ダンボールに入ったエンジン、その1

「バラバラ状態のXJR1300を譲って頂きましたが、エンジンの組み立てと車体への積み込みは、可能でしょうか?」

そんなお問合せから10日後、ダンボール箱が十数個、持ち込まれました。

ダンボール箱に入ってやってきた、バラバラなエンジン
ダンボール箱に入ってやってきた、バラバラなエンジン


このエンジンの心配事

通常であれば、車両ごとお預りします。多くのお客様は、自走して来られます。つまり、エンジンやその他の部分は、少なくとも走行できる状態にある、ということです。

今回のご依頼は、バラバラにされたエンジンを、オーバーホール時と同じように洗浄・チェック・調整などをしながら組み上げていくことになります。

そもそも、部品やボルト類は全てあるのか?、キャブレターは機能するのか?、走行可能な車両をバラしたものなのか?、電気系は問題ないのか?・・・などなど、心配ごとはたくさんあります。

オーナー様が、パーツリストと照らし合わせながら、一通りチェックしてくれましたが、足りないパーツは補充しながらやっていくしかありません。この時点で、不足のボルトまで調べるのは、至難の技というものです。


まずはシリンダーヘッド

まずは肝心のシリンダーとヘッドを確認していきます。

ダンボール箱に入ってやってきた、バラバラなエンジン

シリンダーヘッドのカムジャーナルやシリンダーの内面など、絶対に傷んではいけない場所は、非常にキレイな状態です。そこそこの走行距離だろう、という事でしたが、肝心な部分の状態は非常に良いので、まずは一安心です。

ただ、保存期間が長かったのか、分解した後の保存状態があまり良くなかったのか、外観はいただけません。カバー類やクランクケースも確認しましたが、全てのパーツが同様に傷んでいます。幾ら内部の状態を良くしても、このような外観のまま組み上げるのは、いささか気が引けます。

変色しているシリンダーヘッドカバー

傷んで塗装が浮いているカバー類

さすがにここまで酷い状態ですと、洗浄程度ではどうにも出来ません。オーナー様とお話をした結果、塗装することとなりました。

塗装するのであれば、行程が増えるだけでなく、スケジュールにも影響してきます。そのように取り掛かる必要があります。でも、塗装をご決断頂いたお陰で、キレイなエンジンに仕上がる見通しが立ちましたので、作業者のテンションも上がるというものです。


抜けるのか?スタッドボルト

サビて傷んでいるスタッドボルト

シリンダーヘッドのスタッドボルトは、サビてボロボロの状態です。このスタッドボルトは、外観がここまで酷くなくても、大抵は2、3本は抜けないものが出てきます。傷みが酷いので、ただ力任せに緩めようとすれば、折れるものも出てきそうです。

折れたり抜けないボルトがあった場合は、加工屋さんに依頼します。コストは掛かりますが、酷くする前に専門家に依頼した方が、仕上がりまで考えればずっと良い結果になります。

加工屋さんに依頼した場合でも、ヘッド側のネジ部が傷んでいれば、ヘリサートを挿入することも珍しくはありません。XJR1300も、古い車両であれば、今では立派な旧車なのです。

とりあえず、やれる事はやってみましょう。

まず、ハンマーで一撃を与えます。その後、ラスペネをたっぷりと吹きかけて、ネジ部に浸透させます。その状態で一晩程度置いたら、ガスバーナーであぶります。アルミと鉄の熱膨張率の違いで、抜けやすくなるからです。

やけどしないよう、皮の手袋をして、いざ・・・

シリンダーヘッドから抜けたスタッドボルト

サビているので折らないように慎重に作業しましたが、思いの他、苦労することもなく、全てのスタッドボルトが抜けました。とりあえず一安心です。

タップで修正します。

これだけのカスが出てきます。

スタッドボルトが抜けたら、ネジ部をタップで修正していきます。ボルトが傷んでいるという事は、ネジ部も傷んでいるのです。この作業をしておかないと、組立て時にボルトがキチンと締まりません。

古いエンジンをオーバーホールする際は、特にシリンダーヘッドとクランクケースのネジ部は、タップ修正は必須作業となります。この作業を面倒臭がってやらないだけで、後で酷い目に合うこともあります。


燃焼室側のチェック

燃焼室側のカーボン除去

バルブシートのチェック

今回のシリンダーヘッドは、歪みを取り除いてキレイな面を出すために、最小限の面研磨(面出し)を行います。通常の面出し研磨では、研磨量は『0.05~0.06mm』程度ですが、それでも歪みが取りきれない場合は、もう少し増えることもあります。

加工依頼をする前に、燃焼室側もチェックしておく必要があります。なぜなら、何か別の問題があった場合、合わせて加工してもらう必要があるからです。

一番多いのは、合わせ面のキズとバルブシートの傷みです。異物の侵入などで、合わせ面にキズや打痕がある場合もあります。バルブシートも、虫食い状のキズや打痕が深い場合は、シートカットの必要が出てきます。

このヘッドは、バルブシートも良好で、シートカットの必要はありませんでした。

加工の終わったシリンダーヘッド

こちらが面出し加工の終わったシリンダーヘッドです。塗装まで終わっているので、随分とキレイに見えます。

今回は、「0.06mm」では歪みが取りきれず、「0.09mm」の面研磨量となりました。古いエンジンでは、この程度は良くあることです。

ちなみにバルブシートカットとバルブフェース研磨は、走行距離が少ない場合でも、古いエンジンであれば、出来ればやっておきたい作業になります。この部分の気密性や密着具合は、圧縮に大きな影響を与えるからです。

軽度な場合は、擦り合わせである程度は回復できますが、深いキズや打痕は取り除く事は出来ません。

修正加工が必要だと判断した場合は、必ずお客様にお伝えし、勝手にこちらの判断で作業することは致しません。ただ、バルブ回りは圧縮に大きな影響を与えるパーツである、ということを、できれば再認識して欲しいと思います。


冬の間にオーバーホールやチューニングをしよう、とお考えの方のために、お得なキャンペーンをご用意しました。

どのコースも、先着1名様となります。