ダンボールに入ったエンジン、その11、キャブレター

段ボール箱十数個に入ってやってきたバラバラなXJR1300のエンジンですが、キャブレターを取り付ければエンジンを掛けられるまでになりました。

ただ、なんだか嫌な予感はありました。


一つ目のキャブレター

オーナー様が持ち込んだキャブレター

こちらが、オーナー様が持ち込んでくれたキャブレターです。全体的に白い粉を吹いており、あまり状態が良いとは、お世辞にも言えません。

しかし、STDキャブレターで乗りたい、とのご希望ですので、とにかくやるだけはやってみましょう。

サビたドレンのスクリュ
サビたドレンのスクリュ

サビたフロート内部のネジ
サビたフロート内部のネジ

フロートチャンバを開けようとした時、まず目に入ったのがドレンのスクリュです。このスクリュ、果たして抜けるのでしょうか。簡単に折れそうにも見えます。

フロートチャンバがキャブレター本体に固定されている時の方が、力が入れやすいので、外す前に思い切ってマイナスドライバで回してみました。すると、思ったより簡単に抜けました。

そしてフロートチャンバまで外してみます。すると、もっとサビたネジが中から現れました。なぜ内部にあるのに、こんなにもサビるのでしょうか。おそらくガソリンを抜かずに、そのまま放置されたためだと思われます。

そのサビたネジを抜き取って、フロートを外してみると・・・

黒いタール状のものが付着
黒いタール状のものが付着

キレイな状態のニードルバルブ
キレイな状態のニードルバルブ

ニードルバルブ回りに、黒いタール状のものが付着しています。触ってみると、ひどくベタついています。特に酷いのは1番で、2番は多少汚れている、といった程度です。3番4番は、キレイな状態です。

普通に考えると、キャブレターの中にはガソリンしか入りません。キャブレターの中に残ったガソリンが、長い時間をかけて、このようにタール状に変化していったのでしょうか?そもそも、ガソリンがこのように変化するものなのでしょうか・・・?私には分かりません。

残ったガソリンが変な液体になったようなキャブレターは、何度か見た事はありますが、ここまで酷いのは、初めてみました。

ニードルバルブのフィルター
ニードルバルブのフィルター

ニードルバルブを外した状態
ニードルバルブを外した状態

ニードルバルブとフィルターは、このタール状のものでくっ付いており、動きません。外してみると、中の通路にまでタールが付着しています。フロート室の他の箇所にも付着しており、このキャブレターが調子良くなるとは、とても思えません。

オーバーホール開始します。
オーバーホール開始します。

パーツを洗浄していきます。
パーツを洗浄していきます。

そうは言っても、キャブレターはこの一つしかありません。とにかくやれることはやって、装着してみましょう。ということで、オーバーホール開始です。

ただ、キャブレター本体の、全ての通路をキレイに洗浄するのは、ここまでの状態になると無理があります。別のキャブレターが欲しくなります。

保存状態も悪く、相当な期間、この状態で保管されていたと思われ、さらに黒いタールです。

そこで、持っていそうな知人に連絡を取ってみると・・・、ありました!早速、送ってくれるそうです。


二つ目のキャブレター

知人が送ってくれたキャブレター

知人がスペアに持っていたキャブレターです。一時期、使用していたそうですが、あまり調子が良くなかった、とのことでした。

早速、中を確認してみます。

見たことのないJN
見たことのないJN

キャブレターの分解
キャブレターの分解

セッティングを確認するために中を見てみると、私が今まで見た事のない針(JN)が付いています。一時流行ったバクダンキットのようですが、私には分かりません。

とりあえず、基本である分解洗浄からはじめてみる事にしました。全体的には、オーナー様保有のキャブレターよりもキレイなので、少しは期待が持てます。ただ、バクダンキットの効果も信憑性も分かりませんので、セッティングは標準に戻します。

とは言っても、純正キャブレターのパーツなど、何も持ち合わせてはいません。一つだけ、知人が置いていったキャブレターがある程度です。そのキャブレターから足りないパーツ、標準セットではないと思われるジェットを流用して、組み上げてみました。


始動テスト

なんとかなりそうな気がしましたので、まず知人から送ってもらった二つ目のキャブレターを装着してみます。

とりあえずエンジンは始動しましたが、明らかに調子が悪いです。調子の悪いキャブレターをいつまで付けていても、何も始まりません。すぐに取り外します。

次に、オーバーホール済みのオーナー様所有のキャブレターを付けてみます。黒いタール状のものが内部から出てきたキャブレターですので、調子良くエンジンが始動するとは思えませんが、念のための確認作業のようなものです。

セルボタンを押すと、エンジンは掛かりましたが、すぐに調子が悪いのが分かるような状態です。やはり、このキャブレターもダメです。

さて、どうしたものでしょう・・・

悩んでいても、手持ちのパーツでやってみるしか、確認する手立てはありません。ダメなキャブレターを二個一にして、再度トライしてみましょうか。

黒いタールが付着していたボディは、おそらくダメでしょう。ボディは二つ目の物を使用し、状態の悪そうなパーツは一つ目のキャブレターから移植し、少しでも最善の状態になるよう、二つのキャブレターを組み合わせていきます。

キャブレターを外した状態

純正キャブレターをご自身でメンテナンスした事のある方ならお分かりかと思いますが、この隙間にキャブレターを取り付けるのは、結構大変な作業です。インシュレーターも新品ですので、ゴムが硬く、装着し難いのもあり、さすがに3度目はイヤになりました。

そんな思いで取り付けたキャブレターですが、結果は・・・やはりダメでした。走行テストをするだけ無駄な状態です。

キャブレターの経緯をオーナー様に伝えると、オークションで購入しましょう、という話になり、価格や年式、程度を見て、私が二つほど候補を挙げました。

そして1週間後、荷物が届きました。三つ目のキャブレターです。


三つ目のキャブレター

三つ目のキャブレター

セッティング確認のため、1ヶ所のフロートチャンバーとトップカバーを外しましたが、まるでクリーニングされたかのように内部もキレイです。

個人所有ではなく、ショップの出品でしたので、もしかしたらオーバーホール済みかも・・・、そんな淡い期待が涌いてきました。このまま装着してみましょう。

キャブレターを装着し、ガソリンホースを繋いでオンにすると、・・・。あらま、オーバーフローしてガソリンがダダ漏れです。淡い期待は、見事に裏切られました。クリーナーBOXを後ろに下げて固定し、狭い隙間からキャブレターを取り外します。この作業、何回目でしょうか・・・。

キャブレターのオーバーホール作業

やはり、中古のキャブレターはそのまま装着してはいけません。基本を怠った罰でしょうね。ということで、何回目なのか忘れましたが、純正キャブレターの分解・オーバーホール作業をします。

それが終われば、また狭い隙間にキャブレターの装着です。数えてみたら、5回目でした。

さて、今回のキャブレターはどうでしょうか・・・。

やっと調子良くエンジンが掛かりました。調子良いのは当たり前なんですが、これだけキャブレターで苦労すると、調子良いだけで嬉しくなります。やっと試乗テストもできます。

オーナー様、お待たせしました。


純正キャブレターの難しさ

今回だけで5回、純正キャブレターの脱着作業をしました。3つのキャブレターを分解し、クリーニングしました。

古い純正キャブレターは、難しいです。特に不動期間の長かった物は、特に難しいです。

このような古い純正キャブレターを調子良くさせようと思えば、全てを分解した上で強い薬液にドブ浸けする、などが効果的な気もしますが、やりたくはありません。

また、ゴムパーツを新品にしようと思えば、ニードルバルブやパイロットスクリューのOリング類は単品販売していませんので、セット購入するしかありません。そうすると、4万円近く掛かります。他のパーツも交換するようであれば、簡単に6~8万円も掛かってしまいます。

そこまでコストと手間を掛けて直す価値があるのだろうか・・・、個人的にはそう思っています。そこまで依頼されたとしても、私はやりません。キャブレター交換をお勧めします。

オークションなどで、程度の良いキャブレターが出回っています。新品のレーシングキャブレターも入手できます。それらを購入する方が得策だと思うのですが・・・。

とりあえず乗れるようにする、という事と、今後も調子良く乗れるようにする、ということは、全く違います。とりあえず乗れるようにする為なら、ステムベアリングの交換なんて、しません。エンジンのオーバーホールも、必要ありません。

でも、今後も調子良く乗れるようにする為には、古い車両ですから、多くの箇所に手を入れて、パーツ交換や修正作業は必要です。

XJR1300のオーバーホールをお考えの方は、お気軽にお問合せください。