15万キロ超えのエンジン、その2
現在組んでいる、走行距離が15万キロを越えたエンジンですが、クランクケース内部も概ね良好な状態でした。よほど、オイル管理が良かったのだと思われます。
高品質のオイルは、決して安くはありません。年間1万キロを走るお客様ですから、年間に何度か交換しているはずです。でもそれが、エンジン内部を良好な状態で維持する秘訣です。
私も見習わなくてはいけません。走行距離が少ないと、つい忘れがちになるからです。走行距離が少なくても、年に一度は決まった時期に交換したいものです。
ちなみに私は、走行距離が少なくても、春頃に交換するようにしています。このように決めておくことで、たとえ1,000キロしか走っていなくても、必ず1年に1度は交換することになります。
オイルは、走行距離だけでなく、時間の経過と共に劣化します。酸化したり不純物が混入したりします。いくら走行距離が短くても、劣化したオイルがエンジンにとって良いはずはありません。
ケース内部
このエンジンから取り外したオイルパンです。通常であれば、走行距離が3分の1程度でも、このオイルパン部には『オイルスラッジ』が溜まっているものです。酷いエンジンになると、スラッジがヘドロ状にオイルパンに蓄積しています。
しかしこのエンジンは、スラッジの蓄積はほとんどありません。非常にキレイです。走行距離を考えれば、十分合格でしょう。
スラッジは通常であれば、オイル交換時に古いオイルと共に排出されます。ですから、定期的なオイル交換が必要になる訳です。
取り外したクランクメタルです。両サイドが若干当たりが強くなっていますが、問題のあるレベルではありません。乗り方、回し方の影響も多分にあるでしょうが、走行距離を考えれば十分にキレイな状態です。
クランクシャフトの各ジャーナル部も、キズ一つ無くキレイな状態が保たれています。
こちらは、コンロッドから取り外したコンロッドメタルです。画像でも確認できますが、結構傷んでいます。
拡大すると良く分かります。一部が剥がれています。
おそらく限界が近かったものと思われます。
コンロッドの大端部は、エンジンの中でも非常に大きな力が掛かる部分です。レース用エンジンでも、コンロッド大端部のトラブルは非常に多いものです。
私は以前から、一旦取り外したコンロッドボルトは、絶対に再使用しません。組まれていた、ということは、コンロッドボルトにはトルクが掛かり、その分伸びていた事になります。一度でもトルクが掛かり伸びたコンロッドボルトは、トラブルを避けるために再使用しない事に決めています。コンロッドナットも再使用はしません。
レースでエンジンを破損してリタイヤした車両に、どれだけコンロッド部の破損が多いか、現場を見続けていると痛いほど分かります。ですからこのコンロッド部は、非常に気を使う箇所になります。
上の画像のように、コンロッドを組む際には、メタル・ボルト・ナットは必ず新品にします。ここのトラブルで、エンジン全損は避けたいですからね。
その他の部分で、意外と気を使ってチェックするのが、このパーツです。
これは、オイルポンプのスプライン部です。このスプラインにギアが付き、クランクシャフトの回転が伝わってオイルポンプが作動します。
レース時代に、このスプラインが破損し、エンジンを焼き付かせた事が何度かありました。人様のエンジンでも、ギアが回転しないほどではありませんが、スプライン部が破損しているのを何度か見ました。
このスプラインが破損すると、取り付けられているギアが空回りして回転しません。すると、オイルポンプも作動しません。つまり、各部にエンジンオイルが送られなくなります。それは、焼き付きを意味します。
そんな経験がありますので、この直径1センチほどのスプラインを、目を皿にして観察するクセが付いてしまいました。
オイルポンプなんて、こんな時でもなければ取り外されることはありません。チェックされる事もありません。エンジンの奥の方で、ヒッソリと、陽の目を見る事もなく働き続けている部品です。
せめてこんな時くらいは、つぶさに、ジックリと観察してあげたいものです。ゆっくりと労をねぎらってあげないといけません。こいつに嫌われたら、エンジンが焼き付いてしまいますから。
いつもの定番箇所
いつも頑張って働いているのに、あまり陽の目を見ず、メンテナンスされない部品の代表が、クラッチのプッシュレバーです。
この程度であれば、まだ良い方です。クリーニングした上でシールキットを交換しましたので、しばらくは大丈夫でしょう。
聞けば、何度かプッシュレバーごと新品に交換しているそうです。そうでなければ、17年間で15万キロの走行には、耐えられません。
画像の程度であれば、オーバーホールして再使用も可能ですが、もっと酷い場合は、ぜひ新品に交換して欲しいものです。1万円ちょっとで購入できますから。
最悪なケースは、ピストンが斜めに固着して、出先でニュートラルからギアが入れられなくなった、というものです。クラッチが切れなくなった為です。そうなれば、出先から帰ってくることも出来ません。
機会があれば、是非一度、ご自身で外して確認してみて下さい。あまりの汚れ具合に、驚くかもしれません。