ダンボールに入ったエンジン、その3

ある程度の下準備が終わったら、やっとパーツの洗浄です。とは言っても、腐食の激しいカバー類は、塗装が浮き上がっています。そのまま洗浄してサンドブラストを掛ける、というのも、効率が悪そうです。

そこで、まず剥離材で塗装をある程度落とすことにしました。こうすることで、サンドブラストの効率が良くなると思えたからです。

剥離材で塗装を落とす前
剥離材で塗装を落とす前

剥離材で塗装を落とした後
剥離材で塗装を落とした後

ひどく傷んでいるヘッドカバー
ひどく傷んでいるヘッドカバー

さすがにここまで傷んでいると、いくらサンドブラストを掛けても、表面はキレイにはなりますが、腐食部分を全て取り除く、という訳にはいきません。表面だけでなく、もっと深い部分にまで腐食が進んでいることが、容易に想像できます。

表面はキレイになり、サンドブラストによって塗装の下地は出来るでしょうが、その塗装がいつまでキレイな状態でいられるかは、正直に言って分かりません。塗膜の下から腐食が浮き上がってくれば、せっかくの塗装も、浮いてきたり割れたりするでしょう。

でも、少なくともしばらくの間は、キレイな状態で乗ることができます。ここまで腐食して汚れていた外観が、しばらくの間でもキレイな状態でいられるので、再度浮き上がってきた時には、残念ですが諦めましょう。思い切って、新品のカバー類に取り換えるのも、良いかもしれません。もしくは、程度の良い中古パーツに塗装して、取り付けましょう。


洗浄、洗浄、洗浄・・・

その後は、ひたすら洗浄していきます。

洗浄したエンジンパーツ類

基本的にエンジン部品は、全て洗浄します。カバー類なども、今回はサンドブラスト加工をしますので、油分や汚れを予め除去しておくため、洗浄します。

細かなパーツも洗浄します。
細かなパーツも洗浄します。

ボルト類も洗浄します。
ボルト類も洗浄します。

エンジンを組む際、オイル分が付着したままのパーツは、たとえ小さなパーツでも、そのまま組みたくはありません。オイル分が残ったままの状態では、組み付けるまでに汚れや埃も付着しやすくなります。新品に交換しない細かなパーツでも、洗浄して油分を落し、キレイな状態にして組みたいのです。

また、クランクケースを締め付けるボルトや、シリンダーヘッドを締め付けるナット等も、必ず洗浄します。これらの箇所は、トルク管理が重要だからです。

いくらトルクレンチを使って作業しても、肝心のボルトやナットが汚れているようでは、トルクレンチで設定したトルクで締め付けることができません。設定したトルクで締め付けるには、ボルトやナットはキレイな状態でなければいけません。そのうえで、少量のグリス等を塗布して、スムーズに回転させて締め付ける必要があります。

慣れてくれば、手に伝わってくる小さな情報も感じ取れるようになりますが、それでもこれらの作業は、エンジンをキチンと組むには欠かせない作業になります。


加工が終わりました。

加工の終わったクランクケース
折れたボルト抜き加工の終わったクランクケース

クランクケースとシリンダーヘッドの加工が終わりました。クランクケースは2ヶ所の折れたボルト抜き、シリンダーヘッドは面を出すための研磨です。

ケースは、写真ですと分かりづらいですが、右側はヘリサートが挿入されています。左側は、ネジ穴を傷めることなく、折れたボルトは抜けたのでしょう。ネジ穴はキレイな状態です。これで安心してボルトを締めることが出来ます。

Z系の車両では、カムホルダーのネジ部がすぐにダメになるので、全てのカムホルダー取り付け部にヘリサートを入れている、などという話を聞きます。XJR1300も、初期の頃の車両はすでに立派な旧車と言えますが、Z系ほど各部の作りは弱くはありません。エンジンも車体も、必要にして十分な強度はあると思います。

ただ、このクランクケースのバッファプレートを止める部分だけは、いただけません。軽量のプレートを固定するだけですので、大した強度は必要ないのかもしれません。でも、せめてボルト径を1サイズ太くしてくれていれば、こんなに簡単に折れることは無かったでしょう。

もう数十回はXJR1300(1200も含めて)のエンジンをバラしていますが、今ではこのボルトをそのまま緩めることはしなくなりました。最低でも、ハンマーで軽く叩いて振動を与え、バーナーで炙ってから緩めます。3本とも抜けると、ホッとします。無事に抜けても、弱ったボルトの再使用は絶対にしません。それくらい、気を使う箇所です。

オーナー様は、クラッチ板は換えても、ここまでご自身でバラすことはまず無いでしょう。でも、もし何らかの理由でバラす時は、くれぐれもご注意くださいね。本当に、簡単に折れますから。