腰上チューニングエンジン、その3

SOHCピストンにシリンダーをセットした状態
SOHCピストンにシリンダーをセットした状態

10分の1グラムまで同じ重さで製作されていたSOHC製ピストンに、シリンダーを乗せた状態です。そこに、組みあがったシリンダーヘッドを乗せていきます。

よく見ると、シリンダーのフィンにディンプル加工が施されています。昔のヨシムラのイメージです。以前にO/Hしたショップで加工されたのでしょう。冷却効果を考えて表面積を増やす為と思われますが、今どき、こんな加工をする方はほとんどいません。おそらく私よりも年配の方だろうと推測されます。もしかしたら、昔のヨシムラと何らかの関係のある方なのかもしれません。私たち世代のライダーには、懐かしいイメージです。

ポート加工と塗装をしたシリンダーヘッド

ポート拡大加工をし、擦り合わせの後に組み立てたシリンダーヘッドです。ヘッドはシリンダーと共に、艶消しブラックに塗装しました。半ツヤではなく、艶消しブラックをエンジンに使うのは、実は初めてです。出来上がってみると、結構精悍なイメージになります。

シリンダーヘッドを乗せた状態

ここまでくると、エンジンの完成までもう一息な感じになります。


意外と合っていないバルブクリアランス

バルブクリアランスの測定

バルブクリアランスの調整作業

いくらモアパワーを求めてエンジンを造ったとしても、バルブクリアランスの調整を適当にやっていては、本来の性能は出せません。

今まで何十機もXJRエンジンを組んできましたが、STDの状態で乗っていたエンジンでは、バルブクリアランスが大きくズレていることは、あまりありません。クリアランスがコンマ3あったとか、クリアランスがゼロだった、というのは、開けた形跡のあるエンジンだけです。

以前の作業者を悪く言うつもりは全くありませんが、人間ですからウッカリやミスは起こりえます。それを防ぐためには、確認作業を行えば良いのです。

カムシャフトの締め付けトルクは合っているか、シム交換した後のクリアランスは適正値になっているか、そんな事を確認するだけで、ウッカリミスの大半は防ぐ事が出来ます。

もう30年ほど前の話です。エンジンを自分でチューニングし始めた頃に、シム交換の際、何故だか理由は覚えていませんが、1ヶ所シムを入れ忘れたことがありました。

インナーシムの車両でしたので、バルブリフタを取り付けた後は、肉眼では分かりません。確認作業もせず、筑波を走りました。あっという間に酷いことになったのは、言うまでもありません。泣きたくなりました。恥ずかしい話なので、これ以上は内緒にしておきましょう。

ヘッドを載せ、バルブタイミングを合わせてカムシャフトを取り付けた後、カバーを取り付ければエンジンは完成します。でもその前にやるべき最後の調整が、バルブクリアランス調整です。

手持ちのシムが無い、といったつまらない理由でクリアランスを適当に合わせるようなことはせず、丁寧に測定し、キチンと規定値に合わせる必要があります。


バルブクリアランスの傾向

レースをやっていた時代に組んだりバラしたりしていたのは、1998~1999年式の1300、もしくは1200ベースのエンジンでした。これらのエンジンに当初組まれていたシムは、ほとんどが260~270番サイズでした。

最近になって、2000年以降のエンジンを何度も組むようになりましたが、2002年式以降のエンジンでは、シムの厚みが280番台も多用されている気がします。明らかにクリアランスが広くなっているようです。

メーカーの加工の問題なのか、そのエンジン固有の特徴なのか、理由は分かりません。でも、バルブクリアランス調整時に必要なシムの番手が、エンジン年式によって異なるのは、作業していれば分かります。

XJR1300に使われているシム

これがXJR1300に使われているシムです。直径25ミリで、厚みはパーツリストによれば、2.00~3.20ミリまで、0.05ミリ単位で25種類あります。STD設定で使われているのは、主に260~280番台です。

オーバーホールの際のバルブ擦り合わせでは、0.1ミリを超えるような変化は、あまり起こりません。ただ注意したいのは、バルブフェース研磨やシートカットした時です。

フェース研磨やシートカットした場合は、その分バルブがカムシャフトに近づきます。つまり、バルブクリアランスが狭くなります。ですから必要なシムも、当然薄くなります。

これは、シートの痛み具合やカット量によって変わってきますが、時には240番台のシムを使うこともあります。

ちなみにXJR1300はアウターシム方式ですので、専用工具を使えば、カムシャフトを外さなくてもシム交換が出来ます。

昔、XJR1300レーサーをインナーシムにして、バルブシートカット等をした後は、クリアランス調整の為に何度カムシャフトを外したか分かりません。だから、ヘッドをシリンダーに載せる前、ヘッド単体の状態でカムを取り付け、クリアランスを測定・調整しておきます。

シリンダーヘッド単体でバルブクリアランスを測定する

このように、シリンダーヘッド単体の状態で、バルブクリアランスを測定しておきます。ちなみに、バルブ同士が干渉するのを避けるため、INとEXのカムシャフトを同時に組むことはせず、別々に組み付けて測定します。

事前にこれをしておくだけで、ヘッドを乗せた後のクリアランス調整は、だいぶ楽になります。そのクセが残っていますので、今でもシートカットやフェース研磨など加工したヘッドは、ヘッド単体の状態でクリアランス調整をします。

もちろん、シリンダーに乗せた後も、入念な調整作業は行います。幾ら単体で調整しても、必ずと言って良いほど、ヘッド単体の時とは多少変化しますから。

完成したXJR1300チューニングエンジン

バルブクリアランス調整も終わり、ヘッドカバーやセルモーター、ジェネレーターを取り付けて、エンジン完成です。

セルモーターとジェネレーターも艶消しブラックに塗装しましたので、性能だけでなく見た目もカッコ良いエンジンになりました。