チューニングエンジンの泣き所

フリクションプレートとクラッチプレートを取り外したXJR1300のクラッチ

XJR1300のエンジンパワーを上げていくと、真っ先に問題になるのが『クラッチの滑り』です。キャブレターとマフラーの変更だけで、走り方によっては滑り出します。

そして一度滑り始めたクラッチは、もう元には戻りません。滑り出す回転数が低くなっていくだけです。基本設計が34年も前のFJ100時代のものですから、高出力に対応できないのは、仕方の無いことかもしれません。

とにかくモアパワーをお求めの方は、真っ先にクラッチを強化する必要があります。いくらパワーアップしても、クラッチが滑っているようでは楽しくありませんからね。


社外クラッチの精度

私がXJR1200でサーキットを走り始めたのは、もう20年以上前のことです。当然STDクラッチは、直ぐに滑り出しました。何とかしなければなりません。

当時入手できたのは、バーネット(Barnett)くらいでした。他に選択肢はありませんでしたので、早速購入して取り付けました。

結果から言えば、滑りは収まりました。しかし・・・

レース時代に使用していたクラッチ

おそらく現在の製品では問題ないのでしょうが、当時の製品は、フリクションプレートが波打っていたりで、精度的には今ひとつでした。そのようなクラッチを使う一番の問題点は、『停止するとニュートラルが出せない!』ということです。

レースでは、フォーメーションラップからスターティンググリッドに着き、そのままエンジンを止めずにスタートします。つまり、グリッドに着いたらスタートまで少しの時間、エンジンを掛けたまま待たされる訳です。

現在のモトGP等でもそうですが、ライダーはグリッドに着いたら一旦ニュートラルにします。ニュートラルだから、クラッチレバーから手を放せる訳です。

でもこの時代、バーネットクラッチを組んだエンジンでは、一旦停止すると、まずニュートラルが出せませんでした。かといって、スタートまでの時間をずっとギアを入れた状態で待つのは、ライダーにとってもクラッチにとっても、あまり宜しくありません。

当時はセルモーターを外していましたので、万が一エンジンがストップしてしまえば、グリッド上で押し掛けをしなければなりません。一人では簡単にエンジンを掛けられません。ですからエンジンストップすると、直ぐにピットに入れられます。絶対にエンジンを止める訳にはいきません。

だから、必然的に高回転をキープしたままスタートを待ちます。でも、ギアは1速に入った状態です。重いクラッチレバーを握ったまま、エンジンはどんどん高温になっていきます。クラッチにとって良いはずがありません。そしてスタートが上手く行かず、失敗することになります。

で、どうしていたかというと、フォーメーションラップの最終コーナー手前で、走りながらニュートラルに入れるのです。一度ニュートラルに入れば、そのまま惰性でグリッドまで行きます。

惰性ですから、グリッドまで行けないこともありました。両足をバタバタさせて前進したり、仕方なく降りて押すこともありました。それでも、1速にギアが入ったままスタートを待つより、はるかにマシです。

このスタート前の一連の動作が、レースで一番緊張していた時間かもしれません。

そんな状態のクラッチですから、公道で使用した時は、渋滞路は修行でした。カムシャフトもリフト量が高いものを使用していましたので、半クラッチや低回転でゆっくり走る、ということが、本当に難しく、何度もイヤになりました。

FCC強化クラッチキット

現在各社で販売されている強化クラッチは、どこも精度も良くなり、そこまでの事は無いかと思います。

実際にお客様のエンジンに強化クラッチを組み込んで走りましたが、当初はギアが入りにくいものの、しばらくして馴染んでしまえば、気にならない程度でした。


お手軽強化クラッチ

現在、FJ用・XJR用として入手できる強化クラッチは、幾つかあるようです。価格も、各社それなりにします。

一番簡単に、しかも安く出来る強化クラッチの方法を、あなただけにお教えしましょう。それは、ダイヤフラムスプリングを2枚重ねにすることです。私も以前、応急処置としてやったことがあります。

安く簡単に出来る方法ですが、難点もあります。それは、クラッチが極端に重くなることです。マスターシリンダーもSTDをお使いの方は、なおさらです。

安く済ませたい方、握力に自信のある方、オートバイに乗りながら鍛えたい方には、もってこいの方法です。

STDクラッチ


コイルスプリング

社外強化クラッチは、基本的にはどこの製品も、STDのダイヤフラムスプリング(板バネ)からコイルスプリングに変更しています。フリクションプレートの材質も、各社でいろいろと変更されているようです。

クラッチプレートは、そのままSTDを使用するタイプだけでなく、材質が変更されているタイプもあります。

どこの強化クラッチを使うかは、好みで選べば良いでしょう。見た目を気にしても、カバーをすれば見えなくなるパーツです。目的は、パワーアップしたエンジンのクラッチを滑らなくする、ということです。

コイルスプリング式強化クラッチを組み込んだ状態


不要パーツ・・・?

クラッチボスの奥に、フリクションプレートとクラッチプレートを固定する「リング」が入っています。写真中央の、細い針金状のものです。

取り外したSTDのクラッチパーツ

私は以前から自分のXJR1300では、このリングを取り外しています。レース時代からずっとです。

クラッチの切れが良くなるとか、色々と言われていますが、無くて困った事はこの20年、一度もありません。切れるクラッチは、このリングが無くても切れます。切れないクラッチは、これがあっても切れません。

一度クラッチトラブルがあった際、このリングが粉々になった事がありました。以来、一度も装着した事はありません。お客様のオートバイ、特にSTD車両では、不要と言われない限り取り付けています。好みの問題ですから、無理強いすることでもありませんからね。

もし不要と思われましたら、O/Hの際にお申し出くださいね。