ヤマハが5連覇を逃した今年の鈴鹿8耐

初めて鈴鹿8耐を見に行ったのは、もう35年以上も前のことです。その後、もう一度だけ見に行きました。見に行ったのは、その2回だけでした。

とにかく暑くて人が多くて、それでも走っているライダーは、皆カッコ良く見えました。知り合いが4耐にも8耐にも出場しており、「スゲーなぁ!カッコいいなぁ~!」と思いながら、見ていたものです。

気がつけば、自分も8耐の出場資格である『国際A級』に昇格しており、『いつかは8耐』と思っていた遠い夢が、少しだけ近づいたような気がしました。頑張れば手が届きそうなところに、8耐はありました。でも、そう簡単に出場できるレースではありません。

縁があって、選手(ライダー)として2回だけですが出場し、1回は出番が無いまま終わりました。もう1回は、終日雨の中のレースでしたが、無事に完走することができました。レースが終わると、どのピットも水やビールの掛け合いをするものですが、その時は何故か一人になりたくて、缶ビールを持って車検場の裏に一人で行き、花火を見ながらたそがれていました。自然に涙が、少しだけ、こぼれてきました。

ずっと夢に見てきた8耐を走る事ができたのです。しかも、ノートラブルの完走です。チェッカーを受ける役目もさせて頂きました。初めて8耐を見に来てから、既に15年の月日が経っていました。

そんな思い出のある鈴鹿8時間耐久レースは、いまでも私にとっては、間違いなく特別なレースです。

(※ 画像は全て、『Response.jp』から引用させて頂きました。)


多くの人にとっても、特別なレース

2019年コカコーラ鈴鹿8時間耐久レースのスタート

正式名称は、「コカコーラ鈴鹿8時間耐久ロードレース」と言いますが、今では世界耐久選手権の最終戦として位置付けられています。ということは、このレースでチャンピオンが決まる、ということです。

当然ですが、世界チャンピオンを狙う多くの海外チームも参戦してきます。チャンピオン獲得のチャンスがあるチームにとっては、間違いなく特別なレースになります。

国内4メーカーにとっても、鈴鹿はお膝元のレースです。販売戦略や広告活動を考えても、重要なレースであることは、昔も今も変わりません。特に今年は、各メーカーがワークス体勢で参加してきます。必勝体制ですので、特別でしょう。

その他、多くのプライベートチームにとっても、鈴鹿8耐は特別な思い入れがあるものです。資金調達からマシンの用意、パーツの準備、メカニックやヘルパーなどの人員確保など、多くの手間や労力を掛けて、8耐に参戦しています。

それぞれ立場や思い入れは違いますが、参加するチーム、ライダー、メカニック、ヘルパー、スポンサーの数だけ、そこに物語があるものです。それらの思いを背負い、ライダーたちは走っています。

何も、ワークスチームやメーカー系有力チームだけが参加者ではありません。多くの弱小プライベートチームがいるからこそ、8耐は成立しています。


神経戦の始まり

2019年コカコーラ鈴鹿8時間耐久レースのスタート直後

私は自宅のテレビで、スタートとゴールを見る予定でした。契約しているケーブルテレビでは、その時間帯しか放映されないからです。

スタート進行は、以前の私が知っている方法とは、少し変わっているようでした。コースの反対側にイスに座って長時間待っているのではなく、サイティングラップの後、ライダーはスタート位置につき、すぐにレースが始まります。

スタートしてしばらくすると、先頭グループは5台に絞られました。ヨシムラを先頭に、ヤマハ、ホンダ、カワサキの各ワークス、それに昨年の年間チャンピオンであるTSRホンダです。

ヨシムラのギントーリ選手が先頭を引っ張りますが、その他は、誰も前に出ようとはしません。1列になって、前の選手を風避けに使っているように感じます。ツールドフランスのような、自転車ロードレースを見ているような気さえしたほどです。

耐久レースですから、燃料を絞り、より多くの周回を走れるよう、緻密な計算がされているだろう事は、容易に想像できます。アクセルの開け方一つでも燃費は変わってきますので、消費する燃料を抑えつつ、あとはどれだけ立てた戦略通りに走れるかが、勝負の分かれ目になってくるのでしょう。

誰も前のライダーを抜こうとはせず、ひたすらガマンして走っている姿は、まるで神経戦の様相です。


混乱の中でのレース終了

そろそろテレビ中継が始まっている頃だろうと思い、6時頃にテレビを付けました。ちょうど最後のライダーチェンジ前の頃でした。残り、約1時間です。

トップは33号車ホンダ、2番手は10号車カワサキで、トップのすぐ後方にいます。3番手は21号車ヤマハで、9秒差です。7時間も経過しているのに、10秒以内に3メーカーのワークスチームがいる状態です。

途中の経過は見ていませんが、おそらく順位を入れ替えながらの神経戦が続いていたはずです。

周回遅れになっていますが、1号車TSRホンダと12号車ヨシムラも続いています。トップ5は、レース開始直後から変わっていません。非常にハイレベルな戦いが続いています。

各チーム、最後の給油やライダー交代をして、チェッカーを目指して走っています。どうやら、小雨が落ちてきたようです。最後まで、何が起きるのか分かりません。テレビで見ているだけでも、ドキドキしてくるような展開が続きます。

そして皆さんご存知の、波乱のエンディングを迎えることとなります。


自分だったらどうするか?

ここで誰かを批判をしたところで、何も変わりません。オバチャンたちの井戸端会議と同レベルです。

ただ私は、よく『自分だったらどうするか?』と考えることがあります。自分だったらどう判断しただろう、何を優先させただろう、そんな具合です。

これ以降は、あくまでも私がその立場だったら、どうしていたのか?といった、いわば妄想の話です。レース現場にいる人たちは、テレビの視聴者と比較にならないほど多くの情報を持っています。私たちの知らない事がたくさんあります。その中で、判断・決断しているのです。

一人のレース好きのおっちゃんの独り言、と思って読んで頂ければ、と思います。


2号車S.E.R.T(Suzuki Endurance Racing Team)のライダーだったら?

今回のレースで一番残念に思ったのが、2号車S.E.R.Tのエンジンブロー後の対応でした。

エンジンブローは、起きてしまったのですから、仕方ありません。誰もエンジンを壊そうと思って走っている訳ではありませんし、壊れてもいいと思ってエンジンを組んでいる訳でもありません。

そもそもレーシングスピードで8時間も走るのですから、エンジンが壊れることもあります。所詮、機械ですから、起こりうることです。誰を責めることも出来ません。

ただ残念だったのは、コース上に復帰したことです。エンジンブローした事は、1コーナーのアウト側に逃げてスローダウンしたことから、ライダーは気付いています。

最後のスティントを走っていたライダーは、残り30分くらいのところで、緊急ピットインをしていました。何か異変を感じていたのだと思います。この時、サイレンサーが真っ赤でした。結局、何もせずにピットアウトしていきました。

夕闇を走る姿を時折テレビで映し出されましたが、やはりサイレンサーに赤のLEDでも入っているかと思わせるほど、赤くなっていました。

あと10分走れば、チャンピオンになれたはずです。勇退する監督さんに、最後にチャンピオンの称号を贈ることも出来たでしょう。でもそれらは全て、自分たちだけの都合です。

ライダーたるもの、他の仲間を危険に晒すことをしてはなりません。コース上にいる全てのライダーは、同じ仲間なのです。コース上のオイルが何を引き起こすか、8耐で上位を走るほどのライダーが、知らない訳がありません。

しかも止まる前に、コースを横切っています。おそらくコースの右側に行けばショートカットがある事を知っていて、少しでも近くに行きたかったのだろう、と推測は出来ます。

チャンピオン獲得寸前に信じられないような事態になり、様々な事が脳裏を横切り、あれこれ考えたことでしょう。私たちの知らない事情や物語も、いろいろとあったでしょう。

エンジンブローは、ライダーだけの責任ではありません。でも、その後の行動や判断は、責められても仕方のないものです。少なくとも、鈴鹿8耐というレースのエンディングを、台無しにしてしまったのですから。

もし私が、エンジンブローした時のライダーだったら・・・
そのまま2コーナー出口のアウト側グリーンに、マシンを止めます。迷う事なく、そうします。他の行動は、私には思いつきません。

S.E.R.Tチームやライダーには、この悔しさを今後の成長に繋げて頂きたいと願うばかりです。


33号車ホンダの監督だったら?

33号車Red Bull Honda

33号車Red Bull Honda(レッドブルホンダ)は、どのような事情があったのか詳しくは分かりませんが、決勝レースで清成選手は走らず、高橋選手とブラドル選手の二人での戦いになりました。

高橋選手は全日本の好調を維持し、素晴らしい走りをしていました。そんな中、トップ争いを繰り広げている最終スティントを、連続走行することになりました。

結果、ラップタイムは落ち、カワサキには引き離され、ヤマハにも抜かれてしまいました。しかしこの結果は、高橋選手のせいではありません。

サーキットを夕闇が包み始めた頃でも、トップ争いは8秒とか9秒とか、信じられないペースでした。4年連続ワールドチャンピオンのレイ選手に至っては、200周を越えた中でファステストを塗り替えるという、まさに鬼気迫る走りをしていました。

そんな中、いくら好調な高橋選手でも、既に疲れきっている状態での連続走行は、無理があったのでしょう。

レース後、宇川監督が、「私が決めて、高橋選手に伝えました。全て私の責任です。」というような事を、インタビューで言っていました。

宇川監督、監督としてはまだ若いな、などと感じていましたが、このインタビューではカッコ良く見えました。

『強ければ選手のおかげ、ダメな時は監督のせい。』

私は個人的には、全てのスポーツがそうだと思っています。プロフェッショナルでもアマチュアでも、大人でも子供でも。なぜなら、選手に負けた責任を取らせるべきではない、そう考えているからです。

監督たるもの、負けた時はいい訳などせず、自分一人で責任を負うべきです。宇川監督、カッコ良かったですよ♪

もし私が33号車Red Bull Hondaの監督だったら・・・

最後のスティントは、清成選手に任せます。年齢も一番上ですし、8耐をよく理解もしています。何度も負けて、何度も勝った経験があります。きっと彼に任せます。


10号車カワサキのライダーだったら?

10号車カワサキ

カワサキは、久しく優勝から遠ざかっています。今回のメンバーを見ても、本気度が伝わってきます。なんと言っても、現在カワサキ車を走らせれば世界で1番速い人から3番目に速い人で、チームを組んでいます。超豪華な布陣です。

ケーブルテレビでワールドスーパーバイクを放映していますので、レースは良く見ています。4年連続チャンピオンですので、私のような者が言うことは、何もありません。凄い!の一言です。走りを見ているだけで、ワクワクします。

もし・・・もし、最後の走行が私だったら・・・

オイルが撒かれた場所を過ぎるまで、最徐行です。だって、オイルに乗ったら何も出来ずに転びますから。

転倒する1周前、レイ選手は2コーナー立ち上がりから周回遅れの集団に追いつきました。もしかしたら、イエローフラッグが出ていたのかもしれません。オイルフラッグだけだったのか、そこまではテレビでは確認できませんでした。

いずれにせよ、フル減速して周回遅れの集団の後ろに付き、逆バンクを立ち上がったところから前車を抜いていきました。この時、周回遅れのライダーがコースの左側に寄って、アクセルから手を離した右手で、「行け!行け!」と合図していたのが印象的でした。

世界チャンピオンライダーのこの時の心情や考えていた事は、私には想像もつきません。でも、この周回遅れのライダーの心情なら、理解できます。

ゴール後、2時間経過してから暫定結果が変更になりました。個人的には、これで良かったと思っています。誰が見ても、一番速かったのですから。

一つ残念だったのは、テレビの解説人やアナウンサーが、誰もEWCのレギュレーションについて触れなかったことです。

5分間ルールはEWCのレギュレーションブックに記載されているのか?
その解説はありませんでした。

耐久レースの現場です。レギュレーションブックくらい、駆け回れば、どこかにあるはずです。英語の分かる方や通訳できる方も、必ずいるはずです。せめて、そのくらいは説明して欲しかったな、と思いながら、テレビ中継を見ていました。

そんな視聴者がテレビの前にいることを、来年以降の放送に活かして頂ければ、と切に願います。


21号車ヤマハの監督だったら?

21号車ヤマハ

昨年まで4連覇しているチームです。5連覇への期待、重圧、様々な気苦労もあったと思います。監督さんの、ここでは言えない事情も知っています。『お疲れ様でした。ご苦労さまでした。』、次回合う時は、このくらいの優しい言葉は掛けてあげようと思います。

「缶コーヒー買って来い!」なんて、もう言いません。
だから、3時まで飲んだ後、明けがたの4時に人の上に乗って、「でか兄ぃ~、起きろぉ!!」と大声で人の事を起こすのは、もう止めてください。

もし・・・もしヤマハの監督だったら?

来年の為に、ピットストップ時間を短縮させる方法を考えます。ここで、ホンダチームとの差がありました。1回のピットストップで、あと3秒縮めたいですね。まあ、勝手な期待ですけれど。

ところで、もしかしたら見間違いかもしれませんが、レース終了後のピット前のパルクフェルメに、ブリヂストンの赤い帽子を被った野左根選手がいました。

帽子を取り、目を拭いているようでした。もしかして、目頭が熱くなってしまったのでしょうか。私には、涙を拭いているように見えました。

出番はありませんでしたが、ずっとピットで時間を過ごし、そこに流れる空気を共有し、皆の動きを観察できたと思います。きっと何か感じるもの、こみ上げるものがあったのでしょう。

航汰、そのうちに君がエースとなって、8耐に出場する日が来ると思います。監督は変わっているかもしれませんが、オジサンは応援していますよ。

カワサキチームも、ラズガットリオグル選手を決勝では走らせませんでした。予選や練習のタイムは、他の二人と遜色ありません。ただ、若くて経験が少ないだけです。

そんなところに目を向けてみるのも、面白いです。もしかしたら数年後は、カワサキのエースになっているかもしれません。

バイク好き、レース好きのオジサンが、好き勝手なことを書きました。反論のある方もいるでしょうが、笑って放置して下されば、と思っています。