ダンボールに入ったエンジン、その6、クランクの組み立て

段ボール箱十数個に入ってやってきたバラバラなエンジンですが、やっと組み立て準備まで終わりました。

ここまでくれば、そう苦労することなくエンジンは組めます。組み立て前に行う準備や仕込み作業が大変なのです。各パーツの洗浄やチェック、確認作業、部品発注など、簡単そうですが非常に多くのエネルギーが必要です。

今回は塗装までありましたので、組み立て準備までが仕事の8割、といったところでしょうか。そう思えるくらい、時間が掛かりました。


クランクケース

コンロッドパーツ

まずはコンロッドをクランクシャフトに組み付けます。コンロッドメタルだけでなく、コンロッドボルトやナットも、もちろん新品に交換です。

レースの世界を長く見ていますが、エンジントラブルの多くはコンロッド大端部です。旧車レースでも同じです。いや、旧車レースでは現行車よりも、大端部のトラブルは多いかもしれません。

コンロッドがクランクケースを突き破って外に出ているオイルまみれのエンジンなんて、多くの方は見た事もないでしょうが、そんなエンジンを何十回も見ています。私の後輩君も、古い車両で何度もやっています。先日も、コンロッドがケースを破ってコンニチハ♪していました。

コンロッドの締め付けは、昔はトルクだけの管理でしたが、今ではボルトの伸びや、ある一定トルクの後に何度回転させるかなど、管理は非常にシビアになっています。

それだけ重要なコンロッドですから、ツーリング用の街乗りマシンとはいえ、再使用するなんて私には考えられません。レース車両とエンジンの回し方や負荷の掛け方は違いますが、私は一旦取り外したコンロッドボルトやナットの再使用は、絶対にしません。

取り外した、という事は、一度はトルクを掛けて伸びている訳です。一旦伸びたコンロッドボルトは、私の中のルールでは、何があっても再使用厳禁です。


各パーツをセットした、組立て前のクランクケース

ケースロアにミッションを、ケースアッパにクランクシャフトや各チェーン、スタータクラッチなどをセットします。

この状態になればケースを合わせられますが、その前にダウエルピンやOリング、サークリップやオイルシールなど、必要なパーツを再度チェックすることを忘れてはいけません。「あっ!忘れた。」なんていうことがあれば、小さな一つのパーツの為に、再度クランクケースを割らなければいけない、という事も起きうるからです。

そんな事が起きないよう、20年使い込まれてオイルで汚れた私のサービスマニュアルには、重要事項や部品番号が書き込まれています。

チェックが終われば、ケースアッパの合わせ面に液体ガスケットを薄く塗布して、ケースロアと合わせます。締め付けボルトは、いきなりではなく、規定トルクまで何回かに分けて締めていきます。

出来上がったクランクケース

ケースも塗装しましたので、ダンボール箱に入ってやってきた時とは、見違えるようにキレイになりました。ただ、数本のボルトが気になります。これは、後で交換することにしましょう。

出来上がったクランクケースを逆さまにした状態

さて次は、オイルパンを完成させます。出来上がったクランクケースを逆さまにします。この時に座りが良いよう、スタッドボルトはケースを合わせる前に組み込んでおきます。

私は手が大きいので、スタッドボルトがあるとピストンの組み付け時にやりにくいのですが、STDのピストンはサークリップの張力も弱いので、それほどでもありません。

ワイセコやコスワースのピストンを組む場合は、サークリップの張力が強く、組み付けに難儀する場合があります。そのような時は、スタッドボルトはピストン組み付けまで、数本だけしか組みません。ピストンを組んだ後、残りのスタッドボルトを組みます。それだけで、作業性が向上します。イライラする必要も無くなるのです。

オイルパン内部に組む部品

エンジン底部に組むリリーフバルブやドレンボルト、ボルトに入る銅ワッシャー類です。このようなワッシャーやOリングも、必ず新品に交換します。

これらの細かなパーツは、そのまま再使用されることもあるようですが、再使用されれば、その効果は間違いなく半減します。特に古い車両であれば、なおさらです。

自分のエンジンならまだしも、お客様の大事な愛車です。ワッシャーやOリング部からオイル漏れ、なんていうことは、あってはなりません。これからも長く楽しく乗って欲しいので、このように細かなパーツも必ず部品発注をして、新品に交換します。

オイルパンまで組み立てたところ

塗装したストレーナカバーを取り付けて、エンジン底部は完成です。

ストレーナカバーは、通常はアルミ肌にコーティングされたシルバー色の仕上げですが、あまりにも腐食が激しかったので、サンドブラスト加工の後、他のエンジンパーツと同様、シルバーで塗装しました。

普段は見えないところですが、コストを掛けて組み上げるエンジンですから、どうせなら全ての箇所をキレイに仕上げたいものです。


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