TMRキャブレターとTPSについて

先日、エンジンオーバーホールのちょっとした合間に、TMRキャブレターの装着とセッティングを行いました。

XJR1300用TMRキャブレター

オイルキャッチタンクのステー作りに一番時間が掛かりましたが、現在、バッテリーを前にズレないように押さえる専用オイルキャッチタンクを製作中です。バッテリーのバンドフックも取り付ける予定です。10個ほど製作しますので、ご希望の方はお早めにお問い合わせください。

取り付けステーは、エアクリーナーボックスを止める箇所を利用できるよう、サイズも合わせて作りますので、XJR1300に取り付けるのであれば、いわゆる「ポン付け」です。ステーを切り出したり穴を開けたり溶接したり、といった手間は、不要です。

当ガレージにてミクニTMRを購入されたり装着やセッティングをご依頼下さった方には、割引価格にてご提供しようと思っています。

さて肝心のTMRのセッティングですが、今ではミクニの出荷状態でマシンに装着することはありません。数多くの走行データがありますので、エンジンの仕様によって、予めある程度の予測を立て、一度分解し、出荷時の初期セットから各部を変更します。

TMRキャブレターの分解整備

ここで何度かお伝えしていますが、XJR1300用だからといって、そのまま問題なく走れるようにセッティングされている訳ではありません。ピッチがXJR1300に合っていて、装着すればエンジンは掛かりますよ、といった程度です。

TMRはレーシングキャブレターですから、セッティングはユーザーが行うべきものです。車種専用だからそのまま走れる、ということではありません。

そもそもキャブレターセッティングは、エンジンやその車両によって異なるものです。ポン付けしただけで、『調子が良くない』、『気持ち良く走らない』、『息付きを起こす』といったクレームは、販売店でもメーカーでも受け付けてはくれません。

楽しむために高価なレーシングキャブレターを取り付けるのですから、ご自身でセッティングが出来ない方は、専門家にご相談されることをお勧めします。コストは掛かっても、一日でも早く調子良く走れるようになった方が、ずっと楽しいですからね。

MJ・JN・PJ・PSは、始めから全て変更した状態で装着します。データに基づいて初期設定をしますので、大きく外れることは、まずありません。そのまま走行しても、全く問題のないレベルです。

TMRキャブレターのJNセッティング

とは言え、空燃比計を取り付けて、微妙な領域をセッティングする必要はあります。エンジンの状態やマフラーによって、特に中低速域のセッティングは微妙に異なるものです。

アイドリング領域から実走行でのテストまで、様々な領域で開け方や乗り方を変えてテストし、セッティングを合わせていきます。こんな時、従来の乗り手の感覚だけでセッティング出しをするのと比べ、空燃比計があると何倍ものスピードでキャブセッティングが出せます。

今回も、オイルキャッチタンクを含めた装着に時間は掛かりましたが、実際のセッティング作業は半日で終わりました。

後日、実際にオーナー様に乗っていただき、確認して頂いた後、以下のようなコメントを頂きました。

オーナー様コメント

お疲れ様です。
キャブレターの取り付けとセッティング、ありがとうございます。

トルクの出方が凄いです。
どの回転どのギアでも、アクセルと連動していて凄く気持ち良く加速してくれます。
今までシフトダウンが必要な加速する時も、アクセルだけで加速できちゃうので、街中でも楽になっちゃいますね。

ノーマルキャブには絶対に戻れません。セッティングの出たTMRキャブって、こんなに気持ちの良いものなんですね。

サスも、リヤのアダプターを外したら、押し引きからバイクが軽くなり、交差点を曲がるときも、変な力が要らなくなりました。

バイクに乗るのが、凄く楽しくなりました。セッティングだけでなくサスのアドバイスまで、本当にありがとうございました。


TPSは本当に必要か?

XJR1300には、1200時代からキャブレターにTPS(スロットル・ポジション・センサー)が付いています。従来の回転数だけによる進角変化ではなく、そこにアクセル開度も連動させるためです。

例えば同じ5,000rpmだとしても、アクセル開度が1/10の時もあれば、1/4の時もります。全開の時もあるでしょう。でも回転数は同じです。回転数は同じでもアクセル開度が違うということは、いったいどういう事なのでしょう…。

アクセル開度が違う、ということは、『ライダーの意思が違う。』ということです。信号発進でアクセル開度1/10の時に5,000rpmになった時と、大きな加速を得ようとしてアクセルを1/4開けて5,000rpmになった時では、乗り手の意思や思考は全く異なります。まして、アクセルを全開にして5,000rpmになった時では、まるで違います。

キャブレターは、現在のインジェクションのようにはいきません。アナログ感満載の機構です。右手のスロットルがライダーの意思だとしたら、アクセル開度や回転数などを瞬時に正確にガソリン噴出量に変えることなど、出来ません。

TPSは、キャブレターやエンジンもノーマルであれば、有意義なことだとは思います。メーカーが開発・テストし、その有効性が認められたから採用されている訳ですから。でも私は、1200の時代から25年間、一度もTPSを使ったことがありません。その必要性も、感じたことがありません。レースでもツーリングでも、です。

今の電子制御のマシンならともかく、20年以上も前のキャブレター車です。そのオートバイのTPSの目的はといえば、スムーズな吹け上がりやトルクアップに貢献し、ライダーの意思である右手のスロットル操作を、少しでも反映させるためだと想像できます。しかしキャブレターをレーシングキャブに変更し、エンジンもチューニングしたXJR1300にはTPSは不要だと、個人的には感じています。

エンジンがSTDのままでも、レーシングキャブレターを取り付けるならば、TPSは使用しなくても、何も問題はありません。

私個人が所有し、ツーリングに使っているXJR1300では、今も昔もTPSはキャンセルされていますが、トルクも吹け上がりも各開度のつながりも、何の不満もありませんし、一度も不便さや問題を感じたことはありません。十分なトルクで、どこから開けても回転は付いてきます。

そもそもミクニTMRを取り付ければ、それだけでトルクとパワーはどの領域でも、1ランクも2ランクも上になります。そしてキチンとセッティングを出せば、どの領域、どのアクセル開度でも、スムーズに息付くことなく吹け上がるようにできます。

ですから私は、XJR1300に関しては、キャブレターを変更したりエンジンをチューニングする際には、TPSの必要性を感じていません。


TPSのもう一つの問題点

XJR1300が発売された20年ほど前、オーバーやノジマ、その他のメーカーから『フルパワーキット』なるものが発売されていました。インシュレーターを内径の大きなFJ用に変更したり、ピックアップを変更して点火時期を早める、といったものです。

この頃、時折雑誌で『進角させるとパワーが出る』といった内容の記事を目にしました。だから、余計に売れたのかもしれません。

大した知識も経験も無い若造の私は、速くしたい・タイムを縮めたい、との考えから、ピックアップを自分で改造して、何通りものテストしたものです。

結果は・・・

効果なし・乗りにくい、と結論付けて、元にもどしました。

私が今でも愛用しているオーバー製イグナイターには、4通りの進角マップがありますが、一番遅角させているマップをレース時でも街乗りでも使っています。このオーバー製イグナイターは、現在でも壊れずに愛車に装着されています。

進角させると、確かにノーマルエンジンとノーマルキャブレターであれば、高回転域では伸びやパワーの出方が良くなるような気もしますが、中低速域では、逆に乗りにくく感じます。

これが吸排気効率の良くなった高圧縮チューニングエンジンになると、進角させることでエンジンに重大なダメージを与える危険性があります。デトネーションによってピストンが溶けるのです。

最近、無残に溶けた高価なピストンを3セット見ました。このような事を避けるためにも、むやみに進角させるべきではない、と思っています。

損傷を受けたXJR1300用ピストン

ウオタニ製のイグナイターは良く出来ており、点火時期も細かく設定できるようになっています。ただ、『進角させるとパワーが出る』といった安易な考えで、多くの方が進角させているのを見てきました。

でも私の経験と考えでは、XJR1300は進角させるべきではありません。チューニングエンジンでは、逆に遅角させるべきです。

ピックアップ部で進角させていたエンジンをオーバーホールしたことがありますが、ピストンヘッドのカーボンの付き方・焼け方が、明らかに違っていました。それが良いのか悪いのかまでは、私には分かりませんでしたが、見慣れたカーボンの付着具合ではありませんでした。

マップでは、トルクアップさせるために、アクセル開度1/3~1/2付近では進角させるような設定になっています。現在販売されているウオタニ製品も、そのようなマッピングです。

高度にチューニングされたエンジンでTPSを作動させると、アクセル開閉の度にその進角領域を使うことになります。点火時期が早くなる訳です。チューニングエンジンで点火時期を早めると、良いことはありません。


TMRキャブレターの取り付けセッティングをします。

XJR1300用TMRキャブレターのセッティング作業

今回TMRキャブレターを取り付けたオーナー様は、STDエンジンです。マフラーは社外の集合管が付いていますが、エンジンは何もしていません。それでも、各領域でキチンとセッティングを出せば、トルクやパワーは格段に向上し、どのアクセル開度でも何の不満も出ない、楽しい乗り味を出すことができます。

もちろん、TPS無しです。

肝心なのは、TPSがあるか無いか、ではなく、セッティングです。低速域からライダーの意思を反映する加速をし、レーシングキャブレターの泣き所である『ガバ開け(急開)』時のもたつき・息付きをライダーに感じさせない、いつでもどんな回転数でも付いてくるようなセッティングです。

あなたのXJR1300を、一味も二味も違うオートバイにすることが出来ます。

ただし、FCRとヨシムラMJNには、ご対応しておりません。TMRキャブレターのみとなりますこと、ご了承ください。

TMRキャブレターでお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。小さなガレージのオヤジですが、親身になってご対応いたします。現在ではカタログ落ちしているXJR1300用TMRキャブレターも、当ガレージで入手できます。

TMRキャブレターのご相談は、こちら。