ダンボールに入ったエンジン、その7、シリンダー

段ボール箱十数個に入ってやってきたバラバラなXJR1300のエンジンですが、クランクケースも合わせ、あとはシリンダーから上を組むだけとなりました。


お得なピストンセット

走行距離が多い場合、ピストンのダメージもあるものです。中には、シリンダーの磨耗やダメージが認められる場合もあります。

そんな時、私は『ピストン&シリンダー』のセット交換をお勧めしています。両方を新品に交換すればメリットは大きいですが、一番の理由は、セットだとリーズナブルな価格で購入できるからです。

ヤマハのパーツリストを見れば分かりますが、XJR1300の場合、ピストン4ヶで約25,000円ですが、ピストン・シリンダーセットの場合、約74,000円です。つまり、新品のシリンダーが5万円で購入できる計算です。

XJR1300はアルミ一体式のメッキシリンダーですので、従来の鉄スリーブのシリンダーのように、1気筒だけスリーブ交換をする、という訳にはいきません。何かあれば、シリンダー丸ごと交換する必要があります。

でもピストンとシリンダーをセットで新品にしても、74,000円で購入できるのです。これはとてもお買い得だと、個人的には思っています。

新品のピストン

これが「ピストン・シリンダーセット」のピストンです。ピストンヘッドに、緑やオレンジのマークがあります。これが何のマークかと言えば、「何色のピストンは、何番のスリーブに入れてくださいね。」と教える為です。

スリーブには、ABCDといった刻印が、予め記入されています。オレンジピストンはBのスリーブ、グリーンピストンはCのスリーブ、といったように、ピストンとスリーブの組み合わせを指示してくれています。

1,000分の1ミリ単位でピストンとスリーブを計測し、クリアランスの最適な組み合わせを、メーカーが教えてくれているのです。何とも親切な配慮ではありませんか。ヤマハさん、いつからそんなに親切になったのですか?

そんな親切設計もあり、ピストン・シリンダーセットをお勧めする訳です。走行距離の多いエンジンや、これからも長く乗りたい方は、このセットがお勧めです。

初期型のXJR1200が発売されて24年、1300に変更されて20年が経過しているオートバイですが、モデルチェンジされながら近年まで発売されていた恩恵で、今でもこうして新品のエンジンパーツが供給されています。

希少価値から高額のカワサキZ系から比べたら、夢のような話です。ベース車両はもはや程度の良いものは見当たらず、直そうにもエンジンパーツは新品はありません。

高額なコストを掛けて手直しした車両でも、私は乗る気もしません。高額なカスタム車両にも乗ったことはありますが、とても楽しいとは思えませんでした。この辺りは、もちろん個人差や価値観の違いもありますが、少なくとも私には、楽しいオートバイには思えません。

しかしXJR1300は、まだ新品のエンジンパーツが購入できます。しかもセット購入すれば、メーカーが1,000分の1ミリ単位で計測して、最適な組み合わせを教えてくれるのです。

どうせオーバーホールするのであれば、傷んだピストンを目をつぶって組むのではなく、シリンダーとセットで交換することが、どれほどメリットがあることか・・・。しかも安い!個人的には、そう思っています。

新品のピストンに新品のシリンダーを被せたところ

新品のピストンに新品のシリンダーを被せた状態です。シリンダーも新品ですから、当然ですが面もキレイです。

シリンダーまで組んで前から見たところ

シリンダーまで組んで前から見たところです。塗装した甲斐もあって、新品エンジンと間違えるほどです。出来上がりが楽しみです。


クラッチ

パワーアップしたチューニングエンジンの場合、XJR1300の泣き所であるクラッチが滑りますので、コイルスプリング式の強化タイプに変更します。このエンジンの場合は、パワーアップしていませんので、従来のダイヤフラム式のままで組んでいきます。

クラッチ部

まだハウジングも組んでいないクラッチ部のスペースです。オイルポンプとオイルガイドプレートを組んだだけの状態です。ここにクラッチ部品を組んでいきます。

オイルガイドプレート(バッファプレート)を留める3本のボルトのうち、2本が折れてケースに残っていましたが、内燃機屋さんで取り除いてもらいました。1本はヘリサートになりましたが、これでトルクを掛けて締める事ができますので、安心です。

クラッチのプッシュロッドとボール
クラッチのプッシュロッド

クラッチプレートとフリクションプレート
クラッチプレートとフリクションプレート

クラッチのプッシュロッドには、小さなOリングが入っています。クラッチはエンジンを分解しなくてもメンテナンスできますし、ついそのまま付けてしまうパーツです。でも、せっかくオーバーホールして各部をリフレッシュするのですから、こんな小さなOリングでも、新品に交換します。

今回のエンジンは、オーナー様がバラバラの状態で保管されていたものを入手されました。ですから、クラッチがどうだったとか、パワーがどうだったとかいったエンジンの状態は、全く分かりません。パーツの状態を見たり、寸法を測ったりして、判断するしかありません。

クラッチについては、フリクションプレートの寸法自体は許容範囲内でしたが、古いことや安心して今後乗りたい、とのご要望から、各プレート類は新品を組むこととしました。

クラッチボスまで取り付けたところ

プレート類まで取り付けたところ

プライマリドリブンギアとクラッチボスを取り付けます。プライマリドリブンギアは、クラッチ系のパーツの中でも高価な物で、3万円します。クラッチボスまで交換すると、4万円掛かります。

しかし、よほど荒い運転をしなければ、使えないほどのダメージを受けることは、あまりありません。このエンジンも、多少段差は付いていましたが、再使用に関しては、全く問題ありませんでした。

ただし、サーキットを走る方は、要注意です。クラッチの切れ具合やタッチが悪くなったと感じたら、確認してください。私の経験では、ツーリングで5万キロ走行するよりも、サーキットを時々走るクラッチの方が、5倍は消耗しています。

カバーを取り付けてクラッチは完成

クラッチカバーは、他のエンジンパーツと同色のシルバーで塗装しました。STD車両では、黒エンジンでもシルバーエンジンでも、真ん中の「YAMAHA」ロゴのある部分は、アルミ地の仕上げです。ですから見慣れないと、色が付いているだけで、ちょっとイメージが変わるかもしれません。


お問合せは、お気軽に!

XJR1200、XJR1300のオーナーの方へ。

オーバーホールやカスタム、チューニングのご相談がありましたら、いつでもお気軽にお問合せください。
当ガレージの店主が、お一人お一人に出来るだけ詳しく、誠意を持ってご回答させていただきます。