クラッチを何とかしたい!その1

スタンダードで乗られている方はともかく、カスタムやチューニングされたXJR1300のオーナーの方で、クラッチに不満や悩みを持つ方は、いったいどれくらいいるのでしょうか・・・

実は私は、XJR1200に乗り始めて以来、ずっとクラッチには悩まされてきました。


悩みの種とは・・・?

XJR1300スタンダードクラッチマスター

これが現在、私のマシンに付いているクラッチマスターです。何の変哲も無い、ただのノーマルクラッチです。

ちなみにこちらは、ブレーキマスターです。

XJR1300のブレンボブレーキマスター

私が愛して止まないブレンボ製です。

なぜ、細部にまで手を入れたマシンに、クラッチマスターだけは未だにノーマルを使用しているのか・・・

人には、クラッチの重さもあって「左手を鍛えるため」とか、「ブレンボを買う余裕が無い」とか適当なことを言っていますが、本当の事を言えば、『気持ち良く切れるクラッチがない』からです。

XJR1300でレースに出場していた頃は、ブレンボの「19×20」を使っていましたが、切れは悪かったです。ただレースの場合、ローに入れたまま停止していることは、スタート以外ほとんどありませんでしたので、その作動性の良さもあり、ブレンボをずっと使用していました。

街乗り車を作った際も、ブレンボの「19×20」を使用してみましたが、ちゃんとは切れませんでした。ローに入れたままクラッチを切って停止することは、街乗りマシンでは当たり前にすることです。でも、それがちゃんと出来ないのです。ですから街乗りマシンには、どれもノーマルマスターを使用してきました。

クラッチのスプリングやフリクションプレートがSTDの場合は、マスターのピストン径が19ミリあれば、何とか使用できるようです。実際に多くの装着車両も見ています。しかし強化クラッチに変更した場合、とたんに切れが悪くなる、と感じています。フリクションプレートの材質が変わったり、スプリングの反力が強くなるためでしょうか。

先日仕上げたお客様のマシンも、チューニングしてエンジンパワーが格段にアップしましたので、滑りを防止するためにコイルスプリング式強化クラッチに変更しました。クラッチマスターは、今流行の<ブレンボRCS:19×18・20>が付いていました。

チューニング前は、レバーレシオ18で使用していたそうですが、チューニングして強化クラッチを装着したら、レバーレシオを20にして、しかもレバーを一番遠くに調整してグリップに付くまで握り、やっとクラッチが切れる有様です。

少し走行して、クラッチにも馴染みが出れば、多少は良くなりますが、根本的には変わらないでしょう。


知人の実験

1996年型XJR1200を新車で購入して、今でも乗り続けている友人がいます。もちろんエンジンは1300ベースとなり、フルチューンされ、あらゆる箇所に手が入ったマシンです。

その友人は、遠い昔は自分で整備しながらレース活動もしており、ホンダの元GPライダーの岡田君がワークスになる前は、同じチームに所属していました。ですからオートバイの知識や経験は、ある程度豊富に持っています。

その友人の結婚式には、なぜか岡田君と共に新郎の友人代表で選ばれて、新婦の友人たち相手に『ねるとんゲーム』をさせられました。二人で同じ女性の前に立ち、手を差し出しました。そして、見事二人で玉砕しました。女性の好みが同じなのかもしれません。でも玉砕です(汗…)。どうでもいい話ですね。

その友人が、クラッチマスターを変更したらクラッチが切れなくなり、色々と実験したことがありました。その時に使用したマスターは、ニッシンの19mmでした。

彼は、マスターを変更しただけでギアが入りにくくなったと感じたそうで、強化クラッチに変更したら、クラッチが完全には切れなくなったそうです。そこで彼は、クラッチのプッシュレバーを改造しました。

まず、STDのプッシュレバーを分解し、ピストン径を削って1.6mm小さくしました。ピストン径を小さくすれば、同じオイル量でもピストンの動く距離が大きくなり、クラッチが切れるようになる、と考えたからです。

プッシュレバー本体(シリンダ側)も、当然そのままでは作動しませんので、ピストンを削った分、小さくする必要があります。彼は、アルミ板を切り出し、プッシュレバーの内側に入れて、内径を調整しました。

ただ、何せ素人の加工です。アルミ板の隙間を埋めて本体に固定するための溶接精度が悪く、オイル漏れを完全に防ぐ事はできませんでした。ただ、そんな状態でも、クラッチは切れるようになったようです。

次に彼は、自前のスクラップパーツの中から古いキャリパーを探し出し、加工してプッシュレバーの代わりとして取り付けました。ちなみにこの時のピストン径は、「33.8mm」だったそうです。その加工でも、クラッチレバーはそんなに重くなった気もせず、クラッチは完全に切れるようになった、とのことでした。

その後、何度かオートバイを壊したり燃やしたりしましたが、今でもSTDのプッシュレバーは使っていません。彼のマシンには何度も乗っていますが、クラッチで違和感を感じた事はありません。

見た目こそカッコ悪いですが、良く出来ています。


使えるパーツは・・・?

今回、お客様のマシンで、少なくとも「ブレンボRCS + FCC強化クラッチ」の組み合わせだと、クラッチを切るのが大変である、と分かりましたので、何か使えるパーツを見つけよう、と考えるようになりました。

とは言っても、以前のお客様で、強化クラッチとマスター変更されていても、普通に走っている方もおりました。マスターはブレンボではありませんでしたので、同じ19mmピストンでも、若干の違いはあるのでしょう。

私も、いろいろな組み合わせを実際にテストした訳ではありません。ただXJR1300に乗っている限り、パワーアップすればクラッチ強化は必須です。そうなると、STDクラッチマスターでは重くなり、作動性の良いラジアルタイプに変更したくなります。

すると、クラッチが切れにくくなる、という図式です。

この辺りの情報は非常に少ないですし、いろいろとテストした方は、私の友人以外に聞いた事がありません。

ならば、私がやってみましょうか・・・


クラッチの切れを良くする具体的方法

クラッチの切れが良くない、ちゃんと切れない、ということが改善したいポイントですので、現在よりもプッシュレバーのピストンが動く距離を、増やしてやらなければなりません。

そのための方法は、二つ考えられます。

方法1:プッシュレバーのピストン径を小さくする。
方法2:マスターのピストン径を大きくする。

プッシュレバーのピストン径が小さくなれば、クラッチレバーを同じだけ握った時、つまり同じ量のオイルが移動した時、小さくなった分、ピストンの動く距離は大きくなります。その分、早く切れるようになる訳です。

クラッチマスターのピストン径が大きくなれば、レバーを同じだけ握った時、オイルの移動する量が増え、その分、プッシュレバーのピストン移動距離も大きくなります。ですからこちらの方法も、今までよりも早くクラッチが切れるようになります。


実際に入手可能なアフターパーツは?

という事で、実際に入手可能なパーツがあるのかどうか、調べてみました。

まずプッシュレバーですが、アフターパーツでは、残念ながらそのようなものはありませんでした。以前には、XJR1300用の削り出しプッシュレバーがあったようですが、現在は廃盤です。ピストン径も不明です。

クラッチのマスターはというと、こちらも19mmより大きなピストンは、どのメーカーにも無いようです。

仕方ないので、ブレンボの19×20のマスターを使用して、プッシュレバーを加工しようと考えました。しかし・・・、ブレンボの19×20は、以前はあったと記憶していますが、現在は生産されていないようです。輸入業者に問い合わせても、ダメでした。無い、との返答です。

RCSは使いたくないし、どうしよう・・・と思っていたところ、問い合わせ先から、『こんなマスターもあります♪』と教えてもらったのが・・・

22mm径ピストンのクラッチマスター
22mm径ピストンのラジアルクラッチマスター

20mm、22mm径のピストンが選択できます。これは面白そうです。どれくらい重くなるのか分かりませんが、一つ入手して、私のマシンでテストしてみようと思います。

訳の分からない、性能面でも大いに不安のある廃価な商品では無さそうです。全く知らないメーカーですが、バイク好きの方が輸入している商品ですので、おそらく大丈夫でしょう。まあ、ブレーキではありませんので、たとえ壊れたところで、ブレーキほどのリスクもありません。

ただ、入荷するのに2ヶ月前後は掛かるようですので、気長に待ちたいと思います。