15万キロ超えのエンジン、その3

走行距離が15万キロを超えたエンジンのオーバーホールですが、オーナー様にお聞きすると、「あと10年はこのオートバイに乗りたい!」ということでした。

つまり、出来るだけトラブルの予想される箇所については、何らかの手を打ちたいところです。


壊れても、簡単に交換出来ないパーツ

当ガレージにも何度かお問合せがありましたが、「スタータクラッチが壊れたから、交換して欲しい!」というトラブル事例です。

個人的にも、今までに何度かスタータクラッチの故障は聞いています。実際に知人のエンジンで壊れたこともありました。

残念ながら、スタータクラッチは簡単には交換できません。エンジンのゼネレータの奥に付いています。どう見ても、クランクケースの内部です。つまり、ケースを割らないと交換出来ないのです。

エンジンを車体から降ろした後、シリンダーヘッドを外し、シリンダーやピストンを外し、クランクケースを上下に分割しなければなりません。分解したものは、また組み直す必要があります。

ということは、手間はフルオーバーホールと全く同じです。どのショップでも、10万円や20万円でやってくれるとは思えませんし、私ならその程度の価格ではやりません。組み直すのに必要な各種パーツ代だけで、それくらい掛かります。

そんなスタータクラッチですが、稀にですが壊れたという話を耳にしますし、今後10年は乗りたい、ということですので、交換することにしました。

新品のスタータクラッチパーツ

もしあなたの愛車のスタータクラッチが壊れたのなら、いっそのことフルオーバーホールして全てをリフレッシュするか、もしくは中古エンジンを探すことをお勧めします。

スタータクラッチだけを直そうと思っても、簡単には交換できませんし、それなりのコストが必要になるからです。

その他、簡単に交換できるパーツですが、一度も交換したことがない、ということでしたし、磨耗もしていましたので、クラッチ板もこの際交換することにしました。

新品のクラッチパーツ

フリクションプレートだけでなく、クラッチプレートも交換します。プライマリドリブンギアやクラッチボスには気になるような大きな段差はありませんでしたので、再使用します。プライマリドリブンギアやクラッチボスは高価ですので、それらに比べたらクラッチ板の交換なんて、大したコストではありません。


車体は?

各ベアリング類もメンテナンスします。前後ホイールベアリング、ステアリングステムのベアリング、スイングアームベアリングは、交換です。

ステアリングステムを取り外したところ

ステアリングステムは、大きなダメージはありませんでしたが、古いグリスを拭き取り、ベアリングを交換しました。

スイングアームのベアリング

スイングアームのベアリングは、完全に終わっています。サビており、ローラーも脱落しています。

ベアリングがこのような状態ですので、中に入るカラーも当然ご臨終です。再使用できるレベルではありません。

ベアリングやカラーを新品にして、リフレッシュしましょう。

フロントフォークのチェックとオイル交換

その他、フロントフォークを取り外しましたので、ついでにフォークオイルの交換と、キャリパーのクリーニングも行いました。

どうせ取り外されているパーツです。少しでも快調に乗って頂けるよう、出来ることはやっておきます。他に山ほどの仕事をしているのですから、この程度はサービスさせて頂きます。

この車両で一番驚いたのは、キャブレターでした。

汚れたキャブレター

クリーナーボックスの装着されたノーマルキャブレターでも、こんなに汚れるんですね。全ての箇所がこのような状態です。頑張ってキレイにしましょう。

クリーニング前の汚れたキャブレター
キャブレターの吸入側です。酷く汚れています。

クリーニング後のキレイになったキャブレター
クリーニングした後です。

もちろん内部もクリーニングしました。各通路やジェット類はエアーを通していますので、キャブレターのクリーニングだけで調子良くなりそうです。


これで完璧!?

今回お預りしたオートバイは、久しぶりに色々な箇所を点検・分解しました。エンジン、キャブレターから始まり、マフラーの溶接修理、車体のベアリング類、フロントフォーク、フロントキャリパー等、多岐に渡ります。

それらの作業は全て、チューニングアップ(機能向上)ではなく、機能回復が目的です。

おそらく作業前と比べて、エンジンのパワー感や車体の動きは、格段に良くなっていると思われます。

人間は、機能が徐々に落ちてきても、なかなかその事に気付きにくい生き物です。それが1日にして変われば、おそらく全ての方は気付きます。それが少しずつ少しずつ低下していくと、その差はごく僅かですので、気付きません。そしてその状態に慣れてしまいます。

「おっ、オレのバイク、パワーが上がったな!」
「随分と走りやすくなったぞ!」

こう感じてもらうために、いろいろと頑張っています。
では、ここまでやれば完璧なのでしょうか・・・

いえいえ、新車に替わった訳ではありませんし、全てのパーツを新品に取り替えた訳でもありません。

極論を言えば、そもそも形あるものはいつか壊れます。人間のする事に完璧などありません。でも、今よりも少しでも良くなるように、少しでも楽しんでもらえるように、長くオートバイを楽しんでもらえるように、そんな気持ちを込めて整備しています。

オートバイは機械ですから、壊れることもあります。私もただの人間ですから、ミスをすることもあるかもしれません。でも、私のミスがありましたら、遠慮なく伝えてください。すぐに対処させて頂きます。

人よりも多くXJR1300というオートバイを弄り、整備し、乗ってきた男です。パワーを出すにはどうしたら良いか、乗りやすくするにはどうするべきか、XJR1300の短所を補い長所を生かすにはどうしたら良いか・・・

多くの事例と共に、そんな事まで味わってきました。それらの経験と知識が、あなたのXJR1300ライフに活かせれば、と思っています。


最適なオーバーホール時期は?

今回お預りした車両は、17年間で15万キロを走行していました。各部を点検・チェックすると、とっくにオーバーホール時期は来ていたと思われます。エンジン、キャブレター、各ベアリング等は、おそらくずっと以前にオーバーホールしていても良かったでしょう。

ただ、オイル管理が良かったことや乗り方が優しかったこともあり、何とか今まで大きなトラブルもなく走行出来ていたのでしょう。

オーバーホールをするべき時期は、個人的には・・・

  • 6万キロ
  • 15年

これが一つの目安だと考えています。

年式に関わらず6万キロを走行した車両、もしくは走行距離に関わらず15年が経過した車両は、既にオーバーホールが必要だと考えています。

最低でも、大きなトラブルが発生する前にオーバーホールはするべきです。

場合によっては、程度の良い中古車両を購入できるほどコストが掛かる場合もありますが、愛着のある車両に今後も楽しく安心して乗るためには、古い車両であればオーバーホールは欠かせません。

もしあなたが、これからもXJR1300に楽しく乗り続けたい!と思っているのなら、オーバーホールする事も、一つの選択肢として考える必要があります。

XJR1300のオーバーホールに関するご相談、お問合せは、随時受け付けています。