2種類のTMRキャブレターのセッティング

つい最近、空燃比計を取り付けて、2種類のTMRキャブレターのセッティング作業を行ないました。

キャブレターの口径やエンジンの仕様も全く異なる2台です。
さて、どの程度の違いがあるのでしょうか・・・


ヨシムラTMR40・パワーフィルター仕様・TPS付き

数年前にエンジンのオーバーホールをしたお客様から、TMRキャブレターのご相談を受けました。「TPSは欲しい。」とのご希望でしたので、お客様ご自身でヨシムラから購入し、当ガレージで取り付けとセッティング作業をすることになりました。

待つこと2ヵ月半、ヨシムラからダンボール箱が届きました。

ヨシムラTMR40・パワーフィルター仕様・TPS付き

あえて「MJN」にしなかったのは、私のアドバイスを聞いてくださったからでしょう。「MJN」は、細かなセッティングが出せないのです。

買ってポン付けで走るのなら、TMRよりも幾分マシかもしれません。でも、そもそもキャブセッティングは、エンジンやその他の条件で変わってくるものです。右手をどう動かしても、リニアに回転が付いてくるようなセッティングは、「MJN」では非常に難しいです。私には出来ません。

対して、「TMR」であれば、動き出しからパーシャル走行、加速時でも、タイムラグの無いキャブセッティングを出すことができます。ですから、これからレーシングキャブレターの購入を検討するのであれば、断然「TMR」がお勧めだと、私は思っています。

取り付け前に分解確認

アダプターの取り付け

いつものように、取り付け前に分解し、動きや初期の設定を確認します。
「ははぁ~、なるほど・・・」、初期設定を確認して、そう思いました。ヨシムラTMRの初期設定は、ミクニの出荷時から、結構変わっています。

通常、40・41ΦのTMRの初期設定は、以下の通りです。

  • MJ:#160
  • JN:10E01-52 #3
  • PJ:#27.5
  • PS:2

この初期設定は、XJR1300用だから、それに合わせてこうなっている、という訳ではありません。どんな車種用だろうが、40・41Φはこの設定です。あくまでも、ベースセッティングということです。

さて、ヨシムラTMRの購入時の設定は、ミクニ出荷時の初期設定から、いったいどの程度変わっていたのでしょうか・・・

・・・

この辺りの数字は、ヨシムラ独自のものであり、企業秘密の部分もあるでしょうから、ここでの公開は差し控えたいと思います。ただ、上記に上げた4項目全てにおいて、ミクニ出荷時の初期設定とは異なっていました。

MJやPJは、番手が変わっています。PSも、戻し回転数が変わっています。JNに至っては、太さだけでなくテーパー角も変わっています。

この状態で、どこまで走るのか、空燃比計の数字はどうなるのか、実際に空燃比計を取り付けて走ってみる事にしましょう。おそらく、ミクニ出荷時の状態でポン付けしたよりも、ずっと走ると予想できますが・・・

空燃比計を取り付けて、ヨシムラTMR40のセッティング

まず、アイドリングが濃い目です。PJは良い数字のものが付いていますので、PSの締め込み量で調整してみます。1/2回転締め込むと、空燃比で、約1の変化があります。空燃比で「12.0」を過ぎたところで、一旦PSの調整を止めます。

その状態で再度エンジンを始動し、実際に走ってみることにしました。

まず、スロットルを一切回さずにアイドリングだけでクラッチミートしていき、力強く発進できるかをテストします。ノーマルエンジンであれば、動き出せるはずです。

次に、パーシャル走行と急開時のテストを、空燃比計を確認しながら、何度も行います。回転数やギアを変えてみたり、そこからガバッと開けてみたり、開け方を換えてみたりしながら、繰り返していきます。

ヨシムラTMR40のセッティング作業

当然ですが、途中でこのような作業を何度もすることになります。

街乗りマシンのキャブセッティングは、特にこの「JN」を中心とした中速域が一番難しく、また一番多用する領域でもあります。私は今まで、この領域が上手くセッティング出来ている街乗りマシンには、ほとんどお目にかかった事がありません。ですから、余計にシビアに、神経質になってしまいます。

結局JNは、太さ・テーパー角・クリップ段数まで変更しました。パーシャル時は多少濃い目にはなっていますが、ヨシムラの設定値ほどではなく、また急開時にも、回転が付いてきて加速するまで一呼吸待つ、といった事もありません。

この、パーシャルから急開する、というシチュエーションは、ツーリング時でもよくあることです。前が開けたから加速する、前車を追い抜く、といった場面です。その時、ほとんどのレーシングキャブレター装着車は、回転が付いてきてオートバイが加速するまでに、1テンポも2テンポも時間が空きます。

これは、レーシングキャブレターの宿命です。スロットルが大きく開いて、急に大量の空気が流れ込んできた時に、ガソリンが足りなくなるのです。つまり、薄くなるのです。

だから、その症状を少しでも改善させるために、FCRでもTMRでも、加速ポンプが付いているのです。

私たちの年代のレース経験者は、身体でその事を学んできました。だから急にガバッと大きく開けることはしません。そうやっても回転が付いてこないことを、経験から知っています。

じゃあどうするのかと言えば、『ジワッと速く』アクセルを開けるのです。急に大きく「ガバッ」と開けるのではなく、『ジワッと速く』開けるだけで、息つき現象はだいぶ緩和されます。

話がだいぶ脱線してしまいました(汗・・)。

いつものように、走ってはタンクを外してセッティング変更をして、を繰り返し、満足のいくセッティングとなりました。

ヨシムラTMR40のセッティング作業終了

今回のヨシムラTMR40はパワーフィルター付きですが、思ったほどの流入の抵抗感もなく、アクセルを半分以上開けたMJの領域まで行かない限り、変化はほとんど感じ取ることが出来ませんでした。

このパワーフィルターがあることによって、メンテナンス頻度はだいぶ変わってくるでしょう。一度取り付けたらキャブレターなんて弄りたくない、という方は、パワーフィルターを検討されても良いと思います。


TMR41・TPS無し

私のXJR1200改に付いていたTMR41Φが旅に出て、既に8年以上経ちます。残念ながら、もう戻ってくることはありません。その間、TMR-MJNを付けていましたが、またTMR41Φで走りたくなり、昨年のうちに購入して、大事にしまってありました。

オーバーホール済みのTMR-MJNをお客様に貸し出しましたので、このままでは暫く走れそうもありません。そこで、新品のTMRを取り付けることにしました。

ミクニTMR41の新品ボディ

いつものように新品キャブレターを分解し、チェックします。その後、昔のメモを見ながら、ある程度の予想を立ててジェット変更をします。

実は、41Φを空燃比計で測定するのは、初めてです。しかも、自分のチューンされたエンジンです。どのような数字が出るのか、ちょっと楽しみでもあります。

JNの変更

MJ・PJの変更

何度か実走テストをしましたが、予想のセッティングでは、パーシャルも開け始めも薄い状態です。今までに何度も空燃比計を付けてTMRのセッティング出しをしてきましたが、中速域が全く異なります。

この違いは、キャブレターの口径が大きくなったからなのか、それともエンジンのチューニング度合いによるものなのか、まだ詳しく検証していないので分かりません。

ただ以前に、お客様のTMR40Φのセッティング作業が終わった後、一旦取り外して私のマシンでテストしたことがありました。その時は、違和感なく走れましたし、今回のような数字も出ませんでした。ですから、キャブレターの口径の違いが原因だと、今の時点では思えるのですが・・・

JNのセッティング変更

当然ですが、このような作業を走行の合間に、何度も繰り返すこととなりました。その結果、数字的にも体感的にも、満足のいくキャブセッティングになりました。

ちなみに、MJのセッティングは出来ていません。高速道路かサーキットにでも行かない限り、私のXJR1200改でアクセルを半分以上~全開テストなんて、とても出来ません。凄いスピードになりますし、一歩間違えば逮捕ものです。

ですからMJは、ほんの一瞬大きく開けた時のフィーリングと、あとは今までの経験からの予想で、ジェッティングしました。

MJなんて、基本はアクセル開度1/2以上の領域を受け持つジェットです。一般公道でツーリングを楽しむのであれば、あまり重要ではありません。

そうそう、アイドリング調整用の延長スクリューは、必需品です。これを付けないと、アイドリングの調整のたびに、キャブレターの中心部に手を突っ込むハメになります。

TMRキャブレターのロングアイドルスクリュー


TMRキャブレターのセッティングでお悩みの方

今回は初めて、ヨシムラブランドのTMRキャブレターのセッティングをしました。初期のセットは、だいぶ考えられたものに変更されていました。ただ、それでも『楽しく走る♪』という領域には達していません。

ヨシムラでもミクニでも、不特定多数の数多くのユーザーに販売するメーカーです。そこには必ず『安全マージン』というものが存在します。たとえXJR1300用に販売されているとはいえ、エンジンの仕様もマフラーも異なります。1台1台に最適なセッティングなど、出来るはずがありません。

レーシングキャブレターは、レースでパフォーマンスを向上させるためのパーツです。それをどう使うかは、ユーザーの責任になってきます。

高価なレーシングキャブレターを装着しても、セッティングが出ていない状態で走るのは、つまらないものです。楽しむために乗っているオートバイなのに、楽しくありません。

TMRキャブレターのセッティングでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

どのような乗り方でも、どのような開け方でも、1テンポ遅れるような事も無く、開けたら開けただけ回転が付いてくる、パワーがあって乗りやすいセッティングを出すことが出来ます。

空燃比計で測定しながらの作業ですので、セッティング作業は半日~1日で終わります。

ボコつく、息付きを起こす、ボヤけている、アクセルを開けても回転が付いてこない・・・
そのような症状で調子の悪いまま走っても、楽しくありません。

オートバイは、乗って楽しむものです。
お悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。