スタータクラッチを交換しよう!

人様のXJR1300エンジンを分解していく中で、昔は交換したことなど無かったのに、最近では傷みが激しいなぁ~、と思えるパーツがあります。

その筆頭が、スタータクラッチです。


XJR1300のスタータクラッチ

これがXJR1300のスタータクラッチです。左側は新品パーツで組んだもの、右はオーバーホールエンジンから取り外したものです。

外観上は、多少変色しているくらいで、大した差は無いように見えます。でも、中は相当なダメージがある車両も、少なくありません。

XJR1200時代は、スタータクラッチのトラブルは時々耳にしました。メーカーも認める弱点であり、XJR1300になった際、スタータクラッチも改良されました。


分解したXJR1300のスタータクラッチ

これは、スタータクラッチの分解状態です。特別難しい構造ではありません。

私は1200の時代から一度もトラブルはありませんが、1300になった今でも、時々スタータクラッチのご相談を受けることがあります。スタータクラッチがトラブルを起こすと、エンジンを掛けることが出来なくなります。多くのご相談は、「セルを回しても、空回りしている。」といった内容です。

スタータクラッチ内のダンパー

ハイボチェーン

スタータクラッチ内には、ゴム製のダンパーが入っています。ほとんどの場合、このダンパーがプラスチックのように硬化しています。本来は二つが繋がった形状なのですが、画像のように切れてバラバラになっているものもあります。

また、クランクシャフトとスタータクラッチをつなぐハイボチェーン(プライマリチェーン)は、画像のように伸びています。短い方が新品で、古いチェーンと新しいチェーンを、ドライバーに引っ掛けて長さを比べたものです。

クランクケースアッパーには、ハイボチェーンが当たらないよう、ゴム製のガイドが付きますが、これもゴムが硬化しています。

クランクシャフトやスタータクラッチをセットした状態

上の写真は、クランクケースを合わせる前のものです。クランクケースアッパーにクランクシャフトとスタータクラッチ、ハイボチェーンなどを組み付けて、ケースロアと合わせます。

このような状態で分解時にチェックすると、ハイボチェーンには「たるみ」が結構あります。新品のチェーンに交換して組み立て時にチェックすると、「たるみ」はほとんど感じられません。

新旧のハイボチェーン2本を比べると、伸びの程度は少しに感じますが、組んだ状態では、想像以上に遊びは大きいものです。しかもハイボチェーンには、カムチェーンのようなテンショナー構造は、付いていません。伸びたら伸びっぱなし、ということです。

スタータクラッチパーツ

チェーンよりも傷んだら大事になるのが、円形のリング状のパーツです。正式なパーツ名称は、「スタータクラッチアウタアセンブリ」と言います。簡単に言えば、片側方向には回転し、反対側には回転しないパーツです。

このパーツのおかげで、セルモータを回した時だけクランクシャフトが回転するのです。

私はスタータクラッチがトラブルを起こしたエンジンを、開けたことはありません。10年ほど前までは、1200のエンジンでさえ、スタータクラッチを交換したことがありません。しかし最近では、傷みが激しい車両もあります。

スタータクラッチの一番の難点は、『クランクケースを割らなければ、交換できない』ことです。タンクやキャブレターを外し、マフラーやオイルクーラーも外し、エンジンを降ろし、エンジン全てを分解する必要がある、ということです。

つまり、エンジンのフルオーバーホールを行うのと、作業手間は変わりません。手間が変わらないのですから、工賃も変わらないということです。ですから、安く・簡単に交換する、という訳にはいかないのです。

トラブルを起こした方の「安く直したい。」という気持ちは、分かります。しかし以上のような理由ですので、申し訳ありませんが、安く直すことは出来ません。

それでも「出来るだけ安く!」という方には、中古エンジンへの積み替えをお勧めしています。中古エンジンの程度にもよりますが、ずっと安く済ませることができるでしょう。

私がエンジンを分解するということは、多くの場合はオーバーホールするためです。スタータクラッチも単体になります。ハイボチェーンも取り外されます。

今後も安心して長く乗って頂くために、スタータクラッチは主要パーツだけでも交換することを、最近ではお客様にお勧めしています。バラされているのですから、交換は部品さえあれば、簡単に出来るからです。

『セルボタンを押しても、スタータクラッチが空回りしてエンジンが掛からない・・・。』出先でこんな事にならないように、せっかくケースまで割るのですから、予防の意味もこめて交換しませんか?ということです。

「オレは押し掛けしてエンジンを掛けるから大丈夫だ!」という体力自慢の方は、大丈夫かもしれません。でも、普通の方にはお勧めはしません。試しに、押し掛けを経験してみれば、勧めない理由が分かります。


既に生産から20年も経つと、以前は気にならなかったようなパーツでも、思いのほか傷んでいるものです。それを考えると、キャブレター仕様のXJR1300は、既に旧車の仲間入りをしているのかもしれません。

傷む箇所や傷み具合は、乗り方や保管の仕方によっても変わってきます。走行距離だけでは測れません。スタータクラッチの傷みは、オイル管理やセルの回し方によって変わってくるのかもしれませんが、確かなことは言えません。

以前に私が造ったXJR1200は、エンジンには1300のパーツを一つも使ってはいません。ピストンもスタータクラッチもコンロッドも、1200のパーツです。それでも140馬力以上出ていました。最近になってヘッドガスケットが吹き抜けるまで、スタータクラッチに不具合は一度も出ませんでした。

そうかと思えば、走行距離の多くない1300でも、スタータクラッチに不具合が出ることもあるようです。

今後も長く乗りたいとお考えであれば、スタータクラッチの交換も含めたオーバーホールが、一番確実でしょう。

エンジンのオーバーホールをお考えの方は、まずはお気軽にご相談ください。