ダンボールに入ったエンジン、その8、エンジン完成

段ボール箱十数個に入ってやってきたバラバラなXJR1300のエンジンですが、シリンダーヘッドを乗せて、やっと完成しました。


ヘッドの組み立て

面研磨と塗装の終わったシリンダーヘッド

面出し研磨と塗装の終わったシリンダーヘッドです。面を出すための研磨は、必要最小限で行います。出来れば、「0.05mm」程度で行いたいものです。ですがこのヘッドは、面を出すためには「0.09mm」の研磨が必要でした。古いエンジンでは、この程度の歪みは良くあることです。

バルブの擦り合わせ作業

擦り合わせの終わったバルブ

エンジンをオーバーホールする際の作業や交換部品は多岐に渡りますが、『圧縮改善』は最重要項目です。オーバーホールの目的の半分は、圧縮の回復と言っても良いでしょう。

その為には、バルブとバルブシートの密着は非常に重要です。ですが、チューニングではなくてオーバーホールになると、案外と軽視されがちです。コストを抑えるために、フェースが酷い状態のバルブでも、ササッと擦り合わせをするだけで、ガーボンもキレイに除去されないまま組まれる場合も、時にはあるように聞きます。

レースを始めてエンジンのメンテナンスも自分で行うようになった頃、先輩から初めて教えられたのが、バルブの擦り合わせでした。とにかく大事なところだと、教えられました。以来、いったい何本の擦り合わせをしてきたことでしょうか・・・。数えたくはありませんが。

でも、バルブの擦り合わせで、圧縮が完全に回復する訳ではありません。バルブフェースやシートの状態が悪ければ、まずキレイな面を作り直す必要があります。

バルブのフェース面には、状態が悪くなると、深いキズや打痕が見られます。シリンダーヘッドに打ち込まれているバルブシートも、同じです。そのような状態でバルブの擦り合わせをしたところで、本来の圧縮は得られません。現状より多少良くなる程度です。

そのキズや打痕を消して、キレイな面を作り直すための作業が、バルブフェース研磨とバルブシートカットです。バルブとシートを少し削って、当たり面をキレイに作り直す作業です。

フェース面の荒れたバルブ

フェース研磨後のバルブ

上の写真は、今回のエンジンではありませんが、フェース面のキズや打痕が研磨するとどうなるのか、分かりやすいので掲載しました。

ただしこの作業で当たり面を回復させるのは、1回限りです。2度目はありません。一度フェースカットしたバルブは、再度カットせず、新品に交換することになります。フェースカットしていないバルブでも、キズや打痕の程度によっては、フェース研磨せずに新品交換をお勧めすることもあります。

ヘッド側のバルブシートは、再度カットする必要がある場合や傷み・消耗が激しい場合は、シートリングを作成して打ち直すことになります。

幸いにしてXJR1300の場合は、そこまでしなくても新品のシリンダーヘッドが購入できます。中古ヘッドや中古エンジンを入手することも出来ます。ですからシートリングの打ち換えまでは、まず必要ないでしょう。

このエンジンでは、バルブフェースもシートも、カットが必要なほどは傷んでいませんでしたので、擦り合わせ作業のみとしました。

組立て終わったシリンダーヘッド

擦り合わせ作業の後、組み立て終わったシリンダーヘッドです。バルブシートカットやフェース研磨、カムシャフト交換など、バルブクリアランスが大きく変わりそうな場合は、予めヘッド単体の状態でカムシャフトを組み、バルブクリアランスを合わせておきます。

今回は擦り合わせのみですので、シムの厚みをメモして、ヘッドをシリンダーに載せていきます。

組まれているシムの厚みをメモする

シリンダーヘッドを載せる

シリンダーヘッドを載せたらカムシャフトを組んでいきます。通常、バルブタイミングを合わせるのは、カムシャフトを組む際、カムスプロケットの位置によって決めます。以下の写真の赤丸の中に、点がありますが、これを1番ピストンの上死点時に、シリンダーヘッドの面に合わせます。

バルブタイミングを合わせてカムシャフトを組む。

市販の状態では、カムスプロケットとカムシャフトは位置が固定されていますので、微調整は出来ません。当然、誤差もあります。カムチェーンもチェーンですから伸びます。伸びればバルブタイミングは遅れていきます。

ただ、その程度のタイミングのズレで、調子が悪いと感じることは無いでしょう。トルクのあるエンジンですので、普通に走ることが出来ます。

バルブタイミングの微調整を必ずやらなければならないのは、カムシャフトを社外品に交換した場合や、圧縮を上げるためにシリンダーヘッドを面研磨した場合です。

社外品のカムシャフトは、『ボルトオン』と説明書に記載されていても、バルブタイミングがキチンと出ることは、まずありません。性能を向上させるためにカムシャフトを変更するのに、バルブタイミングさえ調整しないようでは、片手落ちです。持っている性能が全て発揮されることは、残念ながらありません。

また、圧縮比を上げる目的でシリンダーヘッドを面研磨するということは、カムシャフトとクランクシャフトの距離が、面研磨した分、近くなるということです。テンショナーはエンジンの背面にありますので、カムチェーンのたるみは押さえてくれますが、カムシャフトはエンジンの背面側に動きます。つまり、バルブタイミングがその分、遅れます。

ですから、遅れた分だけ早くしてあげないと、正規のバルブタイミングにはならない、ということになります。

バルブタイミングを調整するには、カムスプロケットを固定するボルト穴を広げて、カムシャフトとの固定時に角度調整することが必要です。しかしXJR1300のカムスプロケットは、ハンドリューターで簡単に削れるほど、柔らかくはありません。

昔、何度もチャレンジしましたが、火花が出るだけです。ほとんど削れません。それほど硬く処理されていますので、それ以来、長穴加工は内燃機加工屋さんにお願いしています。今では、私専用の簡単な治具があるそうです。

ちなみに今回のエンジンでは、バルブフェース研磨もシートカットもしていませんので、通常のカムスプロケットのマーク合わせでバルブタイミングをセットしました。


エンジンの完成

バルブクリアランスの測定

バルブクリアランスの為のシム調整

カムシャフトとカムチェーンテンショナーまで取り付けたら、バルブクリアランスを測定・調整します。擦り合わせだけですので、それほど大きく変わる箇所はありませんでした。

ちなみにカムチェーンテンショナーを取り付けなければ、クランクシャフトは回転させられません。バルブクリアランスの測定も出来ません。カムチェーンテンショナーを取り付けないでクランクを回せば、カムチェーンが簡単にズレます。

現在取り掛かっているエンジンでは、分解前に確認すると、カムチェーンが1コマずれていました。開けた形跡のあるエンジンなので、組み付ける際に何らかの原因でずれたのだと思います。

このような事が無いよう、確認作業は重要です。カムチェーンがずれたエンジンも、確認作業さえしていれば、そのまま組まれる事は無かったでしょう。

塗装済みのヘッドカバーを取り付ける

状態が悪かったヘッドカバーですが、クラッチカバーと同様に塗装しました。その塗装済みのヘッドカバーを取り付けて、エンジンは完成です。

当ガレージにダンボール箱に入ってやってきた時とは、見違えるようなキレイなエンジンになりました。

セルモーターやゼネレーターも酷い状態でしたので、同色で塗装しました。バラバラに保管されていた古いエンジンが、キレイになって復活した気がしました。

オーナー様が出来上がったエンジンを見て、喜んでくれたらいいなぁ~♪

完成したエンジン

完成したエンジン


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