腰上チューニングエンジン、その1

チューニングの為に降ろしたエンジン
チューニングの為に降ろしたエンジン

数年前に、他店にてエンジンのフルオーバーホールをしたお客様ですが、キャブを変えても今ひとつシャキッと走らないとのこと。初めて当ガレージにご相談に来られた帰りには、なんと高速道路を走行中にエンジンがストップしてしまったそうです。

ご要望は、調子良くすることと腰上チューニングです。ピストン交換をして圧縮を上げ、ヘッドはポート研磨して、キャブレターもMJNからTMRに変更します。


現在の問題点

一見すると、非常に手の入ったXJR1300に仕上がっているように見えます。前後サスペンション、ホイール、ブレーキ、スイングアーム、トップブリッジ、アンダーブラケット等は、高価なパーツに換えられています。しかも各ボルト類は、チタンやアルミに変更されています。

エンジンはフルオーバーホールされ、キャブレターもTMR-MJNに変更されています。しかしお話を伺うと、調子良く走らないご様子。

時々エンジンが止まってしまうこと、調子が悪いことは、お話を伺う限り燃料系のような気がします。電気系や機械的なトラブルでは、エンジンが止まった後、時間を置けば再始動するような現象は起こりにくいからです。

またエンジンを始動させると、マフラーから黒い煙と白い煙が両方出る、とのこと。黒い排気ガスは、おそらくキャブレターのセッティングを含む問題でしょう。明らかに濃すぎるようです。白い排気は、燃焼室にオイルが侵入して燃えている、つまりオイル下がりもしくはオイル上がりの可能性があります。


キャブレター

調子の悪そうなTMR-MJN
セッティングの出ていない、調子の悪いキャブレター

車両をお預りした後、試しにエンジンを始動させてみます。なんとか掛かりますが、すこぶる調子が悪い感じです。おそらく燃料系、それもキャブレターが怪しい気がします。

私の所有するMJNを取り付ける
私の所有するMJNを取り付けたところ、調子良くエンジン始動

試しに私の所有するMJNに付け替えると、調子良くエンジンは始動しました。
そもそもセッティングが出ていないようですが、おそらくそれだけでは無いでしょう。キャブレターに何かしらの問題があるようです。

このキャブレターは知人に売却し、新規にTMRを購入する、とのことですので、今は問題探しはしません。もし時間があれば、分解して原因を確かめてみましょう。

ちなみに私は、TMR-MJNとFCRのセッティング作業はしません。通常のTMRキャブレターであれば、特注のアダプターを用いて空燃比計センサーを取り付け、セッティング作業をします。

キャブセッティングの為に空燃比センサーを取り付けたところ
キャブセッティングの為に空燃比センサーを取り付けたところ

なぜTMRしか行わないのかと言えば、TMR-MJNとFCRは個人的に好きではないからです。TMR-MJNは、長く街乗りに使ってはいますが、微妙なところを合わせようと思うと、まず難しいのです。というよりも、合わせられません。

自分のMJNは、エンジン特性もあるでしょうが、まあストレスなく走れるレベルです。多少のことは、右手で何とかします。しかしそれ以上に合わせようと思うと、ヤル気がしなくなります。

FCRは、簡単にボディが擦り減ります。今まで見たFCRのほとんどは、ボディが擦り減ってローラーの跡が残っていました。このようなボディが磨耗したキャブレターを、ワイドローラーを取り付けてまでセッティングしようとは思いません。

ボディが擦り減るような使い方とメンテナンスでは、ボディが消耗品となります。しかも、リターンスプリングが腱鞘炎になるほど重いです。もちろん理由は知ってはいますが、そのようなキャブレターは個人的には好きになれません。ですから、FCRキャブレターのパーツすら持っていません。

セッティング作業をしようと思えば、まずはオーバーホールする事になります。各部が正常に作動していることが前提になるからです。ジェット類の確認もしなければなりません。FCRの多くは、この時点で落第です。


スタッドボルト

せっかくオーバーホールをして細部まで手の入った車両ですが、問題点が幾つか見られます。

一番の問題は、このパーツです。

クロモリ製スタッドボルト
クロモリ製スタッドボルト

おそらく以前にオーバーホールしたショップが変更したものでしょうが、クロモリのスタッドボルトが使われています。アメリカ製のドラッグパーツでしょう。私が絶対に公道では使ってはいけないと考えているパーツの代表です。

なぜ、クロモリのスタッドボルトは使ってはいけないのか・・・

クロモリのスタッドボルトは、元来はドラッグレース等の超高圧縮エンジンに使用する為に作られたもので、ガスケットの吹き抜けを防止する為に使用されます。吹き抜ける原因がスタッドボルトの伸びですから、頑丈にして伸ばさない、という発想です。伸びにくいクロモリのスタッドボルトでシリンダーヘッドを高いトルクで締め付け、圧縮漏れを防ぐ訳です。

しかし、頑丈で伸びないという事は、言い換えれば『しなりが無い』という事です。クロモリボルトは、破断テストをやってみれば分かりますが、万力に凹凸を付けて挟むだけで、簡単に折れます。『頑丈・伸びない=折れない』ということではないのです。

対してSTDのスタッドボルトは、曲がりますが、簡単には折れません。

では、このクロモリスタッドボルトを使用すると、いったいどのような事が起こりえるのか、実例を上げて説明しましょう。

昔、XJR1300でレースを始めた頃、圧縮を上げたために吹き抜けに悩まされていました。それを防止する為にクロモリのスタッドボルトを使用し、トルクをSTDよりも高く組んで走っていました。

レース前日の練習日、走る前にいつものように暖気をしていると、「チャリ~~ン」という金属音がしました。何だろうと思いながら足元を見ると、長いボルトが1本、落ちています。よく見ると、先にナットのような物が付いています。

そうです。自分のマシンのスタッドボルトだったのです。根元のネジ部で折れて、外れたようです。それを確認して、朝の8時には撤収です。

スタッドボルトは、アッパークランクケースに固定されています。そのネジ部が折れるということは、シリンダーまで外さなければ修理できません。しかも、シリンダーまで外したとしても、簡単に折れ残ったボルトの先端部を外すことは出来ません。

そんな事を、自分のエンジンで短期間に2回経験しました。それ以来、エンジンにクロモリスタッドボルトは使用したことはありません。

「レースのように飛ばさなければ、大丈夫なんじゃないの?」と言う方もいるかもしれません。でも、折れる折れないは、実はスピードとはあまり関係はありません。

シリンダーも含め、エンジンは鉄よりも膨張率の大きなアルミで出来ています。熱膨張によって生じる力は、スタッドボルトで抑えきれるようなものではありません。街乗りでも、飛ばさなくても、条件によってエンジンは高温になります。つまり、熱で膨張する訳です。ですから、街乗りだろうとゆっくり走ろうと、折れる時には簡単に折れます。

クロモリスタッドボルトを全て取り外します。
クロモリスタッドボルトを全て取り外す

クロモリスタッドボルトは、メンテナンスや交換を頻繁に行うドラッグレース専用パーツだと考えてください。安易に街乗り車両に組むべきではありません。組んだところで、メリットなど何も与えてはくれません。

クロモリスタッドボルトは、圧縮比が14とか15を超えるような高圧縮エンジンに、それなりの管理をした上で使うべきパーツです。

ですから、当然組まれていたクロモリスタッドボルトは全て取り外し、STDのスタッドボルトに組み直します。これで、無駄なトラブルや余計な心配をする必要も無くなります。


マフラーフランジ

私は多少の整備不良や汚れ程度は気にしませんが、これはちょっとばかり気になりました。

見事に変形しているマフラーフランジ
オーバートルクで見事に変形しているマフラーフランジ

マフラーを取り付けるフランジが、4つ全て酷く変形しています。最後に取り付けた際、さらにオーバートルクで取り付けたのか、ヘッドのスタッドボルトからフランジが外せません。

取り外すためにバラしたマフラー
このようにバラして、1本ずつエキパイを取り外す。

マフラーを取り外すのに、このようにバラしました。こうして1本ずつ、やっとエキパイを外しました。

よく見ると、フランジの取り付け穴は既に削られています。最後の脱着作業時には既にかなり変形しており、スタッドボルトに取り付けるには湾曲した分、寸法が足りず、その為に穴を広げるよう外側に向かって削ってあります。

なぜ既に湾曲しているフランジを、さらに曲がるほどトルクを掛けて締めたのでしょう。なぜ修正や対策をしなかったのでしょう。マフラーは、1度取り付けたら廃車まで外さない、というのであればまだしも、整備で何度も取り外す可能性のあるパーツです。

つまらない愚痴は、この辺りにしておきましょう。見れば見るほど、手間とコストが掛かっている素晴らしい車両です。オーナー様の愛情が感じられます。大きな問題は、私が解決すれば良いのです。

「良くなりました。走っていて、楽しいです♪」、そう言って頂けるよう、細かなことにも妥協せず、作業していきます。