フルカスタムのXJR1300、その7、エンジン組み立て1
フルカスタムのXJR1300ですが、パーツの塗装も終わり、いよいよエンジンの組み立て作業に入ります。
ここまでの作業は、いわば仕込み作業です。料理では、仕込み次第で味も食べた後の満足感も全く変わってきます。オートバイ、特にエンジンも、それと全く同じです。仕込みで手を抜けば、それなりにしかなりません。
特に塗装するとなると、格段に掛かる手間や作業は増えてきます。洗浄したパーツにサンドブラストのためのマスキングをしますが、洗浄液が乾いていなければ、マスキングも出来ません。なのでパーツを乾燥させるために、乾燥窯に入れて乾燥させる必要があります。
サンドブラストのメディアをエンジン内部に入れたくはありませんので、マスキングにも気を使います。とはいえ、小さな砂粒が全く入らないか、と言えば、全てを防ぐことは現実的にできません。だから、ブラスト後の洗浄にも、非常に気を使います。
洗浄後、入念にエアブローをして、再度乾燥させた後、またエアブローをし、メディアの残留をとにかく防ぎます。そしてマスキングをした後、塗装します。
塗装後も、合わせ面にはみ出した塗料をスクレッパー等でキレイに落し、合わせ面を仕上げます。マスキングテープの糊が残っている場合もあるので、必ず脱脂します。取れ落ちた塗料を飛ばすため、ここでもまたエアブローします。
塗装後には塗膜を硬化させるために、乾燥窯に入れて高温で焼き付けます。塗装するには、そこまでの作業が必要になります。
もちろん、内部パーツも全て洗浄します。チェックも必要です。破損パーツは部品の発注もしなければなりません。
ボルト類は、トルク管理が必要になりますので、1本ずつ洗浄します。エンジンを降ろさなければ見えない箇所は、せっかくの機会ですのでクリーニングします。
ここまでの作業をして、やっとエンジンの組み立て作業に入ることができます。もちろんエンジンの組み立ては気を使う作業ですが、塗装が入る場合は、ここまでが作業の8割を占めている、と思えます。
腰下部の組み立て
パーツ発注も含めた準備は、全て終わっています。ここからは、どんどん組み上げていくことにしましょう。
塗装まで終わったクランクケースアッパーです。スタッドボルトの入るネジ穴も、タップで修正してあります。
スタッドボルトを抜かずに、そのまま作業するショップは多いようですが、XJR1300は既に旧車と呼べるほど、古い車両が多いです。せっかくオーバーホールするのですから、スタッドボルトは新品に交換しています。その際、ネジ穴も必ずタップ修正します。20年間もトルクを掛けられて頑張っていた部分ですから、それくらいのご褒美は上げたいところです。
さて、パーツは全て取り外していますので、必要なパーツを組み付けていきましょう。
まずはクランクシャフトにコンロッドを組み付けます。そのためのメタルやコンロッドボルト、ナットは、全て新品を使います。
クランクケースまで割ってメンテナンスしたい理由の一つが、このメタル交換です。メタルは、常に高回転で回る箇所を支えている、非常に重要なパーツです。乗り方や走行距離にもよりますが、このメタルも傷んだり消耗します。
取り外したコンロッドメタル
取り外したクランクメタル
これが、エンジンから取り外したメタルです。コンロッドメタルは、結構消耗している状態です。
メタルの消耗が大きくなってガタが出るようになると、焼き付きの原因になります。メタル部が焼き付くと、下手をすればエンジン全損です。
レース慣れしている方なら、メタルの焼き付きを経験した方もいるでしょう。でも経験の無い方では、どんな症状になったら疑わしいのか、分かりません。そしてそのまま走行を続けてしまい、酷い結果になります。
私はレース車両でなくても、一度外したコンロッドボルトとナットは、絶対に再使用はしません。この部分のトラブルがどんな結果になってしまうのか、良く分かっているからです。ですから一度外したコンロッドボルトとナットは、ゴミ箱行きにしています。
ケースを割ったら、出来れば交換しておきたいパーツの一つが、このスタータークラッチです。
XJR1200の車両では、時折壊れたという話を耳にしました。1300になった時に、このスタータークラッチも変更になりました。その後、バージョンアップもされているようです。
でも、ここが壊れた話は、1300でも耳にします。実際にご相談もあります。
このパーツは、クランクケースを割らなければ交換できません。古い車両や走行距離の多い車両の場合は、部品代をケチらずに交換しておきたいパーツです。
クランクシャフトやミッションを確認し、上下のケースを合わせました。今回は、ケースの締め付けボルトの頭も塗装しましたので、今までの塗装エンジンとは、ちょっと見栄えが違います。
ボルトがキレイな状態であれば、そのままでも十分にカッコ良いのですが、サビて傷んだボルトは、見栄えも悪くなります。一手間掛かりましたが、良い仕上がりになったと自画自賛しておきましょう。
クランクケース右側のプラグ
ドレンボルトとワッシャ
クランクシャフトの右側には、写真のようなプラグが入ります。オイルをシールするためのパーツですが、中にはこのプラグが当たっているケース側の面が、変色したり傷んでいる場合があります。組む前にキレイにしますが、稀にここからオイルが僅かですがニジむ場合があります。
レーサーのエンジンを組んでいた15年前には、すでに写真のように、液体ガスケットでオイル漏れ対策をしていましたが、最近では街乗りのお客様のエンジンでも、必ず行うようにしています。
この部分を私のように対策している方は、おそらく居ないと思いますが、万が一の為の対策です。どうせカバーを付ければ見えなくなります。
ドレンボルトは、社外品が取り付けられていましたが、オイル滲みがありました。良く見ると、ワッシャーも何度も再使用されたのか、傷んでいます。
ワッシャーと共に、ドレンボルトも純正品に交換します。ここからオイル漏れなんて、絶対にさせてはいけませんからね。レース車両であれば、車検落ちです。恥ずかしいことです。
XJR1300に特化したオーバーホールやチューニングを受け付けています。
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