムシャフトのキズは、あまり見たことがありません。それも、INカムとEXカムを合わせて、3箇所もあります。

もちろん、カムシャフトを押さえているカムキャップやシリンダーヘッドの受け部にも、同様の深いキズが入っています。カムシャフトのオイルホール部の円周状にキズがありますので、何らかの原因で異物がオイルと共に噴出され、キズを付けたものと思われます。

しかし、いったい何がここまでのキズを付けたのでしょう。

その後、クランクケースまで分解し、各パーツもチェックしましたが、カムシャフトにここまでのキズを付けるような硬いパーツの欠損などは、一切確認出来ませんでした。

オイルパンには、細かいネット状のオイルストレーナがありますので、ちょっとした異物などは、オイルポンプでエンジンに回ることは、考えにくいです。

不思議です。


対策

いくら、それまで普通に走行出来ていたとはいえ、これを見ればそのまま組む訳にはいきません。しかし、シリンダーヘッド一式をパーツで購入すれば、高額になります。

もし新品で購入したとしても、シルバーは既に廃盤になっており、ブラックしか入手できません。高額で新品を購入しても、塗装が必要になります。

わざわざ遠方から来て下さったお客様です。いろいろと考えた結果・・・

手持ちの中古エンジンをバラして、そのヘッド回りを使うこととしました。分解してみると、カムシャフトもシリンダーヘッドもキレイな状態です。これなら問題なく使えます。

分解してカーボンを除去し、バルブ回りを仕上げ、サンドブラストと塗装で外観をキレイにします。少しでも違和感を少なくするため、シリンダーも同時に塗装しました。

シリンダーヘッドと共に、INとEXのカムシャフト、カムキャップ、バルブリフタなども交換しました。

シルバー塗装で仕上げたシリンダーヘッド

クランクケースとの色の違いは多少は感じさせますが、見た目もキレイに仕上がりました。これで大きな問題も解消されて、また調子良く走ることができるでしょう。


ここでご紹介した車両は、全てそれまでオーナー様が乗られていたものです。エンジンに大きなトラブルが発生して走れなくなった、といった車両ではありません。

20年も経過し、様々な乗られ方をしてきた車両では、たとえ普通に走れるとは言っても、エンジン内部で何かが起きていることは有り得ます。

エンジンを開ける理由は人それぞれですが、1300でも20年選手です。消耗パーツの交換や各部のチェック、傷みやすい箇所の対策をすることにより、これからも安心して長く乗ることができるでしょう。

今後も、長く楽しく乗りたい、とお考えの方は、一度エンジンのオーバーホールを検討させることも、必要かもしれません。

XJR1300のオーバーホールのご相談は、お気軽にどうぞ。スペシャリストが、あなたのお悩みにお答えします。

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